九月の恋と出会うまで

★★★★
製作:2019年日本 上映時間:106分 監督:山本透

  原作である松尾由美の同名小説を読んだのは、もう5年前のことであり、細かいストーリー展開と結末は余り覚えていない。それで新鮮な眼で本作を観ることが出来た。また登場人物が4人しか登場しないアイデア一辺倒の原作より、映画のほうが恋愛色に染まっていてストーリーも面白いし、スケールも広がっている。それに美しい映像と効果的な音楽が加わるから、珍しく原作を超えた映画と言ってよいだろう。
 ただタイムパラドックスとの因果関係については、やや解り辛いのであとで原作を読むと良いかもしれない。とは言っても、過去改変の影響については、原作でもいま一歩深みにはまり切っていないところが、かなり物足りないので念のため・・・。

 北村志織は、入居したばかりのマンションで、不思議な現象に遭遇する。なんと隣室に住んでいるが、ほとんど話をしたことのない平野という男性の声が、エアコンの穴から聞こえてきたのだった。それも一年後の未来から話していると言うのである。
 はじめは信じられない志織だったが、翌日の天候に始まり一週間分のニュースを言い当てられ、未来からの声だということを信じざるを得なくなってしまう。そのうえ現在の平野を尾行してくれという、奇妙な依頼を未来の平野から受けてしまうのである。だがなぜ尾行するのかという理由は教えてくれない。

 序盤は平野を尾行する理由の謎を追い、中盤はタイムパラドックスを避ける活動、そして後半に完全なラブストーリーへと変換してゆく流れは、「なかなか見事な脚本に仕上がっている」と褒めてもよいだろう。思わず一昔前に、こんな感性の韓国映画をよく観たことを思い出してしまった。
 また主演の高橋一生と川口春奈の演技力と存在感もなかなかであり、二人ともしっかりとこの役柄にはまっていた。まあどちらかと言えば、タイムトラベルよりも恋愛ものとして若い人たちにお勧めの作品かもしれないね。

評:蔵研人

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2020年1月20日 (月)

バイス

★★★☆
製作:2018年 米国 上映時間:132分 監督:アダム・マッケイ
 
 タイトルの『vice』とは、「vice president(副大統領)」のように役職の前に付く場合は「副;代理」を意味するのだが、単独の名詞としては「悪徳;悪玉;欠陥」といったネガティブな意味も持っている。たぶん本作は、その双方の意味を含んでいるのであろう。
 
 本作は実話を下敷きにして、ジョージ・W・ブッシュ政権で副大統領に就任したディック・チェイニーの半生を皮肉を込めて描いているようだ。通常副大統領とはほぼ飾り物で、大統領に何かがあった場合の非常口的な役割しかない。ところが彼の場合は、史上最強の副大統領、あるいは影の大統領と呼ばれたくらい権力を掌握していたという。そして少々おつむの弱そうなブッシュを巧みに洗脳して、あの悲惨な湾岸戦争へと導いた張本人とも言われているのである。

 本作は第91回(2019年)アカデミー賞8部門にノミネートされ、最終的にはメイクアップ&ヘアスタイリング賞を受賞している。それもそのはず、まず主演のクリスチャン・ベールが、なんと20キロ近く増量したり老け顔に変身しているではないか。
 さらにラムズフェルド役のスティーブ・カレル、ブッシュ役のサム・ロックウェル、パウエル国務長官役のタイラー・ペリーなども、まさに本物そっくりの再現度を実現しているのである。

 またこの映画を観ていると、1960年代から現代までの米国政界の内幕や権力構造をパラパラと垣間見ることが出来る。まさにこれこそ「社会派政治ドラマ」だと思い込んでジャンルを調べたら、なんと「コメディ」と記載されているではないか。
 実ははこの『バイス』という映画は、悪徳政治家たちの権力ゲームを笑い飛ばすという趣向の、過激なブラック・コメディということらしい。それにしても現存している大物たちを、これだけ皮肉たっぷりに批判できる米国という国の懐の広さには感心してしまうよな・・・。

評:蔵研人

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2020年1月17日 (金)

ブラック・クランズマン

★★★☆
製作:2018年 米国 上映時間:128分 監督:スパイク・リー
 
 第91回アカデミー脚色賞及び第71回カンヌ国際映画祭グランプリに輝いた実録ドラマである。オープニング映像に『國民の創生』と『風と共に去りぬ』の名作映画が流れるのだが、はじめはその意図するところが分からない・・・。
 実はこの二作は米国の奴隷制度を肯定し、当時を美化していることで成り立っている作品ということになる。そしてそれを観て気勢を上げ熱狂しているKKK(白人分離主義者グループ)の集会批判に繋がってゆくのだ。

 さらには米国ファーストを唱えるトランプ大統領と、その支持者たちに異を唱えるメッセージも込められているのであろう。もっと言えば、この時期にこんな映画を創ったスパイク・リー監督の心情とは、トランプ大統領の台頭により、南北戦争の惨劇と70年代の黒人対白人の壮絶な争いの歴史が繰り返されることを強く危惧しているのではないだろうか。

 さて人種問題をテーマにしてアカデミー賞を受賞した作品と聞けば、いかにも重くて堅苦しい映画を想像してしまうのだが、本作は不思議なくらいかなり軽いノリで楽しめる映画に仕上がっている。これは主人公ロンのポップで明るい性格と同僚刑事フリップのちょっぴり頼りない様子なども描かれているため、シリアスとコメディが絶妙に組み合わさったストーリーになっているからであろう。
 この主人公ロンを演じたジョン・デヴィッド・ワシントンは、なんとあのデンゼル・ワシントンの長男で、元プロアメリカンフットボール選手として活躍したこともある俳優なのだと知ってまたびっくりしてしまった。

 また本作と同時期に製作された『グリーンブック』も、本作同様黒人差別がテーマであり、実話が元ネタで黒人と白人のコンビで話が展開し、差別している白人たちが馬鹿や悪人らしく描かれているという共通点がある。ただ大きく異なるところは『グリーンブック』のほうは、黒人と白人の友情を描いてハッピーエンドで楽観的にしめくっているのだが、本作は現実的で悲観的な観点で描かれているのだ。

 そしてこの2作は同時期にアカデミー賞を競ったのだが、『グリーンブック』が作品賞で、本作が脚色賞という結果で終わってしまった。結局のところ、やはりエンターテインメント性と分かり易さで『グリーンブック』に軍配があがったということなのだろうか。
 ただいずれにせよ、本作が優れた映画であることは認めるとしても、米国の歴史や国内事情に染まっていない私には、いまひとつ本気で共感するスピリットが燃え上がらなかったことも確かである。


評:蔵研人

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2020年1月14日 (火)

アリータ:バトルエンジェル

★★★★

製作:2019年 米国 上映時間:122分 監督:ロバート・ロドリゲス
 
 『銃夢』という木城ゆきとのコミックを、ジェームズ・キャメロンが脚本と製作を手掛けて実写化したSFアクション映画である。原作は日本のマンガなのだが、ハリウッドの圧倒的な製作予算によって実現した作品と言えよう。
 いずれにせよ、ビジュアル・スピード感・アクションのどれをとっても不満のない作品に仕上がっているのだが、続編含みのラストがスッキリせず、カタルシスを得られないところが非常に残念であった。そしてアリータは一体何者だったのか、という謎の解明も続編に持ち越されてしまったのである。

 今のところ続編がいつ頃製作開始される、と断言できるはっきりした情報は流されていないようだ。また同時製作でない限り続編製作にもかなりの時間が必要と思われる。だから既に製作を開始している状況でなければ、1~2年以内に上映されることはまず不可能であろう。それに続編が完成する頃には、多くの人がどうでも良くなってしまうかもしれない。
 まあこのあたりが、大長編作品製作の難しさと言えるのだろう。だったら続編を待つよりも、原作のコミックを全巻読み切ってしまったほうが手っ取り早いかもしれないね・・・。

評:蔵研人

 

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2020年1月11日 (土)

A.I.ライジング

★★

製作:2018年 セルビア 上映時間:86分 監督:ラザル・ボドローザ

 珍しいセルビア発のSF映画である。宇宙飛行士とアンドロイドの恋愛というキャッチコピーであの『エクス・マキナ』を連想してしまった。またベオグラード国際映画祭5部門受賞するなど、世界中の映画祭で絶賛されたというのだ。
 それにミステリアスで壮大な宇宙をバックに描いた美しいポスター。それで思わずレンタルDVDショップの店頭で、衝動レンタルをしてしまったのである。

 借りてから自宅でネットの口コミを読んだら、余りにも酷い評価のオンパレード。だが実際に自分の目で確かめてみないことには、うかつに信じられない。と一縷の希望にすがってDVDを回してみたのだが・・・。

 2148年、宇宙飛行士・ミルーティンは、ケンタウルス座アルファ星の調査を、世界最大の宇宙開発社であるエデルレジ社から依頼される。ただ彼は過去の任務中に、何度も女性関係でもめごとがあったことから、今回は女性型のアンドロイドが同伴者に選ばれることになる。このアンドロイドはニマニと呼ばれ、500通りの性格を選べて、ミルーティン好みの外見にカスタマイズされていた。

 ここまでのオープニング設定では、これから何が起きるのか、人とアンドロイドがどのように愛し合うのかと期待を持たせるのだが、実はこの映画の観どころはここまでで、あとはいきなりセックスシーンに突入。宇宙船の中でいろいろ仕事があると思うのだが、その後もやることと言えば、ただただセックスばかり。
 全くストーリーの片鱗もなく、今度は単調なセックスに飽きたミルーティンが、アンドロイドに人間の心を埋め込もうと画策するというだけのお話である。

 それでもラスト近くになって、やっとこの映画最大の観どころが描かれるのだが、時すでに遅しそれでザ・エンドとなってしまうのである。期待感が大きかったせいか、かなり拍子抜けしてしまった。
 だが神秘的な雰囲気を醸し出す映像とスピリチュアルな音楽、そしてアンドロイドを演じた女優のスレンダーな肉体と無表情な演技が、ベオグラード国際映画祭での高評価に貢献したのだろうか。

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2020年1月 7日 (火)

黄昏のカーニバル

著者:清水義範

 本作は1990年前後に、今は途絶されてしまった『SFアドベンチャー』誌に掲載された清水義範の短編小説をまとめた文庫本である。その中味は次の7篇のSF作品で構成されている。

1.外人のハロランさん・・・子供の頃に出会った外人はどこから来たの?
2.黄昏のカーニバル・・・某国が発射した核による世界終末の空しい話
3.唯我独存・・・世界の全ては僕が創成したもの
4.嘉七郎の交信・・・宇宙人とコンタクトする爺さんの話
5.デストラーデとデステファーノ・・・時間が逆流する世界
6.21人いる・・・未来の自分が20人登場する話
7.消去すべき・・・全てを消去する自分とは何者

 いずれも懐かしき良き時代の読み易い短編SF小説で嬉しくて堪らない。また現役でこのようなアイデア重視で、わくわくするノスタルジックSFが書ける人は、本作著者の清水義範氏や梶尾真治氏ぐらいだろうか。

 さてこの中で一番興味深く読んだのは、「この世の全ては自分自身の想像力で創成されている」という唯我論をテーマとした『唯我独存』である。まあ唯我論について解説すると長くなるので後日に譲るとして、タイムトラベルファンとしては、プロ野球と時間逆転の『デストラーデとデステファーノ』と、押し入れから出てきた20人の未来の自分の謎を探る『21人いる』も、見逃せない短編であることは間違いないだろう。

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2020年1月 4日 (土)

キングダム

★★★☆
製作:2019年 日本 上映時間:134分 監督:佐藤信介
 
 原作は原泰久のコミックで、第17回手塚治虫文化賞のマンガ大賞を受賞している。さらに単行本の発行部数は、56巻発売時点で累計4700万部を突破しているという怪物コミックの実写版映画なのである。

 私自身はコミックの存在さえ知らずに本作を観たため、コミックとの比較は全く出来ないのだが、原作にかなり忠実だったと言うことで、かなりの高評価を得ているようだ。まあ原作に拘る人々が多いのは分かるが、そんなことは無視して観てもなかなか面白い作品であることは間違いないだろう。
 ことに古代中国の風景、壮大な王城と圧倒的な兵士たちなど、実物とCGを巧みに組み合わせた見事なVFX技術とアクションシーンには度肝を抜かれてしまった。これならハリウッド映画にも決して引けを取らないであろう。

 是非この技術を生かして、従来は不可能と言われていた壮大な時代劇を製作して欲しいものである。個人的にはかなり古くなってしまったが、白土三平原作の『忍者武芸帳』の実写映画を是非観てみたいと切に願っている。
 本作は原作コミックの1~5巻をまとめただけの序章に過ぎず、続編を創ればさらにあと10作は出来ることになる。また興行収入も、公開後40日で50億円を超え、まずまずの大ヒットを記録している。従って少なくとも、あと1~3作の続編が製作されるのは間違いないであろう。

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2019年12月30日 (月)

ミリオンダラーべイビー

★★★★☆
製作:2004年 米国 上映時間:133分 監督:クリント・イーストウッド

 ご存知、クリント・イーストウッド監督・主演で、2005年のアカデミー作品賞を受賞した映画である。
 クリント・イーストウッドの作品は、いつも素晴しいけれど、もうそろそろ主演は降りたほうがよろしい。彼の名声をこれ以上下げたくないので、今後は監督か脚本家に専念して欲しいと思うのだが・・・。

 一方、2度目のアカデミー主演女優賞を獲得した、ヒラリー・スワンクの演技力とパワーは絶賛に値するだろう。役作りのボクシングの練習中、足に出来たマメが潰れて命にかかわる程悪化し、ドクターストップがかかったらしい。たがそれを振りきって、文字通り『命をかけて撮影に臨んだ』という話が伝説になっている。まさしく役者魂発揮!、プロ中のプロといってもよいだろう。

 ストーリーのほうだが、途中迄は女性版ロッキーという感じで、どんどん登りつめてチャンピオンに挑戦する迄は、爽快感が一杯の楽しい映画なのである。ところが、この映画が本領発揮するのは、チャンピオン戦が終ってからなのであった。そのあとは、映画のテンポもトーンも、全く違った作品のように変貌してしまうのである。

 そしてラストシーンには、いろいろ考えさせられたのだが、自分ならどうしていたかの回答が出せないまま、やるせない気分で映画館を後にした記憶が残っている。あの『ミステリック・リバー』のような後味の悪さこそ湧かなかったが、なぜか『不公平感』を拭いきれなかった。

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2019年12月26日 (木)

バタフライ・エフェクト

★★★★☆
製作:2004年 米国 上映時間:114分 監督:エリック・ブレス

 タイトルの『バタフライ・エフェクト』とは、一羽の蝶が羽ばたいただけで、地球の裏側で、竜巻が起こるという「カオス理論」のひとつである。つまり、何でもないことを変えたために、大きな変化が起こる場合のたとえなのだ。

 繊細でlQの高い美青年が、少年時代の日記を読むことによって、少年時代の意識に介入出来る能力を発見する。そして自分のせいで不幸になり、自殺してしまう幼な馴染みの少女を救うために、過去の自分の行動を何度も変えてみるのだが・・・。

 この作品は、タイムテーマとミステリーを上手に組み合わせて、そこにスタンド・バイ・ミー風味をブレンドしたような間口の広い秀作なのである。また何度過去を変えても、事態はなかなか好転せず、イライラさせながらも、ラストでは「一番大切なもの」を切り捨てることによって、全員が救われるという皮肉なハッピーエンドを用意している。

 余り製作費はかけていないのだが、本作を観た当時は久々に「本物の映画」を観た気がしたものである。ただのんびりと観ていると、何が何だかよく判らなくなるので、じっと真剣に観る必要があるだろう。
 またよく判らなかった人には、映像写真付きの文庫本が発行されているので、プログラム代わりに読んでみてはいかが。内容は映画と全く変わらないので、複雑なストーリー展開が良く理解出来るはずだ。但しラストの一行?だけは、映画と大きく異なっているので要注意!。

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2019年12月22日 (日)

Ray(レイ)

★★★★☆

製作:2004年 米国 上映時間:152分 監督:テイラー・ハックフォード

 ご存知盲目のピアノシンガーであるレイ・チャールズの半生を描いた作品で、主役のレイ・チャールズを演じたジェイミー・フォックスがアカデミー主演男優賞を受賞している。彼は『コラテラル』でも、タクシーの運転手役を演じて大好評だったが、本作において完全に演技派の一流俳優として認められたことになる。

 3時間近い長編であるが、ストーリーの面白さにレイ・チャールズの名曲が加わり、全く退屈することなく時間が過ぎてゆく雰囲気である。
 それにしても、完全にレイ・チャールズになり切っていた、ジェイミー・フォックスの鬼気迫る見事な演技には圧倒されっぱなしであった。またレイ・チャールズの天才振りにも、改めて驚かされてしまった。本作を観終わった人たちは、きっとレイ・チャールズのCDを買いに走ることになるだろう。

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2019年12月17日 (火)

カツベン!

Katuben  

★★★☆
製作:2019年 日本 上映時間:127分 監督:周防正行

 タイトルの『カツベン』とは、無声映画(サイレントムービー)の上映中に、傍らでその内容を解説する専任の解説者、つまり活動弁士を略した呼び名である。決して『とんかつ弁当』の略ではないのでご注意を(笑)・・・。

 そのカツベンは日本にしかないシステムで、米国のサイレントムービーなどでは、途中で画面が切り替わって説明文が表示される方式をとっている。ではなぜ日本にだけカツベンが存在したのだろうか。多分はじめは国産映画が存在せず、米国などからの輸入映画に頼っていたため、英文で表示される説明文では誰も理解出来なかったからかもしれない。また解説だけでなく舞台脇の音楽演奏なども含めて、歌舞伎や村芝居など伝統芸能の影響を受けたことも否めないだろう。

 さて本作はあの名作『Shall We ダンス?』で一世を風靡した周防正行監督が、『舞妓はレディ』以来5年ぶりにメガホンを握った待望のオリジナル映画作品である。
 また主人公・俊太郎役には、最近話題作に立て続けに出演しているものの本作が映画初主演となる成田凌が、共演のベテラン俳優たちを凌いで見事にその役柄を演じ切っていた。さらにヒロイン役を黒島結菜が演じるほか、永瀬正敏、高良健吾、井上真央、音尾琢真、竹野内豊ら周防組初参加のメンバー、そして竹中直人、渡辺えり、小日向文世、草刈民代らの周防組常連陣が脇を固めている。

 そのストーリーの中身は、少年時代からカツベンに憧れていた染谷俊太郎が、泥棒グループに利用された偽弁士を経て本物の弁士に成長してゆく過程を、ちょっぴりロマンスも絡めて描いたコメディードラマである。127分の上映時間があっという間に流れてしまったくらい面白かったことは確かだが、ラストの捕り物帳でのドタバタ臭さだけは気に入らない。もう少し質の高い笑いに期待していたのだが・・・。
 それはそれとして、周防流の『特化型ウンチク映画』の味は相変わらず冴えわたっていて、活動弁士の実態が分かり易く描かれていたよね。いい加減な弁士や人気弁士、そしてかなりアドリブの混じった会話力などなど、いつもながら社会勉強をさせてもらった。

 さてその昔、徳川夢声、牧野周一などの人気弁士がいたが、映画が無声映画からトーキーに変貌したことに伴って、漫談家などに転業したようである。それだけカツベンは話術に秀でていたのである。さてとっくの昔に絶滅したと思っていたカツベンだが、なんと現代にも10人程度が存在しているらしい。もっともそれだけで飯を食えるのは、その中の一人だけらしいのだが・・・。

評:蔵研人

 

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2019年12月13日 (金)

風の前奏曲

★★★★☆
製作:2004年 タイ 上映時間:106分 監督:イッティスーントーン・ウィチャイラック

 タイの伝統的楽器といわれる、ラナートの名手であるソーン師の半世をモデルにしたフィクションであるという。ラナートとは、木琴をハンモック状に吊したような楽器で、まるで電子木琴のような美しい音を奏でる楽器だった。
 タイの映画と言えば、お馬鹿で不潔な映画が多かったのだが、この映画は美しい映像とシリアスな展開に終始し、従来のタイ映画のイメージを一新してしまった。

 またシャム王朝時代の青年ソーンと、第二次大戦時の老年ソーンをパラレルに描いているため最初は少し戸惑うものの、変化があって退屈させない仕組みになっている。
 そして青年ソーンには、ライバルとの過激な演奏バトルを、老年ソーンには、風にそよぐ椰子の葉のような神秘的で、心に染み渡る演奏シーンが用意されていた。バトルシーンでは壮快感を味わい、またラストの神に癒されるような演奏シーンには、誰もが思わず大粒の涙をこぼしてしてしまうだろう。

 さらにエンディングでは、アゲハ蝶によって過去と現在が見事に繋がってゆく。またキャストについても、それぞれが個性を発揮した素晴らしい演技を見せてくれたと思う。まさに完璧に近い映画だったが、ラストの終わり方がちょっと唐突だったことだけが惜しまれる。

評:蔵研人

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2019年12月 6日 (金)

EXIT

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★★★☆

製作:2019年 韓国 上映時間:104分 監督:イ・サングン

 毒ガスが蔓延した都市を舞台に、高層ビル群の中を跳び渡りながら、迫りくる毒ガスから逃げ抜く男女の奮闘を描いたパニック映画である。毒ガスを怪獣に例えれば、一種のモンスターパニックかもしれない。しかし毒ガスは生物ではないので武器で死ぬことはない。
 ところがその正体が解明され、毒ガスを消滅させる方法が見つかるのだが、それはかなり終盤になってからある。だから全編にわたって、ただただ毒ガスから逃げるのみ。とにかく高層階を逃げて逃げて逃げまくって、救助隊のヘリに助けを求めるより方法がないのだ。

 なにしろスピード感とパワーに満ちていて、笑いあり涙ありドキドキ感も満載で、かつ家族愛とちょっぴり甘酸っぱいロマンスも鏤められている。とにかくいろいろな要素が織り込まれた欲張りな映画であることは間違いない。
 さらにヒロインの美しいだけではなく、しゃきっとしてかつ清々しくいじらしい心情がとても素敵である。またパニック映画であるにも拘らず、ほとんど死人の描写がなかったのは珍しいね。

 いずれにせよ、面白くて楽しくて家族揃って観れる映画だということは保証しても良いだろう。だがかなり展開が単調で、収束もほぼ予測の範囲内であったことは否めない。個人的には同じ韓国パニック映画なら、2017年に上映されたゾンビパニック映画『新感染 ファイナル・エクスプレス』のほうが、予測不可能な展開だった分だけ面白かったと思うのだが・・・。

 ところがこの映画は、韓国では5人に1人とも言える約940万人もの観客動員を記録する超ヒット作となったのである。ただ不思議なことに、なぜか日本では首都圏のマイナーな映画館を中心に、全国13館程度で上映されているだけなのだ。まさか韓国とヒビの入ってしまった現状の政治状況を反映している訳ではないと思うのだが・・・。

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2019年11月28日 (木)

カンフー・ハッスル

★★★★
製作:2004年 中国、米国 上映時間:103分 監督:チャウ・シンチー
 
 少林サッカーを遥かに超えた『香港映画』という触れこみなのだが、確かに期待通りアクションの荒唐無稽さ加減は、少林サッカー以上どころか『マトリックス3』をも超えていた。ただストーリー展開は、よくあるカンフー映画そのもので、少林サッカーのような斬新さは見当たらない。

 それでも、笑いあり涙ありで、超面白い事は保証する。それと弱そうなおじさんやおばさん達が、実は「カンフーの達人」という設定は、非常に面白かった。
 またラストバトルは、特に超々ど派手、荒唐無稽指数500%で、マンガの『ドラゴンボール』を髣髴させられる。DVD化されてから既に3回以上観たのだが、何度見ても楽しい映画である。

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2019年11月23日 (土)

きみに読む物語

★★★★☆
製作:2004年 米国 上映時間:123分 監督:ニック・カサヴェテス

 愛し合った老夫婦の若き日の出会いと苦悩を、回想方式で描いた超純愛作品である。また原作となったニコラス・スパークスの小説は、あの『マジソン郡の橋』を上回る大べストセラーになったという。
 身分の違いと時の流れにも負けず、1年に356通のラブレターを書き、約束の家を建て、夢を実現させた男の「妻に対する強烈な愛の物語」である。
 ただ彼女のほうからは、何故1度も手紙を書かなかったのか、という疑問は残っている・・・。

 ストーリーとしては、良くある話なのだが、痴呆症の妻に自分達の過去を物語として語って、記憶を呼び戻そうというアイデアは、なかなか面白いし、ラストの意外な展開も含めて、全般的になかなか良く出来た脚本だと思う。
 あと映像がとても美しいね。特に夕日がにじむ湖をゆっくり進むボートと、白鳥の群れを横ぎるシーンがとても印象的である。
 だいたい良い映画か否かは、始めの15分位で判るものだが、この作品は、始まって5分位で良い映画の予感があった。

 また中盤からラストにかけては、感動シーンが続いて、涙が乾くひまがない。それも無理やりに泣かせる創り方ではなく、自然にとどめなく涙が落ちてくる仕組みになっているのだ。だから映画が終わっても、誰ひとりとしてすぐに立ちあがらず、老いも若きも男女も、ほとんどの人々が泣き腫らした顔でじっとうずくまっていた気がする。

 とにかく泣きたい人は必見の映画であろう。だいぶ以前に観た映画であるが、最近涙が恋しくなったので、一度原作も読んでみようかと考えている。

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2019年11月20日 (水)

眠狂四郎 勝負

★★★☆
製作:1964年日本 上映時間:83分 監督:三隅研次

 全12作に及ぶ人気シリーズのきっかけとなった市川雷蔵の眠狂四郎シリーズ第2作目である。もともとは鶴田浩二主演のシリーズであったが、全3作で終了している。その5年後に雷蔵主演の新シリーズが開始されたが、三隈研次がメガホンをとった本作が大好評を得て。以後雷蔵の当たり役となったのである。

 ストーリーは風采の上がらない老侍(加藤嘉)と狂四郎がある少年を介して知り合うところから始まる。実はこの真面目一徹の老侍こそ、老中にも諫言できる朝比奈という勘定奉行であった。
 当然そんな彼の行動が気に入らない者も大勢いて、とうとう彼を暗殺しようする一味が現れる。それを知った狂四郎がその警護を買って出たため、今度は狂四郎自身も狙われることになるのだった。と言う他愛もない展開なのである。

 従ってストーリーよりも、狂四郎と暗殺者の殺陣が興味の中心となる。ところがその武術に秀でた五人の暗殺者達には、有名俳優が一人も見当たらないため、余り迫力を感じなかったのが非常に残念だ。また御前試合をする柳生但馬守宗矩についても同様で、達人同士の真剣勝負なのにちっとも緊張感が湧かないのである。
 まあそこそこ面白いし、半世紀以上経っても陳腐化していない良作であることは認めるが、狂四郎と戦う相手俳優が全員役不足だったのは否めないだろう。またもっと言えば、本シリーズの売りともいえる「お色気」も不足気味かもね(笑)。

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2019年11月16日 (土)

人生、ただいま修行中

Jinsei

★★★

製作:2018年 フランス 上映時間:105分 監督:ニコラ・フィリベール

 ドキュメンタリーであることも調べず、そこそこ評判が良かったので鑑賞したのだが、正直退屈で堪らなかった。最近はドキュメンタリー映画が多く、どの作品も高得点なのであるが、実はそのテーマにそれほど興味のない者にとっては、疲れるだけなのかもしれない。

 本作はフランス・パリ郊外の看護学校を取材し、看護学生たちが現場で成長していく姿を、150日にわたって捉えたドキュメンタリー作品である。すべて主役は看護学校の生徒で、大きく3つのパートに分類されている。その1は看護知識の習得と模型などを使った看護技術の講習風景。その2は病院での看護実習で最後は学生たちの実習感想という構成になっている。

 ことに終盤の実習感想は学生と指導員の会話が延々と続くため、かなり退屈で「いつ終わるのだろうか」と、こっそり携帯で時間を確認する始末。確かに看護士たちの学習方法や心情については丁寧に描写されているのだが・・・。もちろん決して悪い映画ではないし、ドキュメンタリーであることを知らないまま観客席に座った私がいけないのだろう。

評:蔵研人

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2019年11月11日 (月)

女王陛下のお気に入り

★★★☆

製作:2018年 アイルランド・米国・英国 上映時間:120分 監督:ヨルゴス・ランティモス

 18世紀初頭のイングランドを舞台にした宮廷ドラマである。と言っても決して堅苦しいドラマではない。どちらかと言えば、時代考証や史実に不誠実であり、主役のアン女王もコミカルタッチで描かれているのである。
 当時のイングランドでは、飽食に染まった貴族たちが、パイナップルを食べることとアヒルのレースに夢中になり、国内では税金を無駄に費やして、他国との戦争ばかりにうつつを抜かしていた。

 それもこれもアン女王の体が弱く、自ら十分な政策運営を諮ることが出来ず、幼なじみでお世話係のレディ・サラが、権力を掌握していたからであった。この二人の関係は、まるで五代将軍徳川綱吉と側用人柳沢吉保との関係にそっくりではないか。
 ところが厄介なことに、ある日ここにサラの従妹であるアビゲイルが介入して、三角関係となってしまうのである。そしてアン女王争奪戦と、その他の貴族たちを巻き込んだ女同士の嫉妬と憎悪に塗れた権謀術数作戦が開始される。

 ストーリー前半は、貧しくて清純だったアビゲイル、頭脳明晰だが傲慢かつ独善的なサラというシナリオだった。ところが次第に二枚舌で野心家であるアビゲイルの本性が剥き出しになってくるのである。ただラストシーンは、サラが追放されたあと、画面一杯にウサギの映像が溢れるだけで、「あとはご想像にお任せします」という無責任な終わり方で幕を下ろしてしまうのだ。

 もちろんアン女王のアビゲイルに対する愛情の変化を想像することは出来るものの、その後のレディ・サラについては、何も語られないため、史実を知らない者にはかなり不親切な締めくくりとなってしまったのではないだろうか。なお史実上も、サラはアン女王の晩年にその寵愛を失うのだが、その後ハノーヴァー王家のジョージ2世と王妃キャロライン、首相ロバート・ウォルポールと親交を結んでいる。さらにはマールバラ公家の莫大な資産をトラスト法によって継承し、当時ヨーロッパ有数の資産家になり、84歳という長寿を全うしたという。結局は彼女が一番の勝利者だったのではないだろうか。

評:蔵研人

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2019年11月 7日 (木)

だからタイムマシンには乗りたくなかった。

著者:時羽 紘

 実に長ったらしいタイトルなのだが、なにげにタイムトラベルファンの気を引くタイトルでもある。主な登場人物はたった4人の学園ラブファンタジー、映画ならさしづめB級作品と言う趣だろうか。
 主人公の九條楓は高校一年生で、心優しく自分の言いたいことをはっきり主張できない女の子。大好きな1年先輩の伊波潤と付き合っている。そんなある日、雨宮奏という未来からやって来たという不思議な男の子と遭遇。彼のタイムマシンで10年後の世界に跳ぶと、見知らぬ美人女性と伊波潤が結婚式を挙げているところだった。

 そして再び現代に戻ると、なんと伊波潤と同クラスに10年後に彼の花嫁になる野村みな子がいるではないか。そして彼女は伊波潤に告って断られたにも拘らず、しつこく潤に付きまとっているのだった。
 そしてことあるごとに、楓と潤の邪魔をしてくるのだ。そうこうしているうちに楓と潤の二人に誤解が生じて、ぎくしゃくした関係に陥ってしまうのである。結局タイムマシンで覗いた未来通り、潤は楓と別れてみな子と結婚してしまうのだろうか・・・。

 登場人物も少なく物語の幅も狭く、ただただ潤を慕う楓の想いと二人のすれ違い、そしてみな子の意地悪に終始するだけのお話なのだが、年甲斐もなくドキドキして楽しく読ませてもらった。また謎の少年・雨宮奏の正体については、途中で何となく想像できるようになるのだが、なぜ彼がああすることになったのかはちょっと無理があるかも・・・。いずれにせよ『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の逆転バージョンといった味がしたことは否めないね。

評:蔵研人

 

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2019年11月 3日 (日)

キャプテン・マーベル

★★★☆
製作:2019年 米国 上映時間:124分 監督:アンナ・ボーデン

 新しい女性スーパーヒーローの誕生である。とにかく強いもの凄く強い。今まではスーパーマンが最強のヒーローだと思っていたのだが、もしかするとこのキャプテン・マーベルのほうが強いかもしれない。そう感じるほど強いのだが、最初から強かった訳ではない。少しずつ目覚めてゆき、ラストシーンで、完全に目覚めてパワー全開となり、100発以上のミサイルも宇宙戦艦も一瞬に破壊するほど強くなるのである。

 それにしてもこのラストシーンには、充足した爽快感にうっとりと溺れてしまったくらいだ。ただ今後も同様の爽快感が得られるとは限らない。スーパーマンの例を見れば分かることだが、余りにも強過ぎて相手が存在しなくなるため、ストーリー展開が難しくなるからである。しかもキャプテン・マーベルには、スーパーマンに対するクリプトナイトのような弱点が見当たらない。完全無欠だからいよいよ難しいのだ。

 今回ははじめから強かった訳ではないし、自分探しのストーリーに終始していたため、なんとかストーリーを紡ぐことが出来たのだが、今後の続編ではそれも難しくなる。だからもしかするとキャプテン・マーベル単独でのストーリー構成は、これが最初で最後になるかもしれないね。
 とにかく強いこと自体は悪くはないのだが、完璧に強過ぎると起承転結の「転」が不在となり、ストーリーに変化を与えられなくなり、単調になりやすいものである。


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2019年10月29日 (火)

ハンターキラー  潜航せよ

★★★★☆
製作:2018年 英国 上映時間:122分 監督:ドノヴァン・マーシュ

 ジョージ・ウォーレスの小説を原作とする戦争アクション映画である。と簡単に言い切れほど単純な映画ではなく、苦労人の職人同士の信頼関係を描いたヒューマンドラマ仕立てなのである。
 ロシア近海で行方不明になったアメリカ海軍の捜査任務のため、攻撃型原子力潜水艦ハンターキラーが出航する。艦長はジェラルド・バトラー扮するところのジョー・グラス。苦労人で部下たちの信頼も熱いが大胆不敵で独善的な行動も厭わない。

 たまたまロシアでスパイ活動をしていた米軍特殊部隊の調査により、ロシアの国防相がクーデターを起こし、戦争に消極的な大統領を拘束したというのだ。この国防相は超危険人物で米国との戦争を望んでいて、どうやら先の行方不明になった米国原潜の沈没も、彼の指示によるものと思われる。
 この状況下で米国は戦争開始か否かの苦渋の選択を迫られるのだが、なんと戦争反対派のロシア大統領の救出にかけることになった。そして特殊部隊が大統領救出に向かい、彼等を収容するのがハンターキラーの役割となるのだ。

 ラストは派手なアクションシーンを期待していたのだが、それは良い意味で裏切られた。それが男同士の熱い信頼関係だったからである。米国とロシアの艦長同士の信頼、それぞれの部下との信頼関係、いいねえ実にいいねえ。
 なんだか急に目頭が熱くなって、感動の涙に濡れまくってしまったぜ。久々に「ほんとに映画って良いですね。」と言うあのセリフが復活した感動作であった。

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2019年10月25日 (金)

ある船頭の話

Sendou

★★★★

製作:2019年 日本 上映時間:137分 監督:オダギリジョー

  2005年~2007年頃にはバンバン主演映画を張っていたオダギリだったが、最近あまり見かけなくなっていた。ところがなんと本作は彼が初めて創った本格長編映画なのだという。あのオダギリに映画監督なんて出来るのかなと思っていたら、これがまたなんとも言えないくらい渋くて日本的で素晴らしい作品に仕上がっていた。

 舞台のほとんどは、船頭小屋と小舟と大河だけであり、ストーリー性はほとんどない。その代わり神秘的なほど超美麗な自然描写と、セリフは少ないものの人間の心の奥に潜む葛藤が滲み出ているのである。
 その美しい自然にぴたりと嵌まった古くてみすぼらしい船頭の存在。彼は村人たちには無料で船を渡している。彼のお陰でどれほどの村人たちが助かっていることやら。

 ところが最近になって、大きな橋が建設され始めたのである。もちろん橋が完成すれば船頭の仕事は不要になってしまう。だが表面づらでは黙々と舟を漕ぐ船頭のトイチであった。
 そんなある日、トイチは川に流されていた傷だらけで身寄りのない少女を助ける。だがこの少女との出会いをきっかけに、彼の人生は少しずつ狂い始めてゆくのであった・・・。そしてそれまで淡々と自然の中を行き過ぎていた映画のトーンが、急に濃くなってゆくのである。主な登場人物はトイチと源三と少女の三人なのだが、もしかすると彼等は別人格のトイチなのかもしれない。

 かなり単調な展開のなかで137分は少し長過ぎた感もあり、その割には終盤が急ぎ過ぎでバランス感にやや難があるような気もしたが、超美麗な映像と贅沢な配役と日本の源風景に免じて許しても良いだろう。また何と言っても、船頭トイチを演じた柄本明の個性が光り輝いていたのが印象的である。ただあの狐の亡霊のようなイマジネーション?は、判り難いし不要だったのではないだろうか。
 
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2019年10月20日 (日)

ジュリアン

★★★
製作:2017年 フランス 上映時間:93分 監督:グザヴィエ・ルグラン

 離婚した両親の板挟みで悩む少年と家族を描くヒューマンドラマで、第74回ベネチア国際映画祭で最優秀監督賞に輝いた作品である。と言う触れ込みにつられてレンタルしたのだが、はっきり言ってヒューマンドラマというより、ホラー映画と言ったほうが似合っているのだ。

 オープニングは家裁での調停シーンで、弁護士経由で離婚した夫婦それぞれの言い分が延々と語られる。この断面で両者の言い分にズレが生じているのだが、どちらが正しいのかは分からない。そして裁判所の裁定が下され、父親に少年の親権が認められると、2週間に一度の頻度で父親と少年が一緒に週末を過ごすことになるのだった。

 このあたりから父親の横暴さがチラチラと顔を出してくる。そしてだんだん陰険になり、狂暴性を発揮してくるのだ。結局この父親は少年が可愛くて親権を要求したのではなく、別れた妻とヨリを戻したくて少年を利用しているだけのようである。
 自分の両親にも見放されたこの父親は、なんとヤケクソになったのか、深夜に猟銃を持って、元妻の家のドアをバンバンと叩き、挙句の果て銃をぶっ放す始末。

 結局は親権とかDVとかと言うレベルではなく、ストーカー的な狂人の話だったのだろうか。それにしても逃げ回っているだけで、結果的に息子にリスクを押し付けている母親にもイライラが募る。警察への通報も迷っているばかり、近所の人の通報がなければ手遅れになっていたかもしれないじゃないの。まあ母親もはっきりしないが、少年もモジモジし過ぎているよね。姉が一番しっかりしているようなのだが、ただ彼氏とイチャイチャしているだけで、ほとんど存在している意味がない。

 決してつまらない映画ではないのだが、ストーリーがバラバラにちぎれていて、前後の話が繋がってこないのだ。またラストの尻切れトンボのような締めくくりもすっきりしない。あれではまたまたその後に、さらなる恐怖を引きずって行くだけではないのだろうか。
 

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2019年10月15日 (火)

ファースト・マン

★★★☆
製作:2018年 米国 上映時間:141分 監督:デイミアン・チャゼル
 
 アカデミー賞で視覚効果賞を受賞しただけあって、とにかく臨場感が凄いのだ。観客も一緒に宇宙空間を疑似体験してしまうという映像と音には驚いた。

 本作は人類で初めて月面に足跡を残した宇宙飛行士ニール・アームストロングの半生を描いたドラマという触れ込みである。ただ自伝としては、薄味でこじんまりとし過ぎた感があり今一つかもしれない。またラストの感動的な帰還シーンがないのも、私的には物足りなさを感じてしまった。

 もっともその地味なラストは、不器用で寡黙な主人公の意思とリンクしていて好感が持てるという人もいるので、賛否の分かれるところかもしれない。まあいずれにせよ月面着陸シーンにだけは、全ての観客が大感動することだけは間違いないだろう。


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2019年10月11日 (金)

シャザム!

★★★☆
製作:2019年 米国 上映時間:132分 監督:デヴィッド・F・サンドバーグ

 14歳の少年が「シャザム!」という呪文を唱えると、スーパーヒーローに大変身できるようになる。これは闇の世界でたった一人生き残り、もはや消滅寸前の魔術師が純真な心を持つビリー少年を後継者に選んだからであった。

 ただいくらヒーローと言えども、中身は少年なのでその行動は幼いし気も弱い。それで前半は『キック・アス』や『デッドプール』のようなコミカルタッチのヒーロー像になってしまう。
 後半悪魔に憑りつかれた悪人が登場すると、だんだんパワーアップしてきて、なんと空を飛ぶことが出来るようになる。こうなるともうほとんどスーパーマンの世界だ。とは言っても、やはり子供には変わりないため、どこかぎこちなさが残ってしまう。

 ただコメディーと言ってもそれほど笑えるわけでもないし、ストーリー展開も子供仕様で大雑把な感が否めない。まあお気楽なので暇つぶしには良いかもしれないね。またラストの牢獄シーンで、続編が創られるような雰囲気があったが、個人的にはもうこの一作だけでお腹一杯である。

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2019年10月 8日 (火)

カランコエの花

★★★☆

製作:2016年日本 上映時間:39分 監督:中川駿

 保健の教師からLGBT(レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー)についての説明を受けて、いろいろな反応を見せる高校生たちの姿を描いた作品である。監督は若いし出演者はほとんど無名の俳優ばかり。それに上映時間がたったの39分という究極の短編映画なのだが、第26回レインボー・リール東京~東京国際レズビアン&ゲイ映画祭~」のコンペティションでグランプリに輝いたほか、さまざまな映画祭で高評価を得ている。

 なかなか良い映画だと思うのだが、レンタルなので劇場鑑賞料金が不明だが、39分の上映時間で1800円を払う気にはならない。せめて1時間程度のストーリーにまとめても良かったのではないだろうか。
 タイトルのカランコエとは、ベンケイソウ科の一種で光を嫌う短日植物だという。また肉厚な葉と様々な色の鮮やかな花が特徴的だ。そして花言葉は「あなたを守る」である。
 
 映画の中では新米教師が、ある女学生に女友達を好きになってしまったと告白される。それをそのまま自分の胸の内にしまって置けばよいものの、その女学生をかばうために、いきなり授業で「LGBT」のことを取り上げてしまう。
 ところがそのことに興味を示した男子が、「そういうことをこのクラスだけで取り上げたということは、クラスの中に「LGBT」がいるのだろう!」とはやし立てるのである。それに驚いたくだんの新米教師が、今度は男性教師に叱ってもらったため、騒ぎはさらに大きくなり、犯人探しにまで進展してしまうのだった。

 光を当てられたくない(そっとしておいて欲しい)、あなたを守るつもりが逆に傷つけてしまった。本作はカランコエをモチーフにしながら、思春期の女学生が陥りやすい葛藤を描き、そこに「LGBT」味をブレンドした作品なのであろう。もし「LGBT」味がなければ、単に良くある話で終わっていたのだが・・・。

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2019年10月 4日 (金)

帰れない二人

Kaerenai

★★★☆
製作:2018年 中国、フランス 上映時間:135分 監督:ジャ・ジャンクー

 『長江哀歌』『罪の手ざわり』で有名なジャ・ジャンクー監督の人間ドラマで、2001年からある男女がたどる18年間の顛末を描いている。予告編を観たときは、中国の大自然をバックに描く大恋愛映画かと勝手に想像してしまったのだが、濡れ場どころか「愛している」の一言もない。また日本の任侠映画とは微妙に異なるのだが、渡世人とか義理人情といったセリフが頻繁に飛び交うのである。この映画のテーマは男と女の異なる愛の形なのか、風化してゆく義理と人情なのか、観る人によってその判断が多様になるだろう。

 北京五輪や上海万博を経て、さらには国内総生産(GDP)も一気に世界2位に躍り上がった中国。他国では100年かかった進化を、僅か20年前後で達成してしまった。とにかくここ最近の中国は猛烈なスピードで進化し続けている。
 だが14億人とも言われる中国人の全てが、その進化に連動しているわけではない。どちらかと言えばその劇的な進化について行けない人たちのほうが多いかもしれない。

 本作では敵対するメンバーの襲撃を受け、殺されそうになった恋人ビンを助けるために、ヒロインのチャオは意を決してご法度の銃を撃ち、さらに恋人をかばったために5年間の実刑を甘受することになってしまう。だが助けたはずの恋人ビンは、一度も面会に来ないどころか、刑期を終えて出所しても迎えにも来ないのだ。

 身寄りがなく行き処のないチャオは、伝手をたどってなんとかビンに逢いに行くのだが・・・。そこに待っていたのは厳しい現実と裏切りだけであった。愛のため身体を張って闘い、義を通して5年間も服役したのに、娑婆はあっという間に昔気質の価値観が通用しない世界に変化してしまったのだ。こんな悲しいことがあろうか・・・。それでも絶望することもなく、したたかに生き抜き続けるチャオには、観客の全てが惹かれてしまうことだろう。

 このチャオを演じたのは、監督夫人でもある同名のチャオ・タオであり、彼女の魅力が満載の作品に仕上がっている。そして髪型と化粧と演技力による彼女の18年間の風貌の変化にも着目して欲しいね。まさに彼女あってこその作品であった。


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2019年9月30日 (月)

真っ白な図面とタイムマシン

著者:笠原哲平

 原案はシンガーソングライターユニットの『Goose house』のアルバムである。また著者の笠原哲平は劇団TEAM-ODACの専属脚本・演出家であり、本作は青山円形劇場にて公演されている。どちらかというと小説というより脚本のような本である。

 引きこもり高校生が、事故で死んだ兄に会うためタイムマシンを創って過去に跳ぼうと決心するお話である。そこに兄の恋人、カフェの女主人、商店会理事長の娘、工場勤務のおじさんなどが協力者として関与し、なんとなく群像劇ぽいのだが、あまり深く追求せず、あっさりかつ淡々と話は展開してゆく。

 文字が大きく文章も平易で237頁程度の中編なので、あっという間に読破してしまったのだが、とうとうタイムマシンは完成せずに終了してしまった。過去へのタイムトラベルを期待していたためか、なんだか裏切られたようで拍子抜けしてしまうのだ。
 ただよく考えてみれば、これはあくまでも舞台劇用の脚本であって純粋な小説ではない。まあそう考えれば、そこそこ面白かった訳だし、腹も立たないであろう。

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2019年9月27日 (金)

ビッチ・ホリデイ

★★

製作:2018年 デンマーク・オランダ・スウェーデン 上映時間:92分 監督:イザベラ・エクルーフ

 まさにホリデイなのだ。ギャングとその愛人のホリデイが延々と続く。風景とヒロインのスタイルが美しい、ということを除けば実に退屈な映画である。そして終盤に突然起こる悲劇。やっと変化が起こったと思ったら、あっという間にザ・エンドじゃないの・・・。
 
 珍しいデンマーク・オランダ・スウェーデンの合作映画なので期待していたのだが、一体何だったの?それにしてもどうして、これほどつまらない映画を輸入してしまうのだろうか。呆れてものも言えない。ここのところ下調べもなしに、レンタル屋の店頭での、思い付きレンタルが続いたせいか、世紀の駄作にばかり巡り合うことが多かったな・・・。はい反省しています。

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2019年9月23日 (月)

嘘はフィクサーのはじまり

★★★

製作:2016年 米国・イスラエル 上映時間:118分 監督:ヨセフ・シダー

 自称フィクサーを名乗るノーマンは、ニューヨークのユダヤ上流社会へ食い込もうと、必死になって人脈づくりに奔走していた。そして嘘とはったりで虎視眈々と投資チャンスを伺いながら、イスラエルの大物政治家・エシェルの後をつけるのだった。そして偶然を装って超一流の高価な靴をプレゼントし、コネを得ることに成功する。

 それから3年後に、なんとそのエシェルがイスラエルの首相になってしまうのだ。そして出世したエシェルとパーティで再開し、大歓迎されるだけではなく、パーティに出席している著名人たちに首相の友人であると紹介されるのである。そして一挙に有名人となったノーマンには、次々と首相との仲介依頼が飛び込むのであった。
 ここまではノーマン・エシェル共に好調の日々だった。ところがある日、エシェルの政治生命が脅かされる致命的疑惑が巻き起こり、国際紛争へも発展しかけてしまうのである。そしてノーマンもこの疑惑に巻き込まれてしまうのだが・・・。

 主役・ノーマンを演じたのは、かつて二枚目役の代名詞だったリチャード・ギアだが、昔の面影は全くなく老いてフラフラしているようにしか見えない。なんとなく津川雅彦とオーバーラップしてしまう。
 ノーマンの役柄はフィクサーを装った詐欺師?というよりも、誇大妄想狂の好々爺のようである。そしてまるでホームレスのようでもあり、病的で生まれも職業も定かではなく、甥の弁護士のコネを頼りにしているだけのおしゃべりボケ老人にしか見えないのだ。
 
 果たしてリチャード・ギアが演じるべき役柄だったのか疑問を感じてしまうのだが、シニカルな政治コメディとして観れば、あれで良かったのかもしれないね。いずれにせよ、面白いようなつまらないような、摩訶不思議な映画であった。

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