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2008年3月22日 (土)

チルドレン

 子供のことをチャイルドというが、複数になると「チルドレン」になる。つまり全く別人になってしまうのだ。という例え話には、妙に説得力がある。

チルドレン (講談社文庫 (い111-1)) Book チルドレン (講談社文庫 (い111-1))

著者:伊坂 幸太郎
販売元:講談社
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 本書は「バンク」、「チルドレン」、「レトリーバー」、「チルドレンⅡ」、「イン」の5作の短編を連ねたオム二バスである。全作に共通して登場するのが、自分を中心に宇宙が回っている陣内という豪快な男だ。
 余りにも強引で手前ミソな彼の言動に、「バンク」では少々腹が立つのだが、他の短編を読み進めてゆくうち、彼の暴言に納得してしまうから不思議だ。なんとなく憎めないキャラだし、結局いつも彼の示唆するところが、問題解決の糸口となるからである。
 この一連の短編は、時系列的に並べられてはいないが、主要な登場人物が固定的であり、5つの話が微妙にリンクしてある意味長編小説を形どっているのだ。またそれぞれの語り部を、陣内以外の常連キャラがリレー方式で努めているが、これも新しい試みかもしれない。
 5つの話はいずれも面白いのだが、僕は変った銀行強盗を描いた「バンク」と、父と息子の在り方を問う「チルドレン」を評価したい。「バンク」は陣内が学生時代に遭遇した事件、一方「チルドレン」のほうは、陣内が家裁の調査官になってからのお話であり、なんと12年間の時差があるのだ。
 ミステリーといえば、探偵や警察が登場するものと思い込んでいたが、こうした方法もあるのだなと、改めて感心してしまった。明らかに、伊坂幸太郎のアイデアと想像力の勝利だろう。

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書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

由香さんこんにちは
伊坂幸太郎は、「本屋大賞受賞」「山本周五郎賞」受賞と、今が旬の作家ですね。
とにかくドンデン返しのアイデアが面白いですよね。
陣内キャラはなかなか面白かったですね。僕も彼の存在が光っていたと思いました。

投稿: ケント | 2008年7月 1日 (火) 20時55分

ケントさん、こんにちは!
伊坂さんのアイデアと想像力にはいつも驚かされますね~
色々な作品を読んでみると、時々「何かが足りないなぁ~」と思ってしまうこともありますが、それでも魅力的な作家さんであるとは確信しています。

本作では、とにかく陣内というキャラがツボでした(笑)
呆れてしまうところもありましたが、ああいうタイプの男性は好きなんです♪
一つ一つの物語に優しい空気があって心地良かったし、、、お友達に薦めたくなる1作です。

投稿: 由香 | 2008年7月 1日 (火) 09時47分

たちばなさん
「夏への扉」と「リプレイ」は既読でしたか。
僕は、時間テーマものにはまっていて、約250冊収集しましたが、まだ半分も読んでいません。映画にもなりましたが、リチャード・マシスンの「ある日どこかで」もいいですよ。
マイナスゼロは、絶版なので手に入れにくいと思いますが、大きな図書館にはあると思います。

投稿: ケント | 2008年3月23日 (日) 13時49分

実は、「夏への扉」と「リプレイ」は既読なんですよ。
梶真と広瀬正は、やっぱり気になりますねえ・・・
時間ものだと、ハインラインの「時の門」も、難解な時間ものらしいですね。

投稿: たちばな ますみ | 2008年3月22日 (土) 23時25分

たちばな ますみさんコメントありがとうございます。「チルドレン」の意外な展開に、こういう書き方もあるのかと感心しかり、一本とられました。
僕のSF愛読書ベスト5がきになりますか。
どちらかというと時間テーマものが多いです。一番読みやすいのは梶尾真治ではないでしょうか。是非図書館で借りてみて下さい。

投稿: ケント | 2008年3月22日 (土) 22時42分

ケントさん、はじめまして。トラバありがとうございます。
伊坂の「チルドレン」、いいですよね!!
伊坂の良さは、とにかくキャラが立ちまくりなところだと思います。

ところで、私はケントさんのSF愛読書ベスト5が気になって仕方ないのですが・・・

投稿: たちばな ますみ | 2008年3月22日 (土) 22時21分

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