ゼロの焦点
★★★☆
過去に何度もTVドラマや映画化されている作品である。太宰治と同じく松本清張も、生誕100周年を迎えるようだ。松本清張といえば代表的三作として、『砂の器』、『点と線』に並んで本作があげられる。
松本清張は『或る「小倉日記」伝』で、芥川賞を受賞すると、社会の暗部とドロドロした人間の本質を鋭くえぐる作品を続々と発表し、社会派推理小説という金字塔を築きあげた。本作も単なる謎解きミステリーではなく、敗戦後における女たちの苦渋に満ちた人生を描いている。…はずだった…。
今更の映画化ではあったが、昭和30年代の街並や蒸気機関車など、とてもCGとは思えない大がかりな撮影セットには舌を巻いた。さすが『三丁目のタ日』の東宝である。
それにしても昔は、事務所や工場の中であろうが、列車の中であろうが、客間であろうが、いたる所でスパスパとタバコを吸っていたんだね。喫煙ル一ムなど隔離された場所でしか吸えなくなってしまった現代と比べると、まるで違う国のように感じてしまうよな。タバコがこれほど追いやられてしまった事は、女性の地位向上の象徴といえよう。そのことがこの作品のテーマとオーバーラップしているのは偶然なのだろうか…。
さて今回の映画化のもう一つの売りは、主演の三女性に、広末涼子、中谷美紀、木村多江の人気女優を配したことだろう。それぞれの個性を活かした役柄で、女優達の選択に間違いはなかったと思う。ただ木村多江の登場シーンが短かったのが不満であり、この映画のもの足りなさに繋がってくる。
広末涼子自体は、なかなか演技力もあるし、役柄にハマッていたと思うのだが、余りにも探偵ゴッコにこだわり過ぎた展開がよくなかった。前述した通り松本清張の作品は、単なるミステリーではなく、社会派推理なのだから、犯人探しはほどほどにして、もっと人間ドラマの部分にスポットを当てなくてはならない。
それだからこそ、社会の底辺で生き抜いてきた木村多江のドラマをもっと掘り下げて描いて欲しかったのだ。誰が犯人かなどということは、賢明なミステリーファンなら、中盤ですぐに判ってしまうはずである。
松本清張の原作を使うのであれば、『砂の器』のように、ここのところをキッチり押さえておかねば意味がないのだ。その小さなほころびが、この作品の持ち味を殺してしまう結果になってしまったことを、犬童一心監督は気付いているだろうか。
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