輝ける人生

★★★★

製作:2017年 英国 上映時間:114分 監督:リチャード・ロンクレイン

 記念パーティーの席上で、長年連れ添ってきた夫の浮気が発覚、それにその浮気相手は自分の親友だった。ダブルに裏切られ、大恥をかかされたサンドラは頼る人もおらず、仕方なく疎遠になっていた姉の家に押し掛ける。
 最初はかたくなに自分の殻に閉じこもっていたサンドラだったが、明るく大らかな姉に連れられてダンス教室に通っているうちに、今までの自分の生き方が間違っていたことに気付く。そして新しい自分の人生を謳歌するようになるのだが・・・。

 いつも苦虫をつぶしたような顔をして、嫌な感じのブスおばさんだったサンドラ。これでは夫が浮気したくなってもしょうがないなと思った。ところが姉やその友人たちとの出会いを通じて、次第に明るく情熱的な表情になってくると、意外にも可愛い顔つきに変化してゆく。まさにメーキャップと演技力の極意といったところか。

 主役のサンドラを演じたイメルダ・スタウントンも悪くはないのだが、何と言っても姉・ビフ役のセリア・イムリーが実にいい味を醸し出していた。まさに彼女なしでは、この映画は成立しなかっただろう。
 登場人物の大半は老人というシニア向けの作品であるが、軽快な音楽とダンスを気楽に楽しめるところがこの映画の最大の売りである。シニアの人には、是非お勧めの一本と言えるだろう。

評:蔵研人

 

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2019年7月18日 (木)

運命は踊る

★★★☆

製作:2017年 イスラエル・独・仏・スイス 上映時間:113分 監督:サミュエル・マオス
 
 原題のFoxtrotは比較的テンポの速い社交ダンスの名前なのだが、邦題から推測すると次のように考えられる。フォックストロットのステップは、「前へ、前へ、右へ、ストップ。後ろ、後ろ、左へ、ストップ」でどう動いても元の位置に戻って来る。つまり人生はどうあがいても、結局は同じところへと帰って来る。既に動き出してしまった運命は、決して変えることができない、ということなのだろうか。

 テルアビブに住むミハエルとダフナ夫妻のもとに、軍の役人が息子ヨナタンの戦死を知らせにやってくる。それを聞いた妻ダフナはショックの余り気を失ってしまうシーンから始まる。もちろん夫のミハエルも冷静さを装っているものの、かなりのショックを受け、自ら熱湯で手の甲に大火傷させてしまうほどだった。

 ところが後日になって、息子の戦死が誤報だったとの連絡を受ける。妻やその他の親族は、誤報で良かったと喜ぶのだが、ミハエルだけは激怒してすぐに息子を呼び戻すよう、知り合いの軍の上層部に要求するのだった。しかしこれが皮肉にも、逆に後味の悪い結果を呼び覚ましてしまうことになるのであった。

 両親の葛藤シーンが第一幕で、息子とその同僚たちが国境の検問所で間延びしたような任務をこなしているシーンが第二幕となる。そして大逆転の第三幕で終演という流れなのだ。そしてほとんどのシーンが同じような場所で、同じようなメンバーで推移してゆく。まるで舞台劇を観ているようである。
 
 なかなか難解な作品で、第三幕が始まるまでは、ストーリーの意図がなかなか掴めない。第二幕のオープニングで突如ラクダが登場するのだが、このラクダこそがこの作品の鍵となっている。なんとなくプロ好みの作品という感が否めないのだが、観る者を選ぶ作品であることも間違いないだろう。

評:蔵研人

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2019年7月13日 (土)

MEG ザ・モンスター

★★★

製作:2018年 米国 上映時間:113分 監督:ジョン・タートルトーブ

 かつて人が潜ったことのない深海が発見され、最新鋭の潜水艇で調査に行くのだが、そこでは200万年前に絶滅したはずの超巨大鮫メガロドンが生息していた。そしてなんとその怪物は、人間の後を追って近海へ現れるのであった。
 という怪生物パニック映画であるが、不思議と恐ろしさも緊張感もないのだ。たぶん主演のジェイソン・ステイサムが余りにも人間離れした強さを発揮したからかもしれない。なんとなくプレデターと戦ったシュワちゃんを髣髴させられてしまったね。

 だからパニック映画というより、「ステイサム型のアクション映画」と言ったほうが分かり易いかもしれない。もちろんメガロドンは、全長20m超の巨大モンスターであり、いくらステイサムが強いといっても、素手で倒せる相手ではないのだが・・・。
 本来こうした怪生物ものは、次々に人が殺されてゆき、最後に敵の弱点を見つけた主人公だけが、なんとか必死に生き延びるというパターンが多い。ところが本作では、海洋アクション・家族愛・淡い恋愛などに力点が移ってしまい、パニック映画としては中途半端な展開となってしまったようだ。残念ながらそれが、緊張感や恐怖感を薄めてしまったのだろう。

評:蔵研人

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2019年7月10日 (水)

ワイルドライフ

Wlife

★★★★

製作:2018年 米国 上映時間:105分 監督:ポール・ダノ

 監督のポール・ダノは、『ラブ&マーシー 終わらないメロディー』で主役を演じた俳優だが、本作で初めて監督を経験している。
 さて本作の時代背景は1960年代で、ジェリー(ジェイク・ギレンホール)一家は、モンタナ州の田舎町へ引っ越して来る。14歳の息子ジョーはフットボール部に入部したが、なかなか馴染めない。だが父親・ジェリーがゴルフ場で働き、母親ジャネット(キャリー・マリガン)が楽しそうに家事に専念している姿を見てホッとしていた。

 ところがある日ジェリーが仕事をクビになってしまう。はっきりした原因は分からないが、たぶん客と賭け事をしたためではないだろうか。その後上司から、誤解があったのでもう一度復帰してみないかとの連絡があるのだが、もうその職場では二度と働きたくないと言うのだ。
 このあたりから、なぜこの家族がこの地に引っ越して来たのかが、それとなく解明されることになる。そうジェリーはいつも現実と向き合うことが出来ず、仕事も長続きしないようなのだ。

 そんな夫に我慢しながら、なんとかついてきたジャネットだった。ところが突然ジェリーが「危険な山火事の消火に行く」と言い出すと、ついに切れてしまうのだった。そして仕事先で知り合った金持ち爺さんと出来てしまうのである。
 本作は息子の視点で創られているため、その経緯をずっと見ているジョー少年の辛さと切なさがひしひしと伝わってくる。ジョーはほとんど文句を言わないのだが、その心象風景は若い監督だからこそ巧みに描けたのかもしれない。

 なぜジェリーは妻が反対するボランティアのような山火事消火作業に参加したのか、それは自分の不甲斐なさのために妻や息子に労働を強いてしまった苦悩の裏返しなのだろう。また山火事自体も小さな火種から大きな災害になる。それと同様に、家族関係もちょっとしたきっかけが災いして、崩壊してしまうという戒めが込められているのである。いずれにせよ夫婦と息子の三人とも演技力が素晴らしく、ことに父母の双方を愛しているジョーのピュアな葛藤を演じたエド・オクセンボールドには絶賛の拍手を送りたい。

評:蔵研人

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2019年7月 6日 (土)

パスト&フューチャー 未来への警告

★★★

製作:2018年 スペイン 上映時間:92分 監督:ダニエル・カルパルソロ

 タイトルがなんとなくタイムトラベル風だったので、思わず衝動借りしてしまったのだが、現在と10年後を同時進行で描いたスペイン産のミステリーであった。ではなぜ10年間の時を隔てて、同時進行して描かれなければならないのだろうか。

 それはあるコンビニで、1913年、1955年、1976年、2008年の同じ日に、発砲による殺人事件が発生したからである。これは偶然か呪いなのだろうか。さらにはどの事件も、現場に居合わせた被害者・犯人・目撃者は合計5人で、その年齢構成は、53歳・42歳・32歳・21歳・10歳なのだ。そのパターンを解析した数学者のジョンが出した結論は、『10年後の2018年4月12日に、そのコンビニで10歳の子供が死ぬ』というものだった。
 その因果律を阻止するために、ジョンは必死に動き回るのだが、周囲の人々は彼を異常者扱いするばかり。そして彼の行動は全て空回りして増々悪い方向へと反転してゆくのだった。
 
 一方10年後に殺される予定の子供は、母子家庭のためか、学校でいじめの対象となっている。また母親が過剰に関与してくるため、なかなか独り立ちできない。そして少年は、4月12日にコンビニに行くと殺されるという警告書を発見し、さらに臆病になってしまう。
 ところが母親は、そんな息子を強くしようと、嫌がる少年を無理矢理コンビニへ連れて行くのである。そこへ拳銃を持った強盗が侵入してくるのだが…。

 こうした展開により緊迫感を持たせるため、10年の時を隔てて同時進行風に描いたのであろう。それはそれで良いのだが、どうもジョンの行動に冷静さが全くみられず、まるで麻薬中毒者のように悪夢に襲われる状態にイライラが募ってしまう。また嫌がる少年を強引にコンビニへ引っ張ってゆく母親のしつこさも納得できない。
 ラストの締めくくりが気になるので、それとなく退屈もせず観終わったのだが、なにか余りすっきりしないし、殆ど予測の範囲内で感動もなかったのが非常に残念である。まあ悪い映画ではないのだが、数字ばかりいじくりまわさないで、もっと人間関係の部分を掘り下げて欲しかったね。

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2019年7月 3日 (水)

タクシー運転手

★★★☆

製作:2017年 韓国 上映時間:137分 監督:チャン・フン

 ドイツ人記者ピーターが登場するあたりから、序盤のコミカルタッチな展開とうって変わり、急にシリアスで重いヒューマンドラマに衣替えしてしまうところが、いかにも韓国映画らしいよね・・・。
 なおこの作品は、1980年5月に実際に韓国で多数の死傷者を出した『光州事件』を世界に伝えたドイツ人記者と、彼を危険な事件現場まで送り届けたタクシー運転手の実話がベースになって創られた。そしてなんと韓国で1200万人を動員する大ヒットを記録したと言われている。

 それにしても光州事件は余りにも惨過ぎる。一体どこまでが真実でどのシーンが映画としての創作なのであろうか。催涙弾やら放水などは現実的だが、無防備の国民をあそこまで無差別に銃殺したのだろうか。あれではまるでナチではないか、いやナチでも自国民にあそこまで乱暴な行動はとらなかったはずである。しかもそれほど大昔の話ではなく1980年代という最近の話なのだから、人間ほど恐ろしい生物は他に存在しないだろう。

 なかなか出来の良い映画だとは思うのだが、個人的にはラストの光州タクシーのアクションシーンは余り気に入らなかった。また警察のしつこさや無差別銃殺の後味の悪さが鼻を突いて余り楽しめなかった。ただ韓国では近年このような忌まわしい事件があった、という史実だけが脳裏に刻まれた感がある。

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2019年6月28日 (金)

インビジブル・ゲスト 悪魔の証明

★★★★

製作:2016年 スペイン 上映時間:106分 監督:オリオル・パウロ

 かなりケバいタイトルでB級映画を連想してしまうのだが、実は正統派の本格的ミステリー作品なのでご心配なく。それにしてもやはり「悪魔の証明」という副題は何とかならなかったのだろうか。
 
 実業家でかなり裕福なドリアは、不倫相手ローラと山のホテルで密会し、そのあと「彼女との別れ話がこじれて殺害したのでは」との容疑で逮捕されてしまうところからスタートする。だが彼は無罪を主張し、ローラは部屋に潜伏していた何者かに襲われて殺されたと証言するのだった。さらに自分自身も、その何者かに襲われて失神していたと言うのだ。

 だが当時の現場は内側からチェーンキーがかけられており、7階の部屋なので窓から逃げることは出来ない。従って警察は、ドリア以外の者の犯行は考えられないとして彼を逮捕したのだが、彼は金に任せて有能な弁護士を複数雇って無罪を立証しようとする。

 その弁護人の一人が凄腕の女性弁護士グッドマンであった。だが彼女はなぜかまるで検察のように、これまでのドリアの証言を全て覆し、真実を語らなければ無罪の道を創ることは出来ないと脅迫するのだ。さらに密室殺人のトリックも全て解明してドリアを信用させるのである。

 こんな具合でドリアとグットマンのやり取りの中から、話は何度も過去にさか登って、いろんなうねりを生じてゆく。ところがあるタイミングで、話は密室事件よりもっと不幸で悲しい事件のほうに吸収されてしまうのである。そこからはまるで『罪と罰』の「ラスコーリニコフ状態」と言っていいだろう。
 そしてラストへ繋がるどんでん返しは実に見事なのだが、かなり無理があり納得感を得られないのだ。たとえ元演劇部員で抜群の演技力とメーキャップ力を発揮することまでは了解できるとしても、短期間に専門的な知識や技術を完璧に身に着け、真似ることは100%不可能だと言いたいからである・・・。

評:蔵研人

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2019年6月25日 (火)

女は二度決断する

★★★

製作:2017年 ドイツ 上映時間:106分 監督:ファティ・アキン

 この邦題の意味は、裁判と復讐の二つの選択を意味しているのか、あるいは二回目の復讐行為を指しているのだろうか。いずれにせよ「土曜サスペンス劇場」的な安易なタイトルにしか感じられない。ただ英語なら原題をそのまま邦題化できるのだが、この原題はドイツ語の「Aus dem Nichts」(何もないから)なので、なかなか邦題化が難解であることも確かである。

 舞台はハンブルグ、「お金も地位も名誉もいらない。彼女がいれば幸せ」という歌詞に載せて、主人公カティヤと夫ヌーリの獄中結婚式がはじまる。なぜ獄中結婚式なのかの説明はないのだが、罪を犯したヌーリが出所後にはきっと幸せな家族を創ってゆくのだろうと予感させるオープニングである。

 確かにそれまで大麻の売買に関わっていたトルコ移民のヌーリは、結婚後真面目に働き、可愛い息子にも恵まれ三人でそこそこ裕福で幸せな生活を送ることが出来るようになっていた。ところがある日突然、ネオナチのテロ攻撃に巻き込まれ、ヌーリと6歳の息子が命を落としてしまうのである。

 このあと二人の犯人がすぐに逮捕され、法廷でのやり取りに終始する。そしていかにも我らが犯人だと言わんばかりの病的な陰険さが顔付に染みついた犯人夫婦が、怪しげな弁護人と一緒に登場し裁判が始まる。
 もちろん犯人たちは一言も喋らないが、この弁護人がとにかくよく喋る。冒頭から被害者の同席を延々と屁理屈を並べて拒否するなど、終始憎々しい強引で手前味噌な論理でゴリゴリと難癖を付けたり弁護演説を続けてゆくのだ。

 ちょっとチープな裁判ではあったが、この怪しくて憎らしい弁護人の存在もあり、かなりストーリー引き込まれ、これからの展開にワクワクしてしまった。ところが圧倒的に犯人たちが不利と思われていたにも拘らず、なんと最終判決は『無罪』と言い渡されてしまうのである。
 せっかくこれからさらに盛り上がる法廷シーンを期待していたためか、観ているほうが、被害者であるカティヤ以上に失意の底に突き落とされてしまうだろう。そしていきなり終盤の『海辺の復讐劇』へと急展開してしまうのだ。

 もうここからは復讐以外殆ど何もない。ヒューマンドラマかと思ったら結局は単なる復讐物語だったのかと、私のように失望してしまう人もいるかもしれない。まあ二度目の襲撃が一度目よりマシではあるが、いずれにせよ大同小異であり、個人的にはあくまでも裁判での決着を望んでいた。そして犯人よりも憎々しいあの怪しい弁護人が挫折するシーンを観てみたかったね。

 もっと言えば、この作品は主人公カティヤの行動だけに的を絞り過ぎたことが不満の原因かもしれない。なぜ犯人たちがネオナチになったのか、なぜ今になってヌーリを殺害する気になったのかなどの動機や背景が全く描かれていないのは余りにも温過ぎるのだ。また少なくとも、カティヤの二度目の襲撃への心変わりや葛藤について、もう少し丁寧に描いていれば少し心に沁みる作品になったのかもしれない。

評:蔵研人

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2019年6月21日 (金)

サーチ

★★★

製作:2018年 米国 上映時間:102分 監督:アニーシュ・チャガンティ

 ネットでの評価がかなり高かったので、期待してレンタルしたのだが、私には余りフィットしない映画だった。まず最初から最後までザラザラしたPC画面オンリーなので、非常に疲れてしまい途中で何度も睡魔に襲われてしまった。
 撮影手法としては斬新なのかもしれないが、観る側のことをもう少し考えて欲しい。ことに年配の観客には非常に辛いものがあった。せめてあんな画面は、オープニングから15分以内程度で終わらせて欲しかったのに・・・それにしても我慢して、とうとう最後まで投げなかった自分を褒めてやりたいくらいだ。(苦笑)

 さてストーリーそのものはよくある話で、行方不明の愛娘を父親が必死に探し当てるという展開である。従って撮影手法は新しくとも、ストーリーのほうは既に手垢のついたお話に過ぎない。また死体が発見されていないのに、犯人の自供だけで殺人事件として片づけ、葬式までしてしまうのはいかがなものか。さらに取って付けたようなラストのどんでん返しも、ちょっと安直ではないだろうか。

 まあ詰まらない映画と言う訳ではないがちょっと期待外れだった。またなぜこれほどネットでの評価が高いのかも理解出来ない。たぶんPCやスマホ好きの若者向けの映画なのかもしれないね。

評:蔵研人

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2019年6月18日 (火)

エル ELLE

★★★

製作:2016年 フランス 上映時間:131分 監督:ポール・ヴァーホーヴェン

 本作は鬼才ポール・バーホーベン監督が描くエロティックサスペンスという触れ込みである。オープニングは猫が怯えているようなシーン。そしてその向こうの部屋では、自宅に侵入してきた屈強な覆面男に馬乗りにされ、顔面を殴られてレイプされている熟女の姿が…。

 その熟女こそイザベル・ユペールが演じるゲーム会社のCEOを務めるミシェルなのだが、彼女は独りで豪邸に住み、決して妥協を許さないため社員たちには嫌われていた。だから彼女をレイプしたのもその社員の一人かもしれない。また彼女はレイプされたことに腹を立てているものの、警察嫌いのため通報もしないし、何事もなかったようにいままで通りの生活を続けてゆこうと決心する。
 
 しかし時々レイプされたときの記憶の断片がフラッシュバックするようになり、犯人が身近にいると気付いたミッシェルは、その正体を突きとめて復讐しようと考えるのだった。
 こんな調子でストーリーが流れてゆくのだが、中盤ころから急に展開が変わってしまい、父母や元夫、息子との親族関連話やら社内の不倫話などが混在してくるためミステリー色がだんだん薄れてくる。

 この映画は一体何にポイントを絞りたいのか。主題が行方不明になってしまいそうになるのだが、また終盤になってサスペンス臭が戻ってくるという展開なのである。
 映像は美麗だし、イザベルの演技力は抜群で、登場人物のほとんどが変態のオンパレードという衝撃的な作品である。ただ欲張り過ぎたためだろうか、「サスペンス」、「エロ」、「ブラックコメディー」、「宗教批判」などなど、余りにも多くのテーマを混在させてしまったのは落ち着きが無さ過ぎると感じてしまった。
 
 それにしても女性たちのパワーが猛烈な映画だね。男たちは皆添え物に過ぎないじゃないの。それにあれだけの豪邸に住んでいても、家の前の道路が駐車場とは、それに運転が下手なくせに縦列駐車ばかり。フランスのお国柄を発見できる映画でもあった。

評:蔵研人

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2019年6月15日 (土)

ヴェノム

★★★☆

製作:2018年 米国 上映時間:112分 監督:ルーベン・フライシャー

 宇宙から採取した数体の地球外生命体『シンビオート』が、人間に寄生して圧倒的なパワーを発揮する。そして地球制服を企むのだが、ジャーナリストのエディ・ブロックに寄生した一体だけが、妙にエディに親近感を抱きダークヒーローとして活躍するという話である。
 このシンビオートは、なんと人間を餌にしているという特性も含め、まさに日本のコミック『寄生獣』のパクリと言ってもよいほどそっくりなストーリー展開なのだ。

 ヒーローものと言っても、初回作でその生い立ちが中心となるため、どちらかというとエイリアンとかプレデターを彷彿させられてしまう。きっと次回作からは、純粋なダークヒーローとして活躍するのであろう。
 チラシをみると、かなり気味の悪い怪物が大写しになっているのだが、ストーリーもキャラもかなり大雑把で、妙にコミカルで軽いノリなのだ。そんなところも含めて、まさに『寄生獣』そのものと言えよう。
 まあかなり突っ込みどころも目立つのだが、そこそこ面白かったので余りゴチャゴチャと批判するのはやめておこう。ただ続編が出来ても興味が湧きそうもないことだけは確かである。

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2019年6月12日 (水)

V.I.P. 修羅の獣たち

★★★★

製作:2017年 韓国 上映時間:128分 監督:パク・フンジョン

 北朝鮮のエリート高官の息子キム・グァンイルは、ロシア・香港・韓国へ転々と亡命していた。だがこの青年はサイコパスで、その先々で異常な殺人事件を繰り返していたのである。
 彼が犯人であることを本能的に確信した剛腕警視チェ・イドは、十分な証拠固めをせずに彼を逮捕するのだが、なぜか上層部によってもみ消されてしまう。その理由は韓国国家情報院と米国CIAの思惑が絡んでいたからであった。

 大規模なアクションシーンがある訳ではないが、複雑に絡み合う人間関係と、美しい顔をしているキム・グァンイルの憎々しい態度と、剛腕警視チェ・イドのしつこさが見ものである。また序盤にかなり残酷な殺人シーンが映し出されるので、ここで観るのを辞めてしまう女性が多発しているらしい。ただ残酷シーンを挿入することにより、犯人の異常さを克明に描写できたのだと考えれば致し方ないのかもしれない。

 いずれにせよラストには、それまで鬱積していたストレスが一気に解消されて、溜飲が下がることになるだろう。またそのラストとオープニングが見事に繋がって、オープニングの殺し屋の正体もはっきりすることになる。韓国産のクライムサスペンスが好きな人にはお勧めの一本である。

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2019年6月 8日 (土)

アメリカン・アニマルズ

American

★★★☆

製作:2018年 米国 上映時間:116分 監督:バート・レイトン

 2004年にケンタッキー州で、4人の大学生達が引き起こした「時価1200万ドルのビンテージ本強奪事件」を映画化した作品である。本作では実際にこの事件を実行した4人が頻繁に登場し、彼等のインタビューを交えながら、ドキュメンタリー風に展開してゆく。なかなか珍しい手法なのだが、本作より1年前に製作された『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』で既に用いられている。

 本作では犯罪実行よりも、それに至る経緯とその準備などにほとんどの時間を費やしている。従って派手な強盗やアクションシーンは全くなく、司書のおばちゃんが手足を縛られる程度である。
 また犯人たちは『オーシャンズ11』などの犯罪映画を参考に作戦を練るのだが、現実はそれほど上手くゆかないし甘くもない。それどころか終盤はドタバタの連続で、まるでおバカなコメディのような展開に終始する。だがそれが全く笑えないところに、この映画の虚しさと現実感が漂ってくるのである。

 老人に変装して堂々と真昼間の図書館に侵入するまではかなり格好良かったのだが、そのあと予定が狂ってしまい急遽中止にしたのは正解だったかもしれない。だがもうそれでメンバーの気分はバラバラになり、翌日の繰り延べ実行は既に無理な状態だったのである。この心理描写を決して見逃してはならない。現実とはこんなものであろう。

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2019年6月 4日 (火)

居眠り磐音

Iwane2

★★★★

製作:2019年 日本 上映時間:121分 監督:本木克英

 本作のポスターを見ておやっと思った。松坂桃李の表情が、かつて美男俳優・市川雷蔵が演じた『眠狂四郎』の妖気漂う表情とそっくりだったからである。そのポスターと久々の本格的時代劇という触れ込みにつられて、ついに映画館まで足を運んでしまった。

 原作は佐伯泰英の大ヒット小説シリーズで、すでにTVドラマ化されたり漫画化されており、遅ればせながらやっと映画化されたことになる。最近の時代劇はコメディーものや荒唐無稽でバタ臭い作品が多かったので、本作のような本格的な時代劇が製作されると嬉しくてたまらない。
 物語のほうは、松坂桃李扮する豊後関前藩の坂崎磐音と幼馴染みの小林琴平、河井慎之輔は、三人揃って江戸での修行を終え、連れ立って故郷に帰るところから始まる。そして明日は磐音と琴平の妹・奈緒との祝言を控えていた。

 ところが帰宅途中の慎之輔は、叔父に捕まり居酒屋に連れられ、留守中に妻の舞が不貞を犯したという噂話を聞かされる。それに激高した真面目な慎之輔は、帰宅早々理由も聞かずに妻を斬り捨ててしまうのだ。その妻・舞は琴平の妹であり、今度は琴平が怒り狂って慎之輔とその叔父を斬ってしまうのであのである。さらにはその琴平の行動を咎める国家老の命により、磐音が琴平を上意討ちにしてしまうのだった。

 琴平の乱心のため、小林家は御家断絶となり、磐音と奈緒との祝言も中止となる。磐音は二人の幼馴染みを失った衝撃に立ち直れず、奈緒を置いたまま脱藩し、江戸で浪人生活を送ることになってしまう。そしてここからが本番で、磐音の昼はウナギ職人、夜は両替屋の用心棒という生活が始まるのである。

 本格時代劇と言っても、藤沢周平の時代劇シリーズなどのように、田舎の藩の中だけという狭い世界で侍同士のトラブルを描いた話ではない。序盤の事件はともかく、話の中心は江戸であり、侍だけではなく町人や浪人たちが群像劇のように入り乱れて登場するのである。
 また松坂君の殺陣もなかなか様になっていたし、異形ながらもスピード感溢れる立ち回りも見応えがあった。ただ終演があっさりし過ぎていたことと、磐音の苦悩と葛藤が余り伝わってこなかったのが、少々物足りなかったかもしれない。

 昔は『座頭市』『眠狂四郎』『忍びの者』『子連れ狼』など多くの時代劇映画がシリーズ化されたものである。本作は前述した『座頭市』と『眠狂四郎』を混ぜ合わせ、そこに武士の悲哀を重ねたような作品であり、なかなか見所のある映画に仕上がっていた。多分シリーズ化されると思うので、次回作を楽しみにして筆を置くことにしようか・・・。

評:蔵研人

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2019年6月 2日 (日)

タイムトラベル 本と映画とマンガ を立ち上げました

 タイムマシン、タイムトラベル、タイムスリップ、時間ループ、パラレルワールド、その他時間に関係する本、映画、マンガ作品を紹介するブログを新規立ち上げました。本ブログの姉妹ブログです。どうぞ一度、覗いてみてください。↓下記URLをクリックしてね(^_-)-☆
    ​​http://ryuugorinji.livedoor.blog/​​

作:蔵研人

 

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2019年5月30日 (木)

ビリーブ 未来への大逆転

Bleeve

★★★★

製作:2018年 米国 上映時間:120分 監督:ミミ・レダー

 現在、合衆国最高裁には三人の女性判事が在籍している。本作はその一人であるルース・ベイダー・ギンズバーグの半生に迫るヒューマンドラマである。
 彼女は貧しいユダヤ人家庭に生まれ育ったが、負けん気の強さと異常なほどの努力により、名門ハーバード法科大学院を首席で卒業する。その1950年代に在学していた女性は500人中たったの9人であり、女子トイレすら設置されていなかったという。
 また首席で卒業したにも拘らず、ユダヤ系移民であること、子供がいること、そして女性であることなどの理由で、法律事務所には就職が叶わず、大学教授として働いていた。だがどうしても弁護士への夢を忘れられず、ある男性差別の訴訟記録を目にしてその弁護を無償で買って出るのだ。

 それは国を相手取っての訴訟だったので、はじめは全く勝ち目がなかったのだが、ギリギリのところで勝負に持ってゆく。そのラストの数分間の弁論はなかなか感動的であり、まるでそのシーンを見せるために創った映画のようであった。
 この裁判によって彼女は名声を得、その後のあらゆる差別問題に新しい判例を提示し、古い慣行に風穴を開けたのである。ことに現在女性たちが自由に活躍出来るようになったのは、まさに彼女のお陰だと言えるだろう。

 しかしその彼女を支えて応援してくれた夫マーティンの存在を忘れてはならない。料理下手の彼女に代わって夕食を作ったり、思春期の娘と気難しい母親の調停役になったり、弁護士活動を支援してくれたりと、まさに優しくて頼りがいのある夫の鏡のような存在だったのである。
 またマーティンは若くして精巣ガンに侵されて生存率5%と医者に宣告されたが、その後妻ルースの看病と大学での代筆などに助けられて、有能弁護士として働き78歳まで生きることが出来たのである。まさに夫唱婦随いや婦唱夫随か、どちらにせよ夫婦二人三脚で助け合い、尊敬し合いながらの人生を全うした結果なのであろう。実に羨ましい夫婦関係である。

評:蔵研人

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2019年5月27日 (月)

ライフ

★★★☆

製作:2017年 米国 上映時間:104分 監督:ダニエル・エスピノーサ

 一言で言えば『エイリアン映画』である。あのシガニー・ウイーバ主演のご本家『エイリアン』の大ヒットから数々のB級エイリアン映画が製作されているが、本作はかなりまっとうでリアリティーを追及しているSFホラー作品といえよう。また少人数ながら、キャストも主演のジェイク・ギレンホールや真田広之などと充実しており、そのキャラと演技力も文句の付けようがない。

 ただ成長したエイリアンの造形がタコのようでいま一つしっくりこなかった。さらには猛火を浴びせても、宇宙空間でも、しっかり生きている強烈な生命力と、賢すぎる頭脳力が現実離れし過ぎて気に入らない。
 またまさかのラストシーンは、想定外の展開で現実的なのかもしれないが、あのモタモタ感はどうにかならなかったのだろうか。それにあの終わり方は、昔からよくあるB級ホラー映画と全く同じパターンで、新鮮味が喪失してしまったことが悔やまれる。

評:蔵研人

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2019年5月24日 (金)

カメラを止めるな!

★★★

製作:2018年 日本 上映時間:96分 監督:上田慎一郎

 製作費が僅か300万円で、無名の俳優数人を配しただけの超B級映画である。ところが一部の有名芸能人が絶賛したことから、あっという間にネットで高評価が拡散してしまった。
 そして当初の2館上映から、なんと全国200館超の上映となる熱狂的フィーバー現象が勃発。さらに日本アカデミー賞にもノミネートされてしまった。その結果として興行収入は30億円を超え、イギリス、フランスでの上映も決定したようである。

 映画ファンとしては、良い悪いは別として、これほどの社会現象を巻き起こしたB級映画を観過ごすわけにはゆかないだろう。ということで、有無を言わさずこの作品をレンタルしてしまったのである。
 私の独善だけで結論を先に言ってしまえば、「そこそこ面白いのだが、社会現象を巻き起こすほど過熱する作品かな?」と首を捻りたくなる程度の評価しか与えられないのだ。
 ことに序盤の学芸会レベルの約30分間はとても鑑賞に堪えられず、何度もDVDプレイヤーを止めようかと心が揺れ動いてしまった。もしかするとそこで観るのをやめてしまった人もいるかもしれない。とは言っても、その魔の30分間さえ辛抱すれば、その退屈さの意味が解明されて面白くなってくるのだが、死ぬほど面白いという訳ではないのだ。

 またゾンビが登場するのでホラーなのかと思ったら全く怖くない。この手の映画を無理矢理ジャンル分けすれば、コミカルタッチな『種明かし映画』とでも言っておこうか。
 謂わば企画とアイデア勝負の映画なのだが、過去にも『サマータイム・マシン・ブルース』という、似たような作品があるので斬新的なアイデアという訳でもない。いずれにせよ好き嫌いが極端に分かれそうな映画だが、くれぐれも序盤の30分で投げ出さないこと。

評:蔵研人

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2019年5月21日 (火)

シンデレラ III 戻された時計の針

★★★☆

製作:2013年 日本 上映時間:75分 監督:フランク・ニッセン

 ディズニーアニメの名作『シンデレラ』をパラレルワールドの世界として創りあげたストーリーである。つまりもしガラス靴が義姉アナスタシアにぴったりだったらどうなるのというお話なのだ。
 ある日、魔法の杖を手に入れた義母が時間を過去に戻し、アナスタシアに合わせたガラスの靴を作り、お城に呼ばれることになるのである。もちろんシンデレラの顔を覚えている王子が、アナスタシアをダンスの相手と認めるわけがないのだが、また魔法の杖によって記憶を入れ替えられてしまうのだ。

 まあ視点を変えたシンデレラストーリーということでは評価できるのだが、やはりなんとなく結末は分かってしまうし、ねずみが大活躍という子供向けの展開にちょっぴり興ざめしてしまった。楽しい映画であることは間違いないのだが、大人がのめり込むにはもう一捻りが必要だろう。

評:蔵研人

 

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2019年5月17日 (金)

箱入り息子の恋

★★★★

製作:2013年 日本 上映時間:117分 監督:市井昌秀

 市役所勤務の健太郎は、35歳になるが彼女いない暦35年で、いまだ童貞で役所でもペイペイのままだ。そして定時にさっさと家に帰り、ペットの蛙に餌をあげテレビゲーム三昧の毎日。
 こんな息子の状況を心配した両親は、子供に代わって相手の親と対面する「代理見合い」をするのだった。そこで知り合ったのが、目の不自由な娘を持つ今井夫妻だったのだが・・・。

 普段無口でやる気のない健太郎が、本人同士の見合い本番の席で相手の父親に罵倒されながらも、きちっと正論で反論していくシーンからこの作品が盛り上がってくる。そして終盤の吉野家での『涙の牛丼』シーンには、きっと誰もがもらい泣きしてしまうだろう。

 そこまでは実にピュアな展開に終始していたのだが、ラストに向かって健太郎が猛烈にダッシュしてゆくところから、なんと急に過激な展開にチェンジしてしまう。まるで「ボーイズ・オン・ザ・ラン」を観ているような気分になってしまったが、今井家のシーンはちょっとハチャメチャ過ぎて付いてゆけなかった。
 
 目の不自由な今井奈穂子を演じた夏帆の純な可愛らしさも光ったが、何と言っても第37回日本アカデミー賞」新人俳優賞を受賞した星野源のぎこちない雰囲気が役柄にピッタシカンカンじゃないの。さらには二人の両親役を演じた平泉成、森山良子、大杉漣、黒木瞳の個性と存在感も評価したいね。

評:蔵研人

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2019年5月14日 (火)

アリスのままで

★★★☆

製作:2014年 米国 上映時間:101分 監督:リチャード・グラツァー

 若年性アルツハイマーに侵された50歳の女性言語学者の苦悩と葛藤を挟み、彼女を支えるファミリーたちとの絆を描いたヒューマンドラマ作品である。原作はリサ・ジェノヴァのベストセラー小説であるが、著者は神経学者であり、長年の研究で出会った人々をヒントにこの作品を描いているため、まるでノンフィクションのようにリアリティに富んでいて奥深い。

 また主演のジュリアン・ムーアが第87回アカデミー賞主演女優賞を受賞しているが、本作ではアルツハイマーが少しずつ進んで行く状態を見事に演じ切っている。まさに絶望に負けまいとするアリスの気高い戦いを演じるには、ピッタリのキャスティングであった。

 それにしてもアルツハイマーは他人ごとと片付けられない。現状では完璧な治療方法は存在しないので、とにかく早期発見して、薬で進行を遅らせるしかないようである。映画の中でアリスが「癌にかかればよかった。癌なら闘うことができる」と言ったセリフが印象的であった。それほど自分が自分でなくなることは恐ろしいものなのである。

評:蔵研人

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2019年5月11日 (土)

ラブレス

★★★☆

製作:2017年 ロシア,フランス,ドイツ,ベルギー 上映時間:127分 監督:アンドレイ・ズビャギンツェフ

 第90回アカデミー外国映画賞、第75回ゴールデングローブ外国映画賞にノミネートされ、第70回 カンヌ国際映画祭では審査員賞を受賞している完成度の高いヒューマンドラマ作品である。

 会社員のボリスと美容院を営むイニア夫婦は、お互いに愛人がおり険悪な雰囲気のまま離婚協議を続けていた。また二人には12歳の一人息子アレクセイがいるのだが、二人とも息子を愛しておらず、激しい口論の末お互いにアレクセイを押し付け合うのであった。
 それを聞いていたアレクセイは、悲しみの余り翌朝家を出たまま行方不明となってしまう。だがその父母たちはお互いに不倫相手と濃密なセックスに夢中になるばかりで、アレクセイが家出して2日後になってやっと彼の不在に気づく始末なのだ。

 警察に届けても、「忙しいので誘拐や殺人でない限り捜査できない」と断られ、民間のボランティア団体に依頼するように誘導して引き上げてしまう。
 やる気のない警察に見切りをつけた夫婦は、民間ボランティアの捜索隊に本件を依頼する。そのボランティア捜索隊は民間人らしからぬ手際よさで、すぐさまあらゆる方法で捜索を開始するのだがアレクセイは見つからない。

 こんな調子でストーリーは、不倫ドラマから一転してサスペンス的な展開にチェンジしてゆく。だからと言ってこの事件をきっかけにして、ボリスとイニアが夫婦関係を復活させるという結末になる訳ではない。それどころか捜査を続けるうちに、二人の関係は増々陰険になってくるばかりなのだ。そしてラストも生々しく救いがなく後味が悪い。だがそれがこの作品のキモであり、ハッピーエンドのハリウッド映画とは一線を画すゆえんであろうか。

 いずれにせよ最初から最後までずっと暗くて重苦しい。また人間関係の描き方もストレートで、ドロドロとしているので好き嫌いの分かれる作品かもしれない。なにせ子供の親権を争う話はよく聞くが、その逆は聞いたことがない。
 良く判らないがロシアの実態はかなり病んでいるのだろうか。子供を無視して自己快楽に耽る親たち、ところかまわずスマホばかりに夢中になっている大人達(これは全世界的傾向か)、そして無気力な警察。
 そんなときにウクライナでは、何の罪もない大勢の人々が不幸のどん底に突き落とされている、という皮肉汁もたっぷり盛り込んでいるではないか。また宗教的な終末観を煽る集団の話がバックに流れていたのは、何を意図していたのだろうか。

 それにしても、よくこんな映画の製作がロシアで許可されたものである。昔のソ連時代なら即没収ではないだろうか。それだけロシアも進化したのだろうか。ただ製作国がロシアだけでなく、フランス、ドイツ、ベルギーの4か国合作となっているところに仕掛けがあるようなきがするのだが・・・。

評:蔵研人

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2019年5月 9日 (木)

パッセンジャー

★★★★

製作:2016年 米国 上映時間:116分 監督:モルテン・ティルドゥム

 地球を出発して30年。乗客5000人を乗せた豪華宇宙船アヴァロン号は、目的地の惑星「ホームステッド2」に向けて、延々と航行を続けていた。もちろん乗客もクルーも全員が人口冬眠ポットの中で深い眠りについている。
 ところが宇宙船が突然小惑星と衝突し、その衝撃で大規模なシステムトラブルに陥ってしまう。もちろん大半のエラーは自動修復されたのだが、ただ一基の冬眠ポットだけが、冬眠状態を解除してしまうのである。
 
 目的地まではあと90年もある。このままでは死ぬまでたった一人で、宇宙船の中で孤独と戦い続けなくてはならない。その不運な乗客は、機械系エンジニアのジム・プレストン(クリス・プラット)という男性であった。
 ジムは必死で船内を探索するが、クルーたちが眠っている部屋にはパスワード無しでは入れない。そして一度解除した冬眠ポットを再度冬眠状態に戻すことも不可能だと理解する。

 船内ではバーテンダーのアンドロイドだけが唯一の話し相手。それでも船内に設置してある書籍やゲームなどで気晴らししているうちに、約1年が経過してしまうのであった。だがそれらにも限界があり、とうとう絶望と孤独に耐え切れず、自殺を試みるがそれも出来なかった。
 そしてとうとう冬眠ポットで眠っている美女オーロラ・レーン(ジェニファー・ローレンス)の冬眠を強制解除してしまうのだった。
 
 この行為は一人の人間の自由と尊厳を奪うという殺人と同一の行為であろう。この作品では、極限状況でのこの行為の正当性について観客たちに問うのだが、その回答は非常に難解である。そしてそれを彼女にずっと隠し続けることが出来るのだろうか。もちろん出来るはずがないし、そうでなければこの映画が成り立たない。そしてそれを切り抜ける手段はあるのだろうか。まずは本作をご覧あれ。

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2019年5月 6日 (月)

レディ・プレイヤー1

★★★★

製作:2018年 米国 上映時間:140分 監督:スティーヴン・スピルバーグ

 原作はアーネスト・クラインの小説で、仮想ネットワークシステム「オアシス」の謎を解き、開発者の遺産をゲットしようとバーチャルゲームに挑む高校生の活躍を描くSFアドベンチャー巨編である。
 現実世界では実写とVFXを駆使し、仮想世界はアバターを使ったCGの映像が凄まじいほど美しい。そして現実と仮想が入り組んで、仮想が現実を凌駕してしまうシーンも見事に折り込んである。

 とにかくかなりの構想が練られて、かなりの製作費が投入されたに違いない。いずれにせよ実現不可能と言われたこの作品を、いとも見事に映像化してしまえるのはスピルバーグだからこそであろうか。まあくどくど解説するよりも、百聞は一見に如かずだ。この超娯楽大作こそ絶対に映画館で観るべきだろうね・・・。

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2019年5月 3日 (金)

新感染 ファイナル・エクスプレス

★★★★

製作:2016年 韓国 上映時間:118分 監督:ヨン・サンホ

 ゾンビ映画で『バイオハザード』のパクリとも言えそうな作品なのだが、単純なパクリで片づけられない映画でもあった。それは逃げ場のない特急列車の中で、たった一人のゾンビに襲われた人々が次々にゾンビ化して凶暴性を発揮し、乗客たちが決死のサバイバルを繰り広げるパニック作品に仕上がっているからである。

 本作の原題は『TRAIN TO BUSAN 』であり、タイトルからはゾンビ映画であることを想像させない。つまりゾンビ映画であることを明示してしまうと、ジャンルが限定されてしまうため、観客層が限定されてしまうことを恐れたのであろう。そこで曖昧なタイトルや歪曲した言い回しで謎めかし、不特定多数の興味を煽ったのではあるまいか。
 そしてその手法が見事に当たったのか、韓国で2016年の観客動員数が第1位となった。さらには、米映画批評サイト「Rotten Tomatoes」でも高評価を獲得し、アジア諸国のほか北米でも公開されて大ヒットしているという。

 本作がこれほどのヒットを記録できたのは、単なるアイデアと緊張感だけではない。列車事故などの壮大なスケールに加えて、狭い空間での人間ドラマを巧みに織り込んだ脚本と演出の妙味にもあったのではないだろうか。
 また誰がどのようにして助かるのかも全く想像させない展開と、弱い者にはギリギリ優しかった結末にも納得できた。ただあの主役級の少女役を、もう少し可愛い子役に演じさせることは出来なかったのだろうか・・・。

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2019年4月28日 (日)

父、帰る

★★★★

製作:2003年 ロシア 上映時間:111分 監督:アンドレイ・ズビャギンツェフ

 菊地寛の小説ではありません。12年間行方不明だった父親が突然帰ってきて、二人の息子と謎の旅に出るという、ミステリアスなロシア映画なのです。
 優柔不断で優しい中学生の長男と、頑固で我がままな小学生の次男の好演が、特に光っていました。特に次男は表情を初め、体中から頑固さが漂っていました。あれは演技というよりは天性のものではないかと思いますし、万一演技だとすれば鬼気迫る大天才であります。
 それにしても不思議なタッチの作品でした。意外なラストの結末、父が行方をくらました理由、息子達を無理やり旅に連れ立った訳、謎の電話、土中から堀り出した謎の箱、これらの全てを説明しないままエンディングとなるのです。
 考えようによっては、馬鹿にされた気分になってしまうのではないでしょうか・・・。しかしながら一方では、この投げやりな終り方が、この作品に深みを与えているとも言えるでしょう。

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2019年4月22日 (月)

ドント・ブリーズ

★★★★

製作:2016年 米国 上映時間:88分 監督:フェデ・アルバレス

 一人住まいで盲目の老人の家に泥棒に入った若者三人だったが、実はその老人は元軍人でジェイソンのような恐ろしい男だった。登場人物ほぼ4人、場所もほとんど老人の家の中という低予算B級映画なのだが、その中味はかなり良質のスリラー作品と言って良いだろう。
 三人の若者のうち一人はどうしようもない不良男だが、その他の男女はいろいろ訳ありな家庭事情を抱えていて、やむを得ず泥棒をしているという雰囲気もあるのだが、だからと言って決して褒められた若者たちではない。また盲目の老人も不気味な精神異常者であり、結局4人とも共感を得られない面々ばかりなのだ。

 ジェイソンばりの盲目老人も恐ろしいのだが、あの犬の存在もかなり恐怖感を盛り立ててくれた。とにかくドキドキハラハラ、少し毛色の異なるスリラー作品である。ただつかまったり、逃げたり、倒したりを繰り返し過ぎで、なかなか大団円とならず、ちょっぴりしつこい感があったね。またラストも決してハッピーエンドではなく、やはりしつこさがへばり付いてくるようなエンディングだった。

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2019年4月17日 (水)

偽りなき者

★★★★☆

製作:2012年 デンマーク 上映時間:115分 監督:トマス・ヴィンターベア

 冤罪に巻き込まれあらゆるものを失い、集団的ヒステリー化した村で迫害される男の話である。本作はデンマークで記録的大ヒットを飛ばし、主演のマッツ・ミケルセンはカンヌ映画祭男優賞を受賞している。
 
 離婚した教師ルーカスは、郷里の村に戻って幼稚園の先生をすることになった。彼は子供たちの人気者だったのだが、ある日親友の娘であるクララにキスをされたりラブレターをもらった。だがクララのその行為を諭すと、彼女は自分の好意を拒絶されたと勘違いし、園長に「ルーカスにいたずらされた」とも取れる発言をしてしまうのである。

 そのあと園長はルーカスの話を良く聞かないまま、得体の知れないカウンセラーを連れてくる。そしてクララに対して誘導尋問のような質問を浴びせかけ、強引にクララから嘘の証言を引き出してしまうのだ。
 さらに園長は父兄や職員たちを集めて、ルーカスによってある少女が被害を受けたと吹聴する。さらには警察にまで訴えてしまい、とうとうルーカスは逮捕されてしまうのである。

 だが子供たちの発言は辻褄が合わず、証拠不十分ということでルーカスは釈放される。しかし無実となっても、狭い村の中で一度広まってしまった虚報は、まるでウィルスのように伝染して収拾が付かなくなってしまった。
 友人たちからは罵られ、食料品店では商品を売ってもらえず、ボコボコに殴られ、大きな石で家の窓が割られて、なんと飼い犬までが殺害されてしまうのである。

 とにかくこんなことになった発端は、全て職員の話を丁寧に聞かない女園長の早とちりである。この園長は決して悪人ではないのだが、世間知らずで事なかれ主義の小心者といったところか。またルーカスのほうもはじめからもっと強く反論すべきだった。彼は優し過ぎたのかもしれない。
 いずれにせよ恐ろしきは、集団心理である。現代風にいえば園長がインターネットで暴露した誤情報が大炎上してしまったということなのだろう。

 本作はヒューマンドラマなのだが、まるでホラーのようにじわりじわりと心を締め付けられるストーリーである。ただ唯一の救いは父親想いの素晴らしい息子と、ルーカスを擁護してくれた少数の友人の存在であった。
 本作の原題は『JAGTEN/THE HUNT』で、デンマーク語の「狩り」というような意味らしい。これはラストの意味ありげな鹿狩りシーンを示唆していると共に、村の人々の「魔女狩り」的な行動も指しているのであろうか。

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2019年4月11日 (木)

家族

★★★★

製作:1970年 日本 上映時間:107分 監督:山田洋次

  あの『男はつらいよ』シリーズの第一作が製作されたのが1969年だから、本作はその翌年に製作されたことになる。また本作はいわゆる山田監督の「民子3部作」の初作でもある。その影響か、出演者の多くが『男はつらいよ』とダブっていて実に興味深い。具体的には主演の賠賞千恵子をはじめとして、笠智衆、前田吟、三崎千恵子、森川信、太宰久雄そして渥美清と続くのである。

 ストーリーの背景は、高度経済成長期の日本であり、途中で大阪の万国博覧会の混雑振りが紹介されている。また東海道新幹線は東京~新大阪間しか開通しておらず、そのほかの新幹線はまだ全て未開通である。
 長崎の小さな伊王島で生まれた精一と民子は、結婚して10年の歳月が流れていた。だが精一の会社が倒産してしまい、彼の友人が勧めてくれた北海道の開拓地への移住を決心せざるを得なかった。

 一家は精一夫婦と子供が二人と精一の父親の5人である。まず船に乗り長崎に出て、列車に乗って精一の弟が住む福山で途中下車。さらにまた列車で大阪まで行き、新大阪から新幹線で東京に向かう。
 途中で子供が病気になって東京で足止めを食うのだが、さらにそこから先は地獄のような列車の旅が待っているのだった。現代であれば飛行機に乗れば一飛びなのだが、当時の航空運賃はかなり高額だったのだろう。

 このように延々と船や電車を乗り継ぎながら、様々なトラブルや不幸に見舞われながらも、「家族の絆」だけを拠り所に、力強く生きてゆこうとする姿が胸に沁みる感動作なのである。またなんとなく本作の7年後に製作される『幸福の黄色いハンカチ』を髣髴させられるロードムービーともいえる。
 なんと言っても、倍賞千恵子の瑞々しさと笠智衆のよき日本の穏やかな父親像がとても印象深く、高度成長期の日本がひしひしと伝わってくる良薬のような映画である。ことにラストでの二つの命の誕生が、それまでの苦労がやっと報われたようでとても嬉しかった。

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2019年4月 8日 (月)

シェイプ・オブ・ウォーター

★★★☆

製作:2017年 米国 上映時間:124分 監督:ギレルモ・デル・トロ

 原題は『THE SHAPE OF WATER』。直訳すると「水の姿」あるいは「水の形」という意味なのだが、このままでは意味不明である。そこでいろいろ調べてみると、ギレルモ・デル・トロ監督がこの難解なタイトルを説明している動画を見つけることができた。またその動画で監督は次のように語っている。

 「水は一番力を持った物質だ。どんな場所でも通り抜けるし、どんな形にもなり得る。グラスに入れるとその形になる。瓶の形にもなるしボトルの形にもなる。氷にもなるし蒸すこともできる、柔軟で強力だ。
 それは愛だと思う。愛する対象により形を変える。相手が誰であろうと、人種、肌の色、宗教、性別に関わらず形を変え全てに適応する。水は強力でやさしい物質だ。愛の形という認識だった。」

 つまりあらゆる障壁を超えたところにある『究極の愛の物語』を描きたかったのだろうか。だから本作に登場する主な人物は、ゲイ、黒人女性、障害者など差別を受けやすい人ばかり、そしてさらには究極の「半魚人」なのかもしれない。
 さて何といっても半魚人の登場は荒唐無稽なのだが、本作はモンスター映画ではなく、れっきとした恋愛映画なのである。それも人間と半魚人のラブストーリーなのだ。だから半魚人の姿はやや陳腐だが、CGではなく着ぐるみで優しい眼をしたぬいぐるみ仕様になっているのかもしれない。

 いずれにせよ監督が描きたかったのは、あらゆる障壁を超えたところにある『究極の愛の物語』なのだから、美女と野獣でもよかったのだろう。だがそれを半魚人と障害を持つ不美女にすることで、いまだかつてなかった斬新さを創造したのである。
 それにしても本作は、主役のイライザを演じたサリー・ホーキンスの熱演がなければ完成しなかったに違いない。『しあわせの絵の具』でも熱演していたが、美人でもなく貧相で小さい彼女が、これほどの大女優に駆け上がるとは誰が予測したであろうか。
 また本作は第90回アカデミー賞作品賞に輝いているのだが、半魚人の登場するファンタジー作品がアカデミー賞を受賞するなど、一体誰が想像でき得たであろうか。時代の流れとは実に恐ろしいものである。
 ただ注意しなければならないのは、残酷なシーンやエロいシーンが所々にちりばめられているので、お子様と一緒に観るのはやめたほうがよいだろう。

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«アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル