シャイロックの子供たち

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★★★☆
製作:2023年 日本 上映時間:122分 監督:本木克英

 原作は池井戸潤の同名ベストセラー小説。池井戸潤といえば、元銀行員。ということで本作も舞台はメガバンクである。
 
 東京第一銀行・長原支店で現金100万円紛失事件が発生する。ゴミ捨て場から100万円の振り込み明細を見つけた西木雅博係長は、そのことを公表せず、同支店に勤務する北川愛理、田端洋司とともに、事件の裏側を探っていく……。ところがその事件には、10億円の不正融資というメガバンクを揺るがす不祥事が繋がっていたのである。

 主なキャストは阿部サダヲ、上戸彩、玉森裕太、柳葉敏郎、杉本哲太、佐藤隆太、柄本明、橋爪功、佐々木蔵之介と錚々たる顔ぶれが並んでおり、それそれが個性を生かした演技力を発揮していたのが印象的であった。
 ストーリーそのものはそれほど複雑ではないものの、常に現金に囲まれている銀行員たちの良心との戦いやポリシーを問う、元銀行員の池井戸潤らしいストーリー構成だと思った。ただ不正融資事件よりも、お局行員のイジメ行為のほうが面白く感じたのは私だけであろうか。

評:蔵研人

 

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2024年10月 4日 (金)

僕が殺された未来

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著者:春畑 行成

 ある日のことである。僕こと大学生の高木のアパートに、60年後の未来から、大塚ハナという名の中学生がやってくる。彼女がはるばる未来からやってきたのは、3日後に高木が何者かに腹を刺されて殺されると言うことを伝えて、それを回避させるためだと言うのだ。そしてその犯人は、数日前に高木の片想い彼女である小田三沙希を誘拐した犯人と同一人物ではないかと言う。だからもうこれ以上小田三沙希誘拐事件には関わらないでくれと頼むのであった。だが高木は言うことを聞かないで、小田三沙希探しに奔走するのである。

 それにしてもなぜ小田三沙希が誘拐され、関係のない高木までが殺されなければならないのだろうか。登場人物は余り多くないのだが、そのほとんど全員が犯人候補である。まずは小田三沙希の父親、実姉、婚約者、ストーカー、さらにはなぜか高木の親友・健太郎までが含まれているのだ。

 とにかく軽いノリで読み易く、遅読派のぼくでもあっという間に読破してしまった。だからと言って凄く面白かったわけでもない。つまりストーリーが余りにも陳腐で、片想いの彼女に命を懸ける高木の行動にも全く共感できないし、テーマも犯人探しとその目的、そして大塚ハナの正体の三点だけに絞られているだけで、余りにも薄味過ぎて物足りないからだ。まあいずれにせよ、子供向けの作品なのだと承知すれば、腹も立たないかもしれないね。

評:蔵研人

 

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2024年10月 1日 (火)

スイート6ストーリーズ『恋するダイアリー』

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★★★★

 スイート6ストーリーズとは、6つの短編韓国ドラマのことを指す。15分程度にまとめられた話が約10話ほどで完結するので、時間を無駄に消費しないで済むので実にありがたい。米国のTVドラマのように45分ものを30話ほどで1シーズンとし、シーズン5まで続くようなものは、わざとらしい引き延ばしストーリーが多くてイライラが募るばかり。そのうえスポンサーの都合などで、途中で尻切れトンボになったりするものもあり、「時間を返してくれー!」と叫びたくなるときがあるからだ。
 さて本作『恋するダイアリー』は、やはり15分・10話完結の、時空を超えて愛する人を救う青年の奮闘を描いたラブファンタジー作品である。また主演は、韓国人気アイドルグループSHINeeのミンホとなっている。
 
 整形外科医のギョンフィ(ミンホ)は、高校時代に同級生からいじめを受けていた弱々しい青年だった。ある日大勢の前でズボンを脱がされる辱めを受け、耐え切れず自殺をしようとしたところ、転校生のナビの言葉で自殺を思いとどまる。
 その後彼はナビへ好意を寄せるようになるのだが、ある日突然ナビが自殺してしまうのだ。それから10年が経過し医師になった今も、ギョンフィはなぜナビが死んだのか分からないまま悩み続けていた。

 ところがある日、酒に酔ったギョンフィが街でナビらしき人物を見かけ、彼女が入ったドアを開けると、なんとそこは10年前の世界であった。なんだかドラえもんのどこでもドアみたいだな……。もちろん10年前に戻ったと言っても、意識だけが10年前の自分の中に戻ったと言ったほうがよいのかもしれない。さて、果たしてそこで彼は、ナビの自殺の原因を探り、彼女を守ることができるのだろうか、お楽しみ!じゃじゃんじゃん。

 そんな分かり易い展開に好感度がアップしてしまう。さらに突出した美人ではないものの、ナビを演じたイ・ユビの暗い雰囲気とスタイルの良さが、それとなく本作を盛り上げていたように感じた。まあラストにもう一捻りが欲しかったが、なんとかギリギリまとめたような気がしないでもないね。自分の好きなテーマだったので、ちょっと甘いかな……。

評:蔵研人

 

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2024年9月28日 (土)

ちょっと思い出しただけ

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★★★
製作:2022年 日本 上映時間:115分 監督:松居大悟

 主演は池松壮亮と伊藤沙莉で、松居大悟監督が執筆したオリジナルのラブストーリーである。第34回東京国際映画祭コンペティション部門に出品され、観客賞を受賞している。
 怪我をしてダンサーの道を諦めた男と、女タクシードライバーの恋なのだが、男の誕生日ごとに時間軸が遡って描かれているので分かり辛いところがある。また個人的には、池松壮亮に漂う厭世的な暗さがあまり好きではないこともあり、途中眠くて眠くて堪らなかった。
 
 ことに特筆すべき出来事もなく、訴えたいテーマも見当たらず、ただ淡々と過去の思い出を描いているだけの作品だ。まさにタイトルそのもの「ちょっと思い出しただけ」じゃないか。監督がちょっと気張り過ぎなので、観ている人も気張らないと置いてけぼりになりそうだ。ただ尾崎世界観の歌だけは、なかなか印象的だったね。

 
評:蔵研人

 

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2024年9月24日 (火)

ある男 (小説)

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著者:平野啓一郎

 本作は2018年に刊行され第70回読売文学賞を受賞した長編小説である。
 テーマは差別問題であり、殺人罪で死刑になった父親との縁を切り捨てたくて苗字交換した男と、それを調査する在日三世の弁護士の生きざまを描いている。従ってタイトルの「ある男」とはその双方に掛けているのかもしれない。

 また2022年には、本作を原作とした同名映画が製作されており、そちらについては本ブログでも紹介しているので、興味があれば下記URLをクリックして欲しい。私の場合は映画を先に観て、やや分かり難い部分をより明らかにするために小説を読んでいる。そしてさらに小説を読んだ後にもう一度映画を観ることにした。
 基本的なストーリーは小説も映画もほとんど変わらないものの、やはり映画はストーリー的に惹かれる部分に焦点を当てていたが、小説のほうは弁護士の調査と彼自身の心情の移ろいのほうに力点を置いていた。従ってどちらが良かったということではなく、映画と小説の双方が補完し合ってひとつの作品を構成していたような気がしたのは私だけであろうか。

 
評:蔵研人

 

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2024年9月21日 (土)

トップガン マーヴェリック

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★★★★
製作:2022年 米国 上映時間:131分 監督:ジョセフ・コジンスキー

 トム・クルーズの出世作で1986年に公開された世界的ヒット作『トップガン』の続編である。前作に引き続きトム・クルーズが主役を演じるのだが、あれから36年経過しているため今回は指導員の立場だった。と言っても訓練生と一緒に飛行するので、彼自身が演じるアクションシーンも健在である。

 マーヴェリックはトップガン史上最高のパイロットでありながら、型破りで組織に縛られない振る舞いから、大佐以上に出世できず、現役でありながら伝説のパイロットと呼ばれながらも現役を続けていた。そこに出世した旧友アイスマンの特命を受けて、エリートパイロットたちの教官として赴任することになる。またその任務とは、針の穴を通すほど困難であり、超高度な技術を取得しかつ強運に恵まれない限り生きて帰ってこれないほど厳しいものであった。そして訓練する十分な時間もない切羽詰まった任務でもあった。

 かなり評価の高い作品であるが、間違いなく面白く楽しめることは保証しても良いだろう。それにしてもあのスピード感に満ちた飛行シーンは、本当に素晴らしいね。そして還暦を過ぎたとはとても信じられないトム・クルーズの若さにも脱帽してしまうのだ。さらにバンザイを叫びたくなるほどのハッピーエンド、まさにアメリカのアメリカたるゆえんといった映画であった。

 
評:蔵研人

 

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2024年9月18日 (水)

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著者:白石一文

 ニコラ・ド・スタールが描いた『道』という一枚の絵画をじっと見つめていると、時間を超越して過去や未来にタイムリープしてしまい、そこで人生をやり直そうというお話である。だからと言ってSFという雰囲気ではなく、人間が生きる真理のようなものを描きたかったのだろうか。
 本書の主人公である唐沢功一郎は、大手食品メーカーで品質管理を統括する優秀な男である。だが残念なことに3年前に愛娘の美雨を事故で亡くし、それ以来、精神を病み自殺未遂を繰り返す妻を介抱しながら暮らしている。

 そんな苦しい世界から抜け出したくなった功一郎は、ある方法を使って美雨が事故に遭う直前に戻り、彼女を救出することを決心する。その方法とは、彼が高校受験に失敗した時に、過去に戻り受験をやり直したときと同じやり方であり、『道』という絵画を使って過去に戻ることであった。

 このあたりまでは、タイムマシン代わりに絵画を使うということ以外は、タイムトラベルものによくある展開なのだが、実はタイムトラベルというよりは、時間を遡るパラレルワールドの世界と言ったほうがよいのかもしれない。彼は3回タイムリープを繰り返すのだが、移動するたびに別の世界へ跳んでしまうのである。従って前の世界では東日本大震災が起こったのに、今の世界ではまだ起きていないとか、またそれほど重大な出来事ではなくとも、微妙に変化しているようであった。

 また前の世界に存在していた自分自身が今の世界に跳んできたのではなく、今の世界に住む自分の肉体の中に、前の世界の自分の意識だけが乗り移ったのだ。では前の世界の自分の肉体はどうなってしまったのだろうか。普通に考えれば、前の世界で絵画の前で死んでいることになるのだが、結論は異なっていた。さらにでは今の世界の自分の意識は、一体どこへ行ってしまったのだろうか。これらはラストに全て解明されるのだが、分かったような分からないような、それでいて実に見事な論理で締めくくっている。

 もしあのとき、ああすればよかったと考えてもどうにもならないが、万一その願いが叶ったとしても、結局は何かほかの運命に巻き込まれてしまうのである。それに人の運命なんていうものは、どうにかなるとかならないとかという類のものではなく、たまたま選んだ道の一つでしかない。それが我々の住む世界の心理なのかもしれない。
 さて「我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか」とは、フランスの画家ポール・ゴーギャンの有名な絵画のタイトルであるが、本作にもなんとなくそんな臭いが漂っていると感じたのは私の勝手な思い込みなのだろうか……。

評:蔵研人

 

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2024年9月15日 (日)

ケイコ 目を澄ませて

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★★★☆
製作:2022年 日本 上映時間:99分 監督:三宅唱

 耳が聞こえないボクサーの実話をもとに描いた人間ドラマである。舞台は下町にある古くて小さなボクシングジム、モデルは実在した元ボクサー小笠原恵子で、彼女の自伝『負けないで』が原作となっている。

 耳が聞こえないということは、喋れないということでもあるので、練習をするにしても試合をするにしてもハンデが大きすぎる。それでも3勝1敗の成績を残した小笠原恵子さんは、いかに努力家だったかであり、映画の中でもノートにぎっしりと練習方法などを記入していたではないか。成績はともかくとして、とにかく精一杯力を出し切ることの素晴らしさ、清々しさが伝わってくる作品である。
 
 会長役の三浦友和が良い味を醸し出していたし、ラストの終わり方も観客一人一人に考えさせるさっぱりとした締め方であった。ただ最近は暗めの映画が多かったので、次は明るいコメディーでも観ようかな。 


評:蔵研人

 

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2024年9月12日 (木)

ノマドランド

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★★★★
製作:2020年 米国 上映時間:108分 監督:クロエ・ジャオ

 米国西部で車上生活を営む人々の生きざまを描いたロードムービーである。またタイトルのノマドランドとは、放浪者や遊牧民を意味し、特定の住居を持たず、自分なりの生き方を貫いている人々が集まる国を指す。もちろん現代のノマドたちは、自家用車を住み家として各地を移動して生活する人々であり、各人が様々な理由でそうした生活を選択しているようだ。

 本作はジェシカ・ブルーダーが2017年に発表したノンフィクション『ノマド:漂流する高齢労働者たち』を原作としているため、実在している人々を参考にして描かれていることになる。また本作は第93回アカデミー賞で、計6部門にノミネートされ、作品賞、監督賞、さらにフランシス・マクドーマンドが主演女優賞を受賞している。いずれにせよ各種映画賞を受賞したことを証明するが如く、しっかりと丁寧に創り込まれた格調高い大人の作品に仕上がっていた。

 それにしても「アメリカはとてつもなく広いなー」とつくづく再認識してしまった。ヒッピーは若者が多かったが、ノマドたちは殆どが高齢者ばかり。そして貧しくてやむなく放浪している者もいれば、裕福だが趣味や主義主張からあえてノマド生活を選択している者もいる。そうした意味でもホントにアメリカは広く奥が深いね。
 豊かになった現代社会の中では、本作を観て共感できる人はそれほど多くはないかもしれない。ただ少なくとも還暦を過ぎた人、愛する人を失った人、難病で余命を悟った人、どうにもならない悩みを抱え続けている人たちは感動するに違いない。従ってこのような作品の評価や感想をまとめることは難しいのだが、それぞれが持っている価値観や世界観によっていろいろな評価が産まれることだろう。
 
 
評:蔵研人

 

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2024年9月 8日 (日)

夏のダイヤモンド

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★★★
著者:高瀬美恵

 ダイヤモンドとは野球のグランドのことを指す。したがってタイトルの由来は、『夏の野球場での出来事』と言ってもいいだろう。ということで、本作は小学生の頃に野球チームで活躍した本宮、一条、大滝、久坂の4人のストーリーと言うことになる。もっとも話は大人になってからの彼等と、少年時代の彼等の時代を往復するドタバタSFという構成になっているのだが……。

 主役は一人称で語る本宮と親友のイッチこと一条であり、野球がテーマになっているにも拘らず、著者はなんと女性なのである。その影響かどちらかと言えば脇役で登場する二人の女子小学生のほうに、著者のこころが乗り移っているかのようであった。この二人は正反対の性格なのだが、著者のあとがきを読むと、大学になってから急変した著者の性格を反映しているような気がする。まあ女性というものは二面性を持つ生き物であり、年を重ねるにしたがって本性が現れるものなんだね。

 タイムトラベル小説なのだが、タイムマシンの自転車が酷すぎるし、時間論やタイムパラドックスもいい加減だ。まあどちらにせよ真剣に読む小説ではないし、ストーリーも浅くて退屈なのだが、読み易さだけは抜群で、あっという間に読破してしまった。とにかくフワフワして軽い作品なので、病院で順番待ちするときに、斜め読みするにはもってこいの小説かもしれないね。

評:蔵研人

 

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2024年9月 5日 (木)

RUN ラン

Run

★★★☆
製作:2020年 米国 上映時間:90分 監督:アニーシュ・チャガンティ

 オープニングは極端に小さな未熟児が誕生するところから始まる。そして約18年後、クロエは生まれつきの難病で車椅子生活を送っているが、大学への進学を希望している頑張り屋の女性に成長していた。それは母親ダイアンが、愛情をこめて彼女の体調管理や食事などの身の回りの世話をしてくれているお陰でもあった。
 ところがある日、母の与えてくれた薬の瓶には、クロエの名前ではなく母親ダイアンの名前が記されていることに気付き疑問を持つ。それで色々調べてみるのだが、なんとその薬は人間用ではなく犬の薬だったのである。さらに地下室であるものを見つけて、愕然となってしまうクロエであった。

 このあたりから母娘のホームドラマが一転してホラー映画となってゆく。圧巻は部屋に閉じ込められたクロエが窓から這い出て、なんと屋根を伝って別の部屋に移動するシーンである。この満身創痍の脱出劇を演じたキーラ・アレンは、実生活でも車椅子を使用している女優らしい。いずれにせよ役柄のクロエ同様、頑張り屋さんの女性なのだろう。

 本作は母親の異常な愛情がテーマのサイコホラーという位置づけであるが、クロエの疑念と恐怖感がジンジンと伝わってくるので、観客自身も逃げたくなってしまうのだ。さらにラストに用意されていた切り返しが実に見事であり、なかなか見応えのある作品であった。

 
評:蔵研人

 

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2024年9月 2日 (月)

アーカイヴ

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★★★☆
製作:2021年 英国 上映時間:109分 監督:ギャビン・ロザリー

 なぜか日本の山梨県の山奥にある研究施設が舞台なのだ。そしてここで人型アンドロイドの開発を進めるロボット工学者ジョージ・アルモアが主人公である。表向きは彼の研究は成果をあげられず不評であり解雇寸前なのだが、実は自動車事故で亡くなった妻の記憶を繋げたロボットを試作中であった。
 1号機は4歳レベルの知能で腕のないロボット、2号機は16歳程度の知能を有しているが、まだ外形が機械そのものの醜い姿だ。そして完成間近の3号機こそは、亡妻そっくりで臭いの嗅ぎ分けや食事も可能なパーフェクトなアンドロイドだった。またなんとその完璧な3号機に嫉妬した2号機が自殺してしまうというというおまけまでついている。

 それにしても山奥と言っても、断崖絶壁に建つ研究所の脇には大滝が流れ、研究所と道路を繋ぐ橋は開閉できるという優れもの、……というよりどうやってそんなところに建物を建てることができたのだろうか。さらに時々起こる原因不明のセキュリティー装置の故障は何を意味するのだろうか。またたまにやってくる訳の分からない物騒な連中は、一体何なのか何を目的としているのだろうか……なんだかよく分からないままストーリーは進んでゆく。

 なおタイトルの『アーカイヴ』とは、故人の生前の記憶や意識が保存されている装置のことであり、そのアーカイヴ装置を通して故人と会話することも可能なのである。さて何となく分かり難い作品であったが、ラストのどんでん返しで全てが解明された。あーっそうだったのか、でもなんだか反則スレスレの夢落ちみたいな気がしないでもないよね……。


評:蔵研人

 

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2024年8月30日 (金)

ミーガン

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★★★★
製作:2023年 米国 上映時間:102分 監督:ジェラルド・ジョンストン

 おもちゃ会社で開発したAI人形「M3GAN(ミーガン)は、子供の世話をする素晴らしいロボットのはずであった。ただ開発を急ぐ余り、徹底したセーフ機能ブログラムを人間が作成せず、AIの自動学習機能だけで進化させてしまう。

 そんな折に開発者のジェマの姉夫婦が事故で死亡し、姪のケイディを引き取ることになる。仕事で忙しいジェマは、ケイディの面倒を見る時間がとれず、試作品のミーガンにあらゆる出来事からケイディを守るよう指示する。だがミーガンはその指令を厳格に守り過ぎて、ケイディを襲った隣家の犬を殺してしまう。それだけで済めばまだよかったのだが、今度はケイディに被害を及ぼす人間をも襲い始めるのであった。

 なんとなく『チャイルド・プレイ』と『ターミネーター』をブレンドしたようなSFホラー映画であるが、これが全米で記録ずくめの大ヒットを打ち立てたという。そして続編の製作も発表されている。まあ実際に鑑賞してみても、間違いなく面白かった。それは単なる怖いだけのホラーではなく、ドラマあり、ブラックコメディあり、アクションあり、涙あり、社会性ありと映画のあらゆる要素を取り込んでいるからだろう。

評:蔵研人

 

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2024年8月27日 (火)

投身

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著者:白石一文

 本作を読み始めたとき、主人公の旭を男性と勘違いしていて、なにか辻褄が合わないと感じていたら、実は49歳の女性であった。彼女は医療機器販売会社の営業ウーマンで、顧客に体の提供も厭わない熱心な仕事ぶりで成績優秀な営業ウーマンであった。顔は平凡なのだが、巨乳で脚が美しく男好きなスタイルを保持していたため、かなりモテていろいろな男が次々と入れ替わる。

 仕事ができてセックス好きな女性を盛り上げるという面では、直木賞を受賞した『ほかならぬ人へ』とか、その姉妹作で三人称一元視点の『かけがえのない人へ』などの亜流のような気がする。ただ前二作に比べると本作のヒロインの男出入りは頻繁で、そのセックスもやや変態じみているところが好き嫌いの分岐点かもしれない。
 営業関連の顧客たちは別にしても、大金持ちの二階堂さん、同僚のイケメン・リッチ、年下のゴロー、義弟の藤光などとの絡みが丁寧に描かれている。だが彼女が真剣に愛したのはゴローだけで、あとは成り行きといった感覚のようだ。

 冒頭に登場したのが二階堂さんだったのだが、そのあとは二階堂さんの娘と金で買われたツバメたちの話が織り込まれるものの、二階堂さんとの絡みはラストになるまで沈黙したままだった。同時に旭と二階堂さんが交わしたと言う「交換条件」も、ラストに明かされるまで秘密のままであった。

 最終的にタイトルの『投身』が意図する結末に繋がって行くのだが、どうもひとつひとつの話が切り張りのようで、ほとんど関連性がなく全体的にまとまりがなかった。また二階堂さんとの描写が少なかったためか、彼の心情や行動がよく理解できないままで終わってしまったのも残念としか言いようがない。まあ内容的にはいま一つの感があり、小説としての完成度も高くはないのだが、相変わらず読み易くやみつきになる白石節は健在だったのであっという間に読破してしまった。

評:蔵研人

 

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2024年8月24日 (土)

すばらしき世界

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★★★★
製作:2021年 日本 上映時間:126分 監督:西川美和

 寡作だが『ゆれる』『永い言い訳』など、これまでオリジナル作品だけを手掛けてきた西川監督が、初めて小説を原案とした脚本を手掛けた作品である。その原案となった小説とは、直木賞作家・佐木隆三が実在人物をモデルに書き綴った『身分帳』であり、本作は35年前の時代背景を現代風にアレンジして創られたという。
 テーマは人生の大半を裏社会と刑務所で過ごした男が、殺人を犯し13年間の刑期を終えて再出発してゆこうとするのだが、なかなか堅気の世界に馴染めず四苦八苦する姿を描いて行く。

 ある意味よくあるテーマではあるのだが、役所広司が優しい顔と怖い顔を巧みに切り分ける演技が見どころである。また良い人たちが多く、手を変え品を変えて主人公を助けてくれるのだが、実直で正義感が強いのだが、気の短さが災いして、辛抱しきれずに失敗を繰り返してしまうシーンにハラハラしてしまうのだ。
 さらには主人公を取り巻く女性たち、元妻の安田成美、TVディレクター長澤まさみ、保護司の妻梶芽衣子、組長の姉さんキムラ緑子、ソープ嬢桜木梨奈などなど、全員が自立した魅力的なキャラで印象的であったことも付け加えておこう。それにしてもじっくりと主役を張れる男優が、役所広司しかいなくなってしまったのが淋しいよね。

 
評:蔵研人

 

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2024年8月20日 (火)

トゥモロー・ウォー

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★★★☆
製作:2021年 米国 上映時間:138分 監督:クリス・マッケイ

 ある日突然、2051年からやってきた未来人たちが、人類は30年後に未知の生物と戦争になり、やがて敗北するという衝撃の事実を告げる。そして人類が生き残るためには、現代から兵士を未来に送り込み、戦いに参加するしかないのだと言う。
 それで全世界が一丸となり、次々と戦闘員を送り込むのだが、生還できるものは3割に満たなかった。だが地球と愛する子供たちを守るため、一般人たちも招集されることになる。
 元軍人で現在は高校教師をしている主人公のダンも、7日間の兵役を命じられ未来へと旅立つのだが、そこで司令官を務めていたのは、なんと自分の娘ミューリであった。さらに彼女は強力な未知の生物ホワイトスパイクのメスを倒せる毒物の研究もしていたのである。

 とにかく壮大なストーリーであり、ホワイトスパイクの造形もなかなか素晴らしい。ただ全世界が一丸となっているという割には、現代から送られてゆく戦士たちの人数が少ないし、ド素人過ぎてほとんど役に立たないところがショボイ。それはラストも同様で、全世界どころか米国軍自体も消極的で、個人レベルの探検隊しか組織できないと言うのも情けなさ過ぎる。なんとなく超大作とB級が混在したような微妙な作品ではあったが、ハラハラドキドキ感が半端ではなく、かなり楽しませてくれることも間違いないだろう。

 
評:蔵研人

 

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2024年8月18日 (日)

タイム・ダイレイション-死のベッド-

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★★★
製作:2016年 カナダ 上映時間:88分 監督:ジェフ・マー

 なんとなくタイムトラブル系を連想させる邦題だが、時間差のある電話ということを除けば、昔の呪いが込められた古いベッドの話と言うだけで、SF味はほとんどしないホラー作品であった。それなら原題の『BED OF THE DEAD』のままでよかったのに。
 なにやら騙された気分で少しムカムカする。また1996年に製作された韓国映画に『銀杏のベッド』という作品があったが、なんとなくそのパクリのような気がしたのは私だけであろうか。

 ストーリーは単純で、風俗宿で乱交パーティーを企んだ4人だったが、巨大な古めかしいベッドに横たわると、それぞれが次から次へと奇妙な幻覚を見て怪死してしまう。そして生き残った女性が携帯から警察に通報するのだが、電話を受けたのは彼女の時間とは2時間の時差があり、彼女は火災にあって既にベッドの上で死んでいるというのだ。というようなストーリーで、ほとんどがベッドの周辺で展開してゆく。

 まあB級ホラーと言ってしまえばそれまでだが、それほど怖くもなくエロ度も薄いので、彼女と観てもいいかもしれない。そしてあのラストシーンだけは、まさにB級ホラーの王道だね。ところでベッドは燃えたはずじゃなかったの……。
 
 
評:蔵研人

 

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2024年8月12日 (月)

タイムリーパー

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★★★
製作:2019年 カナダ 上映時間:92分 監督:トニー・ディーン・スミス

 ジェームスはなぜかときどき未来を垣間見ることができる。その能力を知り合いのギャングに見込まれて高価な宝石を売りさばくため預かるのだが、その宝石を巡ってギャングの手下たちと危険なチェイスがはじまるのだった。
 本作はタイムトラベルものなのだが、タイムマシン代わりに注射器を使って薬を体内に投入するという部分がユニークである。ただなぜそんなことができるのかの説明はほとんどなく、多分注射器は低予算のための苦肉の策なのであろう。

 またテーマ的には好きな分野だし、スピード感のあるストーリー展開や、過去と未来の複雑な絡みもなかなか面白いのだが、よくよく考えるとなんとなくバカバカしい話なのだ。つまり取って付けたような話で、全員が突っ込みどころ満載の納得できない行動ばかりしているし、終盤に奇抜などんでん返しがあるわけでもない。結局のところただただジェームスが、独りでドタバタ劇を演じていただけ、というオチもいかがなものであろうか。
 
評:蔵研人

 

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2024年8月 9日 (金)

パラレル多次元世界

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★★★
製作:2018年 カナダ 上映時間:104分 監督:イサーク・エスバン

 真夜中に犬の世話をするため部屋から出た女性が、マスクをした何者かに殺害される。そして犯人がマスクを外すと、なんとそいつは殺害された女性と同一人物だった。という奇妙なオープニングに心躍らされるのだが、タイトルを知っているので、すぐにパラレルワールドからやってきた自分自身なのだなと気が付いてしまう。
 つまり犯人が住む世界では既に夫が亡くなっているのだが、この世界ではまだ元気に暮らしている。それで犯人はまだ夫が生きているこの世界に引っ越してきたという訳である。もちろんそのために邪魔になる自分自身を消したのだ。
 ただ面白かったのはこのオープニングだけで、この後に続く話は4人の若者たちの話であり、パラレルワールドの入口以外はオープニングの女性とはなんの関連も持たない。

 さてひょんなことから、シェアハウスに住む若者4人が壁の中にある部屋をみつけて侵入すると、誰かが住んでいた痕跡が残っており、部屋の中には大きな鏡が立てかけてあった。そうこの部屋を使っていたのが、オープニングの犯人であり、そこにある鏡こそパラレルワールドへの入口だったのである。
 さらにこの鏡からは一つだけではなく、いくつものパラレルワールドに繋がっており、戻ってくるときだけは同じ場所に戻る仕組みになっていた。さらに別世界では時間が180倍に膨張しているため、別世界での15分間がこちらではたった5秒であることにも解明される。

 さらにパラレルワールドには自分と同一人物が住んでいて、世の中の仕組みも似ているのだが、モナ・リザの髪がショートカットだったり、進化した発明品が登場していたりと、微妙に異なっているのであった。彼等はそれを利用してアプリや新製品、絵画などをパクったりして金儲けに翻弄することになる。
 ただこんなことを続けていてもいいことばかり起こるはずがなく、4人の友情にもひび割れ現象が起こってくる。そんな中である日、大変な事件が起こってしまうのであった……。

 パラレルワールドそのものは、私好みの興味深いテーマではあるのだが、なんだかすっきりしない。本作がそこそこ面白かったのは認めるが、タイムトラベルやパラレルワールドを利用して金儲けをしたり、自分と入れ替わったりする話は新鮮味がないし、後半に大きなどんでん返しが仕込まれている訳でもなく、もう一捻りが欲しかったね。またしいて言えば本作の真のテーマは、「パラレルワールドを利用したひとの欲望と罪深さ」だったのだろうか……。
 
評:蔵研人

 

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2024年8月 4日 (日)

パラドクス

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★★★☆
製作:2018年 メキシコ 上映時間:101分 監督:アイザック・エスバン

 日本では珍しいメキシコ製の映画である。タイムループと言えばそんな展開ではあるが、どうもSFではなさそうだし、ホラーというほど怖くはない。どこか奥行きを感じるのだが、よく理解できない難解さと狂気が漂っている不条理スリラーと言うべきだろうか。

 刑事マルコに自宅へ踏み込まれたカルロスとオリバーの兄弟は、隙をついて非常階段から逃亡を図る。だが兄カルロスがマルコに足を撃たれて身動きが取れなくなってしまう。すると謎の爆発音が聞こえ、全ての扉が開かなくなってしまう。さらには9階から1階に降りてもまた9階に逆戻りしてしまうのだった。
 
 すると画面が真っ暗になって、全く異なるシーンへと移動してしまう。そこには反抗期の少年ダニエルと妹カミーラ、そして母親サンドラとその恋人ロベルトが旅の支度をしているではないか。旅の途中ガソリンスタンドでロベルトが、アレルギー体質のカミーラーにジュースを飲ませてしまう。そのためカミーラーが喘息を引き起こしてしまう。さらに喘息止めの吸入器をロベルトが踏んづけてしまい、怒り狂ったサンドラが家に引き返せと叫ぶ。
 それで一家は慌てて家に引き返すのだが、途中で謎の爆発音がして、行けども行けどもまた元の道に戻ってしまうのだった。そうあの非常階段での出来事と全く同じ無限ループが起こってしまったのである。

 一体これはどういうことなのだろうか、また非常階段での出来事と、この家族のドライブとはどういう関連があるのだろうか。全く何も分からないまま、突然画面は35年後の世界へと切り替わってしまうのである。なんとそこは……。

 前述したとおり、とにかく難解で理解しがたい作品なのだ。ただ35年のループを繰り返して若者が中年になり、中年が老人になり、老人が死ぬとまた中年にその運命が乗り移る、というような永遠の摂理を描いていることだけは間違いない。また人の人生を「回し車を死ぬまで回し続けるだけのハムスター」と同一視したような、皮肉で塗り固められた作品であることも否めないだろう。
 
 
評:蔵研人

 

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2024年7月31日 (水)

かさなりあう人へ

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著者:白石一文

 直木賞受賞作『ほかならぬ人へ』から14年、折り重なる出逢いと恋愛を描いた『ほかならぬ人へ』のアンサー小説である。まずはスーパーでの万引きが縁で親しくなり始める、野々宮志乃と箱根勇の中年カップルという構想が面白い。志乃は夫に先立たれ義母と一緒に暮らしており、勇は浮気がバレて妻と離婚して独り暮らしである。だから中年同士の恋と言っても、決して不倫ではない。
 この二人は、タイトル通りあの日以来ずっとお互いに何かを感じて、二人で食事もしているのだが、なかなか肉体関係までは進まないのだ。一体いつになったら、と思いながらもかなり終盤までは友達関係が続くのである。

 文体は一人称なのだが、あるときは「俺」でまたあるときは「わたし」に変化する。そして面白おかしく読ませてくれる。ここいらが白石文学の真骨頂なのだが、二人がダラダラと付き合っている時間が長すぎたせいか、盛り上がりどころを逸してしまい中途半端なエンディングを迎えてしまった。そのあたりに無暗な残念感が残ったのは、決して私だけではないはずだ。

 それにしても本作に登場する女性たちは、なぜ全員が性に関して積極的なのだろうか。ことに70を過ぎた幸ばあさんが一番元気者だったね。まあいずれにせよ、タイトルの意味は「人生には自分には合わない人もいるが、ぴったりとこころが重なり合う人が必ずいるはずだ」ということだろうか。ただ中高年以上の人には思い当たることが多いが、若い読者にはやや退屈感が残る作品かもしれないね。

評:蔵研人

 

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2024年7月25日 (木)

スピーシーズ3 禁断の種

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★★★
製作:2004年 米国 上映時間:113分 監督:ブラッド・ターナー

 美女エイリアンが襲いかかるエロチックSFホラーシリーズの三作目である。もうほとんど記憶に残っていないが、第1作は過去に観ていることだけは確かで、たぶん2作目も鑑賞済みだろう。と思って3作目の本作を観てみることにした。過去に観た作品の内容は全く覚えてはいないものの、エログロ度がかなりトーンダウンしていた感があった。また主役の女優は、スタイル抜群なのだが、顔がいま一つで物足りなかったね。
 これでこのシリーズは終了かと思ったら、第4作も創られていたのでついでに観てみようかと考えているが、時間の無駄遣いかもしれないな……。

 
 
評:蔵研人

 

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2024年7月20日 (土)

T-NET タイムネット

Tnet

★★★☆
製作:2020年 イタリア 上映時間:83分 監督:シロ・ソレンティーノ

 イタリア映画と言えば恋愛ものとかヒューマンドラマしか頭に浮かばないため、本作のようなタイムトラベルものが存在すること自体に驚いてしまった。またB級作品ではあるが、イタリアの田舎町の景色にも癒されるし、ゆったりした気分で観れるところが良かった。

 田舎のある一日が三回繰り返されるだけなりのだが、本人が三人登場するのだからタイムループという訳でもない。つまり少し時間をずらして数時間のタイムトラベルをするというお話なのだ。たったそれだけなのだが、そこそこよくできていて何となく2007年のスペイン映画『タイム クライムス』と似たような作品であった。
 ストーリー自体は単純なのだが、歪んでいるようなタイムパラドックスを説明するのは面倒くさい。ただ父と息子の親子愛を感じつつ、過去と現在を往来する面白さを楽しめる作品であることは保証する。だからあとは、自分の目で見て確認してもらうよりないだろう。


評:蔵研人

 

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2024年7月15日 (月)

ANON アノン

Anon

★★★☆
製作:2018年 米国・英国・ドイツ 上映時間:100分 監督:アンドリュー・ニコル

 タイトルのANONとは「匿名」を意味するようだ。近未来が舞台なのだが、人の記憶が記録・検閲されるようになった世界を描いている。個人情報やプライバシーが全て無視される恐ろしい時代の到来なのだが、そのお陰で犯罪のない世界を構築することができたのである。

 ところがある日記憶の読めない女が登場し、同時に不可思議な殺人事件が頻発するようになってしまう。主人公のサル刑事は匿名化したある女性が犯人ではないかと推察し、自らオトリ捜査を実行するのだが、事態は驚くべき方向へと向かうのだった。

 テーマはユニークだし、アナログ映像にデジタル映像をブレンドしたビジュアルも、いかにもSFに染まってなかなかお洒落な雰囲気を醸し出している。ただストーリー的には、単調で余り深みがなく説得力も感じられないのが残念だ。またオマケのようなエッチシーンも、男性観客にはありがたいものの、単なる時間稼ぎにしか感じられなかった。

 

評:蔵研人

 

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2024年7月11日 (木)

ブラッド・パンチ タイムループの呪い

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★★★☆
製作:2014年 米国 上映時間:104分 監督:マデレイン・パクソン

 私の大好きなタイムループ作品なのだが、「殺し合いの応酬が止めどなく続く」という荒唐無稽に狂気を加えたような作品である。さらにその日生き残った者はそれまでの記憶が残るが、殺された者は前日の記憶が残らないと言うユニークな設定なのだ。

 ミルトンは麻薬製造がばれて、薬物治療のリハビリ施設に入れられてしまうが、そこでスカイラーという女性に一目惚れしてしまう。さらに彼女にそそのかされ、施設を逃げ出し彼女の恋人・ラッセルと落ちあい、薬物精製をするためのアジトに連れ込まれてしまうのだった。ここで麻薬を生成して大金を得たら、ミルトンを殺してしまう計画のスカイラーとラッセルだったが、いつしか3人は三角関係にもつれてしまう。そして殺し合いが始まるのだが、不可思議な時間のループに巻き込まれていることに気付く。彼らは何度も殺し合いながら、ループの謎を探るのだが……。

 果たしてこのループから逃れる方法はあるのだろうか、そして結末はどうなるのだろうか。前半はやや退屈気味だったが、このアジトに辿り着いてからは俄然面白さが倍増、いや5倍くらい面白くなってくるのである。低予算映画であるが、SF的な展開に加えてホラーとコメディーと心理劇を巧みにブレンドした見応えのある作品だったと言っても嘘にはならないだろう。
 
評:蔵研人

 

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2024年7月 9日 (火)

鳩の撃退法

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★★★
製作:2021年 日本 上映時間:119分 監督:タカハタ秀太

 最近になって佐藤正午の小説をよく読んでいるのだが、本作はまだ未読であった。従って小説より先に映画を観た訳であるが、正直言ってよく理解できなかった。佐藤正午の小説で映像化されているのは、『永遠の1/2』、『リボルバー』、『ジャンプ』、『彼女について知ることのすべて』、『鳩の撃退法』、『月の満ち欠け』、『身の上話』の7点であるが、いまのところ私が映像を先に観たのは本作だけである。
 佐藤正午の小説は、いずれも作中に巧みに伏線が練り込まれ、予想もつかないあっと驚く展開に終始するため、なかなか映像だけで表現するのは難しい。だからこそやはり彼の作品は、映像より先に原作を読むべきなのかもしれない。

 かつて直木賞作家であった津田伸一は、地方都市で送迎ドライバーとして生計を営んでいた。そんな折、親しくしていた古書店の老人が死亡し、形見として残された鞄を開けると、なんとそこには数冊の古書と3千万円の札束と3万円のバラ札が詰め込まれているではないか。だがその1枚を行きつけの理髪店で使ったところ、偽札であることが判明する。そしてその偽札の行方を追っているのは、警察だけではなく闇社会のボスも血眼になっていると言うのだ。
 こんな感じのストーリーが、津田の未発表の小説と事実が絡み合って展開してゆくのだが、一体全体これはフィクションなのか実際に起こっている事実なのか、なんだかよく分からないまま終わってしまった。やはり小説を読まないと理解できないのかもしれないね。
 
 
評:蔵研人

 

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2024年7月 2日 (火)

雷桜

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著者:宇江佐 真理

 江戸から三日を要する山間の瀬田村で起こった「ある事件」が全ての発端であった。当時赤子であった庄屋の一人娘遊が、雷雨の夜に何者かにさらわれてしまうのである。だが彼女は峠で次兄の助次郎と出会い、15年振りに「おとこ姉様」あるいは「狼少女」として奇蹟的に帰還するのだった。
 運命の波に翻弄されながらも、愛に身を裂き、一途に生きた女性を描いた感動の時代小説である。歴史観を外れない質の良いストーリーと、美しい映像を見るような語り口など、その完成度の高さは実に見事と言うよりないだろう。

 前半は庄屋の次男助次郎が、江戸に出て将軍の息子清水斉道の屋敷で中間として雇われ、斉道と知り合うところに力点が置かれている。だが後半になって遊が帰還してからは、彼女が主役となって行くのだ。そして江戸と瀬田村での話が交互に描かれてゆくのだが、ある日奇蹟的に斉道と遊が巡り合い、二人は身分違いの恋に落ちて行く。通常なら絶対に実現しないであろう狼少女と将軍家の殿様の恋、だがここに至るまでが、不自然にならないように前半にその種をまいておくという、実に見事なストーリー展開だったのである。

 そしてラストはほぼ予想通りなのだが、涙が落ちて止まらない。小説でこれほど泣いたのは本当に久しぶりである。なお本作は蒼井優と岡田将生の共演で映画化されているという。是非一度観てみたいではないか。

評:蔵研人

 

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2024年6月26日 (水)

二度目の夏、二度と会えない君

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★★★
製作:2017年 日本 上映時間:106分 監督:中西健二
 
 原作は赤城大空の同名ライトノベルである。高校3年生の篠原智は、バンド仲間の森山燐に思いを寄せていた。だが不治の病で病室で苦しんでいる燐に自分の思いを伝えるのだが、なぜか激しく拒絶されてしまう。
 そして燐は亡くなってしまうのだが、智は「この世には伝えてはいけない事がある」という罪悪感で悩み続けていた。そんな雪の降る日、土手に転がり落ちた智にタイムリープが起こり、燐と初めて出会った半年前のあの夏の日に戻るのであった。

 タイムリープがらみのファンタジーかと期待してレンタルしたのだが、タイムリープと言ってもその一度だけ半年前の自分の心に戻るだけで、あとは普通の学園難病ラブストーリーという展開に染まっていたな。ただ燐の歌唱力は抜群で、なかなか聞かせてくれた。それもそのはず燐を演じたのはガールズバンド「たんこぶちん」の吉田円佳という女性歌手だった。彼女は映画初出演と言う触れ込みだが、演技のほうもなかなか捨てたものではなかったね。まあ若い人にはともかく、おじさんにはかなり退屈なストーリーであったことは否めない。

 
評:蔵研人

 

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2024年6月22日 (土)

明日への地図を探して

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★★★☆
製作:2021年 米国 上映時間:99分 監督:イアン・サミュエルズ

 高校生のマークはいつの日か、毎日同じ日を繰り返すタイムループにはまっていた。だから今日どこで何が起こるかは全てお見通しなのだ。鳥のフンを頭に浴びてしまう人、道に迷っている人、スカートがまくれている人、プールでビーチボールをぶつけられてしまう人などなど。そして彼らを助けてあげることが毎日の日課になっていた。だがそんな毎日に退屈し始めた頃、自分以外にもタイムループにはまっている女性と巡り合うのだった。

 彼女の名前はマーガレット。彼女は身長が高く美人で、マークと同じ高校生なのだが、飛び級進学するほど優秀で、子どもの頃から「4次元を探している」という変わり者でもあった。いつ日か、ともにタイムルーパーであるマークとマーガレットは、毎日一緒に行動することになる。だがいつも18時になると、ジャレッドという男から電話がかかってきて、彼女はどこかに去ってしまうのだ。そして彼女は元の世界には戻りたくないようなのだ……。

 一体マーガレットは何者なのか、電話がかかってくるジャレッドとは、彼女の恋人なのだろうか。どうして二人はタイムループに巻き込まれてしまったのか、また果たして二人はタイムループから抜け出せるのだろうか。と謎の渦巻く展開に先が見えない。
 ヒントは、主人公はマークではなく実はマーガレットだったということ。そしてタイムループもマーガレットが引き起こした現象であった。ではマークは単なる添え物だったのだろうか、よく分からないのは、なぜマークがタイムループに巻き込まれたのかと言うことかもしれない。

評:蔵研人

 

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2024年6月19日 (水)

コンティニュー

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★★★★
製作:2021年 米国 上映時間:100分 監督:ジョー・カーナハン

 同じ日が何度も繰り返されるという「タイムループ映画」なのだが、本作はかなり派手なアクションシーンに染まりきっている。まず毎朝、目覚めた瞬間から謎の殺し屋に刃物で襲われたかと思うと、なんと窓の外からヘリでマシンガンを叩き込まれる。それをクリアすると今度はカーチェイスとなり、爆弾で吹き飛ばされ、刀で首を落とされる。といったシーンが延々と続き、殺された瞬間に翌朝のシーンへと繋がって行くというエンドレス展開なのだ。
 よく考えるとこれは、ゲームの世界と全く同じ仕組みではないか……。そして何度も同じことを繰り返しているうちに、だんだん上達して次のレベルへ向かうことになる。そしてお姫様いや元妻を救出しない限り、世界破滅のバッドエンディングを迎えることになってしまうのだ。

 とにかく休む間もなく考える暇もないまま、次から次へと敵が現れてだんだん厳しくなり、ボスまでたどり着くのは至難の業。そしてボスよりも、サブボスである剣を振るう中国娘が一番の難敵であった。こいつには銃もいやマシンガンさえ通用しないのだ。それほど超スピードで剣を操るのである。何度挑んでも殺されるだけ、さてどうすればこいつを倒せるのか、ヒントはタイムループを利用するのだ。

 タイムループ映画は1983年に公開された『時をかける少女』にはじまり、『恋はデジャ・ヴ』、『リバース』、『タイムアクセル』、『ターン』、『バタフライ・エフェクト』、『デジャヴ』、『トライアングル』、『ミッション: 8ミニッツ』と続き、最近では『ハッピー・デス・デイ』、『パーム・スプリングス』などが製作されており、すでに一つのジャンルを形成するようになってしまった。
 私はこのジャンルが大好きでたまらないのだが、それは30年以上昔に『恋はデジャ・ヴ』を観て大感動したからである。いま観ればそれほど大袈裟に感動しないかもしれないが、やはりタイムループ映画の草分け的存在というのは影響力が強いのだ。またタイムループと言っても、その中身はタイムループを利用した恋愛もの、コメディー、ミステリー、アクション、ホラーなどに細分化されるため裾野も広く、今後もさらに多くの作品が製作されるであろう。
 
 
評:蔵研人

 

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