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2008年7月の記事

2008年7月31日 (木)

新・平家物語

★★★★☆

 黒澤明、小津安二郎などと並び評される日本映画の巨匠、溝口健二監督作品である。驚くべきことだが、半世紀以上前の1955年に製作されたにも拘わらず、全く陳腐化していないばかりか、現代においても少しも違和感がないのだ。     

 大人になって溝口健二監督の作品を初めて観たせいか、見慣れている黒澤作品よりも新鮮に感じてしまった。主演が大ファンだった市川雷蔵ということも影響しているかもしれない。久しぶりに聞いた雷蔵の、腹の底から搾り出すようなドスの利いた声に身悶えする始末。

新・平家物語〈5〉 (吉川英治歴史時代文庫) Book 新・平家物語〈5〉 (吉川英治歴史時代文庫)

著者:吉川 英治
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 原作は吉川英治で、己の出自に悩みながらも、公家社会から武家社会への変革をめざす青年平清盛の真摯な生き様を見事に描いている。この作品を観るまでは、清盛のことを成り上がり者の暴君だと思い込んでいた。だがこの作品を観て、少なくとも若き日の清盛は、人間味に溢れた素晴らしい男だったのかもしれないと思い直した。

 カラー初期の大作映画であるが、大掛かりなアクションシーンは全くないので念のため…。だがオープニング、市場の壮大なセット風景にまず驚ろかされた。またクライマックス、比叡山延暦寺荒法師たちの集会も凄まじい迫力である。この作品の眼目は、なんといっても、公家と仏門との対立であり、武家社会の台頭はまだ芽生えに過ぎないのだ。

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 清盛の母を演じた木暮実千代が、いやに色っぽい。子供の頃は、彼女をイヤミなオバサンとしか感じなかったのだが…。つくづく自分も年をとったものだと思い知ったね。
 また東映ではいつも、悪役専門だった進藤英太郎が、めずらしく味方の商人役を演じていたのが印象的だった。たぶん彼は、溝口健二監督のお気に入り役者の一人だったのだろう。
 当面の間は、溝口ワールドの虜になりそうである。次の溝口作品では、是非『雨月物語』を観たいなあ。

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2008年7月27日 (日)

あの日の指輪を待つきみに

★★★★

 長い邦題といい、老人が主人公のラブストーリーといい、それとなく『いつか眠りにつく前に』『アウェイ・フロム・ハー君を想う』を想定させる作品である。だがこの作品は、もっとスケールが大きいし、ラブストーリーとミステリーとヒューマンドラマをミックスさせた風変わりな作風でもある。

      Scan10363

 オープニングはアメリカ・ブラナガンの教会のシーンから始まる。教会では老女エセル・アンの夫であるチャックの葬儀が行われ、一人娘のマリーが父の思い出を語っている。ところが、妻のエセル・アンは教会の外で一人煙草をふかし続けているのだ。
 涙ひとつ流さず、うつろで不機嫌そうなシャーリー・マックレーンの表情は、愛する夫の喪主とは思えない。友人のジャックに、教会に入るよう説得されるのだが、全く知らん顔で、まるで他人事のような態度がいぶかしい。一体この夫婦に何があったのだろうか…。

 しばらくするとスクリーンは、北アイルランドのべルファストにある丘に切り替わり、得体の知れない老人と青年が、土を堀り返しているシーンを写し出す。そして次に第二次世界大戦中、主人公の若き日々の恋愛シーンが流れる。
 このように、現在と過去と他国のシーンが繰り返し入れ替わってゆくので、よく観ていないと訳がわからなくなるので注意しよう。
 永遠の愛と友情の狭間に苦しむアン、テディ、ジャック、チャックの四人。またクィンランとジミーの誠実で純真な心。誰をとっても人間味の溢れる男達ばかりだ。物語は壮大でテーマは深く人の心に突き刺さってくる。

 あれ以来、涙も出なくなり笑顔も消えてしまったアン。それもラストで始めて流す涙に50年間の呪縛から開放された予感があった。かたくなな愛と約束は鋼鉄より重い。それは一人娘でさえ理解出来ない遠い日の陽炎となってしまった。だが世界にたった一人だけ、この苦しみを理解してもらえる人がいたことにやっと気づいて涙がとまらなくなるのだ。

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2008年7月19日 (土)

ときのかけら 

 わずか180頁足らずなのに字が大きく、かつシンプルなお話なので、あっいうまに読み終えてしまった。はじめは、図書館の『時・特設コーナー』に展示していたことと、そのタイトルからタイムトラべル系のファンタジーかと思った。
 だがどちらかというと、大人も楽しめる青春ラブストーリーといったところか。タイトルの「時間」とのかかわりは、オープニングとエンディングだけなのだが、このちょっとした配慮がなかなか洒落ているんだな。

ときのかけら Book ときのかけら

著者:君島 孝文
販売元:文芸社
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  そもそも時間とは不思議な存在だ。楽しいときの時間は、あっという間に過ぎてしまうし、辛いときは嫌になるほど長く感じてしまう。この感覚はたぶん誰もが共有している事実であろう。
 だから、冒頭で著者が言っているように、時間が不要な人の時間を保存して、使いたい人へ分け与えられたら効率的だとは思う。また時間の速度や方向をコントロールできたら面白いだろうなとも考える。それらが実現したら、全ての人々は苦悩も後悔もない極楽のような人生をおくれるのだろうか・・・。
 僕は決してそうは思わない。もちろん初めの頃は、嬉しくて楽しくてしょうがないだろう。だが、全てが予測出来てかつ変更出来る人生なんて、いずれは飽きてしまうに違いない。苦があるから楽があるように、初めは見えないものが見えるようになるから面白いのだ。・・・とは言ってみても、一度くらいは時間をコントロール出来たら嬉しいことも確かである。

 この小説がSFやファンタジーでないことは前述した通りだが、時間とのかかわりが重要なモチーフになっていることは確かである。「貴史が別れて淋しそうだったから、あたしも別れたの」という幼馴染み理香子の言葉が、最後まで胸に突き刺さって離れない。優柔不断だが優しい貴史の気持ちは判るようで判らない。でも最後には誰でも暖かい気持ちになれるのでご安心を。

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2008年7月16日 (水)

大忍術映画 ワタリ

★★★

 この映画を観るのは、実に40年振りである。当時から白土三平ファンで、弟を連れてワクワクしながら三鷹にあった映画館に向かったものである。あ~懐かしくて涙が出てくるよ。

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 何故今ごろになってこんな古い映画を観たのか…。実は来年2009年に、松山ケンイチ主演で白土三平の『カムイ外伝』実写版が上映されることに起因している。ネットで『カムイ外伝』を検索していたら、偶然この作品がDVD化されていたことを知り、懐かしさがこみあげて、もう一度この映画を観たくなったのである。
 当時白土三平氏は、この映画の出来の悪さに激高し、続編の製作は許可しなかったという。確かに主題歌はダサイし、ルーキー新一のおバカなお笑いが、この作品の個性をぶち壊している。

 だが子供向けの映画なのだし、当時の特撮レべルを考慮すれば、よく頑張ったほうかもしれない。またワタリ役の金子吉延クンは、まさに適役だったし、大友柳太郎の音羽城戸をはじめ、牧冬吉の四貫目、伊賀崎六人衆など、コミックそっくりなのには驚かされた。
 ただ四貫目や伊賀崎六人衆の実力が、十分に発揮されなかったところに不満が残る。やはりこれもワタリ中心のお子様仕様だから、と諦めるよりないのだろうか。
 いずれにせよ劇場映画の時間的な制約を考えると、一本の映画の中に収めるには、原作の内容が豊富過ぎるのである。少なくとも伊賀崎六人衆編は、第二部とすベきだったのではないだろうか。

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2008年7月13日 (日)

純喫茶磯辺

★★★☆

 水道工のオヤジ磯辺裕次郎は、父親の財産を相続してからブラブラしていたが、ある日思いつきで未経験の喫茶店を開業してしまう。だが余りにもダサイ店のネームと雰囲気に、娘の咲子はガックリするが後の祭りだった。
 当然店は流行らない。ところが素子という可愛いバイトの子に、超ミニのコスプレを着せた途端、店はおかしな客で大盛況となる。

       Isobeya

 そしてマスターの磯辺は、そんな素子にメロメロになってゆく。ところがこの状況が面白くない娘の咲子が、飲み屋で素子に文句を言う。
 磯辺は妻とは、8年前に離婚したのだが、妻と娘は時々逢っていて、娘は母に父との復縁を願うのだが、母は自由に生きたいという。父が父なら、母も負けずと変わり者で、しっかりしているのは、娘の咲子だけだったのだ。

 どうにも歯車の合わない人々を、古いタイプの喫茶店を通して、面白おかしく描いてゆく。主役の裕次郎をお笑いの宮迫博之が扮していることをみても、この映画はコメディーなのだが、苦笑いばかりでどこか本気で笑えない。
 結局は、裕次郎も妻も娘も、誰一人として幸福にはなれず救われないからである。それでも誰も、苦悩を残さずさっぱりしているところが爽やかだね。
 主人公磯辺裕次郎を演じた宮迫博之も決して悪くはないのだが、何を演じてもいつも同じ感じがする。一方、しっかりものだが純情で、一途な女子高生を演じた仲里依紗の清々しさが良かった。またつかみどこがないが、どこか憎めない素子を演じた麻生久美子の演技とコスプレに乾杯!
 彼女、どこかでみたことがあると思ったら、タ凪の街 桜の国で皆実の役を演じていたんだね。皆実とは全く異なる役柄を演じながらも、薄幸だが健気に生きるという部分では皆実と重なるところがあった。
 いずれにしても、この映画が単純なコメディーに終始せず、人情と哀愁を漂わせた良作になり得たのは、この二人の女優さんの個性と熱演のお陰であろう。 

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2008年7月 6日 (日)

魍魎の匣

★★★

 残念ながら京極夏彦の作品は、全く読んでいないので、原作との比較はできない。だが少なくとも、不気味な雰囲気は十分味わうことが出来たと思う。なんとなく江戸川乱歩横溝正史の作品を思い起こされる厶ードがある。

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 時代背景が太平洋戦争直後ということもあり、市電が走っている街並や映画館等のシーンでは、『三丁目のタ日』を思い出してしまうだろう。ただ一部の街並と建物にはなんとなく違和感を感じざるを得なかった。
 あとで調べたら「上海」でロケを行ったことが判った。どおりで中国に似ていたはずである。そんな違和感は拭えないものの、これがミステリアスなムードを醸し出すのに役立っていたと思うね。

 ストーリーのほうは、正直言ってよく判らなかった。主役級の登場人物が多いことと、いろんなテーマを小刻みに盛り込んだためだろう。それと、原作を読んでいるということが前提になっているのかもしれないな。
 さて、この作品のクライマックスを飾るはずの四角い塔だが、CGやセットが安っぽいと感じたのは僕だけだろうか。だが、肩からもぎ取られた腕とか、箱の中に詰まっていた〇〇は、実にリアルで無気味だった。気の弱い御仁は要注意!。

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2008年7月 2日 (水)

山桜

★★★★

 原作は藤沢周平の短編集『時雨みち』に収録されているという。監督は『メトロに乗って』の篠原哲雄であり、一連の山田洋次監督の作品とは一味違っている。山田作品はラストに悪者退治のアクションシーンを配しているが、本作では中盤であっさリと悪者を片付けてしまう。

           Yamaza

 つまりこの作品での力点の置き方は、チャンバラではないのだろう。武士の心情を描くという面では山田作品と同じであるが、あの時代、田舎の城下での、「静かな恋」を見事に描き切っている。
 ほとんど会話のない男と女。だがその思いは、百の言葉を並べるよりも、ずっとずっと心に染み込んでくる。
 この静寂の中に凛として佇むような感覚は、おそらく日本人にしか理解出来ないだろう。またそれもある程度齢(よわい)を重ねた者に限られるに違いない。その証拠に、館内はほぼ全員が年配の人たちで埋め尽くされ、映画の上映中には、そこかしこですすり泣きが聞こえるのだった。

 主演の田中麗奈と東山紀之は、絶妙の呼吸を持ってこの役柄に取り組んでいる気合を感じさせたね。ただ田中麗奈の母役である檀ふみは、背が高過ぎて時代劇には不向きだと思った。
 一番光っていたのは、東山紀之の母役富司純子かもしれない。彼女の出番は、わずか終盤の数分間だけなのだが、登場した瞬間からキラッと輝く存在感に圧倒されてしまった。「いよっ!待ってました大統領!おもだかや~!」てな感じで声を張り上げたい衝動にかられてしまったのだ。やはり、役者が一枚も二枚も上なんだね。
 さて結末をはっきりさせないラストの締め方だが、いろいろと異論はあるものの、僕はあれで良かったと思っている。ただエンデイングの歌は、ちょっと場違いだったような気がするのだが…。

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