雷の季節の終わりに
これで現在出版されている恒川光太郎の本を全て読んでしまった。『秋の牢獄』、『夜市』、そして本書の順である。著者はデビューして間もないため、まだ三冊しか出版していないのだから仕方がない。
ただ長編は本作のみで、あとは中編集である。どちらかと言えば、著者は中編向けの作家であり、さすがに長編になると終盤に息切れした感があった。
雷の季節の終わりに 著者:恒川 光太郎 |
この話は、「穏(おん)」と呼ばれる僻地の集落から始まる。この穏では、冬と春の間の二週間に、神季または雷季と呼ばれる季節が介在し、鬼衆たちが村の鼻つまみ者を処刑する風習が残っているのだ。
この地図にも載っていない穏という村は、「風わいわい」という不死鳥が徘徊する幻の里で、現実世界から隔離された異世界でもあった。こうした魔可不思議な世界観は、『夜市』、『風の古道』、『神家没落』と全く同じであり、これが恒川ワールドたる所以なのである。
ただ同じ世界観でも、ストーリー展開がかなり異なるので、決して飽きがこない。これは著者の美麗な文体と、卓越した構成力の成せる技なのであろう。
本作では穏と現代での二つの話がパラレルに流れてゆく。そして終盤には、その二つの世界が時を超えて融合していくのだ。いつもながら、その構成は見事としか言いようがない。
ただ難を言えば、『夜市』などの中編作品に漂っていたノスタルジーや、幻想的な雰囲気が少し薄れてしまった感がある。それに、ラストの面倒臭くなったような早終いにも、少し抵抗感が残ってしまった。
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コメント
たちばなますみさんこんにちは
コメントありがとうございます
恒川光太郎、なかなかやりますよね。
新人で即直木賞候補なんて凄すぎる。
文章と構成が素晴らしいですね。
「秋の牢獄」は僕も一番惹かれました。
投稿: ケント | 2008年5月18日 (日) 18時58分
トラバありがとうございました!!
恒川光太郎は、中編集「秋の牢獄」が一番好きです。
ホラーとまでは、いかないまでも、様々な牢獄に捕らえられた人たちの物語。
「雷の季節の終わりに」もまた同じような世界観でありながら、ぐいぐい引き込まれますよね。
これからも、じっくりと、いい作品を書いていって欲しいです。
投稿: たちばな ますみ | 2008年5月17日 (土) 22時36分