僕を殺した女
それにしても随分と思い切ったタイトルをつけたものだ。それに「ある朝目覚めると主人公篠井有一は、ヒロヤマトモコという美女になっていた」という設定は、どこかで聞いた事があるだろう。
そう・・誰でもが知っている、「ある朝目覚めると僕は、巨大な毒虫になっていた」という、フランツ・カフカ『変身』の冒頭を思い出すはずである。
この小説では、主人公の篠井有一が、女性に変身してしまっただけでなく、5年間の記憶も全くなくなってしまった。~という設定になっている。
最初は5年前の世界から、見知らぬ女性の体の中に篠井有一の心がタイムスリップしたのだと思っていた。
ところがこの小説は、そうした時間テーマSFではなかったのだ。どちらかというと、サスペンスとかミステリーというジャンルなんだね。
テーマは、主人公篠井有一の正体解明に終始することなのだが、本人の自問自答が中心であり、心象風景もコロコロと変貌してゆくんだね。
そして話が進むに従い、SFよりももっと荒唐無稽な現実が、読者の前に剥き出しにされる。そして二転三転しながら複雑に絡みあったパズルを解いてゆくのだ。
もしかすると、安部公房のような一風変わった純文学とも言えるし、夢野久作のようなサイコ小説といってもおかしくないだろう。
それにしても、この北川歩実という作家は、男なのか女なのかさっぱり判らない。聞くところによると、年齢も含めて一切が不詳の覆面作家だというのだ。
北村薫も当初は覆面作家だったというが、なんらかの賞をとれば、身元はバラさずにはいられない。
ではなぜ覆面をするのだろうか。サラリーマンで、二足のワラジを会社に知られたくないのだろうか。それとも売れなくなった超有名作家の小遣い稼ぎなのだろうか。
いずれにせよ売れっ子になれば、やがて正体が明かされる日も来るだろうが、こやつはただものではない気がする。
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