28週後...

28

★★★☆
製作:2008年 英国 上映時間:104分 監督:ファン・カルロス・フレスナディージョ

 本作は、2002年のサバイバルスリラー『28日後…』の続編である。
 新種ウイルス〈RAGE(レイジ)〉の蔓延によって壊滅したロンドン。発生から28週が経ち、ようやく街の再建が始まろうとしていた頃、スペイン旅行で難を逃れた姉弟タミーとアンディが帰国し、軍の管理下に置かれた保護区域で父ドンと再会する。

 母の死を知らされた二人は、遺品を取りに行くため保護区域を抜け出し自宅へ向かうが、そこで待っていたのは“死んだはずの”母アリスだった。救出されたアリスは検査の結果、感染しても発症しないキャリアであることが判明する。しかし、ウイルスを保持していることに変わりはなく、面会に訪れたドンが感染したことで、沈静化していたロンドンは再び恐怖の渦へと飲み込まれていく。

 前作同様、感染者たちの動きは凄まじく速い。ゆっくり歩くゾンビ像に慣れた観客にとって、その異様な俊敏さは受け入れがたいものがある。「彼らはゾンビではなく感染者だ」と説明されても、病人があれほど活発に動き回る姿にはどうしても違和感が残る。逃走シーンの疾走ぶりは、まるで『ミッション:インポッシブル』の“トム走り”を彷彿とさせ、ホラーというよりアクション映画へと変貌してしまった印象すらある。

 せっかく再建の兆しを見せていたロンドンが再び崩壊したのは、二人の子どもが規則を破り、軽率な行動を取ったことが原因である。そして皮肉なことに、生き残るのはその二人だけだという結末が待っている。残念だが観終えた後には、どうにも割り切れない不快感が残る作品であった。

評:蔵研人

 

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2026年8月 9日 (日)

アナザー・ワールド 異次元の怪物

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★★☆
製作:2020年 ロシア 上映時間:96分 監督:スビヤトスラフ・ポドガイエフスキー

 生まれたばかりの赤ん坊ヴァーリヤの世話のため、アレクセイ一家はタチアナというどこか不穏な気配を漂わせるベビーシッターを雇う。だが、いつしか彼女とヴァーリヤは忽然と姿を消してしまう。息子イゴールは両親に必死に訴えるものの、なぜか彼らの記憶からはヴァーリヤの存在そのものが抜け落ちていた。

 やむなくイゴールは友人たちとともに、深い森へと分け入り、妹の行方を追う。やがて森の奥で見つけた古びた家────そこは、異次元へと通じる入口だった。ヴァーリヤはきっとその向こうに連れ去られたに違いない。そう確信した彼らは、未知の世界へと足を踏み入れるのだが……。

 序盤は謎めいた導入が興味を引き、物語への期待を抱かせる。しかし、現れる怪物たちには恐怖の実感が乏しく、なぜ赤ん坊がその世界へ連れ去られたのかという根本的な動機も明確には語られない。あるいはこれは、亡き母を忘れられないイゴールの内面が生み出した心象風景なのかもしれないが、その解釈も十分に掘り下げられているとは言い難い。

 登場人物は限られ、舞台も同じ場所を巡るばかりで、物語は奥行きを欠いたまま進んでいく。結果として、全体に重みや余韻が乏しく、どこか満たされない感覚が残る。ロシア映画にしばしば見られる幻想性と寓意性の片鱗は感じられるものの、本作においてはそれが十分に結実しているとは言い難く、あと一歩の深みが欲しいところであった。


評:蔵研人

 

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2026年8月 7日 (金)

ワーキングマン

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★★★☆
製作:2026年 米国 上映時間:116分 監督:デビッド・エアー

 元特殊部隊員のレヴォン・ケイド(ジェイソン・ステイサム)は、危険と隣り合わせの世界から身を引き、建築現場の監督として静かな日々を送っていた。だがある日、恩人でもある上司の娘ジェニーが忽然と姿を消す。彼女はロシア系の巨大な人身売買組織に拉致されていたのだ。
 レヴォンは封印していた特殊部隊時代の技を解き放ち、建設現場で使い慣れた工具から軍用火器までを手に、たったひとりで犯罪組織へと立ち向かっていく。

 物語は、ステイサム作品ではおなじみの“孤高の男の逆襲劇”であり、前年に製作された『ビーキーパー』と職業設定こそ異なるものの、基本的な構図はほとんど同じだ。それもそのはず、両作とも監督はデビッド・エアーである。
 ただ本作では、主人公が敵を一切ためらわずに殺害し、人質を盾にされても一瞬の隙を逃さず射撃で仕留めるなど、まるで殺人マシンのようなアクションが続く。その徹底ぶりが、観客に妙な安心感とカタルシスをもたらしてくれるのだ。

 それにしても、60歳を目前にしながら、米国人としては小柄な体格にもかかわらず、不死身のタフガイを演じ続けるジェイソン・ステイサムには頭が下がる。彼の魅力は筋肉よりも、あの鋭い“強面”に宿るのだろう。そう考えると、半世紀前に同じく強面で観客を魅了したチャールズ・ブロンソンと、どこか通じるものがあるように思えてならない。


評:蔵研人

 

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2026年8月 5日 (水)

2300年から来た男

2300

★★
製作:2022年 米国 上映時間:117分 監督:リシェラー・アラディン

 本作でメガホンを取ったリシェラー・アラディンは、これが唯一の監督作品であるという。経歴の詳細は不明だが、その仕上がりを見る限り、経験の乏しさを疑われても致し方ない出来と言わざるを得ない。

 物語は、2300年からある使命を帯びて2023年へとやって来た男アシュトンを中心に展開する。彼はネット上で「謎の預言者」として活動を始め、近未来に起こる出来事を次々と的中させていく。その結果、人々の関心を集め、やがてマスコミも巻き込んで騒動は広がっていく。

 導入部の流れ自体は決して悪くない。むしろ、発想としては興味をそそられるものがある。しかし、その後の警察の対応や物語の展開はどこか噛み合わず、観る者を作品世界へと引き込む力に欠けている。

 また、本作は低予算SFの典型とも言える作りで、未来の描写はほとんど省略され、会話によって説明が補われるばかりだ。その結果、肝心の「未来で何が起きたのか」「なぜ過去に来たのか」「どうすれば世界を救えるのか」といった核心が曖昧なまま残され、物語は終始輪郭を結ばない。

 脚本の奥行きは浅く、視覚的な見どころにも乏しい中で、約2時間という上映時間はかなり長く感じられる。興味深い設定を持ちながら、それを十分に活かしきれなかった点が惜しまれる一本である。

評:蔵研人

 

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2026年8月 2日 (日)

ザ・レイク

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★★☆
製作:1960年 タイ・豪州 上映時間:104分 監督:リー・トーンカム

 珍しいタイ産の怪獣映画である。湖畔に放置されていた巨大な卵を拾い帰る少女。しかし姉に諭され、元の場所へ戻しに行くことになる。やがて少女の帰りが遅いことを案じた姉と兄が湖へ向かうと、その静寂を切り裂くように怪獣が姿を現し、彼らに襲いかかる。

 序盤は、不穏な気配をじわじわと滲ませる演出が印象的である。半魚人とエイリアンを掛け合わせたかのような怪獣の造形も一定の完成度を備えており、物語の行方に期待を抱かせる導入であった。

 しかし中盤以降、その緊張は不意に弛緩してしまう。怪獣も人々もどこか緩慢な動きを見せ、あたかもスローモーションの映像を眺めているかのようで、切迫した恐怖が伝わってこない。さらに終盤では仏教的な説話が唐突に前面へ現れ、物語は統一感を欠いたまま散漫に終息へと向かう。

 怪獣と特定の人間の心がリンクする意味、怪獣出現の理由、少女が助かった経緯、そしてあの巨大な卵の行方などなど、提示された数々の謎は、ついに十分な解答を与えられることなく宙に浮いたままである。そのため、作品全体にどこか釈然としない後味が残る。

 本作は果たして、純然たるモンスターパニックとして構想されたのか、それとも宗教的寓意を帯びた物語を志向していたのか。その輪郭は最後まで明確にはならず、むしろ両者の狭間で揺れ動いた痕跡こそが、本作の最も印象的な特徴と言えるのかもしれない。

評:蔵研人

 

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2026年7月31日 (金)

ヒックとドラゴン

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★★★★
製作:2025年 米国 上映時間:125分 監督:ディーン・デュボア

  本作は、ドリームワークス・アニメーションによる名作『ヒックとドラゴン』を実写化したものであり、登場人物や背景、物語の骨格に至るまで、原作の魅力を丁寧に映像へと移し替えている点が印象的である。とりわけドラゴンの瞳の愛らしさは観る者の心を和ませ、さらにヒックを演じる少年の柔和で端正な佇まいが、作品全体に温かな余韻をもたらしている。

 島を取り巻く緑豊かな風景は、最新の映像技術によって緻密に描き出されており、その幻想的な美しさは、いつしか観客を物語の深みへと誘い込む。現実と虚構の境界が穏やかに溶け合うその感覚は、本作ならではの魅力といえるだろう。

 総じて本作は、近年のファミリー向けアドベンチャー映画の中でもひときわ完成度の高い一本であり、新たな金字塔となる可能性を秘めている。世代を問わず、家族そろって劇場で味わうにふさわしい作品である。

評:蔵研人

 

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2026年7月29日 (水)

グラディエーター

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★★★★
製作:2000年 米国 上映時間:155分 監督:リドリー・スコット

 さすがリドリー・スコット監督、久し振りにとんでもない迫力映像と、胸を打たれるスペクタクル作品に出会った。それもまだCG技術が完璧でなかった2000年に製作されているのだから驚きだ。

 特筆すべきは、その映像の迫力である。古代コロッセオの全景や観客席の拡張、猛獣が襲いかかる場面などにはデジタル合成やCGが用いられているものの、本作の核はあくまで実写にある。重厚なセット、ロケーション撮影、エキストラやスタントの積み重ねが生む現実感は、公開から長い年月を経た今なお色褪せることがない。むしろ、その物質的な重量感こそが、現代の映像作品には稀有な説得力を与えていると言えるだろう。

 主人公マキシマスを演じたラッセル・クロウもまた見事である。決して誇張された体躯に頼ることなく、内に秘めた激情と哀切を滲ませる演技によって、将軍としての威厳と一人の人間としての苦悩を体現した。その存在感は揺るぎなく、彼以外の配役は想像し難い。

 近年、このような大規模な歴史スペクタクル、とりわけヨーロッパ的時代劇が減少していることは、いささか寂しい限りである。本作は、ベン・ハーや十戒、スパルタカスなどと並び、ハリウッド史における歴史大作の系譜に連なる一作として記憶されるべき完成度を備えている。事実、第73回アカデミー賞において作品賞を受賞したことも、その価値を裏付けていると言えよう。

評:蔵研人

 

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2026年7月27日 (月)

リザード

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★★★
製作:2022年 タイ 上映時間:149分 監督:チャリット・クリリードモンコ

 タイトルそのままの巨大なトカゲが出現する、いわゆるB級パニック映画である。舞台は土埃の舞う乾燥地帯。怪獣はその地下に潜み、まるでモグラのように地中を自在に走り回り、不意に地表へと現れて人々に襲いかかる。

 本作中でも冗談めかして触れられているが、地中から獲物を狙うという発想は、アメリカ映画『トレマーズ』の影響を思わせる。またこの怪獣は、『大怪獣バラン』さながらに空中を滑空する能力まで備えており、厄介さに拍車をかけている。ただ、その愛嬌のある目つきは怪獣らしい威圧感にやや欠け、造形としてはどこか不均衡な印象も否めない。

 物語は、乾燥地帯で水脈を発見した者に賞金が与えられるという噂を聞きつけ、多くの賞金稼ぎが集まるところから始まる。しかし彼らは次々と怪獣の餌食となっていく────という、いかにも怪獣映画の王道を踏襲した展開である。可もなく不可もない筋立てではあるが、149分という上映時間はいささか冗長に感じられる。

 決して退屈な作品ではない。しかし、普段あまり触れる機会のないタイ映画であるためか、俳優の佇まいやユーモアの質に微妙なズレを覚え、物語世界に深く没入するには至らなかったのが惜しまれる。それでもなお、怪獣の造形が一定の水準に達している点は、本作のささやかながら確かな魅力と言えるだろう。

評:蔵研人

 

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2026年7月24日 (金)

一秒先の彼

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★★★☆
製作:2023年 日本 上映時間:119分 監督:山下敦弘

 台湾映画『一秒先の彼女』を日本の風土に移し替えたリメイク作品である。物語の大きな流れはオリジナルを踏襲しているが、主人公が女性から男性へと置き換えられたことで、作品の温度感や視点が微妙に変化している点が興味深い。

 イケメン郵便局員のハジメは、第一印象こそ良いものの、何事も人より“ワンテンポ早い”性質のため、恋愛が長続きしない。そんな彼が、路上ミュージシャンの桜子の透明な歌声に心を奪われ、花火大会でのデートを約束する。しかし、バスに乗っていたはずのハジメは、気がつくと自宅で目覚めており、花火大会はすでに終わっている。彼の一日は、まるで誰かに切り取られたかのように忽然と消えていた。

 やがてハジメは、この“消えた一日”の謎を、郵便局に毎日のように現れる「ワンテンポ遅い」女性・レイカが握っていることに気づく。二人の“時間のズレ”が、物語の中心に静かに据えられていく。

 見どころの一つは、時間が静止した世界を描くシーンである。だが注意深く観察すると、近くの人物の衣服は風に揺れ、身体もわずかに動いているのに対し、遠景の人々は写真のように完全に静止している。この差異は、近景では俳優が静止を演じ、遠景では静止画を合成しているためだろう。もちろん、こうした技術的な粗さは物語の本質を損なうものではないが、時間停止という幻想的な瞬間にわずかな現実の綻びが覗く点は、観客によって好みが分かれるかもしれない。

 リメイクゆえに結末の驚きが薄れてしまうのは避けがたいが、その代わりに本作は、男女を入れ替えたことで生まれる新たな情緒を獲得している。岡田将生の繊細な佇まいと、清原果耶の静かな強さを湛えた演技は、作品全体に柔らかな光を与え、二人の“時間の距離”が縮まっていく過程に自然な説得力をもたらしている。

 オリジナルの鮮烈な仕掛けを知っている観客にとっては驚きが弱まる一方で、日本版は人物の心の揺らぎや孤独の質感を丁寧に描き出し、別種の余韻を残す作品へと仕上がっている。男女を入れ替えた判断は、単なる設定変更ではなく、物語の感触そのものを刷新する効果をもたらしたと言えるだろう。

評:蔵研人

 

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2026年7月22日 (水)

リバース 過去の代償

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★★★
製作:2021年 英国 上映時間:96分 監督:ジム・イーヴス

 家族を顧みず、酒に溺れ、職場の同僚との不倫関係に溺れていたアーリン。そんなある夜の飲酒運転が悲劇を呼び、同乗していた一人息子を失い、仕事も家庭も失うことになる。絶望の淵で、彼女の前に一人の男が現れ、「不可能を可能に」と書かれたチラシを手渡す。最初は無視するアーリンだったが、精神に異常をきたす日々の中で、チラシに記された『エンデバー・インスティテュート社』を訪れる決心をする。

 そこは、過去をやり直すことができるという不思議な施設だった。無理やり薬を飲まされ、目を覚ますと、数日前に戻っており、死んだはずの息子が目の前にいた。今度こそ、酒も浮気もやめ、誠実に生きようと決意するアーリン。しかし、過去の記憶が交錯するたびに異常な行動に走り、何度過去をやり直しても事態はうまく収まらない。

 観客として、これは単なるタイムループ映画なのだろうか、あるいはアーリン自身に何か秘密があるのか────脳内に埋め込まれたチップが暴走するサイボーグの可能性さえ、頭をよぎる。しかし、確たる答えには至らない。ストーリーはやや粗削りでありながら、結末への期待は募るばかりだった。
 ところが、いつの間にか物語は予想外で余り期待しないエンディングへと突入し、いくつもの謎を残したまま幕を閉じてしまう。とても後味が悪いし、消化不良で残酷な結末にも共感できなかった。


評:蔵研人

 

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2026年7月20日 (月)

プリティ・リーサル

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★★★☆
製作:2026年 米国 上映時間:88分 監督:ビッキー・ジューソン

 5人の若きバレリーナたちは、バレエ・ガラ公演に出演するため、飛行機でハンガリーへと向かう。空港からは老朽化したバスに揺られ、薄闇の森を抜けて会場へ向かうはずだったが、車は人気のない林道で息絶えてしまう。行き場を失った彼女たちは、やむなくデボラ・カシマーが営む古びた不気味なホテルへと足を踏み入れることになる。

 このデボラこそ、かつて名声をほしいままにした伝説的バレリーナであった。しかし怪我によって舞台を去り、今は森の奥でひっそりと暮らしている。だが、そのホテルはすでに地元マフィアの巣窟と化しており、些細な行き違いから付き添いの教師が殺害されてしまう。事件を隠すため、5人の少女たちは地下室へと監禁されるのだった。
 このあたりの展開には、現実味よりも“寓話的な不穏さ”が漂い、物語がゆっくりと非日常へ沈んでいく。

 やがて、いずれ自分たちも殺されると悟った彼女たちは、ついに反撃を決意する。これまで反目し合っていた少女たちは、互いの弱さを補い合いながら、ダンサーとして鍛え上げた身体能力を“武器”へと変えていく。鋭いフットワーク、しなやかな柔軟性、そしてカッターナイフを仕込んだトゥシューズまでもが、彼女たちの戦いを支える凶器となる。
 純白のチュチュは裂け、血に染まり、舞台衣装は戦闘装束へと変貌する。その姿は、無垢が剥がれ落ち、少女たちが戦士へと変わる儀式のようでもある。この奇抜な発想こそ本作の核であり、ポスターにも象徴的に刻まれている。

 ジャンルとしてはアクション・スリラーに分類されるが、現実離れした展開の連続は、むしろブラック・コメディとして受け取ったほうがしっくりくる。5人の少女たちの奮闘は確かに見どころだが、物語の重心をわずかに傾けてしまうほどの存在感を放つのが、デボラを演じるユマ・サーマンである。
 彼女が画面に立つだけで、物語の空気が一段階、濃く沈む。その圧倒的な“重み”が、作品全体を支配しているのは否めない。

評:蔵研人

 

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2026年7月18日 (土)

MERCY マーシー AI裁判

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★★★☆
製作:2026年 米国 上映時間:100分 監督:ティムール・ベクマンベトフ

 近未来、ついにAIによる厳格な裁判制度が導入され、AI裁判長が統括する「マーシー裁判所」が設立された。
 ある日、警官レイヴンが目を覚ますと、妻殺しの容疑でその裁判所に拘束されていた。彼は無実を訴えるものの、アルコール依存の影響か、事件直前の記憶は断片的で曖昧である。

 無実を証明するためには、AIが支配する世界中のデータベースから証拠を収集し、AI裁判官が算出する「有罪率」を規定値以下まで引き下げなければならない。制限時間は90分。それまでに無実を立証できなければ、即座に処刑が執行される。

 この制度はきわめて苛烈であるが、同時に超合理的でもある。時間や施設、人的労力を最小限に抑えつつ裁きを下せるため、犯罪率の低下や国家予算の削減にも寄与しているという。しかし、AIの判断は本当に絶対無謬なのだろうか────。そうした疑念を胸に抱きながら、本作を興味深く鑑賞した。

 AIと被告との対話、さらにはデータベース情報の即時的な映像化といった新感覚の演出は魅力的であり、物語の推進力となっている。しかしながら、裁判の全過程をAIと被告の二者のみで進行させる構成には、やや没入しきれないものがあった。
 むしろこれは裁判というより、被告自身による自己推理の様相を呈している。警官であるレイヴンだからこそ成立し得たが、一般人に同様の推理力を求めるのは酷であり、不公平さは否めない。少なくとも被告人にAI弁護士の補助が与えられていれば、より説得力が増したのではないだろうか。

 また、クライマックスにおけるトラック暴走の演出は過剰に感じられ、緊張感よりも違和感が先立った。一方で、その後の結末はあまりに簡潔に収束し、やや物足りなさを残す。全体として、物語にもう一層の厚みが加わっていれば、より優れた作品となり得ただけに、惜しさの残る一作であった。

評:蔵研人

 

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2026年7月15日 (水)

時の家

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著者:鳥山まこと

 第174回(令和七年下半期)芥川賞は、鳥山まこと氏『時の家』と畠山丑雄氏『叫び』の二作同時受賞となった。さっそく文芸春秋三月特別号を手に入れ、まずは『時の家』から読み始めた。

 もともと芥川賞そのものに強い関心があるわけではない。ただ、私は「時間」を扱った作品に目がないため、タイトルの“時”に惹かれて本作を読み始めたのである。しかし期待に反し、本作は時間テーマとはほぼ無縁だった。ここでいう“時”とは、取り壊しを目前にした古い家に染みついた、歴代の住人たちの「思い」の堆積を指している。

 部屋の構造、汚れ、傷跡から住人の感情を丹念に掬い上げる筆致は、建築士としての著者の経験があってこそ可能になったものだろう。その繊細な感性、巧みな言語操作、そしてこれまで誰も書かなかった視点の発掘は、確かに脱帽に値する。

 しかし、選考委員の数名も指摘していたように、前半──いや終盤近くまで続く読みにくさには、正直辟易した。何度も本を閉じようと思ったが、評価の高い選者の意見を信じ、なんとか最後まで読み通した。

 会話がほとんどない点はまだ許容できるとしても、登場人物に個性が乏しく、藪・圭・脩・緑といった一文字名ばかりで、名前としての識別性も弱い。そこまではまだ目をつぶれる。だが、比喩や言葉遊びに耽溺しすぎており、また細部の描写に執着するあまり、作品全体の輪郭が霞んでしまっている。たとえば次の一節である。

────圭さんの口から出てゆく言葉たちはいつもその深いところに溜まったものたちを上滑りする。上層にある部分だけが出ては入ってまた出て頻繁に入れ替わりし、下層の部分はいつまでも動かずに止まったまま、大事なことほど底に溜まって冷え切って、凝固し言葉になって出てゆかない。────(文芸春秋三月特別号より引用)

 ここまで執拗に比喩を重ねる必然性が本当にあるのだろうか。また全体を通して、段落も異様に長く、読者への配慮が欠けている。さらにストーリー性も心理描写も希薄で、まるで取扱説明書を延々と読まされているような感覚に陥る。終盤になってようやく小説らしい息遣いが現れるものの、そこに至るまでの道のりがあまりにも長すぎたのではないだろうか。


評:蔵研人

 

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2026年7月14日 (火)

ジュラシック・ワールド 復活の大地

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★★★☆
製作:2025年 米国 上映時間:134分 監督:ギャレス・エドワーズ

 本作は、1993年にスティーブン・スピルバーグが生み出した『ジュラシック・パーク』から数えて、ついにシリーズ通算7作目となる。舞台は前作『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』から5年後となる。またスカーレット・ヨハンソンら新たなキャストを迎え、物語は“新章”へと舵を切った印象を受ける。

 恐竜たちの迫力は相変わらず健在で、とりわけ水中を逃げ惑う主人公たちを、T・レックスが影のように追いすがるシーンは、本作随一の緊張感を放っている。巨大な顎が水面を割る瞬間の恐怖は、シリーズの醍醐味そのものだ。しかし終盤に登場する新種の巨大生物は、恐竜というより映画『エイリアン4』に登場したクリーチャーを思わせ、やや世界観から浮いてしまった印象も否めない。

 長寿シリーズゆえのマンネリ感は多少あるものの、物語そのものは誰もが楽しめる“ハッピーエンド型の娯楽大作”へと回帰したように思える。過度にシリアスに傾かず、観客を安心して楽しませる方向へ舵を切った点は、むしろ好ましい変化と言えるかもしれない。
 また、幼い少女が子どもの恐竜を餌付けし、密かに持ち帰ってしまうエピソードは、単なる可愛らしい挿話にとどまらず、次回作への伏線として機能しているように感じられる。人間と恐竜の“共存”というテーマが、今後どのように展開されるのか、期待を抱かせる仕掛けだ。

 総じて本作は、シリーズの伝統を守りつつ、新たな方向性を模索する過渡期の作品と言える。恐竜映画としての迫力は十分に保ちつつ、物語の広がりを予感させる余韻を残している点が印象的であった。

 

評:蔵研人

 

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2026年7月12日 (日)

50分間の恋人

50

★★★★
2026年製作の日本のTVドラマ

 ゲーム制作会社「ダブルスターズ」に勤務するキャラクターデザイナー・辛島菜帆を演じるのは、瞳の印象的な松本穂香。一方、ライバル会社「パイレーツ」に所属する天才ゲームクリエイター“マーヴェリック”こと甘海晴流を演じるのは、男性アイドルグループHey! Say! JUMPのメンバーである伊野尾慧である。

 物語は、敵対する会社に勤める二人の恋を描くラブコメディーだ。もっとも、当初の二人は、互いがライバル会社に所属していることを知らない。だが背景には、ダブルスターズの女性社長とパイレーツの社長が元夫婦であるという因縁が横たわっている。夫の浮気をきっかけに離婚した過去があり、女性社長はいまなお強い憎しみを抱いている。そのため「パイレーツの社員と交際した者は解雇する」と公言して憚らない。

 二人の出会いもまた、いかにもラブコメらしい偶然から始まる。ある日、公園で菜帆は無愛想な晴流と衝突し、彼の着ていたヴィンテージの服をコーヒーで汚してしまう。弁償する余裕のない菜帆に対し、晴流は「30回の手作り弁当で相殺にしよう」と提案する。こうして昼休みの50分間だけを共に過ごす、不思議な関係が生まれたのである。

 日々、弁当を囲むうちに、二人の心は次第に近づいていく。しかしその時点では、互いの勤務先も職務内容も知らないままだ。やがて同僚との遭遇や、パイレーツへの就職を志望する菜帆の弟の存在などがきっかけとなり、ついに真実を知ることになる。

 筋立て自体は王道のラブコメディである。だが、松本穂香の生き生きとした魅力が作品全体を柔らかく照らし、物語に瑞々しさを与えている。本評の執筆時点では、まだ放送中であり結末は明らかではないが、日曜夜10時15分の放送を心待ちにする時間さえ、この作品の余韻の一部となっている。


評:蔵研人

 

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2026年7月10日 (金)

ファーストキス 1ST KISS

1st-kiss

★★★☆
製作:2025年 日本 上映時間:124分 監督:塚原あゆ子

 あれほど深く愛し合って結婚したはずなのに、いつの間にか長い倦怠期に沈み込んでしまった夫婦。結婚15年目を迎えた二人は、ついに「離婚」を決意する。ところが離婚届を提出するその日に、夫・駈が見ず知らずの子どもを救おうとホームから飛び降り、命を落としてしまう。

 悲嘆の中、妻のカンナは首都高のトンネルを走行中に、駈と出会う直前────15年前へとタイムスリップしてしまう。若き日の駈と再会した彼女は、忘れかけていた想いが胸に甦り、やはり自分は駈を愛していたのだと気付く。そして、15年後に訪れるあの悲劇から彼を救うことを心に誓う……。

 タイムトラベルもので「好きな人を救うため、何度もタイムループを繰り返す」という設定自体は決して新しいものではない。だが本作は、その装置を用いながら、「夫婦とは何か、愛は時間に耐えうるのか」という問いを静かに投げかける、『大人のためのラブストーリー』なのである。とりわけ子どものいない熟年夫婦にとっては、胸に迫るものがあるだろう。

 また、ヒロイン・硯カンナを演じた松たか子の成熟した演技には、今回も深く唸らされた。49歳を迎えた彼女が20代の姿を演じてもほとんど違和感がなく、その自然な若々しさには驚かされるばかりだ。こうした表現力も含め、彼女が第49回日本アカデミー賞優秀主演女優賞に輝いたのは当然のことだと感じた。


評:蔵研人

 

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2026年7月 8日 (水)

寄生体XXX

Xxx 

★★★
製作:2020年 カナダ 上映時間:84分 監督:ジャスティン・マコーネル

『寄生体X』というフランス映画が存在するが、本作はそれとは全くの別物である。もともとは『スキンウォーカー』というタイトルで公開された作品らしいが、DVD化に際してこのいささか陳腐な題名へと変更されたようだ。
 さらに「宇宙で最も凶悪」という大仰なサブタイトルや、背中から不気味な触手を伸ばした裸の金髪女性のポスターも、実際の内容とはかなりかけ離れている。そうした宣伝文句から想像される刺激的な怪奇映画を期待すると、肩透かしを食らうかもしれない。

 物語を一言で要約するならば、「老若男女を問わず、人から人へと身体と記憶を奪い取りながら渡り歩く謎の生命体」の話である。だが、奪い取った肉体には“賞味期限”があり、時間の経過とともに皮膚は腐敗し始める。そのため、生命体は生き延びるために常に新しい宿主を求め続けなければならない。

 全体としては、いかにもB級SF映画らしい粗削りな作りで、展開には首をかしげたくなる場面も少なくない。それでも物語の発想自体はなかなか興味深く、寄生する側とされる側の境界が曖昧になっていく過程には、どこか不気味な魅力が漂う。

 とりわけ終盤に至って提示される結末は、単なる怪奇譚として片づけるには少しばかり含みがあり、観る者に「人間とは何か」「記憶と身体のどちらが自己を形作るのか」といった問いをそっと投げかけてくる。荒削りながらも最後まで退屈することなく観ることができた点を考えれば、B級映画としては十分に健闘している一本と言えるだろう。

評:蔵研人

 

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2026年7月 5日 (日)

東京少女

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★★★★
製作:2008年 日本 上映時間:98分 監督:小中和哉

 てっきり本作の原作は漫画や小説かと思いきや、正確には林誠人の脚本をもとにした 映画オリジナル作品であった。混同しやすいのは、林誠人と笹原ひとみの共著によるノベライズが映画より若干先に出版されている点である。その後、シリーズとしてテレビドラマ化もされているが、現時点で公式の漫画やアニメ化は確認されていない。

 物語は、地震の折にうっかり階段から落としてしまった携帯電話が、ワームホールを経て100年前の世界へとタイムスリップするところから始まる。落としたのはSF作家を夢見る女子高生・未歩(夏帆)、そして明治時代で携帯を手にしたのは、夏目漱石の門人で小説家を志す青年・時次郎だった。
 常識からすれば通じるはずのない電波が、月の出ている時間だけ時を越えて通じるという奇蹟。その不可思議な交流のなかで、二人は徐々に親しくなり、やがて月の出の下で会話することが習慣となる。さらに昼間に日比谷の松本楼でカレーライスのデートを重ね、銀座の老舗で100年先に届く買い物をするなど、物語は独特の幻想感に包まれる。

『オーロラの彼方へ』や『リメンバー・ミー』のように「時を超える電波」を扱った作品は珍しくない。しかし、本作が放つ魅力は、時間を越えた同時デートや未来への贈り物、そして夏目漱石という実在人物の絡め方にある。
 また老舗の老女が登場するわずか数分のシーンで、自然に心の扉が開き、涙が溢れて止まらなかった。ほんの数分のシーンであったが、私にとっては本作最大の見どころだったのかもしれない。このシーンの具体的な説明は省きたいが、ぜひ自分の目で確かめてもらいたいものである。


評:蔵研人

 

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2026年7月 3日 (金)

正欲

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★★★☆
製作:2023年 日本 上映時間:134分 監督:岸善幸

 原作は、第34回柴田錬三郎賞を受賞した朝井リョウの同名ベストセラー小説である。

 本作は厳密な意味での群像劇ではないが、「普通」という社会の基準から外れた欲望や孤独を抱えた人々を、三つの物語を通して描き出している。水に性的快感を見出すという特殊な嗜好を持つ男女、登校拒否となりYouTubeの世界へ逃避する小学生とその家族、そして男性恐怖症の女子学生と孤独な大学生───それぞれが、社会の中で言葉にしにくい「生きづらさ」を抱えながら生きている。

 中でも印象的なのは、新垣結衣と磯村勇斗が演じるパートである。物語の中心ともいえる位置を占め、静かな緊張感を漂わせながら進んでいく。ただし、「水フェチ」という性的嗜好については、観客として十分に理解し得たとは言い難い。なぜそれが欲望として芽生え、どのように快楽と結びつくのか───その心理的背景がもう一歩踏み込んで描かれていれば、物語の説得力はさらに増したのではないだろうか。

 一方、稲垣吾郎が演じる検事は、作中ではむしろ常識的な人物として配置されている。しかし、周囲の人物がいずれもどこか社会の枠組みから逸脱しているためか、彼の「普通さ」自体がかえって奇妙に映る。ここには、作品全体を貫く「普通とは何か」という問いが、さりげなく潜んでいるように思われる。

 それにしても、これほど陰影の深い眼差しを湛えた新垣結衣を見るのは初めてかもしれない。これまでの柔らかな“ガッキー”のイメージとは対照的な役柄だが、年齢を重ねた彼女の演技には確かな厚みが感じられた。

 扱われているテーマは重く、現代社会の価値観に鋭く切り込む問題作である。しかし、映画という限られた時間の中で三つの物語を並行させたためか、それぞれのエピソードが十分に深まりきらないまま終わってしまった印象も否めない。興味深い素材を多く含みながらも、どこか消化不良の感触を残す点は惜しまれる。

 とはいえ、原作小説は未読である。いずれ作品の源流にあたる小説をじっくり読み、この物語が提示しようとした「正欲」の意味を改めて考えてみたいと思う。


評:蔵研人 

 

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2026年6月30日 (火)

八犬伝

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★★★☆
製作:2024年 日本 上映時間:149分 監督:曽利文彦

 役所広司が滝沢馬琴、内野聖陽が葛飾北斎を演じる“実話パート”と、『里見八犬伝』の八剣士たちが戦いを繰り広げる“虚構パート”を巧みに交錯させながら物語は進んでゆく。

 通常、この種の作品では冒頭と終盤のみが実話パートという構成が多いが、本作はあえて両者を頻繁に往復させるという新たな試みに挑んでいる。その意欲は大いに評価したいものの、結果として双方がやや中途半端に感じられ、どちらかに焦点を絞ったほうが物語としての密度が増したのではないかと思われる。
 また、実話パートに役所広司、内野聖陽、磯村勇斗、寺島しのぶ、黒木華といった実力派が集中したことも、全体のバランスを崩す一因となったのかもしれない。

 とはいえ、息を呑むほどの映像美や、役所広司と内野聖陽による渋味のきいた掛け合いには確かな魅力があり、新たな趣向による『里見八犬伝』として一見の価値は十分にある。
 なお、第48回日本アカデミー賞では、内野聖陽が最優秀助演男優賞、土屋太鳳が最優秀助演女優賞、板垣李光人が新人俳優賞にそれぞれノミネートされている。

評:蔵研人

 

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2026年6月28日 (日)

あなたが誰かを殺した

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★★★☆
著者:東野圭吾
 
 閑静な別荘地で起きたセレブ殺人事件を、名探偵・加賀恭一郎が解き明かす本作は、「加賀恭一郎シリーズ」第12作にあたる。
 毎年別荘で開かれる「バーベキュー大会」に集うのは、会計士の栗原家、医者の櫻木家、未亡人の山之内家、そして会社経営者の高塚家の四家であり、参加人数はその家族や使用人たち15名である。そして当日に、この中の5名が何者かに命を奪われる。

 本作は犯人探しを軸としたミステリーであるが、犯人は桧川大志という男で、自首同然に逮捕される。桧川は「死刑になりたい」という願望と、「自分を蔑ろにした家族への復讐」を動機として主張する。しかし、事件にはなお多くの不可解な点が残されていた。

なぜ桧川は、遠く離れた別荘地を犯行現場に選んだのか
なぜ栗原夫妻が車庫にいることを察知できたのか
なぜ桧川は、高塚桂子が屋内で一人きりであることを知っていたのか
逮捕されるつもりでありながら、一部の防犯カメラを無効化した理由は何か
高塚桂子殺害や的場雅也刺傷に使ったナイフは、どこへ消えたのか

 これらの謎を解明するため、生き残った家族たちは検証会を開き、これに偶然休暇中の加賀恭一郎も参加することになる。加賀は巧みな議論と精緻な推理を重ね、やがて事件の背後に潜む共犯者の存在を明らかにしてゆく。

 舞台や登場人物が特定され「犯人探し」を議論中心で進む構造は、通常ならかなり退屈に陥りかねない。しかし、ベテラン作家・東野圭吾の手腕により、読者はラストまで緊張感を保ちながらページをめくることができた。また口絵に描かれた別荘周辺の地図も、複雑な人間関係や犯行現場の把握に大いに役立つ。

 ただ、タイトル『あなたが誰かを殺した』だけは、物語の内容とやや距離があるように感じられ、この点には違和感が残った。

評:蔵研人

 

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2026年6月26日 (金)

ゴジラxコング 新たなる帝国

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★★★☆
製作:2024年 米国 上映時間:115分 監督:アダム・ウィンガード

 2021年の『ゴジラxコング』に続く本作では、宿命のライバルである二大怪獣が手を結び、邪悪な怪獣たちに立ち向かう。とはいえ物語の中心に据えられているのはほぼコングで、ゴジラは序盤と終盤に姿を見せるのみである。そのため舞台もコングの故郷である地下空洞が主となり、画面はまるであの『アバター』を思わせる鮮烈なCG世界に満たされている。

 建造物のない空間で繰り広げられる巨大猿たちの戦いは、怪獣映画というより『猿の惑星』の一場面のようでもある。やはり「大きさ」とは比較対象があってこそ実感できるものだと、あらためて思い知らされる。

 コングは地下空洞で新たな土地を発見し、ついに同族と再会する。しかしそこではスカーキングが無数の同族を奴隷のように支配しており、古代怪獣シーモとともにコングを圧倒する。敗走したコングは、地表侵略を企む敵を阻むため、ゴジラに助力を求める。最大級の原子力エネルギーを蓄えたゴジラと、人間の手で強化されたコング。二体は冷酷なスカーキング、そしてすべてを凍てつかせるシーモと激闘を繰り広げる。

 相変わらず圧巻の迫力と精緻なCGには舌を巻くが、ゴジラの小さめの顔や人間に近い上半身の造形、さらには走り方の“人間臭さ”にはやや違和感を覚える。さらにゴジラが繰り出すプロレス技「ブレーンバスター」には、笑いを通り越して思わず眉をひそめてしまった。そのうえ、手足が大きく翅の細いモスラの造形にも、どこか腑に落ちないところがある。

────もっとも、細部にこだわらず、子どもたちとともにアクションの奔流に身を委ねるのであれば、満点をつけてもよい娯楽作と言えるだろう。


評:蔵研人

 

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2026年6月23日 (火)

アイ・スピット・オン・ユア・グレイヴ2

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★★★
製作:2014年 米国 上映時間:106分 監督:スティーヴン・R・モンロー

 ニューヨークでモデルを目指すケイティは、無料撮影の広告を見つけ、ポートフォリオ用の写真撮影に臨む。順調に進んでいたかに見えた撮影は、カメラマンからヌードを要求された瞬間、不穏な色を帯びる。違和感を覚えた彼女はそれを拒み、逃げるように帰宅する。

 だが翌晩、施錠を怠ったわずかな隙を突かれ、昨日のカメラマンの一人が部屋に侵入。彼女は暴行を受け、騒ぎを聞きつけて駆けつけた隣人も、ナイフで滅多刺しにされ命を落とす。事態の深刻さに動揺した犯人は仲間を呼び寄せるが、現れたのは撮影に関わっていた男たちだった。三人は兄弟であり、冷静に現場を処理したのち、彼女を薬で眠らせて連れ去る。

 目を覚ましたとき、ケイティは見知らぬ地下室に鎖で繋がれていた。やがて隙を見て脱出に成功するものの、そこはブルガリア。言葉も通じず、助けを求めても届かない。
 ようやく救いの手かと思われた警官にも裏切られ、再び絶望の淵へと引き戻される。そこから続く暴力の連鎖は凄惨を極め、正視するのも辛いほどであった。私は思わず早送りしてしまったほどだ。登場人物の誰一人として信じられず、観る者までも疑心暗鬼に陥らせる展開である。

 こうして怒りと嫌悪が極限まで蓄積された末、終盤になってようやく壮絶な復讐劇が幕を開ける。本来であれば溜飲の下がるはずの場面である。しかし私の胸に去来したのは爽快感ではなく、むしろ深い虚しさだった。
 暴力は暴力をもってしか清算できないのか────そんな問いだけが、重く残る。年齢のせいか、それとも感性の変化ゆえか、もはやこの種の映画を純粋なエンターテインメントとして受け止められなくなっている自分に気づかされる。

 それでも、主演女優の体当たりの演技には目を見張るものがある。愛らしい容貌を持ちながら、全裸を晒し全身を傷と泥にまみれさせ、極限状況を生き抜く姿を演じ切った。その覚悟と表現力は、この過酷な物語に確かなリアリティを与えていた。


評:蔵研人

 

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2026年6月21日 (日)

Ms.パニッシャー

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★★
製作:2019年 米国 上映時間:70分 監督:サム・ファーマー

“最強熟女の血が燃えたぎる鮮血のバイオレンス・アクション!”強奪者から愛する娘と大切な家を守る為、女は最強のパニッシャーとなる!

────そんな刺激的な宣伝文句に惹かれて本作を手に取ったのだが、実際には、気が強く頑固なおばちゃんがショットガン片手に若者三人と対峙するだけの、こぢんまりとした物語であった。舞台は彼女の家の周辺に限られ、登場人物も十名ほど。ストーリー性も薄く、典型的な低予算アクションの趣が強い。

 主人公マーシャは、小さな田舎町で独り暮らしをする元女性警官。夫に先立たれ、娘とも別々に暮らしている。ある日、彼女の家を強引に奪おうとする三人の若者が現れ、刃物で脅しながら翌夜までに家を売れと迫る。
 助けを求めて地元の保安官補に相談するも、若者たちと通じているのか取り合ってもらえない。誰にも頼れないと悟ったマーシャは、愛する家を守るため、自ら立ち向かう決意を固める。

 その夜、若者たちが家に侵入し、偶然訪ねてきた娘を人質に取ってしまう。しかし、かつて修羅場をくぐり抜けてきたマーシャは、簡単には屈しない。娘と家を守るため、静かな田舎の夜に小さな戦いが始まる。

 だが本作には、物語を支えるべき“真面目さ”がどこか欠けている。元女性警官という設定も、家を奪おうとする若者たちの動機も、深く掘り下げられることなく表層を滑っていく。
 そのため登場人物たちの行動は、物語の必然ではなく、ただ脚本の都合に押し出されているように見えてしまう。せっかくの緊迫した状況も、薄く引き延ばされた会話と単調な展開の中で力を失い、物語としての重みを感じる前に終幕を迎えてしまった。

 ポスターからは、もっと大人数を相手にした派手なアクションを期待していたのだが、実際の戦闘シーンは会話が多く、テンポが悪いため緊張感が削がれてしまう。通常なら10分ほどで収まる場面を、何度も引き延ばして一本の作品に仕立てたような印象が拭えない。爽快感を求めて観たはずが、むしろじわじわと苛立ちが募り、観終えた後にはわずかな後味の悪さが残ってしまったのが悔しい。

評:蔵研人

 

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2026年6月18日 (木)

ウルフマン

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★★☆
製作:2025年 米国 上映時間:103分 監督:リー・ワネル

 ウルフマンを直訳すれば「狼男」である。吸血鬼と並び、古典怪物の双璧として幾度も映画化されてきた存在だ。1941年の『狼男』がその源流とされるが、本作はそのリブートを名乗りながら、満月の魔性も、銀の弾丸という神話の残響も捨て去っている。ここで描かれるのは、変身ではなく“感染”であり、狂犬病のように一度罹れば戻れないという、あまりに俗世的で乾いた設定だ。

 確かに現代的な再解釈としては理解できる。しかし、その結果生まれたのは、狼男の神秘を剥ぎ取り、ゾンビ映画と見分けがつかない凡庸なモンスターパニックである。観客が期待する「狼男」という神話的存在は影も形もなく、ただの“異物”がそこに置かれているだけだ。

 さらに致命的なのは、終盤まで画面が薄闇に沈み、何が起きているのか判然としないことだ。狼男はほとんど姿を見せず、正体が露わになってからも、田舎の一軒家の周囲で追いかけっこに終始するだけ。また登場人物の心理は掘り下げられず、物語の奥行きも生まれない。恐怖ではなく、ただの“空虚”が漂うばかりである。

 思えば、2010年にベニチオ・デル・トロとアンソニー・ホプキンスが主演した『ウルフマン』は、古典への敬意と現代性の融合が見事だった。それと比べれば、本作はなぜ今この時代に創られたのか、その存在理由すら見いだせない。日本で劇場公開されなかったという事実も、むしろ当然の帰結のように思えてくる。

 
評:蔵研人

 

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2026年6月16日 (火)

ザ・ミスト

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★★★☆
製作:2017年 フランス 上映時間:89分 監督:ダニエル・ロビィ

 本作は、あのスティーヴン・キング原作の『ミスト』とは無関係である。これはまったく別物の、フランス製のSF風味を帯びた社会風刺ドラマだ。

 自己免疫疾患を抱える娘サラの治療法を探し続けるマチューは、定職に就けず、なぜか妻アナと娘が暮らすパリのアパートの向かいに一人で住んでいる。彼は折に触れて娘の様子を見に訪れるのだ。
 12歳になるサラは、生まれてから一度も外に出たことがなく、病のためカプセルの中で育てられている。アナは在宅で教師の仕事をしながら、閉ざされた空間で暮らす娘を献身的に看病している。

 そんなある日、街を揺るがす大地震が起こり、パリ中が濃い霧に包まれてしまう。この霧は有毒で、人々は次々と倒れていく。マチューとアナは、とりあえずサラのカプセルだけは安全だと判断し、最上階に住む老夫婦の部屋へ避難する。

 しかし霧はいっこうに晴れず、街は急速に死の静寂へと沈んでいく。このままではサラのカプセルも危険だと考えた二人は、救助隊から受け取った酸素マスクを頼りに、サラを外へ連れ出すための特別スーツを探しに街に出る。だが途中で凶暴な犬に襲われ、酸素マスクを壊されてしまう。

 霧はいつ晴れるのか。この霧の正体とは何なのか。酸素マスクなしでスーツを持ち帰ることはできるのか。サラや老夫婦は救われるのか。さまざまな疑念と不安が胸をよぎる。ネット上の評価は芳しくなかったが、実際にはなかなか興味深い作品ではないか────。

 ただ、街に死体を含めほとんど人影がないこと、そしてなぜあの犬が生き延びたのか、……といった細かいことが気になってしまう。また、物語の多くが解明されないまま、ラストのどんでん返しで唐突に幕を閉じる点も賛否を分けるだろう。
 SFなのか、家族ドラマなのか、サバイバルものなのかと考えたが、むしろこれは皮肉を込めた社会風刺劇として観るべき作品なのかもしれない。

 

評:蔵研人

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2026年6月14日 (日)

DEAD OR ZOMBIE ゾンビが発生しようとも、ボクたちは自己評価を変えない

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★★★☆

製作:2022年 日本 上映時間:42分 監督:佐藤智也

 ゾンビが蔓延した世界で、ゾンビ化した家族と共に暮らす引きこもりの女子高生を描いた、静謐(せいひつ)なヒューマンドラマである。短編かつ低予算のB級映画でありながら、「ゾンビになっても家族の絆は失われない」という奇妙に温かい視点が、作品全体に淡い光を灯している。外見はホラーの皮をまといながらも、その内側には少女の心の葛藤と、かすかに残る家族への愛情が脈打っている。

 舞台となるのは、感染拡大を防ぐために外界から切り離された地方都市。女子高生・早希は、ゾンビとなった家族を見捨てることができず、ひとり隔離区域に残って暮らしている。
 かつて不登校で、家族との関係もぎこちなかった彼女にとって、この異常な日常は、むしろ“初めて家族と向き合う時間”として訪れたのかもしれない。
 人影の消えた町を満たす静けさは、まるで早朝の冷たい空気をそのまま閉じ込めたようで、画面に漂う寂寥感は、早希の孤独と奇妙に呼応している。

 低予算ながら、ゾンビの特殊メイクには確かな迫力が宿る。それもそのはず、日本の特殊メイク界を牽引してきた江川悦子が手がけているのだ。
 本作は、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2020でグランプリを受賞した日中韓合作映画『湖底の空』の佐藤智也監督が、同映画祭からの支援金を受けて制作したものである。
 わずか42分の物語でありながら、そこには“終末”と“家族”という相反する気配が静かに同居し、観る者に奇妙な余韻を残す作品であった。 

評:蔵研人

 

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2026年6月12日 (金)

殺人の追憶

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★★★★
製作:2004年 韓国 上映時間:130分 監督:ポン・ジュノ

 2019年、『パラサイト 半地下の家族』が韓国映画史を塗り替え、アジア映画として初めてアカデミー賞作品賞に輝いたとき、世界はようやくポン・ジュノという作家の真価に気づいた。しかし、その才能の源流はすでに本作『殺人の追憶』において、濃密な霧のように立ちのぼっていたのである。

 ポン・ジュノの映画には、しばしば“雨”が物語の奥底を流れる暗い血流のように存在する。『ほえる犬は噛まない』の冒頭を濡らす雨、『グエムル』で死と共に訪れる雨、『母なる証明』で母の絶望を包み込む豪雨、そして『パラサイト』で半地下を呑み込む濁流。
 本作でもまた、雨は静かに、しかし確実に死を呼び寄せる。雨脚が強まるたび、観客は不吉な気配に身を固くするほかない。

 本作は、1980年代の韓国農村で実際に起きた「華城連続殺人事件」を題材にしている。大鐘賞では監督賞・作品賞を受賞し、東京国際映画祭でもアジア映画賞に輝いた。
 若い女性を次々と襲う犯人を追い詰めようと、土着の刑事たちは粗暴な捜査に突き進む。そこへソウルから派遣された刑事が加わり、論理と冷静さを武器に事件へと切り込む。

 だが本作が描くのは単なる犯人探しではない。異なる捜査観を持つ彼らが、事件の闇に触れるたびに揺らぎ、崩れ、そして人間としての弱さを露わにしていく、その過程そのものが物語の核となっている。

 土着刑事たちの拷問まがいの取り調べや証拠捏造、さらには占いに頼る捜査は、現代の目から見れば滑稽であり、同時に恐ろしくもある。しかし、時代と土地が生み出した“常識”とは、往々にしてこうした歪みを孕むものなのだろう。
 そして終盤、冷静さを保っていたソウルの刑事までもが、感情の奔流に呑まれ暴力へと手を伸ばす瞬間、観客は悟る。彼もまた、制度の外側に立つただの人間であり、闇に触れれば誰しもが揺らぐ存在なのだと。

 農村の田園風景は、息を呑むほどに美しい。だがその美しさの中で発見されるのは、無残な姿となった女性たちの遺体である。光と影が反転するようなこの映像の対比に、ポン・ジュノは何を託したのだろう。美しさの裏側に潜む暴力、あるいは人間の心に巣食う闇への静かな問いかけなのか。

 前半は誤認逮捕の連続で、捜査は泥濘のように進まず、観る者の苛立ちも募る。しかし後半、土着刑事とソウル刑事がようやく歩調を合わせ始める頃、犯人像はかすかな輪郭を帯び、希望の光が遠くに揺らめく。だが────ラストはどこか満たされない。
 それは事件の“現実”がもたらす空白なのか。それとも監督が観客に、消えない余韻と問いを抱えたまま劇場を後にしてほしかったからなのだろうか……。


評:蔵研人

 

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2026年6月10日 (水)

あの頃、君を追いかけた

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★★★
製作:2018年 日本 上映時間:114分 監督:長谷川康夫

 家庭では全裸で過ごす主人公とその父、そして下ネタが飛び交うおバカな展開────どこか韓国ドラマ的な過剰さを感じたが、調べてみれば台湾で大ヒットした同名映画の日本版リメイクであった。

 物語は、ある美しい女性の結婚式に招かれた高校時代の仲良し6人組が、青春の日々を回想するという構成だ。その中心となるのは、水島浩介(山田裕貴)をはじめとする5人の男子たち。彼らは皆、結婚式の主役である早瀬真愛に恋心を抱いていたが、結局のところ全員が振られた“敗者”でもあった。

 医者の娘で、世間知らずの純真さと美貌、そして聡明さを併せ持つ早瀬真愛を演じたのは、小顔の美少女・齋藤飛鳥。一方で、私の好みは彼女の親友役を演じた松本穂香のほうだ。大きな瞳が印象的で、明るい雰囲気を纏う彼女だが、本作では浩介の幼馴染というだけで、物語の中心からはやや外れてしまっていたのが残念である。

 結局のところ、本作は台湾の人気作家ギデンズ・コーの自伝的作品を下敷きにしているだけで、特別な社会性や深い感動を求めるべき映画ではない。誰の胸にもひとつはある、甘酸っぱくも不器用な青春の記憶を、淡々と描いた作品と言えるだろう。
 ただし、山田裕貴の“生尻”を拝みたい方には、強くお勧めしておく(笑)

評:蔵研人

 

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2026年6月 7日 (日)

予兆 散歩する侵略者 (ドラマ)

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★★★
製作:2017年 日本 上映時間:1シーズン5話 監督:黒沢清

 ドラマが始まって早々、職場の同僚が「自宅に幽霊が出る」と騒ぎ出す。そのため、てっきり本作はホラー作品なのだろうと思い込んでしまった。しかしその幽霊の正体は、実は幽霊ではない。
「家族」という概念を宇宙人に奪われた結果、父親の存在を認識できなくなり、幽霊だと誤解していたのだった。

 その宇宙人は、ヒロイン・悦子(夏帆)の夫・辰雄(染谷将太)が勤務する病院の外科医として潜り込んでいる存在である。辰雄は彼らの行動を補佐する“ガイド”の役割を強いられ、逆らおうとすると腕に激しい痛みが走るため、抵抗することができない。
 宇宙人たちの目的は地球侵略であり、人類の大半は排除される運命にある。ただし、特殊な能力を持つ悦子だけは「サンプル」として生かされることになっていた。

 つまり本作は、ホラーの皮を被ったサスペンス風味のSFドラマである。だが正直に言えば、その内容はあまりにも低予算で、設定の描写もどこか幼稚に感じられた。それでも気がつけば、私は全5話を一気に観終えているではないか。
 結局、不満を抱きながらも視聴をやめられなかったという事実が、この作品の持つ奇妙な吸引力を物語っているのかもしれない。

 本作は映画『散歩する侵略者』のスピンオフ作品であり、「概念を奪う侵略者」という設定を、映画本編とは異なる夫婦の視点から描いている。
 また日常が静かに、しかし確実に侵食されていく様子は、不穏でじわじわと迫るサスペンスとして描かれている。さらに、この全5話のドラマを再編集した劇場版まで存在するのだから、作品の構造は実にややこしい。

 理解しづらく、決して親切とは言えない。それでもなお記憶に残るのは、黒沢清らしい「説明されない不安」が、画面の隅々にまで染み込んでいるからだろう。

評:蔵研人

 

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