チルドレン
子供のことをチャイルドというが、複数になると「チルドレン」になる。つまり全く別人になってしまうのだ。という例え話には、妙に説得力がある。
本書は「バンク」、「チルドレン」、「レトリーバー」、「チルドレンⅡ」、「イン」の5作の短編を連ねたオム二バスである。全作に共通して登場するのが、自分を中心に宇宙が回っている陣内という豪快な男だ。
余りにも強引で手前ミソな彼の言動に、「バンク」では少々腹が立つのだが、他の短編を読み進めてゆくうち、彼の暴言に納得してしまうから不思議だ。なんとなく憎めないキャラだし、結局いつも彼の示唆するところが、問題解決の糸口となるからである。
この一連の短編は、時系列的に並べられてはいないが、主要な登場人物が固定的であり、5つの話が微妙にリンクしてある意味長編小説を形どっているのだ。またそれぞれの語り部を、陣内以外の常連キャラがリレー方式で努めているが、これも新しい試みかもしれない。
5つの話はいずれも面白いのだが、僕は変った銀行強盗を描いた「バンク」と、父と息子の在り方を問う「チルドレン」を評価したい。「バンク」は陣内が学生時代に遭遇した事件、一方「チルドレン」のほうは、陣内が家裁の調査官になってからのお話であり、なんと12年間の時差があるのだ。
ミステリーといえば、探偵や警察が登場するものと思い込んでいたが、こうした方法もあるのだなと、改めて感心してしまった。明らかに、伊坂幸太郎のアイデアと想像力の勝利だろう。
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「失恋した俺のために、今、この場所は時間が止まっている」 破天荒な性格の家裁調査官の陣内、目は見えないけれど、物事の本質は誰よりも見えている永瀬、その盲導犬べスと、永瀬の彼女でありながらベスに対抗意識を燃やし、嫉妬する優子。。。 「重力ピエロ」もそうだっ..... [続きを読む]
受信: 2008年3月22日 (土) 07時09分
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読書の醍醐味は小説にある。本がやみつきになる切っ掛けは、感動させらてた文学との出会いが大きいのではないか。
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伊坂幸太郎さんの待望の新刊文庫です。
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受信: 2008年3月23日 (日) 08時57分
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「伊坂幸太郎」著作品についての感想をトラックバックで募集しています。 *主な作品:重力ピエロ、チルドレン、グラスホッパー、死神の精度、オーデュボンの祈り、アヒルと鴨のコインロッカー、陽気なギャングが地球を回す、終末のフール、ラッシュライフ、砂漠、フィッシュ..... [続きを読む]
受信: 2008年3月23日 (日) 14時14分
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伊坂 幸太郎
チルドレン
まっとうさの「力」は、まだ有効かもしれない。信じること、優しいこと、怒ること。それが報いられた瞬間の輝き…。こういう奇跡もあるんじゃないか? ばかばかしくて恰好よい、ファニーな「5つの奇跡」の物語。
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伊坂幸太郎さんは、今、最も旬の勢いある人気作家の一人であり、彼の作品の映画化が続く。出版社は本の売り上げと作家の更なるイメージアップに全力を尽くすだろう。しかし映像ク [続きを読む]
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『チルドレン』 伊坂幸太郎 講談社文庫【comment】この作品、好きー物凄く大感動するとか、驚きの結末に感嘆するとかはないけれど、とっても心地良くって気に入っちゃった。例えていうなら、「高級素材を使ったお料理も、職人さんの技が光るお料理も、なかなかお目にかかれない珍しいお料理もいいけれど、近所の定食屋さんのオムライスの美味しさにはホッとさせられる―」って感じの好きさかな(笑)本作は5編の変則的な連作小説だ。伊坂さん自身が、『短編集のふりをした長編小説』と称して... [続きを読む]
受信: 2008年6月29日 (日) 17時05分
コメント
由香さんこんにちは
伊坂幸太郎は、「本屋大賞受賞」「山本周五郎賞」受賞と、今が旬の作家ですね。
とにかくドンデン返しのアイデアが面白いですよね。
陣内キャラはなかなか面白かったですね。僕も彼の存在が光っていたと思いました。
投稿: ケント | 2008年7月 1日 (火) 20時55分
ケントさん、こんにちは!
伊坂さんのアイデアと想像力にはいつも驚かされますね~
色々な作品を読んでみると、時々「何かが足りないなぁ~」と思ってしまうこともありますが、それでも魅力的な作家さんであるとは確信しています。
本作では、とにかく陣内というキャラがツボでした(笑)
呆れてしまうところもありましたが、ああいうタイプの男性は好きなんです♪
一つ一つの物語に優しい空気があって心地良かったし、、、お友達に薦めたくなる1作です。
投稿: 由香 | 2008年7月 1日 (火) 09時47分
たちばなさん
「夏への扉」と「リプレイ」は既読でしたか。
僕は、時間テーマものにはまっていて、約250冊収集しましたが、まだ半分も読んでいません。映画にもなりましたが、リチャード・マシスンの「ある日どこかで」もいいですよ。
マイナスゼロは、絶版なので手に入れにくいと思いますが、大きな図書館にはあると思います。
投稿: ケント | 2008年3月23日 (日) 13時49分
実は、「夏への扉」と「リプレイ」は既読なんですよ。
梶真と広瀬正は、やっぱり気になりますねえ・・・
時間ものだと、ハインラインの「時の門」も、難解な時間ものらしいですね。
投稿: たちばな ますみ | 2008年3月22日 (土) 23時25分
たちばな ますみさんコメントありがとうございます。「チルドレン」の意外な展開に、こういう書き方もあるのかと感心しかり、一本とられました。
僕のSF愛読書ベスト5がきになりますか。
どちらかというと時間テーマものが多いです。一番読みやすいのは梶尾真治ではないでしょうか。是非図書館で借りてみて下さい。
投稿: ケント | 2008年3月22日 (土) 22時42分
ケントさん、はじめまして。トラバありがとうございます。
伊坂の「チルドレン」、いいですよね!!
伊坂の良さは、とにかくキャラが立ちまくりなところだと思います。
ところで、私はケントさんのSF愛読書ベスト5が気になって仕方ないのですが・・・
投稿: たちばな ますみ | 2008年3月22日 (土) 22時21分