流星ワゴン
なんともはやマンガチックで、懐かしい響きを持ったタイトルである。この「ワゴン」とは、幽霊父子が運転するワゴンカーであり、ワインカラーのオデッセイのことでなのである。
そしてこのオデッセイこそ、『バック・トゥ・ザ・フューチャーでいうデロリアンであり、一種のタイムマシンなのであった。
流星ワゴン 著者:重松 清 |
病床の父親とは、ほば絶縁状態。妻はテレクラに狂い、一人息子は受験に失敗し家庭内暴力に走る。そして会社が傾き、リストラの対象になる。・・こういう最悪の家庭環境に追い込まれたとき、あなたならどうするだろうか?
主人公のカズは、もう人生なんてどうでもよくなり、いっそ死んでしまいたい気持で一杯になる。そして目の前に止まったワインカラーのオデッセイに乗ってしまうのだった。これがこのお話の始まりである。
前述した通り、このワゴンカーはタイムマシンで、家族が破綻する以前の過去へ疾走して行く。どういう訳か自分と同年期の父も、一緒にタイムトラべラーになっているのだ。
それから、悲惨な自分の現在(未来)を変えようと、何度か過去を改竄しようと試みる。だがどうやっても、過去は絶対に変えられないのだ。
この小説でのタイムトラべルは、過去の自分の体に、現在(未来)の自分の意識だけがとりつくという方式であり、決して過去の自分に遭遇することはないようだ。そして現在(未来)に戻るつど、過去の自分にはそのときの記憶も、記録も全く残らない仕組みになっている。ただ稀にそれとなく、体験感覚が揺り戻されることがあるようだが、それが『デジャヴ』と呼ばれている現象らしい。
いわゆる「リプレイ」ものなのだが、絶対に過去は変えられないため、パラレルワールドの存在もない。
タイムトラべルとして考えると、かなり違和感を感じるのが、同時にタイムトラべラーとなる父親チュウさんの年齢である。カズと同い年であるはずがないのだが、チュウさんは幽霊に近い存在と考えて、タイムトラべルと関連付けないほうがよいだろう。このお話はタイムトラべルと、幽霊を重ね合わせた物語なのだから・・。
なにせ466頁もあるブ厚い文庫本だが、ストーリーの中味は非常にシンプルで、どこにでも居そうな三組の「父と息子」を描いている。まずはオデッセイを運転する幽霊の橋本さん父子、そして主人公のカズとチュウさん、もう1組はカズと息子の広樹である。
そしてこれだけの長編にも拘わらず、女性達はほとんど存在感がなく、父と息子の関係だけに終始している。この辺りの描き方は、女性読者には少し抵抗がかもしれない。そこにこの作者の、父親に対する強烈な思い入れを感じたね。
私の父親は42才で鬼籍に入っている。出来ることなら、私もタイムマシンに乗って、若かりし頃の父と一献傾けたいものである。
父子の愛憎とタイムトラベルという筋立ては、浅田次郎の『地下鉄(メトロ)に乗って』と良く似た展開である。ただ浅田次郎のように切ないエンディングではない。だからと言って、決してハッピーエンドとも言えない。
過去にこだわらず、「未来に向かって力強く生きてこそ、幸福への扉が開かれる」と言いたいのだろうか。
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