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2007年3月15日 (木)

松ヶ根乱射事件

★★★☆

 タイトルと予告編を観た限りでは、田舎町に勃発した殺人事件を、駐在所の巡査がオロオロしながら捜査する映画のように感じる。ところがちょっと違うんだなあ。
 異様なオープニングである。雪の中で大の字になっている若い女性の死体。その死体を小学生が眺めている。そして男の子は、死体の胸を、さらにスカートの中を、まさぐり始めるではないか。

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 そんな演技を子供にさせて良いのかなぁ・・・などと考えているうちに、今度はその死体がスッポンポンで警察の検死台に横たわっている。しかも映像は、女のアンダーへアーを、余すところ無く、はっきりと写し出しているのだった。
 これで終わりではない。実は女は死んでいたのではなく、失神していただけだったのだ。これが「世界一不謹慎な死体」と呼ばれる所以である。
 この失神女を激演したのが川越美和。彼女は昔、日本レコード大賞新人賞を受賞したアイドルだったという。過去の栄光をかなぐり捨て、恥毛まる出しの女優根性には脱帽する。しかもふてぶてしく嫌味な演技も、決して捨てたものじゃない。
 その恋人で獰猛な男の役を、これもまたあの木村祐一が見事に演じている。『花よりもなほ』の痴呆役とは対極をなすシリアスな役柄であり、彼の器用さには感心するばかりだ。
 この二人の凶暴さと図々しさは、圧倒的な存在感を示し、本流である鈴木家のドラマを食いつくしてしまう。そしてのどかだった松ヶ根町は、二人の登場で一気にバランスが崩れ、狂気に支配され始める。
 この危険なアンバランスさが、本作独自のテイストを醸し出す。ただわざとボタンをかけ違えた様な意味不明さに、だんだんむかついてくるのも確かだ。
 鈴木家という田舎町の畜産農家が、コアになっていることは先に述ベたが、その家族にはどこか異様な雰囲気が漂う。別居中の父親は無責任な女たらし、祖父は助平なボケ老人、双子の兄は社会不適応、母は陰鬱で、姉はヒステリーという具合だ。
 一番まっとうなのが、この町で巡査をしている双子の弟なのだが、彼にもイライラが募り始め、カタルシスが得られない。やがて彼も、次第に狂気の渦に巻き込まれてゆく。
 ひと皮剥いた人間の本音と独善。それを絶妙のタッチで、「ブラックコメディー」に仕立てた山下敦弘監督の感性は評価したい。
 ただ前半の過激さに比ベて、後半はかなりおとなしく納まり、結局何も変わらない日常へと環流してしまうのだ。それがこの作品の風味かもしれないが、かなり消化不良感が残ったことは否めない。  

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[ 松ヶ根乱射事件 ]を渋谷で鑑賞。 山下敦弘をたんなる長江健次似のゆるい癒し系の監督と思ったらやけどします。本作[ 松ヶ根乱射事件 ]を観ればそれが一目瞭然。人間の情けなさや腹黒さという、山下監督が本来描いてきた“心の闇”をこれでもか、これでもかと描いている。もちろん、彼お得意の演出、決して大声では笑えないコミカルさも健在。さあ、どうぞ山下ワールドご堪能あれ。 ... [続きを読む]

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受信: 2007年3月25日 (日) 11時09分

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