スーパーマン (2025年版) 

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★★★☆

製作:2025年 米国 上映時間:129分 監督:ジェームズ・ガン

 半年ものあいだ心待ちにしていたスーパーマンの新作が、ついに公開された。スーパーマン命のファンとしては見逃すわけにはいかず、胸を躍らせて劇場へと足を運んだ。

 本作は、クリストファー・リーヴ版から数えて実に9作目にあたる。今回スーパーマン役に抜擢されたデヴィッド・コレンスウェットは、193cmの長身に加え、その風貌もスーパーマン像に実にふさわしい。加えて、ザック・スナイダー版では姿を消していた“赤のパンツ”やお馴染みのテーマ曲も復活。スーパーワンちゃん、召使いロボット、新たな超人まで登場し、ファンにはたまらない演出が目白押しだ。

 だが、惜しむらくは物語の芯に深みがない。シリーズ物ゆえ、スーパーマンの誕生やロイスとの出会いを省略するのは理解できるが、レックス・ルーサーの新技術や戦略の描写が乏しく、敵役や新超人たちの登場にも伏線がない。そしてテーマとなるべく「あの戦争」についての描写や説明が殆どないのは一体なぜであろうか。
 また、何よりクラーク・ケントの存在が希薄なのがとても寂しい。スーパーマンは、クラーク・ケントという仮面を通してこそ人間性を帯びる存在であり、ロイス・レインとの関係もその中でもっと輝くはずだ。

 それにしても、キャストたちの演技は素晴らしかった。スーパーマン、ロイス、ルーサーはいずれも的確な配役と、安定感ある演技で魅了した。ただ、クラークの育ての両親にもう少し存在感があれば、ドラマの輪郭はより鮮明になっただろう。

 米国では大ヒットとのことだが、観終えた後には何とも言えぬ物足りなさが残る。スーパーマンはあまりに強大であるがゆえに、敵となりうる存在が限られている。結果としてクリプトナイトや彼自身のクローンも含め、毎度クリプトン星由来の脅威ばかりが繰り返され、物語は徐々に閉塞感を帯びる。

 マンネリ打破のために、新たな超人やロボット、怪獣などを投入するのも無理はないが、そうした試みは時として物語の本質を見失わせ、単なるアクションの羅列に堕しかねない。

 思えば、心を震わせるスーパーマン映画は、1978年の『スーパーマン』と1980年の『スーパーマンII/冒険篇』で頂点を迎えていたのかもしれない。もしこれらを凌ぐ作品を創るとすれば、続編ではなく、スーパーマンという神話をゼロから見つめ直し、時代に応じた再構築と新技術による革新が求められるだろう。

評:蔵研人 

 

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2025年7月14日 (月)

人質の法廷

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著者:里見蘭

 はじめてこの本を手にしたときは度肝を抜かれた。なにせ二段組で600頁もある巨大な分厚い本だったからである。もしこれを文庫本にしたら、たぶん5冊を超えてしまうだろう。それに内容は裁判の話なので法律用語や条文が飛び交うのだ。二週間の約束で図書館から借りたのだが、遅読の私に完読できるのか不安であった。

 タイトルの『人質の法廷』とは人質司法とも呼ばれ、否認供述や黙秘している被疑者や被告人を長期間拘留する(人質のような扱いをする)ことで自白等を強要しているとして日本の刑事司法制度を批判する用語のことである。
 したがって本作では、状況証拠だけでは逮捕できないと考えた警察・検察側が、寄ってたかって無理やり自白に追い込み冤罪逮捕された被告人を守る弁護士と警察・検察・裁判官との戦いが克明に描かれている。
 それにしても警察と検察がつるむのは理解できるが、公正な立場だと信じていた裁判官までが彼等の味方だったとは恐怖以外の何物でもなかった。やはり国家権力という同じ穴の狢だからであろうか……。
 それはそれとして、法律を学んだ訳でも法曹界の経験者でもないのに、法律はもとより弁護士、警察、検察、裁判などの仕組みや実情を知り尽くしている著者の勉強力・調査力あるいはネットワーク力には驚愕するばかりである。また漫画の原作やファンタジーなど多彩な引き出しも保持しているようなので、是非ほかの作品も味わいたいと考えている。

 ここで本作のあらすじをざっと記してみよう。
 
 主人公の川村志鶴はまだ駆け出しの女弁護士だが、勉強熱心で正義感に溢れ、そのうえ男勝りのパワーを発揮して弁護士活動を続けている。そんなある日、当番弁護の要請が入り「女子中学生連続殺人事件」の容疑者の弁護を担当することになる。
 容疑者の増山敦彦は典型的なデブッチョロリコンオタクで、いかにも犯人らしい風采なのだが、志鶴は彼の言葉を信じて冤罪をはらそうと積極的に弁護人を引き受けるのだが、気の弱い増山は警察・検察に恫喝されやってもいない罪を認めてしまうのだった。
 読者たちはこのあたりでは、冤罪ではなくもしかすると増山が殺人犯なのかも、と考えてしまうかもしれない。だが中盤になって突如真犯人が登場し、かなり詳細にその犯行手口が描かれてしまうのである。

 そう、あくまでもこの小説は犯人探しではなく、国家権力たちの不法な取り調べや裁判がテーマなのだ。それは理解しているのだが、余りにも悪質で残虐な真犯人の行動には許しがたい憤りを抑えることができない。さらに余りにも惨すぎる、少女たちへの暴行描写に反吐が出る思いも禁じえなかった。
 なんといってもクライマックスは、約200頁にわたる終盤の裁判シーンである。このあたりはまるで自分も傍聴しているような臨場感に巻き込まれ気を抜くことができず、私自身もパワー全開となり夜を徹して一気に読破してしまった。
 納得できるなかなか素晴らしい大団円であったが、その後の真犯人に対する詳しい描写がなかったのだけが心残りである。いずれにせよ専門用語が飛び交う分厚い本にしては、読者をぐいぐいと引き込んでくれるので読み易く面白かった。

評:蔵研人

 

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2025年7月10日 (木)

リバティ・バランスを射った男

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★★★★

製作:1962年 米国 上映時間:123分 監督:ジョン・フォード

 まだ小学生だった頃、課外授業の一環で渋谷の映画館に足を運び、初めて本作を観た記憶がある。物語の細部はすでに朧げだが、ただ一つ、あの結末――「リバティ・バランスを射った男」が、実は誰であったのか――という劇的な真実だけは、今も鮮烈に脳裏に焼きついている。

 監督がジョン・フォードとくれば、当然ながら主演はジョン・ウェイン――と思いきや、本作ではジェームズ・ステュアートとの堂々たるダブル主演という形をとっている。形式こそ西部劇だが、銃声と馬の蹄が鳴り響くばかりの単純な活劇ではなく、むしろ社会の矛盾や変革を静かに描いた重厚なドラマであった。

 物語は、かつて一世を風靡した西部の英雄ランス・ストッダード(ステュアート)が、年老いて故郷に戻り、かの「リバティ・バランス事件」の真相を新聞記者に語り始めるという、回想形式で進行する。フォードはこの構成を巧みに用い、過去と現在を行き来することで、時代の変遷と共に失われゆく「神話」と「真実」の境界を浮かび上がらせる。つまり、本作は単なる過去の美談の再話ではなく、語り手自身が時代の中でどのように自己を位置づけようとしているのかという、メタ的な問いも孕んでいる。

 演出面においても、フォードの老練な手腕は随所に現れている。特に構図の扱いには注目すべき点が多い。荒野を背景に人物を対峙させるロングショットでは、人間の小ささと時代の大きな流れが対照的に描かれ、酒場や法廷といった室内シーンでは、光と影のコントラストが人間関係の緊張や心理を巧みに表現している。モノクロ撮影の選択も、この光と影の使い方をより劇的にし、登場人物の内面や物語の二重性――真実と虚構、法と暴力――を視覚的に強調していた。

 さらに美術も印象的で、装飾の少ない質素なセットが、当時の西部の質朴さと荒涼とした雰囲気をリアルに伝えてくる。時代が移ろう中で、建物や衣装が静かに変化していく細部の描写も、本作が「個人の物語」であると同時に「アメリカの歴史」を語っていることを示している。

 またある意味で明治維新とともに消えていった武士のように、民主主義に目覚めた米国西部での、ガンマンたちの衰退の運命を描いているようにも見える。だからカウボーイのトム(ウェイン)も、敵対する悪人のリバティ(マーヴィン)も、いわば“過ぎ去るべき旧世界”の象徴として、どこかで繋がっていたのかもしれない。

 その敵役リバティ・バランスを演じるのは、当時“悪役専門”として鳴らしたリー・マーヴィンだ。彼の演技には、ただの凶暴さを超えた、どこか翳りを帯びた陰影と渋みが感じられた。暴力を振るうしか自己表現の手段を持たない存在としての哀しさが、画面の端々に滲んでいた。

 本作は、ジョン・ウェインとジョン・フォードがタッグを組んだ最後の西部劇としても知られている。アカデミー賞にノミネートされたのも頷ける完成度で、いま改めて観ても、決して古びることなく、むしろ時を経て深みを増した趣すら感じられる。

 ストーリーそのものは一見すると通俗的に映るかもしれないが、何より登場人物たち――ウェイン、ステュアート、マーヴィン、そしてヴェラ・マイルズ――が、それぞれの役どころに見事に溶け込み、物語に確かな輪郭を与えていたのが印象的だった。

 また余談ながら、リバティの手下のひとりとして、のちに『夕陽のガンマン』で名を馳せるリー・ヴァン・クリーフが出演していたのを見逃さなかった。あの冷徹な目元が、既にスクリーンの片隅で、不穏な輝きを放っていたのだから、なるほどと頷いてしまったのである。

評:蔵研人

 

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2025年7月 6日 (日)

本心

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著者:平野啓一郎

 著者の平野啓一郎は、妻夫木聡、安藤サクラ主演で映画化された『ある男』の原作者でもある。『ある男』は奇妙でミステリアスな展開でありながら、家族や差別問題などの現代的テーマで塗りつぶされていた。本作もそれに負けずに斬新なテーマを題材としている。
 舞台は近未来の日本であり、なんと主人公の石川朔也は、3百万円支払ってヴァーチャル・フィギュアを使って死んだ母親を再生させるのだ。また自由死が法的に認められており、母親の死因は事故だったものの、生前から安楽死(自由死と表現している)を希望していた「本心」を探るのが本作のテーマなのである。
 そしてその母の本心を探るため、朔也は母が通っていた自由死肯定派医師の富田と会って話を聞く、さらに母が信用していた職場の友人三好とも会うことになる。この二人の話を聞く限りでは、母が自由死を希望したのは、働けなくなり息子の重荷にならぬためだという親心からだというのだが……。

 この小説のタイトルを考えながら、そのテーマは母親のヴァーチャル・フィギュアを通して、母親が望んでいた自由死が「本心」だったのかを探ってゆく話だと思い込んでいた。ところが三好と会ってからは、だんだんヴァーチャル・フィギュアの存在感が薄くなってゆくのだ。それでも朔也と同居した三好がヴァーチャル・フィギュアを使い始めたので、少なからずも彼女との係わりは続いていたのだが、その内容は全く描かれることがなかった。
 その後ひょんな事件に巻き込まれた結果、イフィーという有名で超セレブな「アバター・デザイナー」と知り合うことになってからは、母親のヴァーチャル・フィギュアはほとんど出番がなくなり、朔也の興味も行動もイフィーとの係わりに凝縮されてゆく。

 ただ母が生前に愛読していた作家・藤原亮治の存在と、生前の母との関係が気がかりであった。そんな折、年が明けた頃になって、なんとかなり前に連絡をとっていた藤原亮治から、突然メールが届くのである。そして彼が入所している有料老人ホームまで足を運ぶのだが、ここで今まで知らなかった母の過去が明かされることになる。
 このあたりからストーリーが急展開することになり、一気にラストまでスパートを駆け抜けることになる。さらに犯罪を犯した元同僚の岸谷と面会するため拘置所へ行ったり、コンビニで助けたミャンマー人のティリとレストランで食事をするのだが、とにかく木枯らしが吹き抜けたかと思うと、いきなり薫風に遭遇するような慌ただしいが余韻を残すようなラストで締めくくられてしまった。

 結局「本心」とは何を示唆していたのだろうか。母が自由死を選んだ本心なのか、それとも朔也を産んだ理由なのか……。だがよくよく考えると朔也自身が母や三好やイフィーに求めていた「何か」だったのだろうか。いやいや真のテーマは、人間の生と死が宇宙に始まり宇宙に融合する、という論理を絡めて自由死に対する是非を問いたかったのかもしれない。
 それにしても本作の現実と非現実が交錯する描写や、登場人物の内面に深く迫るスタイル、さらに視点やテーマが急に変わるところや、予測不可能でなかなか明かされない不確実性やあやふやな展開、そしてラストに余韻を残したままそのあとは読者に委ねる手法などは、あの村上春樹の作風と似ていると感じたのは私だけであろうか。まあいずれにせよ、内面的な葛藤や矛盾に塗れながらも哲学的で思索的な雰囲気が漂う興味深い作品であることは間違いないだろう。

評:蔵研人

 

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2025年7月 1日 (火)

信長協奏曲 (映画)

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★★★☆

製作:2016年(日本)/上映時間:126分/監督:松山博昭

 原作は石井あゆみによる同名マンガ。第57回小学館漫画賞(少年向け部門)を受賞し、「全国書店員が選んだおすすめコミック2012」でも第7位にランクイン。2016年9月時点で累計発行部数は450万部を超えるなど、まさに一大ヒット作となった。アニメ、実写ドラマ、そしてこの映画版と、三つのメディアで同時展開された点も異例だ。

 本作はその実写ドラマ版の続編にあたり、キャストも続投されているため、ドラマ未視聴の観客には若干ハードルが高い部分があるかもしれない。しかし、そこは“織田信長”という誰もが知る歴史上の人物の物語。背景が多少分からずとも、大筋は自然と飲み込めてしまうだろう。

 物語は、現代の高校生・サブローが突如戦国時代にタイムスリップし、瓜二つの織田信長と出会うところから始まる。気弱な本物の信長は、自分の代わりに“信長”として生きてくれと頼み、姿を消してしまう。
 歴史の知識もなく、戦を嫌うサブローは、「平和な世を作りたい」という思いだけで、この時代で信長として生きることを決意する。しかし彼は、本能寺の変で信長が死ぬ運命にあることさえ知らないのだった……。

 この設定だけでも十分ユニークだが、本作の面白さは「歴史をなぞるのか、それとも変えるのか?」という問いに終始するところにある。歴史の枠を超えた展開、パラレルワールド的な視点、そして主人公たちの心情の揺らぎが、物語に奥行きを与えている。

 なかでも、小栗旬演じるサブローと、柴咲コウ演じる帰蝶との戦国風ラブストーリーは、戦国という時代背景の中にささやかな人間ドラマを刻んでおり、終盤のどんでん返しと相まって、観終わった後には不意に胸が熱くなる。単なる歴史フィクションではなく、「信長とは何か」「生きるとはどういうことか」を問いかける一作だった。

評:蔵研人

 

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2025年6月25日 (水)

大相撲の不思議

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著者:内館牧子

 本書は、単なる相撲入門書でも大相撲観戦記でもない。もっとユニークな蘊蓄系エッセイと言えばよいのだろうか。
 著者は作家・脚本家であり、10年にわたって横綱審議委員を務めた内館牧子氏。いわば“超スー女”である彼女は、若い頃には床山を志して相撲協会に自らを売り込んだり、委員就任後には東北大学大学院に進学し、「神事としての相撲」を研究テーマに宗教学を専攻。その徹底した姿勢は、もはや“相撲研究家”と言って差し支えないレベルなのだ。
 さらに、女性でありながら土俵の女人禁制を否定せず、あえて伝統を受け入れる姿勢からも、真の好角家であることがうかがえる。東北大学相撲部の“現役院生監督”という異色の肩書も、彼女の相撲への愛情と献身を象徴している。

 本書では、土俵の生業などを通じて相撲がいかにして“神事”であるかを語るところから始まり、懸賞金や番付の格差、まわしや髷の起源、さらには相撲茶屋、四股名、手形、天皇賜盃の由来までを、平易な語り口でわかりやすく解説しているところが嬉しい。
 また200頁ほどの手軽なボリュームに、大きめの文字と南伸坊による味わい深い挿絵が添えられ、読書の心地良さや満足感を高めてくれる。読んでいるうちに自然と、相撲の歴史やしきたり等についての知識が身につき、今後の観戦の視点や楽しみ方が確実に変わると感じることだろう。
 そして何より嬉しいのは、このシリーズがすでに第三巻まで刊行されていること。相撲を深く知りたい人にも、ちょっと興味があるという人にもおすすめしたい一冊である。

評:蔵研人

 

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2025年6月19日 (木)

エイリアン・レイダース

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★★★
製作:2008年 米国 上映時間:85分 監督:ベン・ロック

 タイトルの"エイリアン"につられてDVDを購入してしまった。もちろんB級作品であることは承知のうえだが、他の偽エイリアン作品に比べると比較的評価が高かったからである。
 舞台はアリゾナ州のあるスーパーマーケット、というより始めから終わりまでの全編がこの中での出来事に終始する。突如スーパーの閉店間際に侵入してくる凶悪なテロリストたち。そして数人が射殺され、残った従業員と客たちが人質となる。

 とここまではよくあるパターンの展開なのだが、このテロリストたちは、なんと地球に侵入してきたエイリアン討伐隊だったのである。そしてこのスーパーがエイリアンの拠点であることを突き止めて、従業員や客たちがエイリアンに寄生されていないかを調査しに来たらしいのだ。……とここらあたりまではハラハラドキドキ緊張感の漂うストーリーに魅せられていたのだが、そのあとが急に雑な展開となってしまったのが非常に残念である。
 
 そもそも画面が暗すぎてよく見えないし、エイリアンの本体もほとんど出現しないのだ。これでは何のためにタイトルで「エイリアン」を名乗ってるのかわからない。創り方としては『SFボディ・スナッチャー』をヒントにした作品だと思うが、『SFボディ・スナッチャー』では町全体がエイリアン化しているという状況に対して、本作は逆にエイリアンの生き残りが数体で、それを調べて退治するという設定である。

 そしてラストの「落ち」は、思った通りまさにB級ホラーの常道手法だったね。まあいずれにせよ、ケチ臭いエイリアンなど無視し、"テロリスト籠城アクション"仕立てだけに徹したほうが面白かったと感じたのは果たして私だけであろうか。

評:蔵研人

 

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2025年6月14日 (土)

終の盟約

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著者:楡周平

 本作は現代における医療システムの問題点と安楽死や尊厳死をテーマにした社会派小説でもあり、登場人物たちの心理的葛藤を綿密に描いた群像劇仕立てのミステリー小説とも言えなくもない。従って常に緊張感が漂い、読者は一瞬たりとも気を抜けないような状態が続くのである。

「ぎゃあああーー!」
 内科・開業医の藤枝輝彦は、妻・慶子の絶叫で跳ね起きた。元医者であった父・久が風呂場を覗いていたというのだ。さらに輝彦が久の部屋へ行くと、なんとそこには妻に似た裸婦と男女の性交が描かれたカンバスで埋め尽くされていたのである。
 このときにやっと輝彦は、父の認知症を確信し、専門医に検査を依頼すると、やはり心配していた通り「レビー小体型の認知症と診断されてしまった。

 その後輝彦は、久が残した事前指示書「認知症になったら専門の病院に入院させ、延命治療の類も一切拒否する」に従い、父の旧友が経営する病院に入院させることになるのだった。
 これからの長い介護生活を覚悟した輝彦であったが、なんと久は一か月後に心不全で突然死してしまうのである。だがそれは「医師同士による密約の実行」だったのであろうか……。

 この父の早過ぎる死に疑問を持った次男で弁護士の真也が真相を探ろうとするのだが、結局調査は医師である兄の輝彦に任せて、自身は安楽死や尊厳死という難解なテーマ自体に興味を持ち始めるのだった。そんな夫の煮え切らない行動に不満を感じた真也の妻・昭恵は、友人の美沙の知り合いであるフリー記者に調査を依頼してしまうのである。

 ほとんど極悪人は登場しないのものの、この昭恵の強欲さと嫉妬深さだけは異常極まりなく不快感を拭えなかった。ただ極端に描かれてはいるものの、このような妻は世の中に蔓延していることも否めないだろう。またこの昭恵こそこの小説の影の推進役であったのかもしれない。なかなか重量感のある充実した作品であるが、ラストがあっけなかったのがやや残念であった。

 さて本作を書き上げたころは、認知症は恐怖に満ちた不治の病であったが、近年やっと「認知症の進行を妨げる薬」の発明がなされ、医薬品としての認可に続き保険適用という朗報が流れたことは実に喜ばしい限りである。
 まあいずれにせよ、本作のテーマである安楽死や尊厳死こそ、そろそろ世界中が本気になって論じてゆかねばならないギリギリの瀬戸際に辿り着いているいることだけは間違いない事実であろう。

評:蔵研人

 

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2025年6月 8日 (日)

バック・トゥ・ザ・フューチャー PART3

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★★★★
製作:1990年(アメリカ)|上映時間:119分|監督:ロバート・ゼメキス

 タイムトラベル映画の金字塔ともいえる超有名シリーズ、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』三部作の完結編である。もちろんシリーズの中で一番完成度が高かったのは第一作だと思うが、どの作品も魅力にあふれており、三作すべてを絶賛したい。
 ただ特にこの第3作は、西部劇仕立てという大きな趣向の変化があり、前2作とはまた違った視点で楽しめるところが新鮮だった。そして、美人教師クララとドクとのラブストーリーにも心を奪われた。今作の主役はマーティーではなく、ドクと言っても過言ではないだろう。

 また、マーティーが「クリント・イーストウッド」と名乗った瞬間から、脳内ではあの『夕陽のガンマン』のメロディーが流れ出し、思わず「あの決闘シーン」が蘇ってきた。すると実際に映画の中でそのシーンがパロディーとして再現されるではないか。この粋な“サービス”には、思わずニヤリとしてしまった。こうした細かな遊び心も、このシリーズの魅力のひとつだろう。

 それにしても、クララを演じたメアリー・スティーンバージェンは本当に素敵な女優だ。当時は37歳ほどだったと思うが、2025年現在では72歳。それでも近年の写真を見る限り、歳を重ねても凄く品があって魅力的だ。これではドクが西部時代に残りたくなるのも無理はないよね。

「めでたしめでたし」がこんなに嬉しかった映画も、実に久しぶりだった。シリーズの有終の美を見事に飾ってくれた一作といえよう。

評:蔵研人

 

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2025年6月 4日 (水)

人間標本

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 奇妙なタイトルそのままに、人間――それも美少年たちを蝶に見立てて殺害し、標本にするという狂気のストーリーなのだ。さらにその狂気は小説の中だけにとどまらず、ご丁寧に6ページにもわたる人間標本の口絵まで添えられているという念の入れようではないか。

 湊かなえの作品としては、かなり世界観を広げた実験的な作品だと感じた。そして添えられた口絵が誘う猟奇的ながらファンタジックな美しさに翻弄されたことも否めない。だが、少なくとも本作の核ともいえる「人間標本収集チャプター」は、特に蝶に興味もなく、かつ人間を標本にする意図も理解できない私としては、延々と続く“蝶の蘊蓄”にうんざりし、モヤモヤとした退屈感も拭い去ることができなかった。ただ、『人質の法廷』での“残虐でえげつない殺戮描写”がなかったことには救われた。

 イヤミスの女王と呼ばれる作者だが、なぜ今、“江戸川乱歩”を髣髴させるような気味の悪い猟奇的な作品を書く必要があったのだろうか。正直、途中で何度か投げ出してしまおうかと思ったのだが、きっとあの湊かなえなら、このあとにゾクゾクするような展開が待っているに違いない……。

 そう信じて辛抱強く終盤近くまで読み進めていると、「えっ! そうだったの」と読者をおちょくるようなどんでん返しが待っていた。それで何となく納得したものの、ところが最後の最後になって、はたまたイタチの最後っ屁のようなダブルどんでん返しに遭遇することになる。
 このとき読者たちの脳裏には、読後もなお焼きつくような衝撃が走るだろう。それは真犯人の意外さだけにとどまらず、主人公の行動をすべて無に帰す超シニカルな結末であった。この後味の悪い皮肉な驚愕こそ、今まで狂気の世界に引きずり込まれていた読者たち、いや主人公自身までもが、現実世界で覚醒する雄叫びになるのだった。


評:蔵研人

 

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2025年6月 1日 (日)

我妻さんは俺のヨメ 全13巻

 

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★★★☆
原作:蔵石ヨウ 漫画:西木田景志

 ルックスはそこそこだが、学力ゼロでスポーツ音痴のさえない男子高校生の青島等。学校一の美少女で学力抜群で水泳部のエースであり、かつ性格の良い学園マドンナ我妻亜衣。全く正反対で、全然釣り合いの取れないこの二人……。
 ところがある日、青島が10年後にタイムスリップする能力を得て未来を覗くと、なんと自分とあの我妻さんが結婚しているではないか!! これが全13巻に亘るこのストーリーのはじまりなのだった。
 ただし状況の変化によって未来は変化することがあり、あるときはハーフ美女の「下妻シルヴィア」、またあるときは漫画家を目指す美少女「伊富蘭」、さらにあるときは、美人教師の梶先生と結婚しているのである。これはパラレルワールドなのだろうか、それとも実はタイムスリップではなく、青島の単なる妄想なのかと勘繰ってしまうのだ。

 この青島という主人公、さえないさえないと言われながら、実はかなりモテまくっているではないか。それにひっついたり離れたり、妄想とかタイムスリップといった展開はなんとなく江川達也原作の『東京大学物語』の前半と似ているような気がしたのは決して私だけではないはずである。ただ『東京大学物語』のようなエロっぽいくだりは殆んどなく、童貞まっしぐらのおバカで品の悪いギャグマンガといったところであろうか。

 また原作者の蔵石ヨウ氏の年齢は不詳なのだが、登場人物たちの名前を見た限りではかなり年配なのかな……。だって青島等とは、青島幸男と植木等のドッキングだし、DX団のメンバーも、小松正男=小松政夫、伊東志郎=伊東四朗、中本高次=仲本工事、小野靖史=小野ヤスシだものね。もっと言えば女子三人組の葉隠メンバーだって、伊富蘭=伊藤蘭、藤村美紀=藤村美樹、田中良子=田中好子という元キャンディーズのパクリじゃないの、ははは。
 まあ少なくとも男性読者には面白いマンガだと思うが、タイムトラベルものとして期待するのはやめたほうが良いかもしれない。あくまでも「青島の妄想」をタイムスリップに置き換えたおバカストーリーなのだと解釈したほうがよいだろう。

評:蔵研人

 

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2025年5月28日 (水)

モテキ

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著者:久保 ミツロウ

 著者は男のような名前だが、実は本名は久保美津子で、もうすぐ50歳のおばさんである。男性誌でマンガを連載するときに男性名に改名したらしい。確かに画風も男性的だし、テーマも色っぽいので黙っていれば男性と言っても誰も疑らないだろう。本作は著者の代表作でドラマや映画化されている。私自身は本則以外には『アゲイン!! 』しか読んでいないので正確な評価は出来ないのだが、少なくとも『アゲイン!! 』よりはずっと面白かったことは間違いない。

 内容はヘタレで女にもてなかった29歳の藤本幸世に、ある日突然知り合いの女の子から次々に連絡が入る。それで「ついに俺にもモテ期が訪れた」とはしゃぎ回り、無我夢中でとっかえひっかえ4人の女性たちとデートやイベントをこなしてゆく。さて彼は一体どの女性と結ばれるのであろうか、チャンチャン!!、といったお話である。

 それにしてもこの4人の女性たちがそれぞれ個性的で可愛いので、読んでいるほうも最後は誰と結ばれるのかとイライラドキドキしてしまうのだ。その4人を簡単に紹介すると次のようになる。
 土井亜紀  27歳の派遣社員。派遣先の同僚で、会社では眼鏡をかけた地味なタイプたったが、素顔は美人で以外に社交的で気の利いた素敵な女性。
 中柴いつか 22歳の照明助手。色気はないが元気で可愛い女の子。2年前に飲み会で知り合い、音楽や漫画の趣味が合う気の置けない女友達。
 小宮山夏樹 28歳のOL。25歳の時に出会った、人生で一番好きだった女性。ただ酒癖が悪く、酔うと誰とでも性的関係を結んでしまう。
 林田尚子  中学の同級生。中学時代は「女ヤンキー」と呼んで避けていた。だが面倒見がよく現在はすっかり丸くなり、娘と二人で暮らしている。
 
 また女性たちの心理状況がかなり分かり易く描かれているのは、著者が女性マンガ家だからであろうか。まあ個人的には、土井亜紀といつかちゃんに惹かれたが、いつまで経ってもはっきりしない藤本にはイライラが募ってしまうのだった。ネタバレになるので結末は保留しておくが、やはり大体予想通りだったとだけバラしておこう。

評:蔵研人

 

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2025年5月24日 (土)

フレフレ少女

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漫画:よしづきくみち

 女子高校生の応援団長が活躍する漫画といえば、久保ミツロウの『アゲイン!!』があるが、本作のほうが先に発表されているので、もしかすると本作をパクったのだろうか。そんなことはどうでもよいのだが、『アゲイン!!』が全12巻だったのに対して、本作はたったの2巻で完結である。まあ『アゲイン!!』のほうは、女子高校生の応援団長は準主役であり、主人公のタイムスリップのほうがメインテーマだと言うところが異なっている。また本作は文学少女・桃子が野球部のエースに恋をしてしまい、その関連から部員1名の応援団に入部し応援団長になるというと設定なのだ。

 その後なんとか5名の部員をかき集めるのだが、ド素人ばかりで話にならない。ところがそこに突然OBの元応援団長が登場し、5名を合宿に連れ出し厳しくしごくことになる。余りにも厳し過ぎて全員が脱落しそうになるのだが、ギリギリのところで全員が心を繋ぎ合い、なんとか耐え凌いでいっぱしの応援団になるという手垢のついたパターンである。そのあと「応援の力」によってバスケット部、柔道部、将棋部が続々と地区優勝してしまう。そしてエースが転校して更に弱体化していた野球部までが、奇跡的な快進撃を続けるのだ。なんと余りにも神がかりでご都合主義な展開ではないか。

 そしてあっという間に完結してしまうのだ。物足りないと言えばそうかもしれないし、あっさりしていてストレスなしと言えないこともない。まあいずれにせよ最後は、ラブストーリーに逆戻りしてめでたしめでたしなのだった。
 なんと本作は漫画だけではなく、2008年に当時人気絶頂だった美少女俳優の新垣結衣主演で映画化されているではないか。彼女が悪いわけではないが、演出や編集などに難があり、ガッキーファン以外の評価は最悪だったみたいだね。

評:蔵研人

 

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2025年5月18日 (日)

君と僕のアシアト

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★★★
著者:よしづきくみち

 サブタイトルが「タイムトラベル春日研究所」と記されているように、本作はタイムトラベル系のマンガである。ただタイムマシンで過去や未来に自由に跳び回るのではなく、春日市内に固定された「脳内タイムトラベル」であり、過去20年間に収集したデーターを利用するため、タイムトラベル範囲は過去20年間に限定されているのだ。

 主役は脳内タイムトラベル春日研究所所長の風見鶏亜紀という美女だが、脳内タイムトラベル装置を発明したのは彼女の亡父である。この脳内タイムトラベルサービスを利用するには1回40万円かかるのだが、荒唐無稽で信じる人が少ないためか、宣伝が行き届いていないためか、利用客は極端に少なく破産寸前といった状況なのである。

 たまに訪れる客の悩みと脳内タイムトラベルの話がいくつか続いて行くというパターンでコミック誌に連載されていたのであるが、「死んだ妹が実は生きているのでは、それどころか姉まで存在していた」といったテーマとも繋がっているのだった。結局はタイムトラベルだけではなく、パラレルワールドも絡んでくるのだが、だんだん複雑になってきてラストはなんだかよく分からないまま終わってしまった。
 それにしても著者のよしづきくみちの画風は丁寧で美しい。ことに美少女の絵が実に美麗である。やはりイラストレーター出身だからであろうか……。

評:蔵研人

 

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2025年5月14日 (水)

十字路

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著者:五十嵐貴久

 タイトルの「十字路」とは、神代小学校教諭の織川俊英が殺された自宅近くの交差点のことである。またタイトルにしたくらいだから、この交差点に犯人逃亡のヒントが込められているのだが、それはラストに明かされることになる。

 さて本作では三つの話がパラレルに語られることになる。
 まずは全国学生絵画コンクール高校生の部で最優秀賞を受賞するほど天才的な才能を発揮している織川詩音の話、そう彼女は殺された織川俊英の義理の娘でもあった。
 そしてこの詩音に勝るとも劣らないほどの絵画センスを持っている椎野流夏という、女のような名のイケメン大学生の、なんと彼の父親も毒入りチョコレートで殺されてしまうのである。
 さらにこの二つの事件を追う警察官で、かなり変人だが優秀な探偵役を務める星野警部が捜査・推理してゆく話で構成されている。

 なかなか読み応えもあり、中盤からはぐいぐいと惹かれてあっという間に読破してしまった。本作では中盤までに犯人は大体想像できてしまうのだが、その動機とどのようにして現場から逃走したのかという疑問点が焦点となっているようだ。
 ただオチにどんでん返しや捻りがなく、こじつけのような動機に無理があったかもしれない。それと現代の病巣のような社会問題にメスを入れているものの、吐き気を催すような推理にはかなり辟易してしまった。

評:蔵研人

 

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2025年5月 9日 (金)

ペギー・スーの結婚

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★★★☆
製作:1986年 米国 上映時間:103分 監督:フランシス・フォード・コッポラ

 タイムトラベルファンのくせに、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』と並ぶこの「タイムトラベルのレジェンド作品」を今頃になって観たのである。もちろんそれを知らなかったわけでもなくDVDも所持していたのだが、いつでも観れると油断しているうちに10年以上経っていたのだった。40年近く昔の映画だが、まったく色褪せずに楽しめたし、ラストも想像通りだったにも拘らず涙が溢れて止まらなかった。またなんと監督はあのコッポラで、主演はキャスリーン・ターナーとニコラス・ケイジという豪華なキャストなのだ。そしてキャスリーン・ターナーは、本作での演技が認められ第59回アカデミー賞で主演女優賞にノミネートされている。

 ストーリーは高校時代の同窓会ではじまり、夫との離婚を決意した中年女性ペギー・スーが会場で卒倒するのだが、そのまま高校時代にタイムスリップしてしまう。そこで彼女は昔同級生だった夫や友人たちや、父母や祖父母たちとめぐり逢い、過去の人生を見つめ直してゆく。また本作で夫役を演じたニコラス・ケイジは、2000年に製作された本作と似たような作品『天使のくれた時間』で主役を務めていたためか、なんとなく印象が重なってしまった気がする。
 
 それにしてもネットの評価は意外と低いので驚いた。たぶん話のほとんどが想像できてしまう範囲だったこと、ラストにどんでん返しが用意されていなかったこと、夢落ちの可能性もあったこと、主役の二人が高校生役にはかなり無理があったなどが影響したのだろうか。まさにその通りなのだが、どうしてもタイムトラベル系の作品には甘くてね、てへへへ……。
 

評:蔵研人

 

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2025年5月 5日 (月)

黒牢城

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著者:米澤穂信

 第166回直木賞受賞作品である。時は本能寺の変より4年前、舞台は織田信長に叛旗を翻した荒木村重が立て籠もる有岡城である。
 秀吉に命ぜられ、頑固者の荒木村重を説得に訪れたのが黒田官兵衛だが、すでに村重の心は信長から離れて説得の甲斐もない。それどころか暗い土牢に閉じ込められてしまうのであった。この歴史的に有名な話がこの小説の序章となり、なんとなく重そうな歴史小説を彷彿してしまうのだが、なんと実は時代劇を装ったミステリーだったのである。

 まず謎の始まりは、村重を裏切った安部仁右衛門の一子安部自念の密室殺人事件である。自念は人質として村重の城中で暮らしており、本来なら親の裏切りにより、すかさず成敗されるのが当時の習わしだった。ところがなぜか村重は彼を殺さず牢に繋ぐ決断をしてしまう。家中の者たちはその理由が呑み込めず、誰もが自念の処刑を望んでいるため、誰が殺したとしても不思議ではなかった。では誰がいつどのような方法で、密室状態の自念を殺害したのだろうか。……と、この謎に立ち向かうのが、なんと藩主村重本人であり、なんと土牢に繋がれている官兵衛の助言まで引き出すのだった。

 さて次の章「花影手柄」では、いつの間にか織田方・大津伝十郎の手勢約100名が有岡城の近くまで押し寄せて陣を張っている。すぐそれに気付いた村重は、これまで手柄を立てられなかったと不満を漏らす雑賀衆と高槻衆各々20名、さらに子飼いの御前衆を率いて敵に夜討ちをかけるのだった。
 この章でのミステリーは、雑賀衆と高槻衆のどちらが敵の大将首を討ち取ったのかという謎解き話である。だがこの章では謎解きだけではなく、斥候のやり方に始まり、夜討ちの仕掛け方、兜首の見分け方、褒章の手筈などが事細かく解説されておりかなり勉強になった。

 さらに第三章「遠雷念仏」では、村重の命を受け明智光秀に密書と家宝の茶壷「寅申」を届ける役目を引き受けた旅の僧「無辺」が何者かに殺害されてしまう。しかもその骸からは「寅申」が収められていた行李までもが消え失せていたのである。
 さて犯人の目的は「無辺」を殺すことだったのか、それとも「密書」や「寅申」を奪うことだったのだろうか。またそもそも誰がどのようにして警備の堅かった場所に忍び込んで無辺を殺害したのか、そのうえ護衛で手練れの秋岡四郎介をいとも容易く斬り殺したのだろうか。と謎が謎を呼ぶ展開に加えて、意外な犯人と結末には驚かざるを得ないだろう。

 そして第四章「落日孤影」では、長期に亘る籠城のなかで、次第に家臣たちの信頼が薄れてゆき、村重の焦りが手に取るように鮮やかに描かれてゆくのである。また今まで起こった事件の首謀者が解明するのだが、何となくすっきりせず部下たちに対する不信感も完全には拭えない。そこでまたまた土牢に繋がれている官兵衛のもとに訪れるのだが、それが官兵衛との最後の会見となるのである。
 
 さらに僅か20頁の最終章へ続くのだが、もはやそこでは「村重が有岡城を去った後」の歴史に沿った解説文が綴られてゆくだけであった。それにしても村重逃亡後に、信長の命により「有岡城の女房衆122人が尼崎近くの七松において鉄砲や長刀で殺される」という残酷な事態を招くぐらいなら、もうあと3年位辛抱して籠城を続けていれば、本能寺の変で信長が討たれたのになあ……。結局は最後になって、ミステリーから歴史小説に戻ったようである。
 歴史小説とミステリーをブレンドしながらも、なかなか含蓄のある内容には脱帽するばかりであり、一番心に残ったのは「この時代の武士たちは、中途半端に生かされるより、さっぱりと殺されたほうが嬉しかった」のだということであろうか。

評:蔵研人

 

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2025年4月28日 (月)

ATOM

Atom

★★★☆
製作:2009年 香港、米国 上映時間:95分 ジャンル:アニメ

 原題は『Astro Boy』だが、まさしく米国版の鉄腕アトムであった。本作ではアトム誕生からロボットの人権(ロボット権?)が認められるまでを描いている。アトムの誕生は、原作通り天才天馬博士が息子のトビーを事故で亡くし、息子そっくりのロボットを創ることになる。そして人間ではないロボットに愛想をつかされて捨てられるという展開である。

 お馴染みの登場人物であるアトム・天馬博士・お茶の水博士・ヒゲオヤジなどの造形が、若干原作と異なっているものの、それも米国版として観ればさしたる違和感は湧かないはずである。また原作にはない天馬博士とアトムの和解シーンには、ジーンと込みあげるものもありなかなか出来の良いアニメだと感じた。さらに本作のアトムは、スーパーマンやアイアンマンの撮影手法を取り込んでいて迫力満点でカッコ良かったな。
 エンドロールでは中国人のクリエーターたちのネームがズラリと並ぶ、ハリウッド作品と言うより中国製のアニメだったんだね……。

評:蔵研人

 

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2025年4月24日 (木)

マンガで読むタイムマシンの話

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★★
画:秋鹿さくら

 過去に物理学者の都筑卓司がブルーバックスで著した『タイムマシンの話』をマンガ化したものである。そのご本家都筑卓司氏の『タイムマシンの話』はかなり昔に読んだことがあるのだが、かなり難解だったのでマンガ版なら分かり易いだろうと思って買ってみた。

 ところが残念ながら肝心のタイムトラベル理論の部分になると、マンガと言うよりは図説のオンパレードとなり、ご本家の原作本の図をそのまま転用しているだけに終始しているのだ。また余計なマンガストーリーが組み込まれているばかりか、ページ数もかなり省エネ化しているため、大幅に省略された内容に成り下がっていた。

 これでは逆に、ご本家の原作本のほうが分かり易いではないか。もっとも難しいものを易しく解説するということは、それなりに難しい作業であり、十分な知識を有している必要がある。それを銀杏社構成とされているものの、物理学素人の漫画家に委ねること自体に無理があったのかもしれないね。読者に易しく分かり易く説明するという使命より、マンガなら売れるだろうという安易な発想が残念であった。

評:蔵研人

 

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2025年4月18日 (金)

決算!忠臣蔵

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★★★☆
製作:2019年/日本/上映時間:125分/監督:中村義洋

 あの有名な『忠臣蔵』を、まさかの「経費」という切り口から描いた異色の時代劇コメディ。これまで何度も映像化されてきた忠臣蔵だが、本作はコメディの装いの中に、歴史や人間の本質に対する皮肉や風刺を織り交ぜた、非常にユニークなアプローチが印象的だった。
 最近の時代劇は「超高速!参勤交代」以降、シリアス路線よりもコミカルな演出が主流になりつつあり、殺陣シーンなども控えめな傾向にある。本作もその流れにある一作だが、事実に沿って描かれているし、単なるおふざけで終わらない仕掛けも随所に見られる。

 特に、討ち入りまでにかかった経費を現代の金額に換算してリアルタイムで表示する手法は斬新で、赤穂浪士たちの行動に現実味を持たせている。また、討ち入りの決断に至るプロセスも、忠義や正義に燃えるというより「金と体裁と面子」に振り回される姿が滑稽かつ人間的で、むしろ“あり得たかもしれない真実”を想像させるほどだった。
 とはいえ、終盤の盛り上がりにはやや物足りなさが残った。討ち入りそのものの描写やその後の処遇がばっさりと省略されているため、クライマックスの高揚感やカタルシスに欠けていたのは否めない。あくまで「収支決算」にこだわった構成ゆえとはいえ、忠臣蔵という素材の持つ「ドラマ」をもう少し引き出してもらいたかったね。

 またキャスト面では、ダブル主演の堤真一と岡村隆史が役どころにしっかりとハマっており安定感はあったものの、妻夫木聡や石原さとみなど豪華俳優陣の個性が活かしきれていなかったのは少々もったいない感があった。
 とはいえ、当時の金銭感覚や経済事情、そして武士の生活実態に目を向けさせてくれたという点では非常に興味深く、学びのある作品だったことは間違いない。さらに赤穂浪士=英雄という固定観念に一石を投じる、時代劇としての「新解釈」に拍手を送ってもいいだろう。


評:蔵研人

 

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2025年4月 9日 (水)

メモリー・ラボへようこそ

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著者:梶尾真治

 本書はタイトルの『メモリー・ラボへようこそ』と『おもいでが融ける前に』の二本立ての構成になっている。どちらの作品も平凡社の『月刊百科』という雑誌に2008年から2009年にかけて掲載されたもので、後者は前者の第二ストーリーであり、著者得意の甘く切ない恋愛ファンタジー作品である。
 
 『メモリー・ラボへようこそ』は、結婚もせず仕事一途に生きてきた主人公・和郎が、定年退職したあとになってそれまでの味気ない人生を振り返り、しょぼくれて屋台で飲んでいる。すると帰りがけに屋台の主人から、奇妙なチラシを手渡されるのだった。そこにはこう記載されていた「あなたの必要なおもいでが揃っています。メモリー・ラボへ」と……。

 そこではコピーした他人の記憶を人工的に移植する、という摩訶不思議な研究と提供が行われていたのだった。それにしても、なぜそんな重大な研究を、古ぼけた雑居ビルの一室で行い、1回8万円という微妙な金額で提供しているのだろうか、もしかすると詐欺なのではないだろうか。ファンタジーというより、『笑うセールスマン』的な漫画チックな展開である。

 他人の記憶を植え付けられた和郎は、その記憶に登場する女性が気になり始め、その記憶に振り回され続けることになる。いったいこの結末はどうなるのだろうか、またその記憶の彼女とは何者なのだろうか。そうこうしているうちに、終盤にアッと驚くどんでん返しが巻き起こり、100頁程度の本作はあっという間に終了してしまった。その締めくくりは実に見事なのだが、「もう少し引き延ばしてくれてもよいのになあ」と感じてしまうはずである。

 さて二作目の『おもいでが融ける前に』では、当然一作目のような驚きはないものの、ストーリー的には第一作を凌ぐ面白さがあった。こちらは笙子という女性が主人公であり、母親が教えてくれない謎の父親を捜すというお話で、ラストに連発するどんでん返しが用意されている。
 いずれにせよ二作とも、いつもながらカジシンさんオリジナルの甘く切ないラブファンタジー仕立てでとても読みやすかったね。

評:蔵研人

 

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2025年4月 4日 (金)

CUBE 一度入ったら、最後

Cube

★★★☆
製作:2021年 日本 上映時間:108分 監督:清水康彦

 目を覚ますと、そこは立方体の箱のような部屋だった。部屋の中には前後左右に一つづつ扉がついている。その扉の向こうは何もない部屋とトラップの仕掛けられている部屋がある。うっかりトラップ部屋に入ってしまうと、炎・レーザー・刃物・弓矢・毒ガスなどの集中砲火を浴びて生きては戻れない。
 オープニングで体に四角い穴を開けられ死亡した最初の男を演じた柄本時生を除くと、菅田将暉・杏・岡田将生・田代輝・斎藤工・吉田鋼太郎の6人が主な登場人物である。多少の回想シーンはあるものの、舞台もほぼキューブの中だけなので、この6人だけの舞台劇のような映画なのだ。

 すでにタイトルで気付いていると思うが、ここまで話せば1997年に製作されたカナダ映画『CUBE』のパクリじゃないのと勘づくだろう。だがパクリではなく、『CUBE』のヴィンチェンゾ・ナタリ監督が協力をした公認リメイク作品なのである。
 またオリジナルと共通しているのは、閉じ込められた男女が6人。それぞれが面識もなければ職業、年齢、性別など何の繋がりもない。ただ目を覚ますとその部屋にいた。そして部屋には死と隣り合わせの危険なトラップが仕掛けられており、簡単に外へは出られない状況。とそれだけが共通点であり、その他の展開やラストシーンは全く別物なのでオリジナルを観ていても全く気にならないだろう。

 この謎の立方体から逃れるヒントは、部屋を繋ぐ扉に刻まれた暗号のような数字なのだが、数学に弱い私にはチンプンカンプンであった。こうしたパニックものの定石通り、仲間割れが始まったり、トラップの犠牲になったりで、少しづつ仲間が死んでゆく。
 主役は理系のエンジニアで前述した暗号を解いて行く菅田将暉なのだが、ヒロインであるはずの杏の存在感がかなり希薄であった。ただこの疑問はラストシーンで理解できるのだが、登場キャラの人間模様が希薄で、閉じ込められた理由やキューブに関する謎も不明のままエンディングとなってしまう。そこそこ面白い割には、かなり評価が低い理由は、たぶんそのあたりにあったのかもしれないね。


評:蔵研人

 

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2025年3月28日 (金)

我が産声を聞きに

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著者:白石一文

 背景はコロナ全盛時で、夫婦と娘と猫を絡めたちょいと奇妙だが、とどのつまりはシンプルなお話である。

 病院に同行した名香子は、肺がんの診断を受けた夫・良治からとんでもない告白をされるのだった。「肺がんだとはっきりしたので、今日からは人生をやり直し、好きな人と暮らす」とさらりと言って、そのまま家を出てしまうのである。そのあとは、何が何だか理解できないまま取り残された名香子の視点で話は紡がれてゆく。
 良治は着の身着のままで、昔付き合っていた香月雛という女性の家に込み、もし逢いたいならこちらへきて三人で話をしようというばかりなのだ。余りにも身勝手で一方的な言い分に、一体20年間の夫婦生活は何だったのかと唖然とし思案に暮れてしまう名香子だった。

 ここまで読んでくると、一体良治はどうしちまったのだろうか、これから名香子はどう行動し決断するのだろうか……といった思いがまるでミステリーを読んでいるような気分に惹きこまれてしまうのである。この展開こそ白石節なのだが、今回はなぜか最後までうやむやのまま完結してしまうのだ。とにかく「下巻に続く」としてもおかしくないくらい中途半端なのである。結局は読者それぞれが自由に発想してくれと言うことのなのだろう。

 さてタイトルの「我が産声を聞きに」の意味だが、それだけはラストにさりげなく用意されていた。それは一人娘の真理恵の産声と、失踪していた愛猫・ミーコの鳴き声を重ねてもじったのであろう。そしてその二つだけが、「名香子と良治の接点」なのだったとも考えられるからである。
 本作はさらりと描かれているものの、よくよく深読みすれば人生の岐路とか結婚の意味とかを提示しているのかもしれない。ただ決して面白くないわけではないのだが、やはり従来の白石作品と比べると何となく物足りなかったことも否めないのだ。

評:蔵研人

 

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2025年3月23日 (日)

LOOP/ループ -時に囚われた男-

Loop

★★★★
製作:2016年 ハンガリー 上映時間:95分 監督:イシュティ・マダラース

 麻薬密売人のアダムが、ボスから預かった大量の麻薬を持ち逃げしようとするところから始まる。だが一緒に逃げようと思っていた恋人のアンナが妊娠してしまい、計画変更を余儀なくされる。ところがなぜか、アダムの企みに気付いたボスが部屋へやってきて、アダムを殺害してしまうのだ。そのうえ逃げていたアンナまでも、偶然ボスの車に撥ねられて死んでしまうのである。
 ここまでが大きな1ループで、何度も同じシーンを繰り返すことになる。もちろんこの連鎖を断ち切ろうとするアダムの行動変化によって、枝葉的な部分は少しずつ変化するものの、結果的には何度もアダムとアンナが死亡を繰り返すことになる。

 部分的には突っ込みどころがいくつもある作品であるが、そもそもタイム・ループそのものが荒唐無稽なことなので、ここでいちいち目くじらを立てることもないだろう。それよりも、どうすればこのループから抜け出せるのか、アダムとアンナは無事生還できるのか、といった興味が深々と湧いてくるのだ。
 そして終盤はそれらを見事に収束して、ほぼ満足な結末で締めくくっているではないか。ただなぜタイム・ループが起こったのかは、解明されないままなのだが、オープニングとラストに登場する地下鉄内のホームレスがそのカギを握っているような気がする。これもなかなか味のよいエンディングだ。

 それにしても欧州のタイム系映画は、似たような雰囲気の作品が多いよね。例えばスペインの『TIME CRIMES タイム クライムス』やドイツの『ザ・ドア 交差する世界』などにその傾向が見受けられ、いずれも私の好きな映画であることに変わりはない。

評:蔵研人

 

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2025年3月18日 (火)

滅びの前のシャングリラ

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著者:凪良ゆう

 小惑星が地球に衝突して地球と人類が滅びる前の1か月を描いた小説である。タイトルの「シャングリラ」とは「理想郷」「桃源郷」「楽園」という意味で使われる言葉であるが、滅びと楽園では矛盾しているではないか。たぶんこの小説の中で精神的に恵まれなかった主役たちが、人類最後の日を迎えて本当の意味での安らぎを味わえたからであろうか……。

 本作は4人の語り部による4つの章で構成されている。第一章ともいえる「シャングリラ」は、太っていていじめられっ子高校生の江那友樹が「ぼく」という一人称で描かれる。さらに第2章「パーフェクトワールド」は、友樹の父親である喧嘩屋の目力信士が「俺」という一人称で登場する。
 さらに第3章「エルドラド」は友樹のヤンキー母である江那静香が「あたし」として主人公になる。そして最終章「いまわのきわ」は、友樹が片思いしている藤森雪絵が主人公になるのかと思っていたら、なんと彼女が崇拝している歌手Loco(本名:山田路子)が語り部になるのだった。

 つまり前述したとおり、この人生を上手に乗り切れなかった4人(実は藤森雪絵も含めて5人)が、地球滅亡を前にして開き直って自分を取り戻してゆく様を描いているのである。
 「1か月後の15時に小惑星が地球に衝突します」午後8時に、すべてのチャンネルで放送された首相の記者会見が混乱の始まりであった。何年も前から秘密裏に全世界協力態勢で衝突回避を検討してきたのだが、もはや人間の力ではそれを回避することは不可能だという。

 交通はマヒしTVも映らなくなり、街では平気で略奪や殺人が横行している。だからと言って夢も希望もないパニック小説でもないようなのだ。では本当に地球と人類は滅びるのだろうか、もしかすると『ノストラダムスの大予言』のように未遂に終わり人類は助かるのだろうか。とページをめくる指が震えてくるのだが、そもそも本作は単なるパニック小説ではない。
 従って本作が目指すところは、小惑星の衝突日でありながらも、衝突するか否かではないのだ。多分それよりも「ひとは欲望を叶えたり幸せを掴むために、努力したり苦しんだり苦しめたりするのだが、実は本当の幸せは死ぬ直前になってはじめて気づくものではないだろうか」というシャングリラなのかもしれない。

評:蔵研人

 

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2025年3月13日 (木)

TUBE チューブ

Tube

★★★
製作:2022年 フランス 上映時間:91分 監督:マチュー・テュリ

 タイトルといい密室でのトラップといい、まさにあの『キューブ』そっくりだ。ただ原題は『Meandre』で「蛇行」という意味のようである。
 とにかく始めから終わりまで、サッパリ意味が分からない。そもそも女が人っ子一人いない道路に寝転んでいるところからスタートするのだが、自殺をしようとしたのだろうか。それにスタンド迄10キロ以上あるこの場所に、どうやって来たのだろうか。何も説明がないまま、通りかかった車に助けられるのだが、運転手は逃亡中の殺人鬼であった……。
 カーラジオのニュースから男が殺人犯であることがバレると、車が急停止して全て消失してしまう。しばらくしてやっと女が気を取り戻すと、そこは四角い狭い箱のような場所で、宇宙服のようなものを着せられ光る腕輪を嵌められているではないか。

 箱の中の小さな窓のようなものが開き、女が中に入ると急に扉が閉まってしまう。なんとその先は細くて狭いチューブのような空間が延々と続いているのだった。そこには吊天井、火炎地獄、水地獄、硫酸地獄、ギロチン地獄、腐乱死体に怪物の登場と、様々なトラップが仕掛けられているのだ。一体ここはどこなのだ、誰が何の目的でこんなものを創り、人を閉じ込めるのだろうか。まさにこの展開はゲームそのものではないの。
 全く意味不明のまま、女はこの謎のチューブ空間の中を這いずり回るのである。果たして彼女はここから脱出できるのであろうか、とチューブだけの退屈な展開に飽き飽きしながらも、ラストの種明かしだけを期待しながら我慢と辛抱の時間が過ぎて行く。

 だが結局は何にも説明がないままのエンディングとなり、時間の無駄遣いをしてしまったことを悟る。途中チューブの中のスクリーンに女の生まれたときからの映像が走馬灯のように映し出されたり、死んだ娘が登場したので、てっきりここは「死後の世界」なのだろうと考えてしまった。ところがどうもそうでもないようなのだ。オープニングで「デカい光が空に浮かんでいる」という言葉が飛び交っていたことに気が付いたからである。私の勝手な想像であるが、ETみたいな影も映っていたし、もしかしてチューブとはUFOの中だったのであろうか。

 
評:蔵研人

 

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2025年3月10日 (月)

ラブカは静かに弓を持つ

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著者:安壇美緒

 何となく哲学的なタイトルと、幻想的なカバーデザインに心を惹かれる。著者の安壇美緒は1986年生まれで、まだ発表した作品も少ないが、小説すばる新人賞の選考委員であった五木寛之氏が「作家の才能プラス、何か見えない力を背負った書き手だ」と評した通り、早稲田大学卒の文学才媛といった趣が感じられる。
 本作は『天龍院亜希子の日記』、『金木犀とメテオラ』に続く最新作であり、第6回未来屋小説大賞、第25回大藪春彦賞を受賞したほか、第20回本屋大賞第2位となっている。

 本作の主人公は、全日本音楽著作権連盟に勤める橘樹(たちばないつき)というモデル並みの容姿を誇るイケメン青年である。通常の仕事は資料部という閑職だが、ある日上司に呼び出されて、とんでもない職務を命じられる。それは著作権問題で係争中のミカサ音楽教室への潜入調査であり、ひらたく言えばスパイ行為ということになるのだった。ではなぜ無口で付き合いの悪い彼が選ばれたのだろうか。それは彼が子供の頃にチェロを習っていたからであった。

 そして彼は毎週金曜の夜にミカサ音楽教室のチェロの部に通うことになる。なんとここに2年間通って行使とのやり取りを録音し調査報告書をまとめ、最終的には裁判所で証人として証言しなくてはならないのだ。
 当初はスパイ行為を淡々とこなしていた橘だったが、いつの間にか講師の浅葉に心酔してしまい、成り行きで浅葉の教え子たちとの交流会に参加してしまう。表向きは公務員を装っていたが、嘘が嘘を呼びなかなか本心を語ることが出来ない。

 読んでいるうちに、いつスパイだとバレるのか、またバレないとしても2年間も通った音楽教室を辞めるとき、講師の浅葉には何と言って辞めるのだろうか。さらに親しくなった交流会のメンバーともすんなり別れることが出来るのだろうか。などと考えながら読んでいると、まるで自分が橘になったようでドキドキしてしまうのだった。そして終盤は橘のはっきりしない性格が災いしてかなり辛い展開が待っていたのだが、ラストは全てを初期化して新しい人生に立ち向かってゆく姿にホットするはずである。
 それにしても著者の音楽知識というのか音楽的センスというような雰囲気が、びっしりと漂っていて只者ではないことを再認識させられてしまった。是非前述した『天龍院亜希子の日記』と『金木犀とメテオラ』も読んでみたいと思う。

評:蔵研人

 

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2025年3月 3日 (月)

ヴィルトゥス

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著者:信濃川日出雄

 西暦185年の古代ロ-マ帝国では、暴君第17代皇帝・コンモドゥスが格闘技に明け暮れ、ローマ帝国は荒廃しつつあった。その行く先に憂いる側室・マルキアは、時を操る秘術を使い、失われたローマ人の魂『ヴィルトゥス』を抱く男を未来より召還する。その男こそ2008年に住む柔道世界一の日本人・鳴宮尊であった。

 本作のテーマは、未来より召喚された鳴宮尊が、悪政を続けるコンモドゥスを暗殺することだと思っていたのだが、どうも雲行きがおかしい。そもそも召喚されたのは鳴宮だけではなく、彼と同じ刑務所に収監されていた男たち数名なのだが、その半数以上は召喚されてすぐ殺害される。
 さらに鳴宮はじめ生き残った者たちも、強制的に奴隷闘士にさせられ、ギリシャの孤島にある悪名高い興行主ガムラの養成所に送られてしまうのであった。そしてコンモドゥス暗殺どころか、この孤島での訓練や鳴宮の過去についての話などに終始するばかりなのだ。
 またコンモドゥス暗殺は歴史通り元老院議員達によって実行されるのだが、裏切りなどが絡んでうまくゆかない。そして突然中途半端な形で、全5巻をもって終了してしまうのである。

 なんだなんだこの話は、と思ったら実はこの5巻までは第一部であり、 第二部としてタイトルを『古代ローマ格闘暗獄譚SIN 』と変更し、主人公を第一部ではいじめられっ子だった神尾心に替え、さらに掲載誌も週刊誌から月刊誌へ移行しているのだ。なぜこのような数々の変更がなされたのかは不明であるが、第二部は余り面白くなかったし全6巻で完結となっている。
 第一部と二部を通算しても僅か11巻にしかならないのだから、本来ならわざわざ大袈裟に二部構成にする必要もないはずである。もしかすると第一部の描き方などに何か問題が生じたのかもしれない。いずれにせよ原因不明のまま第一部は終了してしまったのである。

評:蔵研人

 

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2025年2月27日 (木)

アクアマン

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★★★☆
製作:2018年 米国 上映時間:143分 監督:ジェームズ・ワン

 本作はDCコミックのヒーロー・アクアマンの誕生秘話を描いたアクション大作だ。またアクアマンとは、海底人たちの王女と人間の父の間に生まれたアーサー・カリーというハーフの超人である。そしてあらゆる艱難辛苦を乗り越えて、ハーフながらも海底の王になるまでの話が詰め込まれている。

 実写と言いながらも、ほとんどが海底の世界での物語なので、CGのオンパレードと言っても良いだろう。CGそのものは決して悪くはないのだが、余りにもゴチャゴチャと賑々しいところが難点かもしれない。あと海賊の黒人が強過ぎるのと、ラストにまた登場するなど、しつこ過ぎるのが鼻についてしまったな。こいつは今後、スーパーマンに対するレックス・ルーサーの役割になるのだろうか。余り趣味じゃないので、できればご遠慮願いたいのだが……。
 
 アクアマンの強さについては、本作ではほぼ超人扱いだったが、『ジャスティス・リーグ』を見た限りでは、スーパーマンには全く相手にされなかったね。だから彼の強さ度については、スーパーマン>ワンダーウーマン>アクアマンといったところではなかろうか。まあ全般的にはテンポが良く、久々にニコール・キッドマンも観たし、面白いシーンがてんこ盛りだったので満足している。

評:蔵研人

 

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2025年2月24日 (月)

クスノキの番人

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★★★★☆
著者:東野圭吾

 奇妙なタイトルだが、ある意味そのものズバリのタイトルなのだ。つまり主人公直井玲斗がまかされた仕事が、柳澤家に代々伝わる大クスノキの番人だったたのである。
 このクスノキは柳澤家が保有する月郷神社の奥に太古から鎮座しており、どんな願い事でも叶うというパワースポットとして地元では人気があるらしい。ただそれは表向きのご利益であり、実はこのクスノキにはとほうもなく摩訶不思議な能力があったのである。
 その能力を十分に発揮できるのは、満月と新月の夜中であり、クスノキの内側にある洞窟の中で蠟燭を炊きながら念じるという、なんとなく「丑の時参り」のようなイメージがわいてくるではないか。前半ではそこで何を念じているのか、そしてその効能などについては一切知らされない。それが中盤以降になって少しずつ分かってくるのでそれまでは辛抱してほしい。

 本作を一言でまとめれば、「クスノキの中で何を念じているのか、そしてその効能はいったい何なのか」といった謎解き風の妙味がブレンドされた心が熱くなる新感覚のファンタジーといったところであろうか。
 また柳澤家の当主である柳澤千舟と直井玲斗は、伯母と甥の関係であるが、玲斗が生まれた時と15年前の小学生時代の二度しか会っていない。もちろん玲斗は千舟のことなど覚えているはずもない。ではなぜいまさら二人がめぐり逢い、玲斗に大切なクスノキの番人役を任せたのであろうか。それはかなり複雑なので、ここで記すのはやめておこう。

 千舟はかつて大手不動産企業の柳澤グループの中心として活躍していたが、現在は年老いて第一線から身を引き、ヤナッツ・クコーポレーション顧問として鎮座している。だがその肩書も従弟たちに剥奪されようとしていたのである。それでも彼女はいつも凛とした佇まいを崩さず、玲斗に厳しく接するのであった。
 本作の内容はこのヤナッツ・クコーポレーションと千舟との関わり合い、クスノキに祈念する工務店主・佐治寿明とその家族の話、同じく祈念する和菓子メーカーの跡取り息子・大場壮貴と父親との話などが中心となっている。

 もちろん玲斗の出自や、彼がクスノキの番人になって少しずつ成長してゆく過程も見どころなのだが、なんといってもクスノキに預けられた「千舟の本心」には誰もが感動してしまうことだろう。もしかすると、本当の主人公は玲斗が番人になる前にクスノキの番人であった千舟だったのかもしれない。
それにしても実に後味の良い小説であり、どの話も見事な着地で収まっている。さすが東野圭吾、と言うより老いて益々進化しているではないか。これからもクスノキシリーズが創れそうだなと思ったら、なんとすでに『クスノキの女神』という続編が出版されているではないか。いずれドラマ化や映画化も間違いないであろう。

評:蔵研人

 

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