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2008年2月 3日 (日)

フローズン・タイム

★★★☆

 東京では、渋谷QーAXシネマだけの単館上映である。この映画館は、2006年にオープンしたばかりで、カフェスタイルの飲食店が同居し、2つのスクリーンを持つユニークな映画館だ。
 ただ駅からやや遠いこと、周囲にラブホテルが多いことなどが難点かもしれない。しかし小綺麗でお洒落な雰囲気と、音響・映像においては最高水準のTHXを採用していることは評価したい。
 264席ある館内は、ほぼ満席であった。これはこの作品に対する注目度なのか、映画デーの特別割引のお陰なのかは不明である。

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 この作品は、2006年のアカデミー短編実写賞にノミネートされた18分の短編作品だった。それを商業べースで上映するために、102分に引き伸ばして再製作したという。
 当初の短編映画を観ていないので、比較は出来ないものの、やはり多少違和感を感じてしまった。
 おそらくスーパーの店員たちの「おふざけドラマ」や「少年時代の回想」などが追加シーンなのであろう。「少年時代の回想」はともかくとして、店員たちのドタバタシーンがなければ、この映画はもっと芸術的かつ幻想的な作品に仕上がっていたはずである。
 失恋のショックで不眠症に陥り、時間の概念にひずみが生じる。そしてあるとき、スーパーマーケットの中で、自分以外の時間が止まってしまう。
 そこまではとても秀逸な発想であり、時間が静止したときの映像も、二次元世界のようで幻想的だ。フォトグラファーである監督の手腕が、十分に発揮されたシーンであった。
 そして、最初はレジのおばさんにしか見えなかったシャロンが、だんだん美しくなってゆく。主人公の心の動きと、観客の視線を同調させたテクニックも見事である。
 だが、ファンタジーを、エロティックコメディーへとチェンジしてしまった感性だけはいただけない。ところどころで少数の人が、大声で笑うのだが、観客のほとんどはしらけ切っている。
 ラストになって、今度はロマンチックなラブストーリー仕立てに軌道修正し、そこで観客の冷めた気持ちを温めて、ジ・エンドとなる。
 なんだか狐につままれた気分だが、「良い映画だったな」と満足して帰路につく観客たち・・・。だが冷静に考えると、やはりなにか歯車が絡み合わない。まるで、小さなワイングラスの中で輝いていた宝石を、砂利の詰まったバケツの中に投げ込んでしまったような気がするのである。 

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コメント

睦月さんこんにちは、コメントありがとう
瞬間の美学だけ延々と102分も映されたら、誰だって飽きてしまいますよ(笑)
僕が言いたいのは、簡単に言えばもう少しシリアスタッチで創って欲しかったということなんです。
結局のところ、本当に時間が止まったわけではなく、彼の深層心理の中でのお話だったはずだと、僕は解釈したいですね。

投稿: ケント | 2008年2月 4日 (月) 17時35分

こんにちわ。

私はこの作品、かなり好きですよ。
幻想的で美しい一面を持ちながら、決して気取ったり
することのない『はちゃけた感じ』がこの作品の魅力
だと感じています。

瞬間の美学だけ延々と108分も映されたら、
私なら逆に飽きてしまいそうだなあと思います。

魅せるところは魅せながら、映画としていろんな
表情を見せてくれたこの作品は、なかなかの
良作だと感じました♪

まあ・・でも好き嫌いははっきり分かれそうな感じは
しますね(苦笑)。

投稿: 睦月 | 2008年2月 4日 (月) 15時43分

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