夜市
どんなものでも売っているという、夜市と呼ばれる異世界の不思議な夜店。幼い頃、ここで「野球の能力」と「幼い弟」を引き換えにした祐司は、なにも知らない同級生のいずみを伴い、弟を買い戻すために夜市を再度訪れるのだった。
第12回日本ホラー小説大賞受賞作で、著者の出世作でもある。審査員の荒俣宏、高橋克彦、林真理子の三人がこぞって大絶賛している稀にみる大秀作なのだ。
夜市 著者:恒川 光太郎 |
まず文章が巧い。無駄がなく読み易く、しかも抒情的で知的なのである。しかも話全体の構成力が抜群であり、ジャンルを超えた面白味を持つ。
そして高橋克彦氏が言うように、なによりも比類ない「発想の転換の才能」の持ち主なのである。いきなり直木賞候補に推されたのも納得出来るというものだ。
本書以外の著作では、『秋の牢獄』しか読んでいないが、まだ新人で余り作品が出版されていないので仕方がない。次は『雷の季節の終わりに』を読む予定でいる。
本書では『夜市』と『風の古道』の二作の中編が掲載されているが、 どちらも妖怪が闊歩する世界を描いた、似たような雰囲気のお話なのだ。ただ『夜市』のほうは、市で何かを買わない限り元の世界に戻れないが、一方『風の古道』は、ところどころに抜け道が存在するという違いがある。
『夜市』は、おどろおどろしい中にノスタルジックな雰囲気が漂う。その世界感は『干と千尋の神隠し』や、宮沢賢治の『注文の多い料理店』などと同じような香りがする。
そして緻密に計算され尽したラストの締め方も実に見事である。だからハッピーエンドで終結しなくとも、カタルシスが得られるのだ。
一方の『風の古道』も、おどろおどろしさとノスタルジーにおいては、決して『夜市』に負けてはいない。ミステリアスで面白い話なのだが、『夜市』のような深みは感じられなかった。『夜市』の出版に際して、急遽書き下ろしたらしいが、『夜市』のサイドストーリー的な勾いがするのは否めないだろう。
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コメント
花さんこんばんは、コメントありがとう
「夜市」はノスタルジーの中に幻想的な雰囲気が漂う不思議な世界でしたね。この感覚こそが恒川光太郎氏の世界なのでしようね。
次の著作の出版が待ちどおしいです。
投稿: ケント | 2008年5月12日 (月) 20時49分
TBありがとうございました。
この作者の作品は、「夜市」しか読んでないのですが、こわさの中にも、切なさがあり、独特の世界に引き込まれました。
他の作品も読んでみるつもりです。
投稿: 花 | 2008年5月12日 (月) 19時22分