秋の牢獄
この本には三つのお話が詰め込まれている。タイトルの『秋の牢獄』のほか、『神家没落』、『幻は夜に成長する』の三篇である。
著者の恒川光太郎は2005年に『夜市』で第12回日本ホラー小説大賞を受賞し、いきなり直木賞候補となった脅威の新人である。そのじっとりした美しい文体から繰り出す、ノスタルジックな世界観はやみつきになりそうだ。
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さて三つの話は、全く関連性のない別の話である。しかし全ての作品には、「監禁される」というテーマが根底に流れている。
『秋の牢獄』は、映画の『恋はデジャ・ブ』や北村薫の『ターン』と同様に、同じ毎日が繰り返されてしまう話である。ただこの奇妙な世界に迷い込んだのは、主人公1人だけではなかった。
そこには同じ状態の漂流者が何人も存在し、彼等はグループを形成していた、という設定が前述の映画や小説と異なる展開である。11月7日から翌日に行けないということから、ある意味11月7日の中に監禁されていると考えることができるだろう。
『神家没落』に登場する古い家は、誰かが残らない限り、一度入ると絶体に外に出られない。そして代々誰かが犠牲になって、この家を守ってきた。外の人々は、その住人を神と呼ぶ。もちろん、これこそ監禁以外の何物でもないよね。
『幻は夜に成長する』は、三作の中では一番もの悲しい作品だ。祖母から超能力を与えられた少女が、ある宗教団体の生き神様として、監禁されて生きるようになった過程を描く。きっと読者たちには、少女の不安と孤独と絶望感がひしひしと伝わってくるはずである。
それにしても、本書の著者である恒川光太郎の力量は計り知れない。既存の作家にはない独特の感性とパワーバランスに酔いしれてしまった。1973年生まれと、まだ若いのでこれからが楽しみな作家である。
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コメント
t-saitoさんコメント有難うございました。
恒川 光太郎という脅威の新人にカンパイ!
これから注目したいですよね。
こちらこそよろしくお願いします。
投稿: ケント | 2008年4月14日 (月) 20時50分
トラックバックありがとうございました。
恒川さんの描き出す「世界」はとても魅力的だと思います。
もっと良いものがいっぱい書ける人だと期待しています。
また、なにかありましたらよろしくお願いします。
投稿: t-saito | 2008年4月14日 (月) 16時08分