この胸いっぱいの愛を
『本と映画のランデヴー第五弾』 であります。映画、マンガ、小説の順で見ましたので、その順番に従ってレビューしてゆきましょう。
映画は映画館で観たのでもう半年近く前になります。 ★★★☆
ある場所から、4人の男女が同時に20年前の世界にタイムスリップする。その4人は、どうしても過去に戻ってやり直したいことがある・・・ということで共通していた。
この胸いっぱいの愛を -未来からの“黄泉がえり”- 販売元:ビデオメーカー |
1人は盲導犬と離れ離れになってしまった老女であり、2人目は過去に他人の花壇を壊したまま、謝り忘れてしまった世界的に著名な学者である。そして3人目は、出産と同時に母親を亡くしてしまった暴力団のチンピラで、全員が過去にやり残したことを成し遂げると、元の世界か何処かへ消えてゆくのだ。
最後の4人目が主人公(伊藤英明)で、彼が少年時代にあこがれていた近所のお姉さん(ミムラ)に逢うことになる。このお姉さんは、天才バイオリニストなのだが、主人公の少年時代に病気で死ぬことになっている。
なかなか興味深いテーマであり、感動的なシーンも多く、子役も含めて出演者それぞれが、持ち味を生かした良い作品であった。とくにミムラが、とても魅力的な女性になり切っていたと思う。また中村勘三郎、賠償干恵子などの大物が、チョイ役で出演していたのにもちょいと驚いた。
ただ時間テーマものとしては、設定にかなり無理があったし、反則技も乱発していたのが気に入らない。
過去の自分に会うことは、タイムパラドックスを引き起こすためタブーのはずだが・・・最初から最後まで自分と一緒に暮らすのだから、かなり安易な設定ではないか。
そもそもそんな過去があれば、現在の行動には繋がらなかったはずだから、主人公のストーリーは成り立たないのだ。
また過去を変えれば、現在も変わるはずだが、何も変わっていない(あるいは説明不足か)のも納得しかねた。それに、あれ程慕っていたお姉さんと、いつの間にか疎遠になってしまったパラレルワールド?も、矛盾を感じるし、余り気分が良くはなかった。
もっと上手な種明かしが出来ないところに、この監督の限界を感じる。更には、観客サービスのつもりで挿入したような、ラストの天国らしきシーンも余計な一幕ではないだろうか。
「さてマンガ版のほうです」
映画が上映される前に、少女マンガに連載されたため、ネタバレを配慮して2部構成とし、メインの『バイオリンのストーリー』は2部に回わしていた。
この胸いっぱいの愛を 著者:河丸 慎,「この胸いっぱいの愛を」製作委員会 |
1部のほうは、その他の人のストーリーに、マンガ家のオリジナルを加えた形だった。それで初めは、『何だ映画と全然違うじゃないか!』とちょっぴり腹が立ったが、あとがきを読んで納得した。
僕はそもそもが、少女マンガのデザイン画のような、硬くて個性の無い絵が嫌いなので、そのあたりの印象は余り良くない。だが映画とも原作とも多少異なっていたので、それなりに味があり楽しめたと思う。
「そして最後に小説版でございます」
正式な原作は『クロノス・ジョウンターの伝説』で、それを同著者が映画化を睨んでノべライズとして、アレンジしたものらしい。
従ってストーリーは、ほとんど映画と変わらなかったが、重要な部分が映画では省略されていたり、変更されていたことが判った。
この胸いっぱいの愛を 著者:梶尾 真治 |
映画ではタイムスリップしたのが4人だったが、小説のほうでは6人だったのだ。正確にいうと、省略された2人はカップルだったので、お話としては1つのストーリーがカットされたことになる。たった1つのストーリーだが、このお話は、5つのストーリーの中でも2番目に素晴しい話で、泣ける話でもある。そして、このストーリーの拠点となる鈴谷旅館とも接点を持つし、ラストの展開にも影響することになるのだ。
もう1つはラストシーンが、大きく異なっている。映画では大不評だったラストと異って、小説のほうは実に見事な締めくくりを施していたと思う。
それから映画の中では、タイムスリップやパラドックスに関わる理論が全くなかったが、小説のほうでは、多少無理はあるものの、それなりに納得出来る理論をちりばめていた。さすが小説は素晴しい・・・というよりはこれを映画化した監督のセンスのなさに、改めて呆れてしまった。タイムパラドックスを扱った似たような映画といえば、『いま、会いにゆきます』があり、これも映画、マンガ、小説のハシゴをしたが、こちらは映画に軍配をあげたい。原作ものでも、作り方次第で映画が勝つことも出来るのである。
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コメント
kimionさんコメントありがとう
この監督さんのことは、よく判りませんが、ちよっと作り方が雑でしたね。
投稿: ケント | 2006年5月 2日 (火) 19時16分
TBありがとう。
この、監督、人がよさそうで、気が弱そうじないですか。
想像だけど、プロデユーサー、配給元とのいろいろ、軋轢があったんじゃ、ないだろうか。と。
そのなかで、監督さんは、なんとか仕上げた、と。
甘すぎる(笑)かしらね。
投稿: kimion20002000 | 2006年5月 2日 (火) 09時14分
Agehaさん >コメントありがとうございました。ヒロとおねえちゃんのエピソードは、映画では納得出来なかったけれど。小説では一応、二人とも幸せになったので良いかな・・・と思いました。
投稿: ケント | 2006年3月29日 (水) 14時33分
はじめまして。
順番が逆になりましたがうちのブログへも
トラバしていただいてありがとうございました。
「黄泉がえり」がかなりお気に入りだったので
期待していってちょっとがっかり・・・。
ラストのシーンもよくわからなかったのですが
何より、自分の思い残したことのために
人の人生を変えてもいいのかってことに
どうしてもひっかかってしまって
ヒロとおねえちゃんのエピソードは
ホントにこれでよかったんだろうかと
どうしても考え込んでしまいました。
小説は一応ハッピーエンドなんですが
それもまたイマイチ納得のできないものでしたので・・・。
ただ切ないラブストーリーとしては
伊藤英明ファンの自分として楽しんだんですけどね・・。
投稿: Ageha | 2006年3月29日 (水) 10時08分
すいません、前回来た時にトラバがはいってなかったので2重になりました。
このコメントと一緒に削除してください。
投稿: Ageha | 2006年3月29日 (水) 10時04分
sekaiさん、ジャジャ丸さんコメントありがとうございます。やっぱり小説が良かったですよね。
投稿: ケント | 2006年3月21日 (火) 00時16分
トラバありがとうございます♪
僕も小説のラストは大好きです。
映画鑑賞後、もやもやしながら読んだので、
それだけで救われたような気持ちになりました。
投稿: ジャジャ丸 | 2006年3月21日 (火) 00時01分
初めまして★
いつも楽しく拝見しています(^^)
これから私たち”世界に優しい”ことをします!!
これからも応援しています。ぽちッ
投稿: sekai | 2006年3月20日 (月) 09時58分