2009年7月 3日 (金)

シャッフル

★★★☆

 二人の娘と最愛の夫と共に、郊外の素適な家に暮すリンダ(サンドラ・ブロック)は、幸福の絶頂にあった。ところが出張中の夫(ジュリアン・マクマホン)が交通事故で急死し、いきなり不幸のドン底に叩きつけられてしまう。
 突然の事態にパニック状態となり、疲労感でぐったりとなった彼女だが、不思議なことに翌朝目を覚ますと、死んだはずの夫がキッチンで朝食の支度をしていたのだ。夫は何もなかったかのように振舞っているし、子供たちも夫が生きていることに何の疑問も抱いていないのである。

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発売日:2009/05/29
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 あの事故は夢だったのかと思ったのも束の間で、翌朝目覚めると夫の葬式が待っていた。これは一体何事なのかと、彼女には事の成行きが信じられない。
 こうして目覚めるたびに夫が生きたり死んだりする。果して夢なのか誰かの仕組んだいたずらなのか…。結局のところ、一週間のうち毎日が順番に過ぎてゆかず、まるでカードをシャッフルしたように不規則に次の日が訪れるのだった。
 『恋はデ・ジャブ』『タイムアクセル12:01』は、同じ毎日が繰り返され、『メメント』は過去から現在へと時間が繋がってゆくが、この作品では過去と現在がシャッフルされながら、時間は過去から現在へと流れてゆくのである。

 このように変則的に時間流を動かしてゆく作品は珍しく、なかなか楽しかったのだが、やはり前述した作品群の亜流に過ぎない。というのも、ストーリーそのものに深みがなく、主張したいテーマも感じられず、シャッフルというアイデアしか見えてこないからである。あえて言えば、「幸福も不幸も自分自身が生み出すもの」という教訓だろうか…。
 またサンドラ・ブロックが適役だったかも疑問で、大味な彼女よりもメンタリティーな雰囲気を醸し出す女優は、他に大勢いると思うのだが…。さらにラストの展開は、余りにも正直過ぎるのではないか。もっとネットリとした恐怖感と、もうひと捻りが欲しかったな。大好きな時間テーマものだけに少し残念な気がするのだ。

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2009年6月25日 (木)

劍岳 点の記

★★★★
 
 原作は新田次郎の小説であるが、主人公の柴崎芳太郎は実在人物であり、小説同様、陸軍参謀本部陸地測量部の陸地測量官だったという。そして劍岳における功績等についても事実そのものであるから、これはある意味歴史ドキュメンタリーといっても過言ではないだろう。
 それにしても凄い映画である。大自然の撮影にはCGと空撮は一切使用せず、スタッフ・キャストには命がけの苦行ロケだったという。事実スタッフ一名が、落石で重傷を負ってへリコプターで病院に運ばれている。

      Tsurugidake

 まさに真摯で厳格な作品であり、木村大作監督の並々ならぬ気迫と決意を感じることだろう。そして大自然の映像が驚くほど美麗であり、バックに流れるクラシック音楽と見事にリンクし、さらに画質の格調を高めているかのようだ。流石カメラマン出身の監督だと、誰もがきっと唸るはずである。
 物語は面白いというものではなく、淡々と登山と測量が続いてゆく。だが謎の行者の登場、日本山岳会との競合、宇治長次郎と長男とのからみなど、ドラマ仕立てで感動出来るシーンもきちっと用意されている。いずれにせよ、雄大な自然の中で必死で生き抜く男達の人間ドラマであることは間違いないだろう。
 ところがネットでの評価等を覗いてみると、現代の若者達には大味過ぎて物足りないようである。逆に年配の人々には大受けしているようで、平日だというのに、朝から映画館は大行列。満員御札で上映3時間以上前にチケットを購入しないと、良い席がとれない。

 そして館内はどちらを向いても年配者ばかり、日本には年寄りしかいないのかと錯覚するほどのシルバーパワーである。そして何十年も映画館に来たことのないような「山好きのおじさん」らしき人も多かった。
 アカデミー賞を受賞した『おくりびと』のときも同様の現象が起き、映画発展のためには非常に喜ばしいことなのだが、映画を観るエチケットも知らないおじさんが数人いたのは残念である。
 まずシネコンでのチケットの買い方も知らず、注意しても並ばず平然と横入りしてくるおやじがいた。それから僕の隣りで観ていたおじさんは、ブツブツ独り言を言ったり、ビニールの袋でバリバリ音を立てたかと思うと、席から乗りだしてスクリーンを見つめたりと、かなりうざったい。そのうえ朝から酒を飲んでいたのか、オヤジ臭がプンプンと臭ってきて堪らないのだ。もう!何とかしてくれと叫びたくなってしまった。もちろんこうした観客は、ほんの一部なのでご誤解なきよう。
 最後にキャストについて… 柴崎芳太郎役の浅野忠信は、まさにハマリ役で、寡黙で真面目な山男役をしっかりと演じていた。また準主役の宇治長次郎を個性派の香川照之が、これまた見事に味のある役柄に徹している。
 逆に平成感覚プンプンの松田龍平、宮崎あおいには、背景である明治時代の香りが全くしない。どちらかというと、この二人は若者集めのキャスティングなのかもしれないね。あとせっかく芸達者の笹野高史と渋味に磨きのかかった國村隼の個性が生かせず、ただの悪軍人にしか描かれていないのが非常に残念であり、こんな役をさせてはもったいなさ過ぎるのではないか。
 信念と勇気を失なわず、過酷な環境を乗り越えて真摯に生きることの素晴らしさ、日本人が失なってはならない精神を描いた作品であり、是非とも現代の若者たちにこそ観てもらいたい映画のはずである。ところが観客は年配者ばかり、という皮肉な結果となってしまった。だがいまだ上映開始してまもないので、今後若者達の観客が増えてくれることを期待してやまない。

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2009年6月22日 (月)

魔法にかけられて

★★★★

 オープニングは『白雪姫』もどきのアニメでスタート。主人公のジゼルは、夢の中で出逢った王子様と結婚することを願う。そしてその夢が叶って、いよいよ王子との結婚式の朝を迎えるのだった。

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販売元:ウォルトディズニースタジオホームエンターテイメント
発売日:2008/07/18
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 ところが王座を奪われることを嫌う継母の女王(魔女)に騙されて、アニメのお伽の国から、実写の現代世界へと追放されてしまうのである。
 跳ばされた場所は、ニューヨークのど真中。クラシカルなウェディングドレスをまとったままのジゼル(エイミー・アダムス)は、車に轢かれそうになったり、ホームレスに宝石を盗まれたり、雨でズブ濡れになったりと、散々な目に合ってしまうのだ。
 ジゼルは、自分が何処にいるのかも分からず、休む場所もなく、パニック状態に陥っているときに、娘のモーガン(レイチェル・コヴィー)を連れた弁護土のロバート(パトリック・デンプシー)と出逢う。この出逢いこそ運命的な出逢いになるのだが、ロバートにはナンシー(イディナ・メンゼル)という恋人がいるし、今度はアニメ世界からジゼルを追って、婚約した王子や魔女の手先きがやってくるのだった。
 このあとの結末は、是非映画を観て確認して欲しい。歌あり踊りあり、そして笑いと涙を折り込み、老若男女を問わず誰にでも楽しめるファンタジー作品に仕上がっている。そのうえアニメ世界と実写世界を組み合わせるというユニークなアイデアが仲々面白い。まさにディズニー映画にしか出来ない芸当じゃあないか。

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2009年6月21日 (日)

ターミネーター4 

★★★★

 衝撃の『ターミネーター』が製作されたのが1984年。それ以降『ターミネーター2』、『ターミネーター3』と、いずれもアーノルド・シュワルツェネッガー主演であったが、第一作を超えることは出来なかった。
 本作ではシュワルツェネッガーは、主役ではなくCGでのチョイ役に過ぎない。また舞台もターミネーターが製造された2018年になっている。つまり過去の作品で断片的に描かれていた核戦争後の未来世界でのお話なのだ。

         T4

 当然主人公になるのは、人類の救世主となるジョン・コナー(クリスチャン・べイル)なのだが、時代背景は、コナーがまだ小隊のリーダーとして活躍している頃である。従って本作では、彼はまだ完全な主人公とは言えないし、余り魅力的な人物にも描かれていない。
 どちらかといえば、今回はサイボーグのマーカス・ライト(サム・ワーシントン)のほうにスポットライトが当たっていたようだ。そしてのちにジョンの父親となるはずの、カイル・リースとのからみがキーポイントとなる。

 シリーズものといっても、毎回味の異なる展開を繰り広げてきたターミネーターシリーズだが、とうとう未来編に突入し、これまでとは全く別作品のようなストーリーが始まった。
 本作ではバイクロボの「モトターミネーター」や、巨大ロボの「ハーヴェスター」、水中ロボの「ハイドロボット」など多数のマシンが登場しする。またアクション映画というよりは、戦争映画そのものといった趣きである。
 ターミネーターは、旧式のTー600型やシュワちゃんでお馴染みのTー800型が登場するが、『ターミネーター2』や『ターミネーター3』で登場した新型マシンはまだ製造されていない。
 今回はコナーがカリスマへの道を歩み始める迄を描いているだけなので、少なくともあと2作位の続編が製作されることは間違いないだろう。
 カイルが過去の世界へ行くこと、そしてターミネーター達がコナーの存在を抹殺しに過去へ跳ぶくだりで、過去の作品とどのようにリンクさせるのだろうか。そしてこの超大作をどのような形で収束させるのか。興味深々でゾクゾクする。続編が待ちどおしくて我慢できないぜ。

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2009年6月20日 (土)

世にも不幸せな物話

★★★☆

 映画のジャンルはファンタジーアドべンチャー、ストーリーの創り方としては、お伽話といってよいだろう。また主役の三人の子供達が、それぞれの得意技を発揮するくだりが、この物語を楽しくさせるエッセンスになっている。
 長女のヴァイオレットを演じたエミリー・ブラウニングは、当時15才にしては、妙に色気があって可愛いのだ。・・・などと書くとロリコン趣味と誤解されるので言及するのはやめておこう。

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 さてこの物語は、火事で裕福な両親を亡くした三姉弟妹が、着の身着のままで、次々とおかしな身元引受人の間を転々とするという展開である。身元引受人達は、それぞれが奇人・変人ばかりだが、最初の身元引受人であるオラフ伯爵だけは、どうしようもない極悪非道の人物でもあった。
 このオラフ伯爵に、あのジム・キャリーが扮して、まるであの『マスク』のような、マンガチックなオーバーアクション見せてくれる。そして他の身元引受人が、いとも簡単に死んでしまうのに、こいつは何をしても死なないし、逮捕されてもすぐに逃げ出してしまう。
 観ているほうは、腹が立ちストレスが溜まるのだが、きっと彼が再登場する続編の予定があるのだろう。しかしこうした話は一度だけでよい。僕的には続編には全く興味が湧かないな…。

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2009年6月17日 (水)

ROOKIES 卒業

★★★★

 佐藤隆太の熱血先生振りが良かったな。ちょいとおっちょこちょいで、喧嘩も弱そうなところが逆に共感を呼んだのだろう。
 「夢にときめけ明日にきらめけ」だってさ、恥かしいし臭くて臭くてしょうがない映画だが、以外に素直に号泣してしまった。熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い、とにかく猛烈に熱くなる。

    Rookies

 現実にはあり得ないかもしれないが、醒めてしまった今の日本で、一番不足している精神と心情を引き戻してくれる熱気とパワーである。自分さえ良ければ、金のためには何でもやるといった風潮。それが秋葉原の無差別殺人や腐りきった政治家や企業家を生み出すのだ。
 暴力団まがいのヤンキー高校生達が、「甲子園に行く」という夢だけのために、ひたすら汗を流し続ける。シンプルで単純でバカバカしいほど判り易い映画だ。
 だが今だからこそ、こんな作品が必要なのではないだろうか。息子がいれば絶対に一緒に観たい映画である。だから映画館は親子連れで長蛇の列。もちろん興行成績もダントツのようである。
 映画の創り方や野球のシーンに細かい文句のある人もいると思う。だがそんなことは、どうでもいいじゃないの。こんな世の中なのだから、たまには熱い涙を流して、人間である証しを確認しようではないか。

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2009年6月15日 (月)

タイムアクセル12:01

★★★★

 かなり以前に1度観た映画だが、最近になって気になり始め、DVDを探しても見当たらないため、中古ビデオを購入してしまった。
 本作は『恋はデジャ・ブ』同様、ある1日の繰返しが延々と続く。『恋はデジャ・ブ』は、美人プロデューサーをくどくために、何度も1日を繰り返す男の話だった。本作は惚れた同僚女性を、殺し屋から守るために何度も1日を繰り返す男の話である。

      Time

 繰返しを続ける原因は、どちらも女性のためなんだね。違うところは、本作の時間循環ほうが、やや理論的だということである。いずれにせよ、双方よく似た作品である。 だがどちらの作品も、1993年製作なので、どちらかがパクッたということはない。それにしても、偶然の産物にしては似過ぎているよな。

 『恋はデジャ・ブ』には一歩譲るものの、本作の出来映えもなかなかである。とにかく面白いし、よく練られたストーリー構成である。そしてヒロイン役のヘレン・スレイターがとても知的でキュートだ。
 若かりし日の彼女が『スーパーガール』だったと知って、驚きの中に懐かしさが溢れてくるようであった。ところで彼女もそろそろ40代後半になるんだ。最近はほとんど映画出演はなく、フォークやジャズの歌手をしているらしいね。

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2009年6月 8日 (月)

イエスタデイズ

★★★★

 主人公聡史(塚本高史)は、余命わずかな父親(國村隼)に、青年時代に別れた恋人を探して欲しいと頼まれる。手がかりは彼女の名前と、若き日の父が描き貯めたスケッチブックのみ…。
 そのスケッチブックに描かれた場所に行き、そのスケッチブックをじっと見つめていると、いつの間にかそれが描かれた時代にタイムスリップしてしまう。そしてそこで彼は、若かりし日の父(和田聰)と、美しい恋人・澪(原田夏希)に出会うのだった。

イエスタデイズ デラックス版 [DVD] DVD イエスタデイズ デラックス版 [DVD]

販売元:ジェネオン エンタテインメント
発売日:2009/03/25
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 愛しているが故の別れ、父と母との出逢い、知り得なかった父の苦悩、などなど…この手の映画で使われる常套手段ではあるが、甘くせつなくノスタルジックな展開と美しい映像が流れてゆく。

 ストーリー構成では、『地下鉄に乗って』とやや似ているが、タイムスリップ手法は、絵と写真の違いこそあれ、『バタフライエフェクト2』そのままである。だが『バタフライエフェクト2』のタイムスリップよりは、本作のほうがずっと必然性があった。
 タイムスリップを利用したラブファンタジー作品としては、かなり良質の部類に入る作品だと確信する。しかし、原作が短編であるためか、心に深く突き刺さるような大感動シーンがなく、「爽やか感動」止りというところに、今一つ物足りなさを禁じ得なかったのも事実である。

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2009年6月 6日 (土)

株の世界の歩きかた

 著者はカブドットコム証券の役員をしている臼田琢美さんで、株式投資に対する愛情をひしひしと感じる。そして株の美味しさとホロ苦さも、十分噛みしめているようである。

株の世界の歩きかた Book 株の世界の歩きかた

著者:臼田 琢美
販売元:日本経済新聞社
Amazon.co.jpで詳細を確認する


 本書はこれから株の売買を始めたいという、株式取引初心者向けの本だが、ノウハウ本や参考書のように気取ったところがない。だからと言って、やたらと図やイラストを挿入しているケバい本でもない。
 株式取引を読み物風にまとめて、優しくそして判り易く解説してくれるので、読んでいて楽しいし、知らぬ間に株式取引の何たるかが理解出来てしまう。
 著者のポリシーは、基本的に株は中長期的に保有するものということなので、デイトレをめざす人達にはもの足りないかもしれない。しかし健全かつ本格的な株式投資を目指す人にとっては、たとえ中級者であっても十分満足出来る本に仕上がっている。とにかく好感の持てる一冊だ。

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2009年5月31日 (日)

まだ見ぬ冬の悲しみも

 少しきどり過ぎの感があるタイトル作品を始め、『奥歯のスイッチを入れろ』、『バイオシップ・ハンター』、『メデューサの呪文』、『シュレディンガーのチョコパフェ』、『闇からの衝動』と長いタイトルの中編小説が並ぶ。

まだ見ぬ冬の悲しみも (ハヤカワSFシリーズ―Jコレクション) Book まだ見ぬ冬の悲しみも (ハヤカワSFシリーズ―Jコレクション)

著者:山本 弘
販売元:早川書房
Amazon.co.jpで詳細を確認する

 『奥歯のスイッチを入れろ』は、バトルスーツに身を固めた超最新サイボークのアクションシーンに終始する。まるでマンガのワンシーンを丁寧に再現したかのような小説で、かなり面白いのだが、バトルシ一ンを詳細に描き過ぎていて、読者はいつまでもお預けを食らい続ける。まるで、板垣恵介のマンガのようでストレスが溜まってゆく。
 『バイオシップ・ハンター』は、宇宙ものでバイオシップという生物宇宙船にまつわる話。『メデューサの呪文』は、言葉を兵器に出来る異星人のお話。『闇からの衝動』は地下室にある穴の奥に潜む怪物のお話で、SFチックなホラーである。
 そしてタイトルの『まだ見ぬ冬の悲しみも』と『シュレディンガーのチョコパフェ』の二作こそが、目的の時間テーマ小説なのだ。どちちも時間や次元を操ることにより、この世が破壊されるというネガティブポリシーをテーマとしている。
 著者の新感覚パラドックス理論と、明快なストーリー展開には、絶大なる拍手を送りたいが、中編ではなく長編作品も読んでみたいものである。

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2009年5月30日 (土)

インスタント沼

★★★★

 カッパが見えるとはしゃぐ母親と、絶対に現実しか信じない頑固娘のハナメ。彼女は売れない雑誌の編集長だが、この雑誌の廃刊と同時に、あっさり出版社を辞めてしまうのだ。
 さあそれからが大変、ジリ貧状態が延々と続く毎日。ひょんな事から30年前の手紙が発掘されるのだが、それが見ず知らずの父親から、母親宛てに投函されたものと知り大ショック。
 手紙の差出人住所を頼りに、やっと見つけたのがオンボロ小屋の骨董品屋だった。そこに頭ぐしゃぐしゃ髭ぼうぼうの、得体の知れない「電球オッさん」が現われる。

         Numa

 主なキャストは、主人公ハナメに麻生久美子、その母親に松坂慶子、父電球に風間杜夫、人のいいパンクロッカー・ガスに加瀬亮と、個性的な俳優達が並ぶ。
 ことに最近の麻生久美子は、シリアスもコミカルも器用にこなす演技力を身に付けたよな。今回は能天気で無責任で感情のまま走り続ける女の役柄だが、なかなかキュートで憎めない女を面白おかしく演じ切っている。これは彼女の当たり役になりそうだ。
 さて、荒唐無稽でハチャメチャな展開のこのおかしな映画。これをバカバ力しいと観るか、面白いと感じるかは、観る人の自由であり感性の違いだが、僕には滅茶苦茶面白かったね。

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2009年5月26日 (火)

スラムドッグ$ミリオネア

★★★★

 さすがアカデミー作品賞受賞は、伊達ではなかった。低予算でシンプルなストーリーなのだが、とにかく文句なく面白いのだ。
 インドの国民的人気クイズ番組で全問解答し、巨額の賞金を手にしたスラム街出身の青年ジャマール。なぜ貧困の中でゴミのように育った彼に、難解なクイズの解答が判るのか。初めは誰も信じず、警察の取り調べまで受けるのである。

         Slumdog

 クイズの解答を出すたびに、ジャマールの過去がフラッシュバックしてゆく。そして物語の核心は、クイズに正解するか否かではなく、フラッシュバックするジャマールの人生そのものへと移行する。
 幼い頃に暴漢達に母親を殺害されたり、子供を悪事に利用するとんでもない組織に拉致されたりと、苦難の人生が続く。だが兄サリームの強烈な生命力のお陰で、何とか兄弟揃って生き抜いてゆくことになる。
 しかしこの兄が曲者で、生きるためには、悪魔にさえ心を売るのだ。優しいジャマールは、兄の強烈過ぎる感性についてゆけない。憎たらしい兄なのだが、肝腎なときには命を張って弟を助けてくれる。

 それから、ジャマールがクイズ番組に出演したのは、決してお金のためではない。離れ離れになってしまった幼な馴染みの少女ラティカを探すために、彼女がよく観ていた国民的人気番組に出演したのである。
 クイズの解答とジャマールの人生が、神がかり的にリンクしてゆく。そしてラストの二問は、まさに神が乗り移ったかのようだ。

 とにかくこの低予算映画には、いろいろな味わいがある。インドのスラム街の貧困を描いた社会派タッチ。クイズをクリア出来るか否かのエンターティンメント風味。切っても切れない血の繋がりを感じる兄弟愛。そして何よりもジャマールとラティカの運命的な恋愛。
 これら全てをひっくるめて、楽しく、面白く、切なく、激しく、そしてドキドキさせてくれるのだ。まさに映画の王道である。
 さらには、ラストのおまけが『座頭市』と『電車男』なのだ(笑)。ただ惜しむらくは、面白すぎてほとんど涙を流す余裕を与えてくれなかったことだろうか…。

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2009年5月23日 (土)

タイム・ジャンパー

★★★☆

 珍しいロシア映画であるが、ポスターが米国映画『ジャンパー』をパクリまくっているのはいかがなものか。『ジャンパー』は、テレポート能力を身につけた青年のお話。この作品は、現代から第二次大戦中にタイムスリップする話で、タイムスリップは小道具として利用しているだけの「戦争映画」である。
 従ってタイムパラドックスなどを期待すると、カタルシスが得られない。だがそのことは別にして、ストーリーはなかなか面白いし、戦闘シーンもリアルで迫力がある。

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 ネオナチや戦争崇拝、拝金主義と自己中心的な若者たちが、もし本当の戦争を体験すれば、愛国心を取り戻し、きっと今迄の浅はかな行動を反省するに違いない。…と言いたかったのだろう。現代ロシアが抱える悩みの一つを垣間見た気がする。

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2009年5月22日 (金)

夕陽のガンマン

★★★★

 『グラン・トリノ』を観て、無性にクリント・イーストウッドの若かりし日の雄姿を拝みたくなり、本作品を何十年振りかで再観してみた。イタリア製作の西部劇であることから、マカロニウェスタンと呼ばれ、大ブームを巻き起こしたものである。
 黒沢明の『用心棒』に影響を受けた作品で、それまでの西部劇とは打って変わり、舞台はニューメキシコで砂ぼこりの舞う暗い荒野だ。そしてあのエンニオ・モリコーネの懐かしいエレキギターの演奏が荒野に鳴り響く。このオープ二ングだけで胸が一杯となり、僕の脳裏を青春時代のホロ苦い思い出が駈け巡る。

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 当時ハリウッドでは売れなくなったクリント・イーストウッドだが、この映画に出演して男を上げた。その渋い風貌にくわえタバコが良く似合う。そして共演のリー・ヴァン・クリーフがさらに渋い。彼の共演があってこそ大ヒットに繋がったのであろう。
 ストーリーのほうは、二人の凄腕賞金かせぎが、賞金首を探して町から町へと渡り歩き、危機一発のピンチをも乗り越え、協カして悪人を退治してゆくというシンプルな構成である。 
 起承転結を絵に描いたような構成と、アウトローだが悪人を次々と退治してゆくという展開は、まさに『用心棒』や『座頭市』を髣髴させられ、ことに当時の日本人の心にピタリとはまってしまったのだ。
 そして製作後40年以上たった現在でも、少しも陳腐化していないし、判りきった結末であっても、飽きずに観ることが出来たのである。やはり名作は素晴らしい。ダーティ・ハリーを崇拝する世代も、是非本作をもう一度じっくり観直して欲しいものである。

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2009年5月20日 (水)

リセット

 北村薫の同名小説とはかなり趣きが異なり、スバッと本音で切り込んでくるので、なかなか説得力があり、小説の中にぐいぐいと引き込まれてしまう。最近読んだ小説の中では抜群の面白さを感じた。
 ストーリーのほうは、高校の同期会に遅れた三人のおばさん達が、不思議なレストランの中で、三人揃って30年前にタイムスリップするところから始まる。

リセット Book リセット

著者:垣谷 美雨
販売元:双葉社
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 三人の身分は、専業主婦の知子、キャリアウーマンの薫、苦界に身を落とした晴美である。それぞれが現状に大いなる不満を抱いており、人生をもう一度やり直せたらと願っていたのだ。
 三人の中で一番の美貌を誇る知子の不満は、高校時代のイケメン同級生と結婚したため、専業主婦となってしまい、あこがれの女優になれなかったこと。それでも理解のある夫なら、ある程度の許容範囲におさまっただろう。だが自分本位で、意地の悪い舅・姑の世話まで押しつけて、知らん顔をしている夫が許せないのである。
 長身で男性顔負けに仕事をこなし、一見充実したキャリアウーマンライフを送っているかのように見える薫も、実は男性中心の社会に不満ダラダラなのだ。
 そして男に騙されて妊娠し、高校を中退してからというもの、荒さんだ生活を続け、身も心もズタズタになったまま、独身の貧困生活にあえいでいる晴実。彼女こそ不満がないはずがない。
 そして同時に意識が高校時代に戻ってゆく三人。彼女たちは、記憶のかなたにあった30年前の世界と、現実の30年前とのギャップの大きさに驚きながらも、今度こそはと新しい人生を必死でやり直すのである。

 結果は読んでのお楽しみだが、人生の面白さと難しさ、人間の優しさと我がままさが交叉していてなかなか考えさせられる。また女性たちの赤裸々な告白も実に歯切れよい。
 努力や運によって人生インフラの中味は大きく変えることは可能だ。しかし自分自身の価値観なり生活態度が変わらない限り、本当の満足感は得られないということである。

 この小説の著者である垣谷美雨は50歳前後で、主役の三人の年令とほぼ重っている。著者も実生活でいろいろ苦労したのであろう。この小説を書くには、そうした人生経験が必要であるが、一方読む側にもある程度の人生経験がなくては共感出来ないかもしれない。

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