地下鉄(メトロ)に乗って
直木賞『鉄道員(ぽっぽや)』を書いた浅田次郎が、吉川英治新人文学賞を受賞した作品である。
過去にタイムスリップして、自殺した兄を助けに行ったり、反目している父の若かりし日を訪ねるため、「戦後」、「戦中」、「戦前」、「戦後」・・と時間軸を行ったり来たりする。
ところで地下鉄のことを「メトロ」と呼ぶのはフランスであり、イギリスでは「チューブ」とか「アンダーグラウンド」、アメリカは「サブウェイ」で、ドイツでは「ウーバーン」と呼ぶらしい・・・。日本では「メトロ」という言葉が一番馴染んでいるし、なんとなくそこはかな郷愁さえ感じてしまう。ことに銀座線と丸の内線には、ピッタリの呼び名であろう。
さてこの話を読み始めたときは、古い地下鉄の出入口が、『タイムトンネル』になっていると思っていたが、どうもそうではないらしい。家で眠っているときにも、タイムスリップしてしまうからだ。
結局なぜタイムスリップしたのか原因も判らずじまい、もしかすると全てが主人公の妄想か、夢だったのかもしれない・・。しかしもしそうだとすると、何故「みち子」が登場したのか説明し辛くなってしまう・・・その辺りは曖昧であり、エンディングも余り歯切れが良くなかった。
どうして浅田次郎の作品は、いつも切なく救われない話が多いのだろうか。確かにこの小説はSF的な手法を使ってはいるが、実は似たもの同士の「父と息子の確執と苦悩」を描いた心理小説と言えないこともない。
そしてこの場合、「みち子」の存在は、嫌悪していた父と同様に、主人公も愛人を持ちたいという願望が作り出した妄想だったと、解釈するしかないだろう。そしてそれを皮肉な結末と結びつけると、主人公の父に対する激しい愛憎と情念を体中に感じてしまうのだ。
確かに父と息子の関係は難しい。息子にとって父親は、なくてはならない存在なのだが、父親がその存在感を示せば示すほど、若い息子は父を恐れたり憎んだりするものである。
やがて父が死んで息子が成長したときに、初めて父の偉大さを知り、父を尊敬する時が来るだろう。さてさて父親とは、なんと報われない存在なのだろうか・・・。
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» 地下鉄(メトロ)に乗って [時間旅行〜タイムトラベル]
地下鉄に乗って[:読書:]
浅田次郎
SF度:★★★
レトロ度:★★★★★
地下鉄に乗った真次は
なぜか、兄が自殺した日にタイムスリップしてしまう。
主人公は、兄を止めることができるのか?
吉川英治文学新人賞[:王冠:]受賞作品。
... [続きを読む]
受信: 2006年4月19日 (水) 22時03分
» 地下鉄に乗って [☆美の負け犬な日々]
さっき書いた記事のとおり、考え事をしてばかりいた割にはしっかり本は読んでいるので、その書評です。
今回は浅田次郎の地下鉄(メトロ)に乗って。
別に言い訳するわけじゃあないんですけど、考え事をしてたり、いっぱいいっぱいのときにブログると、ロクな記事を書かないんですよね。
今までの経験からして。(苦笑)
なんで、通勤時間には本を読んでたわけです。... [続きを読む]
受信: 2006年4月21日 (金) 01時40分
» 地下鉄(メトロ)に乗って/浅田次郎 [文学な?ブログ]
地下鉄に乗ってを読みながら、本当に地下鉄に乗っていて涙しそうになりました。あまりに哀しい物語でした。
真次(しんじ)は、地下鉄を通じて現代と過去を何度も行き来し、嫌悪していた父の知らなかった面を知ることになります。兄の事故、愛人との関係、そして母の愛情──過去を知ることで、まるで地下から地上に出たときの眩しさを感じます。それは必ずしも喜びではありませんが、真次は今まで避けてきた現実を一つずつ受け入れて行きます。
地下鉄は現代と過去とつなぐ象徴として描かれ、無機質になってしまった都会にも旧... [続きを読む]
受信: 2006年7月22日 (土) 01時32分
» 地下鉄に乗って (浅田次郎) [ぶっき Library...]
流儀としては古典的な人情路線なんですけど、愛情とか友情とか優しさといったような人間の心の美しさに寄せる作者の信頼感が半端じゃないので、完全に独自の世界になっています。人間の心に美しい部分があること、それを描き出せ... [続きを読む]
受信: 2006年7月24日 (月) 17時48分
» 浅田次郎著「地下鉄(メトロ)に乗って」 [気ままな中年ライダー Weekend日記]
涙なしには読めない感動の物語「映画化決定」という帯についひかれて買ってしまったのだ。確かにこのストーリーは映画化すると面白いと思う。
それにしても東京の地下鉄って戦前から走っていたとは知らなかった。そして、焼け野原になっていても走っていたとは。
...... [続きを読む]
受信: 2006年7月24日 (月) 20時24分
» 「地下鉄に乗って」(浅田次郎著) [京の昼寝〜♪]
「地下鉄(メトロ)に乗って」(浅田次郎)【講談社文庫】
永田町の地下鉄駅の階段を上がると、そこは30年前の風景。 ワンマンな父に反発し自殺した兄が現れた。 さらに満州に出征する父を目撃し、また戦後闇市で精力的に商いに励む父に出会う。 だが封印された“過去”に行ったため…。 初めて浅田次郎の小説を読んだ。あの大ヒットした映画『鉄道員(ぽっぽや』では、涙・涙・涙だったが、原作は映画を観たあとも読んだことは�... [続きを読む]
受信: 2006年8月11日 (金) 22時18分
» 地下鉄(メトロ)に乗って [映画館で見たい映画]
浅田次郎原作「地下鉄に乗って」が2006年10月21日より全国一斉公開されます。
主人公の長谷部真次に弟から父が倒れたとの連絡が入る。すると地下動で
高校時代に亡くなった兄に似た人影が現れ、吸い寄せられるように影を追いかけ
地下鉄の階段を登りきったそのとき…
[続きを読む]
受信: 2006年8月31日 (木) 15時57分
» 地下鉄に乗って 映画でも泣かせるかな [ハムりんの読書 感想日記 おすすめの本]
地下鉄に乗って
感想☆☆☆☆ 浅田次郎 講談社
映画「地下鉄(メトロ)に乗って」の
試写会の話が先日、ありましたので、
原作を読んでみました。
堤真一さん、大沢たかおさんには
ちょっと期待している映画です。
公式ブログも出来たようで、
10月の封切まで盛り上がっていくのでしょうか?
原作「地下鉄に乗って」は浅田さんの初期作品のひとつなので、
最近のちょっとあざとい感じもなく、
でもじっくりと泣かせる場所もある良品でした。... [続きを読む]
受信: 2006年9月25日 (月) 22時43分
» 「地下鉄に乗って」試写会レビュー いい映画やったかな〜??(笑) [長江将史〜てれすどん2号 まだ見ぬ未来へ]
地下鉄に乗るのがちょっぴり怖くなり、ちょっぴりわくわくする、そんな映画かな(笑)僕自身そこまで楽しめなかったのだが、厚生年金会館までいっしょに観に行ってくれたみんなが感動してくれたみたいでよかった。で、そう言われてみると、いい映画やったかな〜と思い出しながら、しみじみレビューといきましょうか。。。... [続きを読む]
受信: 2006年10月13日 (金) 19時54分
» 地下鉄(メトロ)に乗って・浅田次郎 [ペパーミントの魔術師]
徳間書店 初版1994年3月で、 翌年95年に第16回吉川英治文学新人賞。 えっと私が読んだのはコレより後に発売された、 「地下鉄に乗って」の特別版。 地下鉄(メトロ)に乗って―特別版浅田 次郎 徳間書店 2006-07売り上げランキング : 22484Amazonで詳しく見るby G-T..... [続きを読む]
受信: 2006年10月16日 (月) 11時30分
» オンナは残酷だ?~「地下鉄(メトロ)に乗って」~ [ペパーミントの魔術師]
まずは原作レビューのリンクをしてから 本題にはいりましょか? →「地下鉄(メトロ)に乗って」 地下鉄(メトロ)に乗って THXスタンダード・エディション堤真一 浅田次郎 篠原哲雄 ジェネオン エンタテインメント 2007-03-21売り上げランキング : 153おすすめ平均 親子の..... [続きを読む]
受信: 2007年3月23日 (金) 17時35分
コメント
TBありがとうございました。映画も楽しみですね。
投稿: 気ままな中年ライダー | 2006年7月24日 (月) 20時28分
☆美 さん、コメントありがとう。
霞町物語見てみますね。
ところで、浅田次郎の「ラブレター」も切ないですよね。
投稿: ケント | 2006年4月22日 (土) 23時10分
TBありがとうございます。
自分のブログにも書きましたが、私が好きな浅田次郎の作品は霞町物語。
あれも救われないというか、何というか・・・。(笑)
ま、そこが浅田次郎らしさなのかもしれませんけどね。
投稿: ☆美 | 2006年4月21日 (金) 01時27分
ユキノさんコメントありがとう。
映画と違って本はトラバックやコメントが少ないので、嬉しかったです。
投稿: ケント | 2006年4月19日 (水) 22時31分
時間旅行のユキノです(^^)
TBありがとうございます。
なんか着々と時間モノが増えてますね~
浅田さんの作品はせつない系が多くて
お気に入りです。
投稿: ユキノ | 2006年4月19日 (水) 22時00分