異人たちとの夏
本と映画のランデヴー第3弾は山田太一の小説から始まりました。
かなり昔出版された山田太一の小説で、確か映画も上映されていたはずである。なにしろ出だしから最後迄ずーと面白いし、文庫本で220頁の薄い本なので、あっという間に読み終わってしまった。
内容は荒唐無稽でちょっと変わった作品だが、SFやホラーというジャンルではなく、純文学でもない。そこには山田太一ワールドが広がっていた、というより言いようがない。登場人物は死んだはずの父母と、恋人、友人、別れた妻と圧倒的に少ないのに、なんとなく賑々しい感じがするのも不思議だ。
それは自分よりずっと若い父母と、浅草の街の取り合せが、実にしっくりとしていて、陽だまりのようなノスタルジーを肌に感じたからであろう。
この若い父母は主人公が小さい頃に、交通事故で亡くなったはずなので、結局は幽霊ということになるのだが、どちらかというと主人公が異世界へ迷い込んだと言っても良いかもしれない。
私も父が亡くなった年令を一回り以上超えてしまったし、母の年令を超えるのももうあと僅かである。それで他人ごととは思えず、まるでこの小説の中で、自分自身も亡父母に巡り会ったのかと錯覚し涙涙の嵐なのだ。
それにしても昔の人はしっかりものだったなぁ。30才を過ぎれば皆一人前の大人だったし、うだうだ言わずによく働いていたと思う。だから父親は頼りがいがあったし、反面怖い存在でもあった。一方母親は優しく、自分の事よりいつも夫や子供のために生きていたものだ。
この作品に登場する亡父母に、自分の亡父母の影が重なり、私の心も父母が生きていた時代に跳んでしまった。こうなったら、もう涙が流れ出して止まらないのだ。ただ同時進行する、胸に火傷の跡がある女との恋は、せつなくもの悲しい。そしてラストには、用意周到なドンデン返しが待ちかまえているのである。
この手のお話を理解するには、少なくとも40年位の人生経験を積んでいないと辛いかもしれないが、きっと若い人達にも何かを感じるところがあることだろう。
さて次は映画のほうです ★★★
山田太一の小説を読んでから、この作品が映画化されていることを知った。監督はファンタジー作品の大御所である大林宣彦監督で、主演は風間杜夫、恋人役に名取裕子、父親役は片岡鶴太郎、そして母親役に秋吉久美子と、ハマリ役揃いである。これではこの映画を観ない訳にはゆかない。ただこの映画が上映されたのが、1988年と古過ぎるため、レンタルビデオ店で探し出すのが一苦労だった。
異人たちとの夏 販売元:松竹 |
この映画は原作に忠実で、ほぼ原作通りの展開なのだが、二つの大きな問題点があった。
ひとつは皆さんが指摘している通り、名取裕子と別れるシーンだ。あれは酷すぎる!せっかくすき焼き屋で流した熱い涙が、一辺に乾いてしまったではないか。そしてその時点で、B級ホラー映画に転落してしまったようだ。一体大林監督は何を考えていたのかと、首を傾けざるを得ない。
もう一つの問題点は、主人公が離婚して一人息子ともしっくりせず、狭いマンションで1人寂しく暮らしていた・・・というバックボーンをじっくり描いていないことである。この重要な事実を省略してしまったことは、致命的なミスである。つまり主人公のこうした心理的な疲労感がなければ、異人たちを呼び起こすこともなかったからに他ならない。
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コメント
トラックバックありがとうございます。
うんうんとうなづきながら、目頭を熱くしてしまいました。
投稿: onthewell。 | 2006年2月19日 (日) 23時49分
あんな古い記事へのトラバありがとうございます。映画はまだ観ていないので是非観たいのですが、良いことが書かれているのを見たことが無いんですよね。
小説の映画化は難しいですね。
投稿: Blue1981 | 2006年2月19日 (日) 21時55分