★★★★
いゃあ熱い!実に熱い作品だった。この物語は、TKCの創設者飯塚毅氏の若かりし日の記録である。
TKCといえば東証一部上場会社であり、全国税理士事務所のコンピューターシステムを束ねている会社なのだ。これほど大きな仕事を成し得た税理士は、少なくとも日本では飯塚氏をおいて存在しないだろう。
この映画は、彼がまだTKCを設立する前、一介の税理士時代に、国税局を相手どって戦った話が中心になっている。それは年配の職業会計人なら誰でも知っている、あの『飯塚事件』の全貌なのだった。
この事件についての詳細は省略するが、当時『決算未払賞与』が脱税なのか、節税なのかを国税局と裁判で争ったことが発端となり、国税側よりかなり卑劣なイヤガラセを受けている。
この事件の終結には、なんと7年もかかり、その間に飯塚事務所は多くの顧問先を失い、職員4名が逮捕までされている。結局最後まで、正義感と不撓不屈の精神を捨てなかった飯塚氏の勝訴となるのだが、彼は国に損害賠償請求をしなかったという。
損害賠償請求訴訟という後向きの道を切り捨てた飯塚氏は、ドイツ税法を学び、コンピューター時代を予見し、TKC立ち上げに奔走する前向きの道を選択したのだ。
それにしてもど偉い男だ!。私も独身時代は職業会計人をめざし、税理士事務所に籍をおいていたので、飯塚氏の生き様にはかなり共感できるのである。
公認会計士は、大企業の会計処理などを監査することが主な仕事であるが、税理士は税務書類や会計帳簿の作成が主たる業務である。
また多くの大企業には、優秀な経理マンがいるので、税務書類の作成等は自社で行っている。そして国税局との政治的な交渉役としては、特例試験で税理士資格を得た国税OBが顧問税理士として関与しているのだ。
従って難しい試験を受けて税理士となった民間出身の税理士は、零細・中小企業を顧問先に選ぶより術がないわけである。また当局との交渉についても、当局とのコネがないため法律の解釈論で、まっとうに戦うしかない。
民間出身の飯塚氏も、まっとうに戦い、国税局の調査官を打ち負かしてしまった。だが、その後その調査官が出世し、過去に恥をかかされた恨みを報復することになってしまうのだ。そしてそのことが、『飯塚事件』を複雑にかつ泥沼化させてしまったのである。
これはよくあるドラマではない。 実際にあった話なのである。
今でこそ税務署や国税局の対応は丁重であるが、昔はいろいろと問題があったようだ。それは現在でも公然と賄賂が横行している低開発国の役人たちの現状をみれば納得出来よう。
さて飯塚毅氏には2回お目にかかったことがあるが、彼のパワーと正義感と勉強熱心さは脱帽するばかりである。
1度目は彼がTKCを立ち上げた頃、私が所属する事務所でも、TKCの端末機導入の話があり、彼の説明会を聞きに行ったのである。
そこで彼がコンピューター会計導入のため必要となる『コード付勘定科目ゴム印』について、次のように語ったのを今でも鮮明に覚えている。
「コンピューター会計を導入すると、『コード付勘定科目ゴム印セット』の購入が、顧問先の新たな負担になってしまいます。それでは零細企業の顧問先に申し訳ない。」
「それで自らハンコ屋と交渉し、もし通常の半値で納入してくれなければ、自分がハンコ屋を開業する!」
「いずれTKCが全国規模になり、ものすごい数の科目印セットが必要になるが、そのときに後悔するよ!そう言ったら、ハンコ屋が半額に値引きしてくれました。」
「もちろんTKCではその分を決してピンハネしません。だから、顧問先には最小限の負担で利用していただけるのです。」
・・・と言うのだ。このときの彼のパワーと自信に満ち溢れた言葉には返す言葉もなく、ただただ凄い人だ!と感じるばかりだった。
2度目に飯塚氏に会ったのは、彼が70才をかなり過ぎたころだと思う。日本生産性本部で行われた原価計算のセミナーに、なんと彼が部下と一緒に聴講生として参加しているではないか。
その頃の彼は、公認会計士の資格も得、TKCの総帥でもあったはずである。それにしても彼の勉強熱心さには驚いたものだ。
彼は大正8年に栃木県で生まれ、2年前に鬼籍に入っている。彼のような男なら、税理士に限らず何をやっても成功したであろう。
それにしても、大正時代に生まれた人々には、素晴らしい男たちが多い。時代背景もあるが、今後はこうした傑出した男たちの登場はほとんどあり得ないだろうね。淋しい限りである・・・。
ただ映画の中で、ちょっと腑に落ちなかったのは、弟子4人の逮捕後に飯塚氏が、ホテルに雲隠れしたことだ。あれほど自分にはやましい事はないと貫き通していたのに、なぜ逃げ隠れしたのだろうか。それから出所後の弟子4人の集団退職についても、納得出来る説明がなかった。
滝田栄が演ずる『飯塚毅』は、誠実で正義感の塊のような人物であったが、あれだけの仕事を成し得た人だ、実際にはもっとドロドロした、したたかさをも併せ持っていたのかもしれないね。
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