エル ELLE

★★★

製作:2016年 フランス 上映時間:131分 監督:ポール・ヴァーホーヴェン

 本作は鬼才ポール・バーホーベン監督が描くエロティックサスペンスという触れ込みである。オープニングは猫が怯えているようなシーン。そしてその向こうの部屋では、自宅に侵入してきた屈強な覆面男に馬乗りにされ、顔面を殴られてレイプされている熟女の姿が…。

 その熟女こそイザベル・ユペールが演じるゲーム会社のCEOを務めるミシェルなのだが、彼女は独りで豪邸に住み、決して妥協を許さないため社員たちには嫌われていた。だから彼女をレイプしたのもその社員の一人かもしれない。また彼女はレイプされたことに腹を立てているものの、警察嫌いのため通報もしないし、何事もなかったようにいままで通りの生活を続けてゆこうと決心する。
 
 しかし時々レイプされたときの記憶の断片がフラッシュバックするようになり、犯人が身近にいると気付いたミッシェルは、その正体を突きとめて復讐しようと考えるのだった。
 こんな調子でストーリーが流れてゆくのだが、中盤ころから急に展開が変わってしまい、父母や元夫、息子との親族関連話やら社内の不倫話などが混在してくるためミステリー色がだんだん薄れてくる。

 この映画は一体何にポイントを絞りたいのか。主題が行方不明になってしまいそうになるのだが、また終盤になってサスペンス臭が戻ってくるという展開なのである。
 映像は美麗だし、イザベルの演技力は抜群で、登場人物のほとんどが変態のオンパレードという衝撃的な作品である。ただ欲張り過ぎたためだろうか、「サスペンス」、「エロ」、「ブラックコメディー」、「宗教批判」などなど、余りにも多くのテーマを混在させてしまったのは落ち着きが無さ過ぎると感じてしまった。
 
 それにしても女性たちのパワーが猛烈な映画だね。男たちは皆添え物に過ぎないじゃないの。それにあれだけの豪邸に住んでいても、家の前の道路が駐車場とは、それに運転が下手なくせに縦列駐車ばかり。フランスのお国柄を発見できる映画でもあった。

評:蔵研人

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2019年6月15日 (土)

ヴェノム

★★★☆

製作:2018年 米国 上映時間:112分 監督:ルーベン・フライシャー

 宇宙から採取した数体の地球外生命体『シンビオート』が、人間に寄生して圧倒的なパワーを発揮する。そして地球制服を企むのだが、ジャーナリストのエディ・ブロックに寄生した一体だけが、妙にエディに親近感を抱きダークヒーローとして活躍するという話である。
 このシンビオートは、なんと人間を餌にしているという特性も含め、まさに日本のコミック『寄生獣』のパクリと言ってもよいほどそっくりなストーリー展開なのだ。

 ヒーローものと言っても、初回作でその生い立ちが中心となるため、どちらかというとエイリアンとかプレデターを彷彿させられてしまう。きっと次回作からは、純粋なダークヒーローとして活躍するのであろう。
 チラシをみると、かなり気味の悪い怪物が大写しになっているのだが、ストーリーもキャラもかなり大雑把で、妙にコミカルで軽いノリなのだ。そんなところも含めて、まさに『寄生獣』そのものと言えよう。
 まあかなり突っ込みどころも目立つのだが、そこそこ面白かったので余りゴチャゴチャと批判するのはやめておこう。ただ続編が出来ても興味が湧きそうもないことだけは確かである。

評:蔵研人

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2019年6月12日 (水)

V.I.P. 修羅の獣たち

★★★★

製作:2017年 韓国 上映時間:128分 監督:パク・フンジョン

 北朝鮮のエリート高官の息子キム・グァンイルは、ロシア・香港・韓国へ転々と亡命していた。だがこの青年はサイコパスで、その先々で異常な殺人事件を繰り返していたのである。
 彼が犯人であることを本能的に確信した剛腕警視チェ・イドは、十分な証拠固めをせずに彼を逮捕するのだが、なぜか上層部によってもみ消されてしまう。その理由は韓国国家情報院と米国CIAの思惑が絡んでいたからであった。

 大規模なアクションシーンがある訳ではないが、複雑に絡み合う人間関係と、美しい顔をしているキム・グァンイルの憎々しい態度と、剛腕警視チェ・イドのしつこさが見ものである。また序盤にかなり残酷な殺人シーンが映し出されるので、ここで観るのを辞めてしまう女性が多発しているらしい。ただ残酷シーンを挿入することにより、犯人の異常さを克明に描写できたのだと考えれば致し方ないのかもしれない。

 いずれにせよラストには、それまで鬱積していたストレスが一気に解消されて、溜飲が下がることになるだろう。またそのラストとオープニングが見事に繋がって、オープニングの殺し屋の正体もはっきりすることになる。韓国産のクライムサスペンスが好きな人にはお勧めの一本である。

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2019年6月 8日 (土)

アメリカン・アニマルズ

American

★★★☆

製作:2018年 米国 上映時間:116分 監督:バート・レイトン

 2004年にケンタッキー州で、4人の大学生達が引き起こした「時価1200万ドルのビンテージ本強奪事件」を映画化した作品である。本作では実際にこの事件を実行した4人が頻繁に登場し、彼等のインタビューを交えながら、ドキュメンタリー風に展開してゆく。なかなか珍しい手法なのだが、本作より1年前に製作された『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』で既に用いられている。

 本作では犯罪実行よりも、それに至る経緯とその準備などにほとんどの時間を費やしている。従って派手な強盗やアクションシーンは全くなく、司書のおばちゃんが手足を縛られる程度である。
 また犯人たちは『オーシャンズ11』などの犯罪映画を参考に作戦を練るのだが、現実はそれほど上手くゆかないし甘くもない。それどころか終盤はドタバタの連続で、まるでおバカなコメディのような展開に終始する。だがそれが全く笑えないところに、この映画の虚しさと現実感が漂ってくるのである。

 老人に変装して堂々と真昼間の図書館に侵入するまではかなり格好良かったのだが、そのあと予定が狂ってしまい急遽中止にしたのは正解だったかもしれない。だがもうそれでメンバーの気分はバラバラになり、翌日の繰り延べ実行は既に無理な状態だったのである。この心理描写を決して見逃してはならない。現実とはこんなものであろう。

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2019年6月 4日 (火)

居眠り磐音

Iwane2

★★★★

製作:2019年 日本 上映時間:121分 監督:本木克英

 本作のポスターを見ておやっと思った。松坂桃李の表情が、かつて美男俳優・市川雷蔵が演じた『眠狂四郎』の妖気漂う表情とそっくりだったからである。そのポスターと久々の本格的時代劇という触れ込みにつられて、ついに映画館まで足を運んでしまった。

 原作は佐伯泰英の大ヒット小説シリーズで、すでにTVドラマ化されたり漫画化されており、遅ればせながらやっと映画化されたことになる。最近の時代劇はコメディーものや荒唐無稽でバタ臭い作品が多かったので、本作のような本格的な時代劇が製作されると嬉しくてたまらない。
 物語のほうは、松坂桃李扮する豊後関前藩の坂崎磐音と幼馴染みの小林琴平、河井慎之輔は、三人揃って江戸での修行を終え、連れ立って故郷に帰るところから始まる。そして明日は磐音と琴平の妹・奈緒との祝言を控えていた。

 ところが帰宅途中の慎之輔は、叔父に捕まり居酒屋に連れられ、留守中に妻の舞が不貞を犯したという噂話を聞かされる。それに激高した真面目な慎之輔は、帰宅早々理由も聞かずに妻を斬り捨ててしまうのだ。その妻・舞は琴平の妹であり、今度は琴平が怒り狂って慎之輔とその叔父を斬ってしまうのであのである。さらにはその琴平の行動を咎める国家老の命により、磐音が琴平を上意討ちにしてしまうのだった。

 琴平の乱心のため、小林家は御家断絶となり、磐音と奈緒との祝言も中止となる。磐音は二人の幼馴染みを失った衝撃に立ち直れず、奈緒を置いたまま脱藩し、江戸で浪人生活を送ることになってしまう。そしてここからが本番で、磐音の昼はウナギ職人、夜は両替屋の用心棒という生活が始まるのである。

 本格時代劇と言っても、藤沢周平の時代劇シリーズなどのように、田舎の藩の中だけという狭い世界で侍同士のトラブルを描いた話ではない。序盤の事件はともかく、話の中心は江戸であり、侍だけではなく町人や浪人たちが群像劇のように入り乱れて登場するのである。
 また松坂君の殺陣もなかなか様になっていたし、異形ながらもスピード感溢れる立ち回りも見応えがあった。ただ終演があっさりし過ぎていたことと、磐音の苦悩と葛藤が余り伝わってこなかったのが、少々物足りなかったかもしれない。

 昔は『座頭市』『眠狂四郎』『忍びの者』『子連れ狼』など多くの時代劇映画がシリーズ化されたものである。本作は前述した『座頭市』と『眠狂四郎』を混ぜ合わせ、そこに武士の悲哀を重ねたような作品であり、なかなか見所のある映画に仕上がっていた。多分シリーズ化されると思うので、次回作を楽しみにして筆を置くことにしようか・・・。

評:蔵研人

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2019年6月 2日 (日)

タイムトラベル 本と映画とマンガ を立ち上げました

 タイムマシン、タイムトラベル、タイムスリップ、時間ループ、パラレルワールド、その他時間に関係する本、映画、マンガ作品を紹介するブログを新規立ち上げました。本ブログの姉妹ブログです。どうぞ一度、覗いてみてください。↓下記URLをクリックしてね(^_-)-☆
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作:蔵研人

 

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2019年5月30日 (木)

ビリーブ 未来への大逆転

Bleeve

★★★★

製作:2018年 米国 上映時間:120分 監督:ミミ・レダー

 現在、合衆国最高裁には三人の女性判事が在籍している。本作はその一人であるルース・ベイダー・ギンズバーグの半生に迫るヒューマンドラマである。
 彼女は貧しいユダヤ人家庭に生まれ育ったが、負けん気の強さと異常なほどの努力により、名門ハーバード法科大学院を首席で卒業する。その1950年代に在学していた女性は500人中たったの9人であり、女子トイレすら設置されていなかったという。
 また首席で卒業したにも拘らず、ユダヤ系移民であること、子供がいること、そして女性であることなどの理由で、法律事務所には就職が叶わず、大学教授として働いていた。だがどうしても弁護士への夢を忘れられず、ある男性差別の訴訟記録を目にしてその弁護を無償で買って出るのだ。

 それは国を相手取っての訴訟だったので、はじめは全く勝ち目がなかったのだが、ギリギリのところで勝負に持ってゆく。そのラストの数分間の弁論はなかなか感動的であり、まるでそのシーンを見せるために創った映画のようであった。
 この裁判によって彼女は名声を得、その後のあらゆる差別問題に新しい判例を提示し、古い慣行に風穴を開けたのである。ことに現在女性たちが自由に活躍出来るようになったのは、まさに彼女のお陰だと言えるだろう。

 しかしその彼女を支えて応援してくれた夫マーティンの存在を忘れてはならない。料理下手の彼女に代わって夕食を作ったり、思春期の娘と気難しい母親の調停役になったり、弁護士活動を支援してくれたりと、まさに優しくて頼りがいのある夫の鏡のような存在だったのである。
 またマーティンは若くして精巣ガンに侵されて生存率5%と医者に宣告されたが、その後妻ルースの看病と大学での代筆などに助けられて、有能弁護士として働き78歳まで生きることが出来たのである。まさに夫唱婦随いや婦唱夫随か、どちらにせよ夫婦二人三脚で助け合い、尊敬し合いながらの人生を全うした結果なのであろう。実に羨ましい夫婦関係である。

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2019年5月27日 (月)

ライフ

★★★☆

製作:2017年 米国 上映時間:104分 監督:ダニエル・エスピノーサ

 一言で言えば『エイリアン映画』である。あのシガニー・ウイーバ主演のご本家『エイリアン』の大ヒットから数々のB級エイリアン映画が製作されているが、本作はかなりまっとうでリアリティーを追及しているSFホラー作品といえよう。また少人数ながら、キャストも主演のジェイク・ギレンホールや真田広之などと充実しており、そのキャラと演技力も文句の付けようがない。

 ただ成長したエイリアンの造形がタコのようでいま一つしっくりこなかった。さらには猛火を浴びせても、宇宙空間でも、しっかり生きている強烈な生命力と、賢すぎる頭脳力が現実離れし過ぎて気に入らない。
 またまさかのラストシーンは、想定外の展開で現実的なのかもしれないが、あのモタモタ感はどうにかならなかったのだろうか。それにあの終わり方は、昔からよくあるB級ホラー映画と全く同じパターンで、新鮮味が喪失してしまったことが悔やまれる。

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2019年5月24日 (金)

カメラを止めるな!

★★★

製作:2018年 日本 上映時間:96分 監督:上田慎一郎

 製作費が僅か300万円で、無名の俳優数人を配しただけの超B級映画である。ところが一部の有名芸能人が絶賛したことから、あっという間にネットで高評価が拡散してしまった。
 そして当初の2館上映から、なんと全国200館超の上映となる熱狂的フィーバー現象が勃発。さらに日本アカデミー賞にもノミネートされてしまった。その結果として興行収入は30億円を超え、イギリス、フランスでの上映も決定したようである。

 映画ファンとしては、良い悪いは別として、これほどの社会現象を巻き起こしたB級映画を観過ごすわけにはゆかないだろう。ということで、有無を言わさずこの作品をレンタルしてしまったのである。
 私の独善だけで結論を先に言ってしまえば、「そこそこ面白いのだが、社会現象を巻き起こすほど過熱する作品かな?」と首を捻りたくなる程度の評価しか与えられないのだ。
 ことに序盤の学芸会レベルの約30分間はとても鑑賞に堪えられず、何度もDVDプレイヤーを止めようかと心が揺れ動いてしまった。もしかするとそこで観るのをやめてしまった人もいるかもしれない。とは言っても、その魔の30分間さえ辛抱すれば、その退屈さの意味が解明されて面白くなってくるのだが、死ぬほど面白いという訳ではないのだ。

 またゾンビが登場するのでホラーなのかと思ったら全く怖くない。この手の映画を無理矢理ジャンル分けすれば、コミカルタッチな『種明かし映画』とでも言っておこうか。
 謂わば企画とアイデア勝負の映画なのだが、過去にも『サマータイム・マシン・ブルース』という、似たような作品があるので斬新的なアイデアという訳でもない。いずれにせよ好き嫌いが極端に分かれそうな映画だが、くれぐれも序盤の30分で投げ出さないこと。

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2019年5月21日 (火)

シンデレラ III 戻された時計の針

★★★☆

製作:2013年 日本 上映時間:75分 監督:フランク・ニッセン

 ディズニーアニメの名作『シンデレラ』をパラレルワールドの世界として創りあげたストーリーである。つまりもしガラス靴が義姉アナスタシアにぴったりだったらどうなるのというお話なのだ。
 ある日、魔法の杖を手に入れた義母が時間を過去に戻し、アナスタシアに合わせたガラスの靴を作り、お城に呼ばれることになるのである。もちろんシンデレラの顔を覚えている王子が、アナスタシアをダンスの相手と認めるわけがないのだが、また魔法の杖によって記憶を入れ替えられてしまうのだ。

 まあ視点を変えたシンデレラストーリーということでは評価できるのだが、やはりなんとなく結末は分かってしまうし、ねずみが大活躍という子供向けの展開にちょっぴり興ざめしてしまった。楽しい映画であることは間違いないのだが、大人がのめり込むにはもう一捻りが必要だろう。

評:蔵研人

 

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2019年5月17日 (金)

箱入り息子の恋

★★★★

製作:2013年 日本 上映時間:117分 監督:市井昌秀

 市役所勤務の健太郎は、35歳になるが彼女いない暦35年で、いまだ童貞で役所でもペイペイのままだ。そして定時にさっさと家に帰り、ペットの蛙に餌をあげテレビゲーム三昧の毎日。
 こんな息子の状況を心配した両親は、子供に代わって相手の親と対面する「代理見合い」をするのだった。そこで知り合ったのが、目の不自由な娘を持つ今井夫妻だったのだが・・・。

 普段無口でやる気のない健太郎が、本人同士の見合い本番の席で相手の父親に罵倒されながらも、きちっと正論で反論していくシーンからこの作品が盛り上がってくる。そして終盤の吉野家での『涙の牛丼』シーンには、きっと誰もがもらい泣きしてしまうだろう。

 そこまでは実にピュアな展開に終始していたのだが、ラストに向かって健太郎が猛烈にダッシュしてゆくところから、なんと急に過激な展開にチェンジしてしまう。まるで「ボーイズ・オン・ザ・ラン」を観ているような気分になってしまったが、今井家のシーンはちょっとハチャメチャ過ぎて付いてゆけなかった。
 
 目の不自由な今井奈穂子を演じた夏帆の純な可愛らしさも光ったが、何と言っても第37回日本アカデミー賞」新人俳優賞を受賞した星野源のぎこちない雰囲気が役柄にピッタシカンカンじゃないの。さらには二人の両親役を演じた平泉成、森山良子、大杉漣、黒木瞳の個性と存在感も評価したいね。

評:蔵研人

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2019年5月14日 (火)

アリスのままで

★★★☆

製作:2014年 米国 上映時間:101分 監督:リチャード・グラツァー

 若年性アルツハイマーに侵された50歳の女性言語学者の苦悩と葛藤を挟み、彼女を支えるファミリーたちとの絆を描いたヒューマンドラマ作品である。原作はリサ・ジェノヴァのベストセラー小説であるが、著者は神経学者であり、長年の研究で出会った人々をヒントにこの作品を描いているため、まるでノンフィクションのようにリアリティに富んでいて奥深い。

 また主演のジュリアン・ムーアが第87回アカデミー賞主演女優賞を受賞しているが、本作ではアルツハイマーが少しずつ進んで行く状態を見事に演じ切っている。まさに絶望に負けまいとするアリスの気高い戦いを演じるには、ピッタリのキャスティングであった。

 それにしてもアルツハイマーは他人ごとと片付けられない。現状では完璧な治療方法は存在しないので、とにかく早期発見して、薬で進行を遅らせるしかないようである。映画の中でアリスが「癌にかかればよかった。癌なら闘うことができる」と言ったセリフが印象的であった。それほど自分が自分でなくなることは恐ろしいものなのである。

評:蔵研人

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2019年5月11日 (土)

ラブレス

★★★☆

製作:2017年 ロシア,フランス,ドイツ,ベルギー 上映時間:127分 監督:アンドレイ・ズビャギンツェフ

 第90回アカデミー外国映画賞、第75回ゴールデングローブ外国映画賞にノミネートされ、第70回 カンヌ国際映画祭では審査員賞を受賞している完成度の高いヒューマンドラマ作品である。

 会社員のボリスと美容院を営むイニア夫婦は、お互いに愛人がおり険悪な雰囲気のまま離婚協議を続けていた。また二人には12歳の一人息子アレクセイがいるのだが、二人とも息子を愛しておらず、激しい口論の末お互いにアレクセイを押し付け合うのであった。
 それを聞いていたアレクセイは、悲しみの余り翌朝家を出たまま行方不明となってしまう。だがその父母たちはお互いに不倫相手と濃密なセックスに夢中になるばかりで、アレクセイが家出して2日後になってやっと彼の不在に気づく始末なのだ。

 警察に届けても、「忙しいので誘拐や殺人でない限り捜査できない」と断られ、民間のボランティア団体に依頼するように誘導して引き上げてしまう。
 やる気のない警察に見切りをつけた夫婦は、民間ボランティアの捜索隊に本件を依頼する。そのボランティア捜索隊は民間人らしからぬ手際よさで、すぐさまあらゆる方法で捜索を開始するのだがアレクセイは見つからない。

 こんな調子でストーリーは、不倫ドラマから一転してサスペンス的な展開にチェンジしてゆく。だからと言ってこの事件をきっかけにして、ボリスとイニアが夫婦関係を復活させるという結末になる訳ではない。それどころか捜査を続けるうちに、二人の関係は増々陰険になってくるばかりなのだ。そしてラストも生々しく救いがなく後味が悪い。だがそれがこの作品のキモであり、ハッピーエンドのハリウッド映画とは一線を画すゆえんであろうか。

 いずれにせよ最初から最後までずっと暗くて重苦しい。また人間関係の描き方もストレートで、ドロドロとしているので好き嫌いの分かれる作品かもしれない。なにせ子供の親権を争う話はよく聞くが、その逆は聞いたことがない。
 良く判らないがロシアの実態はかなり病んでいるのだろうか。子供を無視して自己快楽に耽る親たち、ところかまわずスマホばかりに夢中になっている大人達(これは全世界的傾向か)、そして無気力な警察。
 そんなときにウクライナでは、何の罪もない大勢の人々が不幸のどん底に突き落とされている、という皮肉汁もたっぷり盛り込んでいるではないか。また宗教的な終末観を煽る集団の話がバックに流れていたのは、何を意図していたのだろうか。

 それにしても、よくこんな映画の製作がロシアで許可されたものである。昔のソ連時代なら即没収ではないだろうか。それだけロシアも進化したのだろうか。ただ製作国がロシアだけでなく、フランス、ドイツ、ベルギーの4か国合作となっているところに仕掛けがあるようなきがするのだが・・・。

評:蔵研人

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2019年5月 9日 (木)

パッセンジャー

★★★★

製作:2016年 米国 上映時間:116分 監督:モルテン・ティルドゥム

 地球を出発して30年。乗客5000人を乗せた豪華宇宙船アヴァロン号は、目的地の惑星「ホームステッド2」に向けて、延々と航行を続けていた。もちろん乗客もクルーも全員が人口冬眠ポットの中で深い眠りについている。
 ところが宇宙船が突然小惑星と衝突し、その衝撃で大規模なシステムトラブルに陥ってしまう。もちろん大半のエラーは自動修復されたのだが、ただ一基の冬眠ポットだけが、冬眠状態を解除してしまうのである。
 
 目的地まではあと90年もある。このままでは死ぬまでたった一人で、宇宙船の中で孤独と戦い続けなくてはならない。その不運な乗客は、機械系エンジニアのジム・プレストン(クリス・プラット)という男性であった。
 ジムは必死で船内を探索するが、クルーたちが眠っている部屋にはパスワード無しでは入れない。そして一度解除した冬眠ポットを再度冬眠状態に戻すことも不可能だと理解する。

 船内ではバーテンダーのアンドロイドだけが唯一の話し相手。それでも船内に設置してある書籍やゲームなどで気晴らししているうちに、約1年が経過してしまうのであった。だがそれらにも限界があり、とうとう絶望と孤独に耐え切れず、自殺を試みるがそれも出来なかった。
 そしてとうとう冬眠ポットで眠っている美女オーロラ・レーン(ジェニファー・ローレンス)の冬眠を強制解除してしまうのだった。
 
 この行為は一人の人間の自由と尊厳を奪うという殺人と同一の行為であろう。この作品では、極限状況でのこの行為の正当性について観客たちに問うのだが、その回答は非常に難解である。そしてそれを彼女にずっと隠し続けることが出来るのだろうか。もちろん出来るはずがないし、そうでなければこの映画が成り立たない。そしてそれを切り抜ける手段はあるのだろうか。まずは本作をご覧あれ。

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2019年5月 6日 (月)

レディ・プレイヤー1

★★★★

製作:2018年 米国 上映時間:140分 監督:スティーヴン・スピルバーグ

 原作はアーネスト・クラインの小説で、仮想ネットワークシステム「オアシス」の謎を解き、開発者の遺産をゲットしようとバーチャルゲームに挑む高校生の活躍を描くSFアドベンチャー巨編である。
 現実世界では実写とVFXを駆使し、仮想世界はアバターを使ったCGの映像が凄まじいほど美しい。そして現実と仮想が入り組んで、仮想が現実を凌駕してしまうシーンも見事に折り込んである。

 とにかくかなりの構想が練られて、かなりの製作費が投入されたに違いない。いずれにせよ実現不可能と言われたこの作品を、いとも見事に映像化してしまえるのはスピルバーグだからこそであろうか。まあくどくど解説するよりも、百聞は一見に如かずだ。この超娯楽大作こそ絶対に映画館で観るべきだろうね・・・。

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2019年5月 3日 (金)

新感染 ファイナル・エクスプレス

★★★★

製作:2016年 韓国 上映時間:118分 監督:ヨン・サンホ

 ゾンビ映画で『バイオハザード』のパクリとも言えそうな作品なのだが、単純なパクリで片づけられない映画でもあった。それは逃げ場のない特急列車の中で、たった一人のゾンビに襲われた人々が次々にゾンビ化して凶暴性を発揮し、乗客たちが決死のサバイバルを繰り広げるパニック作品に仕上がっているからである。

 本作の原題は『TRAIN TO BUSAN 』であり、タイトルからはゾンビ映画であることを想像させない。つまりゾンビ映画であることを明示してしまうと、ジャンルが限定されてしまうため、観客層が限定されてしまうことを恐れたのであろう。そこで曖昧なタイトルや歪曲した言い回しで謎めかし、不特定多数の興味を煽ったのではあるまいか。
 そしてその手法が見事に当たったのか、韓国で2016年の観客動員数が第1位となった。さらには、米映画批評サイト「Rotten Tomatoes」でも高評価を獲得し、アジア諸国のほか北米でも公開されて大ヒットしているという。

 本作がこれほどのヒットを記録できたのは、単なるアイデアと緊張感だけではない。列車事故などの壮大なスケールに加えて、狭い空間での人間ドラマを巧みに織り込んだ脚本と演出の妙味にもあったのではないだろうか。
 また誰がどのようにして助かるのかも全く想像させない展開と、弱い者にはギリギリ優しかった結末にも納得できた。ただあの主役級の少女役を、もう少し可愛い子役に演じさせることは出来なかったのだろうか・・・。

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2019年4月28日 (日)

父、帰る

★★★★

製作:2003年 ロシア 上映時間:111分 監督:アンドレイ・ズビャギンツェフ

 菊地寛の小説ではありません。12年間行方不明だった父親が突然帰ってきて、二人の息子と謎の旅に出るという、ミステリアスなロシア映画なのです。
 優柔不断で優しい中学生の長男と、頑固で我がままな小学生の次男の好演が、特に光っていました。特に次男は表情を初め、体中から頑固さが漂っていました。あれは演技というよりは天性のものではないかと思いますし、万一演技だとすれば鬼気迫る大天才であります。
 それにしても不思議なタッチの作品でした。意外なラストの結末、父が行方をくらました理由、息子達を無理やり旅に連れ立った訳、謎の電話、土中から堀り出した謎の箱、これらの全てを説明しないままエンディングとなるのです。
 考えようによっては、馬鹿にされた気分になってしまうのではないでしょうか・・・。しかしながら一方では、この投げやりな終り方が、この作品に深みを与えているとも言えるでしょう。

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2019年4月22日 (月)

ドント・ブリーズ

★★★★

製作:2016年 米国 上映時間:88分 監督:フェデ・アルバレス

 一人住まいで盲目の老人の家に泥棒に入った若者三人だったが、実はその老人は元軍人でジェイソンのような恐ろしい男だった。登場人物ほぼ4人、場所もほとんど老人の家の中という低予算B級映画なのだが、その中味はかなり良質のスリラー作品と言って良いだろう。
 三人の若者のうち一人はどうしようもない不良男だが、その他の男女はいろいろ訳ありな家庭事情を抱えていて、やむを得ず泥棒をしているという雰囲気もあるのだが、だからと言って決して褒められた若者たちではない。また盲目の老人も不気味な精神異常者であり、結局4人とも共感を得られない面々ばかりなのだ。

 ジェイソンばりの盲目老人も恐ろしいのだが、あの犬の存在もかなり恐怖感を盛り立ててくれた。とにかくドキドキハラハラ、少し毛色の異なるスリラー作品である。ただつかまったり、逃げたり、倒したりを繰り返し過ぎで、なかなか大団円とならず、ちょっぴりしつこい感があったね。またラストも決してハッピーエンドではなく、やはりしつこさがへばり付いてくるようなエンディングだった。

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2019年4月17日 (水)

偽りなき者

★★★★☆

製作:2012年 デンマーク 上映時間:115分 監督:トマス・ヴィンターベア

 冤罪に巻き込まれあらゆるものを失い、集団的ヒステリー化した村で迫害される男の話である。本作はデンマークで記録的大ヒットを飛ばし、主演のマッツ・ミケルセンはカンヌ映画祭男優賞を受賞している。
 
 離婚した教師ルーカスは、郷里の村に戻って幼稚園の先生をすることになった。彼は子供たちの人気者だったのだが、ある日親友の娘であるクララにキスをされたりラブレターをもらった。だがクララのその行為を諭すと、彼女は自分の好意を拒絶されたと勘違いし、園長に「ルーカスにいたずらされた」とも取れる発言をしてしまうのである。

 そのあと園長はルーカスの話を良く聞かないまま、得体の知れないカウンセラーを連れてくる。そしてクララに対して誘導尋問のような質問を浴びせかけ、強引にクララから嘘の証言を引き出してしまうのだ。
 さらに園長は父兄や職員たちを集めて、ルーカスによってある少女が被害を受けたと吹聴する。さらには警察にまで訴えてしまい、とうとうルーカスは逮捕されてしまうのである。

 だが子供たちの発言は辻褄が合わず、証拠不十分ということでルーカスは釈放される。しかし無実となっても、狭い村の中で一度広まってしまった虚報は、まるでウィルスのように伝染して収拾が付かなくなってしまった。
 友人たちからは罵られ、食料品店では商品を売ってもらえず、ボコボコに殴られ、大きな石で家の窓が割られて、なんと飼い犬までが殺害されてしまうのである。

 とにかくこんなことになった発端は、全て職員の話を丁寧に聞かない女園長の早とちりである。この園長は決して悪人ではないのだが、世間知らずで事なかれ主義の小心者といったところか。またルーカスのほうもはじめからもっと強く反論すべきだった。彼は優し過ぎたのかもしれない。
 いずれにせよ恐ろしきは、集団心理である。現代風にいえば園長がインターネットで暴露した誤情報が大炎上してしまったということなのだろう。

 本作はヒューマンドラマなのだが、まるでホラーのようにじわりじわりと心を締め付けられるストーリーである。ただ唯一の救いは父親想いの素晴らしい息子と、ルーカスを擁護してくれた少数の友人の存在であった。
 本作の原題は『JAGTEN/THE HUNT』で、デンマーク語の「狩り」というような意味らしい。これはラストの意味ありげな鹿狩りシーンを示唆していると共に、村の人々の「魔女狩り」的な行動も指しているのであろうか。

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2019年4月11日 (木)

家族

★★★★

製作:1970年 日本 上映時間:107分 監督:山田洋次

  あの『男はつらいよ』シリーズの第一作が製作されたのが1969年だから、本作はその翌年に製作されたことになる。また本作はいわゆる山田監督の「民子3部作」の初作でもある。その影響か、出演者の多くが『男はつらいよ』とダブっていて実に興味深い。具体的には主演の賠賞千恵子をはじめとして、笠智衆、前田吟、三崎千恵子、森川信、太宰久雄そして渥美清と続くのである。

 ストーリーの背景は、高度経済成長期の日本であり、途中で大阪の万国博覧会の混雑振りが紹介されている。また東海道新幹線は東京~新大阪間しか開通しておらず、そのほかの新幹線はまだ全て未開通である。
 長崎の小さな伊王島で生まれた精一と民子は、結婚して10年の歳月が流れていた。だが精一の会社が倒産してしまい、彼の友人が勧めてくれた北海道の開拓地への移住を決心せざるを得なかった。

 一家は精一夫婦と子供が二人と精一の父親の5人である。まず船に乗り長崎に出て、列車に乗って精一の弟が住む福山で途中下車。さらにまた列車で大阪まで行き、新大阪から新幹線で東京に向かう。
 途中で子供が病気になって東京で足止めを食うのだが、さらにそこから先は地獄のような列車の旅が待っているのだった。現代であれば飛行機に乗れば一飛びなのだが、当時の航空運賃はかなり高額だったのだろう。

 このように延々と船や電車を乗り継ぎながら、様々なトラブルや不幸に見舞われながらも、「家族の絆」だけを拠り所に、力強く生きてゆこうとする姿が胸に沁みる感動作なのである。またなんとなく本作の7年後に製作される『幸福の黄色いハンカチ』を髣髴させられるロードムービーともいえる。
 なんと言っても、倍賞千恵子の瑞々しさと笠智衆のよき日本の穏やかな父親像がとても印象深く、高度成長期の日本がひしひしと伝わってくる良薬のような映画である。ことにラストでの二つの命の誕生が、それまでの苦労がやっと報われたようでとても嬉しかった。

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2019年4月 8日 (月)

シェイプ・オブ・ウォーター

★★★☆

製作:2017年 米国 上映時間:124分 監督:ギレルモ・デル・トロ

 原題は『THE SHAPE OF WATER』。直訳すると「水の姿」あるいは「水の形」という意味なのだが、このままでは意味不明である。そこでいろいろ調べてみると、ギレルモ・デル・トロ監督がこの難解なタイトルを説明している動画を見つけることができた。またその動画で監督は次のように語っている。

 「水は一番力を持った物質だ。どんな場所でも通り抜けるし、どんな形にもなり得る。グラスに入れるとその形になる。瓶の形にもなるしボトルの形にもなる。氷にもなるし蒸すこともできる、柔軟で強力だ。
 それは愛だと思う。愛する対象により形を変える。相手が誰であろうと、人種、肌の色、宗教、性別に関わらず形を変え全てに適応する。水は強力でやさしい物質だ。愛の形という認識だった。」

 つまりあらゆる障壁を超えたところにある『究極の愛の物語』を描きたかったのだろうか。だから本作に登場する主な人物は、ゲイ、黒人女性、障害者など差別を受けやすい人ばかり、そしてさらには究極の「半魚人」なのかもしれない。
 さて何といっても半魚人の登場は荒唐無稽なのだが、本作はモンスター映画ではなく、れっきとした恋愛映画なのである。それも人間と半魚人のラブストーリーなのだ。だから半魚人の姿はやや陳腐だが、CGではなく着ぐるみで優しい眼をしたぬいぐるみ仕様になっているのかもしれない。

 いずれにせよ監督が描きたかったのは、あらゆる障壁を超えたところにある『究極の愛の物語』なのだから、美女と野獣でもよかったのだろう。だがそれを半魚人と障害を持つ不美女にすることで、いまだかつてなかった斬新さを創造したのである。
 それにしても本作は、主役のイライザを演じたサリー・ホーキンスの熱演がなければ完成しなかったに違いない。『しあわせの絵の具』でも熱演していたが、美人でもなく貧相で小さい彼女が、これほどの大女優に駆け上がるとは誰が予測したであろうか。
 また本作は第90回アカデミー賞作品賞に輝いているのだが、半魚人の登場するファンタジー作品がアカデミー賞を受賞するなど、一体誰が想像でき得たであろうか。時代の流れとは実に恐ろしいものである。
 ただ注意しなければならないのは、残酷なシーンやエロいシーンが所々にちりばめられているので、お子様と一緒に観るのはやめたほうがよいだろう。

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2019年4月 3日 (水)

アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル

★★★☆

製作:2017年 米国 上映時間:120分 監督:クレイグ・ギレスピー

 この映画のチラシには、スケート靴を履いて大股開きをして、ふてくさくれた表情をしている金髪女性が写っている。そうこのチラシこそが、この映画の全てを語っているのだ。
 そしてなんとこれは実話であり、実在の人物も頻繁に登場するのである。そして俳優たちはメーキャプの技術もあるのか、気味が悪いくらいまるでそっくりさんばかりなのだ。

 アメリカ人の女子フィギュアスケート選手として、初めてトリプルアクセルに成功し、1992年アルベールビル、94年リレハンメルと2度の冬季五輪にも出場したトーニャ・ハーディングを知っているだろうか。一般的にフィギュアスケートの一流選手として活躍するにはかなりの費用がかかる。だが本作の主人公トーニャは、貧しい家庭に生まれたが、努力と才能により全米のトップ選手へ上り詰めたのである。

 しかしながら元夫のジェフ・ギルーリーが、トーニャのライバル選手を襲撃して負傷させた「ナンシー・ケリガン襲撃事件」を引き起こしたことから、彼女のスケーター人生の転落がはじまってしまう。この映画はそんな彼女の怒涛の半生を描いているのだ。
 それにしてもラストに映し出された実物のトーニァの演技は、約30年後の今見ても素晴らしい。あのスピードと躍動感、そしてジャンプの高さは現代でも見劣りしない凄さを感じてしまった。

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2019年3月31日 (日)

空飛ぶタイヤ

★★★☆

製作:2018年 日本 上映時間:120分 監督:本木克英

 池井戸潤の原作小説は未読である。タイトルの『空飛ぶタイヤ』とはいったい何事なのかと思っていたが、実は走行中のトラックのタイヤが外れて宙を舞い、歩行者を直撃してしまったということであった。
 現実には走行中のトラックのタイヤが簡単に外れることはない。この作品ではその原因がトラックを運転していた運送会社での整備不良なのか、トラックを製造したメーカーの設計ミスなのかを争う展開に終始することになる。

 原作者の池井戸潤といえば、作家になる前は三菱銀行に7年間勤務したことが知られている。その影響で小説には三菱銀行や三菱重工らしき企業がよく登場する。だから彼の書いた主な小説では、数年前にTV放映された『下町ロケット』や『半沢直樹シリーズ』などが有名だ。
 また彼は財閥系企業が大嫌いで、中小企業に好感を持っているようである。本作もその池井戸定石通りの展開で『下町ロケット』と似たような構成になっていた。ただ小説の発表は『下町ロケット』より本作のほうが5年も早いのである。

 ストーリーはまあまあなのだが、先に『下町ロケット』を観ているため、それほどの高揚感は湧かなかった。また主演の長瀬智也の熱演は買えるものの、ディーン・フジオカは今一つ迫力不足だし、高橋一生は登場時間が短すぎる。だから何となく底の深さを感じないドラマに落ち着いてしまったのが非常に残念である。

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2019年3月26日 (火)

私の、息子

★★★☆

製作:2013年 ルーマニア 上映時間:112分 監督:カリン・ペーター・ネッツァー

 もしかすると、ルーマニア映画を観たのは初めてかもしれない。原題は『POZITIA COPILULUI/CHILD’S POSE』で、直訳すると子供の位置/子供のポーズという意味らしい。邦題のほうは、母親視点でのタイトルとなっていて、こちらのほうがぴったりしている気がする。
 本作は、第63回(2013年)ベルリン国際映画祭で金熊賞を受賞しているヒューマンドラマである。本作は自動車事故を起こして、被害者の少年を死に至らせてしまった男が、被害者の家族に謝るかどうかまでを描いているだけなのだ。

 ただこの男の母親は子離れできず、過干渉で息子を溺愛しているのである。また息子のほうは30歳を過ぎて、妻もいるのだが極度の潔癖症と対人恐怖症で自立できていない。
 またキャリアウーマンで裕福でコネを沢山持っている母親は、警察の上層部を頼ったり、証人と金銭交渉したり、あらゆる手段を駆使して息子を助けようとする。だが息子はそんな母親に怒りをぶつけ、放っておいてくれと怒鳴るのだった。

 よくある話であり、こんな母親が「振り込み詐欺」に引っ掛かってしまうのだろう。ストーリーとしては実に単調なのだが、母親の葛藤を延々と描いた心理劇と考えれば良く出来ている。たぶん母親役の女優さんの存在感と演技力の賜物なのであろう。
 それにしても、こんなバカ息子を救うために違法行為も辞さない母親は、とてもじゃないが観客の共感を得られないし、そんな献身的な母親を「あんた」と呼び捨てて罵倒するバカ息子は、さらに不愉快なキャラクターではないか。ところがラスト数秒のワンカットで、全てが納得できてしまうのである。ある意味摩訶不思議な映画なのかもしれない。

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2019年3月20日 (水)

グリーンブック

★★★★☆
製作:2018年 米国 上映時間:130分 監督:ピーター・ファレリー
Greenbook_1
 本作は第91回アカデミー賞及び第76回ゴールデン・グローブ賞において、ともに作品賞、助演男優賞、脚本賞に輝いている素晴らしい作品である。だからといって決して堅苦しい作品ではなく、ロードムービー或いはコメディとしても鑑賞できる全方向のヒューマンドラマといっても良いだろう。
 タイトルの『グリーンブック』とは、Victor Hugo Greenという黒人の郵便局員が、車で旅行する黒人のために1936~1966年にかけて出版したガイドブックのことである。なぜこのようなガイドブックが生まれたのかというと、次のような背景があったからだと言われている。
 当時米国では、裕福な黒人であればマイカーを所有するようになっていたのだが、車で旅行する黒人(厳密には非白人)は、ジム・クロウ法(Jim Crow laws)という州法に基づく人種隔離政策(各人種は平等だが入り交じるべきではないという方針)の影響もあり、次のような不都合に直面していたという。
1.食事や宿の提供を断られる
2.自動車を修理してもらえない
3.給油を断られる
4.暴力を振るわれる
5.白人しか住まない町から追い出される
6.警察に逮捕されやすい
 地域によっては、黒人にサービスを提供する事業者のほうが稀で、黒人は広い国土を自動車で旅行するのがとても大変だったという。従って黒人がマイカーで旅行しようとする場合には、トイレを利用させてもらえない場合に備えて、車のトランクに簡易トイレやバケツを用意しておいたり、飲食店やガソリン・スタンドを利用させてもらえない場合に備えて食料やガソリンを余分に用意しておく必要があったのである。
 そんな時代に Green 氏が私費出版したのが、"The Negro Motorist Green Book" なのだ。これこそ黒人が利用できる飲食店・ホテル・民宿・ガソリンスタンド・娯楽施設・ガレージなどの名称と住所を記載してある黒人必携のガイドブックだったのである。
 本作では、黒人差別が続いていた1962年に、黒人ジャズ・ピアニストのドクター・シャーリーが米国南部を8週間に亘るコンサート・ツアーを実行する。だが米国南部は人種差別が激しい地域であり、黒人が旅をするには大変危険であった。そこで彼は移動中のトラブルを回避するために、粗野な白人バウンサーのトニー・リップをボディーガード兼ドライバーとして雇うことになるだ。さらに道中で困らないためのガイドブックとして、シャーリーの所属事務所がトニーに与えるのが「グリーンブック」だったのである。
 はじめは黒人嫌いのトニーだったのだが、シャーリーの天才的なピアノ演奏や文章力に脱帽してゆく。またシャーリーのほうもトニーのトラブル解決能力や、荒々しさの中に潜む心優しさに気付きはじめる。そして旅の終わりに近づく頃は、二人ともが主従の関係から友人の関係に心が転換してゆくのである。
 笑いあり涙あり、ラストのクリスマスイヴ風景も良かった。だが何といってもトニーの妻・ドロレスを演じたリンダ・カーデリーニが、とてもチャーミングで素敵だったよね。

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2019年3月14日 (木)

しあわせの絵の具

★★★★☆

製作:2016年 カナダ・アイルランド合作 上映時間:116分 監督:アシュリング・ウォルシュ

 カナダの女性画家モード・ルイスとその夫の半生を描いた実話ドラマである。モードは先天性のリウマチを患い手足が悪く、なかなかまっとうな仕事につけない。また夫となるエベレットは孤児院育ちで学がなく、武骨で人付き合いが苦手な魚売りだ。そんなはみ出し者同士が同居することになり、初めはお互いにすれ違いが多かったが、共同生活を重ねてゆくうちに次第に惹かれ合うようになる。

 モードは住み込み家政婦としては、充分な働きは出来なかったものの、何事にもひた向きに取り組み、こつこつと絵を描くことが生き甲斐になっていた。そんなある日、エベレットの顧客であるサンドラに絵の才能を認められ、絵の制作を依頼される。
 やがてモードの絵は評判を呼び、アメリカのニクソン副大統領から依頼が来るまでになるのである。そして彼女はマスコミにも紹介されて名士となるのだが、暮らしぶりは相変わらず地味で質素であった。

 そんなある日、疎遠にしていた叔母と久し振りに逢い、彼女から過去のある出来事について、衝撃の告白を聞くことになる。その事実を知ったモードは思案にくれ、エベレットに相談するのだが・・・。

 それほど製作費はかけていないものの、とにかく映像も音楽も良い、そして感動の涙に濡れる心温まる作品である。さらに起承転結の見極めもしっかりしているし、何といっても障害を持つモードを演じたサリー・ホーキンスの抜群の演技力には脱帽するしかないだろう。まさに映画らしい実に映画らしい珠玉の名作に仕上がっているではないか。

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2019年3月 8日 (金)

待ち伏せ

★★☆

製作:1970年 日本 上映時間:117分 監督:稲垣浩

 三船プロの製作で社長の三船敏郎をはじめとして、石原裕次郎、勝新太郎、中村錦之助、浅丘ルリ子と超豪華キャストを集めたアクション時代劇である。ネットの評価はいま一つだったのだが、これだけ超大物が揃った映画は後にも先にもないと思いDVDで観ることにしたのである。

 ただ結論から言えば、残念ながらネットの評価通り駄作であった。まず脚本も演出も酷すぎる。また石原裕次郎は時代劇には全く向いていないばかりか、その役割そのものが不要だった気がする。また中村錦之助の演技力は買えるものの、あんな役ではもったいない。彼は時代劇の申し子なのだから、もっと強い侍を演じてもらいたかった。

 そして一番残念だったのは、これだけの俳優を揃えながら、誰一人として見せ場が用意されていないことだ。また殆どの時間が、茶店の中での心理劇的展開に終始し過ぎて、安っぽい舞台劇を見せられているような退屈感に襲われてしまったこと。
 さらには期待していた殺陣のシーンは、ラストに申し訳程度の添え物として、ちょこっと用意されただけだったのである。まさに裏切りが裏切りを呼ぶだけの、見どころのない顔見世だけの映画であった。 

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2019年3月 2日 (土)

チャンブラにて

★★☆

製作:2017年 伊・米・仏・スウェーデン 上映時間:118分 監督:ジョナス・カルピニャーノ

Chanb
 手持ちカメラの映像が揺ら揺らして気分が悪くなる。だから薄目を開けて観ていると、今度は眠い、ひたすら眠くなってしてまうのだ。ところが今度は、ガンガン大音響でがなり立てる音楽が、やかましくてたまらない。
 
 タイトルのチャンブラとは、イタリア南部のスラム街の通りを指す。そしてこの映画は、国に縛られずに生きてきたロマというジプシーに焦点を当てた、ドキュメンタリー仕立てのヒューマンドラマなのである。

 本作にはストーリーらしいストーリーは存在しない。差別によりまもな職に就けないロマの人々が、窃盗などで生計を立てている様子を延々と描いてゆくだけなのだ。また兄と父が逮捕されたため、14歳の少年ピオが窃盗を繰り返して家族や仲間を支えることになってしまう。と言うより、彼が周囲の反対を押し切って勝手に窃盗に手を染めるのだが・・・。

 子供たちが酒を飲み、煙草を吸い、女を買うシーンが印象的である。だがアフリカや南米では、それに加えてマシンガンをぶっ放す子供たちがいることを考えれば、まだまだおとなしいほうなのかもしれない。

 いずれにせよ、登場人物の多くは主演のピオ君をはじめ、現地の素人たちで占められているというから、まさにドキュメンタリーと紙一重なのだ。こうした作風は珍しいし、こんな世界の存在を知ることも必要かもしれない。だがこうした直線的な描き方では、ただ窃盗を繰り返しているジプシーたちが悪いだけ、という印象しか残らないではないか。

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2019年2月26日 (火)

きみへの距離、1万キロ

★★★☆

製作:2017年 カナダ 上映時間:91分 監督:キム・グエン

 いやに長ったらしい邦題である。確かに超遠距離恋愛を描いたラブロマンスで、原題の『EYE ON JULIET』も判り辛いので仕方ないか…。
 主人公の青年ゴードンは、デトロイトにある警備会社から、北アフリカの油田に設置してある蜘蛛型ロボットを遠隔操作し、石油泥棒を監視する仕事をしている。そしてそこで巡り合った美少女アユーシャにひと目惚れ。そして監視作業をおっぽり出して、少女の日常を覗き見することに夢中になってしまう。

 という訳で、遠距離恋愛と言っても、ゴードンの一方的な思い入れに過ぎない。だがアユーシャには恋人がいた。さらには無理矢理年配の金持ちと結婚させようとする両親のもとから逃げ出して、二人して他国へ駆け落ちしようとしているではないか。アユーシャに同情したゴードンは、二人の駆け落ちを支援するために、彼女宛に大金を送金するのだが・・・。

 序盤はこの作品の意図が分からず、眠くてウトウトしてしまった。だが徐々にこの映画が放つ独特な雰囲気にのめり込んでしまった。なるほど単純なラブロマンスではないし、ロボット絡みのストーカーとは、なかなかユニークな発想である。
 ただちょっと荒唐無稽で無理が目立ち、終盤をはしょり過ぎたところも残念だが、ファンタジーロマンスと考えれば腹も立たないだろう。

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2019年2月21日 (木)

今夜、ロマンス劇場で

★★★★☆

製作:2018年 日本 上映時間:109分 監督:武内英樹

 最近の邦画はマンガを実写化したものや、東野圭吾などの人気作家の小説を原作としたものばかりで、かなり食傷気味であった。ところが本作は良い意味で期待を裏切り、久々に映画らしい邦画を観た気分にさせて貰い嬉しくて堪らない。
 時代背景は1960年頃、モノクロ映画の中から現実世界に飛び出したお姫様と映画監督志望の純真な青年のラブファンタジーである。なんとなく作品全体に『ローマの休日』や『ニュー・シネマ・パラダイス』あるいは『ある日どこかで』などを彷彿させられる雰囲気が漂う。だからオールド映画ファンにはとても心地よいのだ。まさに映画好きが創った映画ファンのための映画といってよいだろう。

 また姫役の綾瀬はるかの凛とした品の良い美しさに、様々に変化してゆく衣装がぴたりとはまりとても印象的であった。そして若き日の純真な青年牧野に坂口健太郎、老いた牧野を演じてこれが映画遺作となった加藤剛と、ともに真面目さを売りにする二人を起用したことも成功している。

 そしてラストに赤いバラと同時にモノクロがカラーに変わるシーンはとても感動的であった。「君の一番欲しかったものをプレゼントしてあげる」とは、まさにこのシーンのことなのだろうか・・・。
 難を言えばストーリーに深味が足りなかったことと、製作費が不足していたことかもしれないが、映像・音楽・配役・衣装・ノスタルジー・初恋・切なさ・涙などを見事に配合した素晴らしい映画だと思う。邦画も捨てたものではないよね。これからもマンガの実写版だけではなく、映画の原点に戻ってこんな真摯な作品も創って欲しいものである。
 

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