トムは真夜中の庭で
ジュニア向けタイムトラベル小説の代表作である。中古書店ではどうしても手に入らなかった幻の名作。ところが図書館では簡単に借りることが出来てしまった。なんだ初めから図書館を探せばよかったんだな・・・。
弟ピーターがはしかに罹ってしまったため、トムは夏休みに、親戚の家にあずけられてしまう。叔父さんと叔母さんしかいない親戚の家は、子供のトムにとっては退屈で、夜もなかなか寝付けない。すると、玄関の大時計が13時を打ち、家の外の世界は一変する。そこに大きなイチイの木と、広く美しい庭園が出現し、クラシカルな服装をした少女が遊んでいるではないか。
ところが朝になって外に出ると、そこにはあの庭園は存在せず、そこにはごみ捨て場と駐車場しかなかった。もちろんあの少女も住んでいるはずがない。あとで判ることだが、あの美しい不思議な庭園は、ヴィクトリア時代の庭園であり、真夜中の暗闇にしか存在しない世界だったのだ。
トムは真夜中の庭で 著者:フィリパ・ピアス,高杉 一郎,Philippa Pearce |
少女の名前はハティといい、小さい頃に両親を亡くし、親戚の叔母さんのお屋敷に引取られた。彼女は三人の従兄弟たちと一緒に住んでいたが、年が離れていることもあり、いつも独りぼっちで遊んでいたのである。そしてなぜか彼女だけが、トムの姿を見たり、トムと話をする事が出来るのだった。
トムはこの美しく広大な庭園が大好きになり、ハティと二人でいろいろな遊びを興じてゆく。こうしてトムは、毎晩皆が寝静まった頃、家のドアを開けて、この別世界でハティと一緒に遊ぶことになる。
何度もこの世界を訪れているうち、トムはこの世界では時間が乖離していることに気付く。あるときはもっと小さい頃のハティ、そしてあるときは大人になったハティ。そしてどんな時でも、ハティはトムを待ってくれていた。
なんだか、ジュニア版『牡丹灯篭』のような世界だが、決してハティは幽霊ではない。過去にハティが残したスケート靴が、トムの部屋の床下で発見されたのである。そのスケート靴を持って、トムは過去の世界で、ハティとアイススケートを楽しむことになる。
それにしても、この小説は緻密に構成されているし、庭園やキャム川、イーリーの大聖堂などの描写も正確である。あとで判ったことだが、作者のフィリパ・ピアスは、この地方で、やはり大きく古いイチイの木が生えている家で育ったという。それでこの小説の舞台について、これだけ精密描写が出来たのだろう。
ラストになって、トムがなぜこの不思議な世界へ進入することが出来たのかが解明されるが、ネタバレになるので、ここでは詳しく述べないことにしよう。ただトムが時を超えた世界を体験できたのは、子供の持つ純真な思いと無垢な愛情と想像力のお陰であるとだけ言っておこう。そして人は年をとるに従って、だんだんとまた子供の頃の心に戻ってゆくのである。
いずれにせよその結末は実に感動的であり、いくつもの螺旋階段が見事一つに収束するかのような緻密な構造に誰もが驚くことだろう。最後にこの完成度の高い作品が、1958年のカーネギー賞に輝いていることを報告して筆を置く事にする。
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コメント
龍女さんコメントありがとう
フィリパ・ピアスの作品が、中学生の国語の教科書にあったのですか?
良く覚えていますね。
投稿: ケント | 2008年8月30日 (土) 22時35分
同じ頃、多分中学生の国語の教科書に。
同じ作家の短編が載っていました。
水車と幽霊の話だったと思います。
これもなんだか切なかった記憶があります。
投稿: 龍女 | 2008年8月30日 (土) 20時48分
龍女さんコメントありがとう。
そういえば演劇でも上映していましたね。
古い小説ですが、とても素晴らしい出来栄えです。ジュニア向けではありますが、大人が読んでも全く違和感がありません。
名作とは老若男女や時代を超えても良い作品なのでしょうね。
投稿: ケント | 2008年8月30日 (土) 16時06分
懐かしいですね。
私は多分この本買ったと思いますが。
きっかけは子供向けのお芝居として上演したのを見たからなんです。
最後が何か切ない記憶があります。
投稿: 龍女 | 2008年8月29日 (金) 23時20分