めぐる未来

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★★★
 
 毎週木曜の深夜に放映している日テレのテレビドラマである。
 主人公の襷 未来は、感情に大きな起伏があると過去に戻る「リフレイン」を発症してしまう。それで少年の頃から人となるべく拘わらず、感情を抑えて生きていた。
 だが運命的に出逢って結婚した明るく無邪気な妻・めぐるが何者かに殺害されてしまう。それで彼は禁を破って、まだめぐるが生きている過去に戻って彼女を救出する。ところがその後も彼女は何度も襲われることになり、その都度彼は過去に戻ることになる。だがリフレインを起こすたびに、だんだん彼の体力が消耗してきて、命の危険が生じてしまうのだった。

 それにしても誰にも恨まれる理由がないめぐるが何故殺害されなくてはならないのか、犯人は一体何者なのだろうか……。そんな興味だけでどんどん引っ張られて、とうとう最終回の10話まで観る羽目になってしまったのだが、ストーリー的にはそれほど面白いわけではなく、主役の萩原利久のボサーッとした学芸会並みの演技にもホトホト疲れ果ててしまった。
 どうしてテレビドラマには、引っ張るだけで内容の薄っぺらなものが多いのだろうか。これは日本だけではなく世界的な傾向のような気がするのは僕だけであろうか。

 最後にこの手のドラマに付きものの疑問なのだが、主人公が気を失って過去に戻ること自体は良いとしても、それまで暮らしていた人生はその後どうなってしまうのだろうか。結局は過去に戻るたびに、パラレルワールドが発生しているのであろう。ただそれならば、なぜもともとそのパラレルワールドにいた自分と遭遇しないのだろうか。などと余計なことを考えてしまうのである。
 

評:蔵研人

 

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2024年5月17日 (金)

Aではない君と

A

著者:薬丸 岳

 本書は少年犯罪の加害者家族を描いたミステリー小説である。また本書は週刊現代に連載されたものを第1章、第2章として修正し、そこに第3章を加筆して単行本化されたという。そして第37回吉川英治文学新人賞を受賞し、さらにテレビドラマも放映され2019年日本民間放送連盟賞テレビドラマ部門優秀賞などを受賞している。

 近ごろは子を持たない大人は少なくないが、全ての人には必ず親がいる。だから親子問題はいつの時代も避けては通れぬ命題なのだろう。そして少年少女たちが、グレたり悩んだり、ひきこもったり犯罪に手を染めたりする陰には、親との関係性が絡んでいることが多いようだ。だから親たちの責任も重大であり、会社や世間に顔向けができなくなることも必然なのかもしれない。

 ある日突然、エリート社員・吉永圭一の職場に警察が訪れ、離婚した妻と同居している14歳の息子・翼を親友の死体遺棄で逮捕したと告げられる。もちろん殺人の容疑も否めないというのだ。そしてこの日を境にして吉永の生活は奈落の底へと突き落とされてしまう。
 会社への言い訳、恋人との別れ、被害者の親への謝罪、弁護士費用や賠償責任問題、マスコミたちの追跡などなど、さらには心を閉ざして全く口をきいてくれない息子。とてもじゃないが親のほうがノイローゼで死にたくなってしまうほどの苦悩に塗れてしまうのだ。

 本書のテーマは少年犯罪であるが、犯罪者の少年は終始沈黙し続けているだけであり、本当に殺人を犯したのか、またその動機は一体何だったのかが全く分からないまま中盤まで読み進めなくてはならない。作中の吉永も辛い思いの連続だが、読んでいるほうも辛くて堪らなくなってしまう。
 だが後半になってやっと翼が口を開き始めると、俄然物語は一気に熱くなってくる。そして最終章では、裁判が終わってから4年後の吉永たちの在り方が描かれるのだが、その第3章があとで加筆されたとは思えないほどの完成度を誇っていたのには驚いた。

 本書は「ミステリーの動機探し」に分類されるかもしれないが、動機そのものはなんとなく想像できる範囲かもしれない。だがその真価は、その先にある「心を殺すことと肉体を殺すことの優劣」あるいは「犯罪者の親としての苦悩と被害者の親の苦悩の重さ」などなのだろうか。

評:蔵研人

 

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2024年5月14日 (火)

デンジャラス・ラン

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★★★
製作:2012年 米国 上映時間:115分 監督:ダニエル・エスピノーサ

 デンゼル・ワシントン&ライアン・レイノルズのダブル主演で元CIAエージェントの逃亡劇を描くアクション映画である。舞台が南アフリカということもあり、映像が薄暗くて毒々しいのでかなり観難いのが最大のウィークポイントだ。またテンポが速くアクションも忙しいため、ストーリーも解り辛く不親切なのが気に入らない。

 デンゼル・ワシントン主演の映画は外れがなかったのだが、今回ばかりは時間を無駄に消費した感があったのが非常に残念であった。またアクション映画とは言え、人の命が安っぽく扱われているところも感心しないね。
 さらにラストバトルの展開もあっけなかったのだが、終わるようで終わらなかった最終段階での締め具合だけは納得できるものであった。

 
評:蔵研人

 

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2024年5月10日 (金)

護られなかった者たちへ

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★★★☆
製作:2021年 日本 上映時間:134分 監督:瀬々敬久

 東日本大震災を背景にし、その9年後の被災者たちの生き方を描いたヒューマンミステリーである。主な配役は阿部寛、佐藤健、清原果耶、倍賞美津子だが、永山瑛太、緒方直人、林遣都、吉岡秀隆などが脇を固める贅沢なキャスティングなのだ。

 被災者たちの苦悩にはじまり、連続殺人事件の犯人探しと生活保護の実態をテーマにした重くて暗い作品であるが、いつも明るい阿部ちゃんとイケメン佐藤健が、見事に暗くのしかかってくる役をこなしていた。さすが役者だねと、拍手してあげたい。

 俳優さんたちも頑張っていたし、十分に見応えのある作品なのだが、時間が前後し過ぎたのが少し分かり辛くしてしまったかな。また復讐殺人するくらい大切な人ならば、自分が養ってあげればいいのにね。それと終盤になって犯人が何となく分かってしまったが、現実的に考えてあの犯行を、あの犯人1人では絶対に遂行できるはずがない。
 だからその部分だけはどうひっくり返しても納得できなかった。例え映画と言えども、そのあたりがかなり苦しいよね。生活保護の問題については、私にもいろいろ意見があるのだが、それは別の機会に譲りたいと思う。

評:蔵研人

 

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2024年5月 7日 (火)

永遠の1/2

12

著者:佐藤正午

 小説界の奇才・佐藤正午のデビュー作である。著者があとがきで「どんな小説家にも、一つだけ、アマチュアとして書いた小説がある。ないと始まらない」、「その小説が人目に触れ、本になるとデビュー作と呼ばれ、書いた人は小説家と呼ばれるようになる」と語った通り、素人っぽい文体、素人っぽいストーリー展開であることは否めない。ただやはりその中には、佐藤正午の佐藤正午たる所以のような臭いが充満していることも確かである。

 ストーリーはあるようなないような、もしかすると「私小説に自分に瓜二つの男の話を無理矢理ブレンド」したのではないだろうか。だから大部分は競輪と野球の話に塗れているのであろう。また色白で足の長い年上の女も、実際に別れた女なのかもしれないね。
 序盤に巧みに伏線を練り込み、後半は予想もつかないあっと驚く展開に落とし込むのが佐藤正午流なのだが、本作はとくに大きな変化もないまま終了してしまった。なんだか佐藤正午らしくなくて、かなり物足りなかったのだが、途中で投げ出しもせず500頁にも亘る長文に耐えられたのだから、やはりただ者ではないのだろう。

評:蔵研人

 

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2024年5月 4日 (土)

グリーン・デスティニー

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★★★☆
製作:2000年 米国・中国 上映時間:120分 監督:アン・リー

 中国・香港・台湾・アメリカ合衆国の合作による武俠映画で、中華圏で各映画賞を総なめしたほか、第73回アカデミー賞でも10部門でノミネートされている名作である。
 絵巻物のような超美麗な映像と殺陣の凄まじさは筆舌に尽くしがたいほど素晴らしい。ただ今となっては当時好評だったワイヤーアクションが、嘘臭くてチンケに見えてしまうところに時代の流れの速さを感じてしまった。
 
 またストーリーがいまひとつ物足りなく、そもそも何を主張したかったのかもはっきりしない。さらにラストの残念な展開にも、モヤモヤ感だけが残るだけで全く共感できなかった。この批判的な感覚も時代の推移なのだろうか……。ただユー・シューリン姉さん役のミシェル・ヨーだけは、とても魅力的でピタリと役柄にはまっていたよね。


評:蔵研人

 

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2024年5月 1日 (水)

Miss.ガンズ

Miss

★★★
製作:2022年 米国 上映時間:92分 監督:グレゴリー・ランバーソン

 コンビニ強盗と間違えられて銃を向けられ、思わずその警官を射殺してしまう女警官メーガンが主人公のガンアクション映画である。そのショックでメーガンは職を辞するのだが、相棒だったジェレミーに誘われ、その友人たちとキャンプに出掛けるのだが……。
 ところがキャンプ地で、なんと地元保安官が麻薬密売人を勝手に処刑しているではないか。それを目撃してしまったためメーガンたちは、その保安官たちや怪しげな地元住民たちに追われることになってしまうのだった。

 結局メーガン以外の者は全員殺されてしまうのだが、今度はメーガンの復讐劇が始まるのである。はじめは拳銃1丁だけだった装備が、敵から奪い取った自動小銃・マシンガンなど、だんだん大型化してゆくところが面白いのだ。そして敵の弾は全く当たらないが、彼女のほうは百発百中とまではいかないものの、確実に敵を倒してゆくのである。

 登場人物たちはド素人の高齢者やチンケな奴らばかり、またほとんどが森の中でのロケであり、まさに低予算映画の見本のような作品ではないか。もちろんストーリーも無いに等しく、ただドンパチだけを目的としたチープな作品である。と言いながらもハラハラしながら最後まで観たのだから、それなりに面白かったのかもしれないね。ただ「まだまだあるぞ」と言わんばかりのホラーテイストなラストは不要な気がする。

評:蔵研人

 

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2024年4月27日 (土)

かがみの孤城

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著者:辻村深月

 不登校の少年少女たちを描いた社会派小説なのだが、『不思議の国のアリス』を思わせるような鏡の中の世界が舞台になっているファンタジーのようなノリで本作を読み始めた。なお本作はすでに漫画化され、舞台公演も終わり、アニメ映画も上映され、なんと累計発行部数は200万部を楽に突破し、本屋大賞も受賞している大ヒット作なのだと付け加えておこう。

中学1年生の女子・安西こころは、同級生からのいじめが原因で不登校が続き、子供育成支援教室にも通えず、ひとり家に引き籠もる生活を続けていた。そんな5月のある日のことである、突然自分の部屋にある大きな鏡が光り出し、その中に吸い込まれてしまう。
 そこはオオカミさまという狼面をつけた謎の少女が仕切る絶海の孤城で、自分と同じような悩みを抱える中学生リオン、フウカ、スバル、マサムネ、ウレシノ、アキの6人が集まっていた。そしてオオカミさまは、「この孤城の中に隠された『願いの鍵』を見つけた1人だけが願いの部屋へ入ることができ、どんな願いでも叶えられる」のだと説明するのだった。

 この孤城以外の現実世界では、いじめにあって不登校になっている少女・こころの心象風景を黙々と描いているのだが、なぜ突如として鏡の中の孤城というファンタジックな世界が出現したのであろうか。もしかするとこころの心の中で創造された世界なのだろうか、と考えていたのだがどうもそうではないようだ。
 またこころ以外の6人の少年少女たちは、なぜこの弧城に集められてきたのだろうか。だがどうして彼らは現実世界では会うことができないのか。それに6人は日本に住んでいるのに、なぜリオンだけがハワイに住んでいるのだろうか。
 また『願いの鍵』と『願いの部屋』は孤城のどこにあるのだろうか。さらには本当にどんな願いも叶うのだろうか。それにあのオオカミさまはなぜ狼面をつれているのか、そして彼女の真の正体は……といろいろ謎がバラ撒かれていて興味が尽きない。

 そしてエンディングでは、全く予想外のどんでん返しが用意されており、これらの謎がすべて解明される。それだけではない、涙・涙・涙の三度泣きで感動の渦に巻き込まれてしまうのだ。とにかく震えが止まらないほど見事なエンディングであり、ファンタジー・ミステリー・社会派ドラマ・愛情物語の全ての要素を取り込んだ素晴らしい小説だと絶賛したい。また本書を読んだ後にアニメ映画を観たが、やはりアニメなりの説得力はあったものの、小説の完璧さには遠く及ばなかったことを付け加えておこう。


評:蔵研人

 

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2024年4月22日 (月)

漆黒天-終の語り-

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★★★☆
製作:2022年 日本 上映時間:81分 監督:坂本浩一

 配給が東映ビデオとなっているので、いわゆる東映Vシネマなのかと思ったら、東映が2019年にスタートさせた映画と演劇のメディアミックスシリーズ「ムビ×ステ」の第3弾なのだという。ところで「ムビ×ステ」とは、ムービー(映画)とステージ(演劇)の挑戦的な融合」を掲げ、ひとつの作品世界を連動した作品群として展開するプロジェクトと説明されている。

 さて本作は漆黒天の映画版で、いつも何者かに襲撃されるが、抜群の剣技でそれを凌ぎ続ける記憶喪失の剣士の話である。ストーリー自体は単調なのだが、まずその殺陣の凄まじさに圧倒されてしまうだろう。さらに自分が何者でなぜ狙われ続くのか、というミステリアスな展開にも惹き込まれてしまうのだ。
 まあ簡単に言えば、その殺陣と謎の二点だけに絞った低予算時代劇なのだが、上映時間が短いので文句を言う暇も与えず、二話完結のTVドラマ風に無駄なくまとめられていたと思う。またラストの戦いの勝利者はどちらか、そのヒントはあの「笑顔」なのかな……


評:蔵研人

 

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2024年4月18日 (木)

ほかならぬ人へ

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著者:白石一文

 本書にはタイトルの中編のほか、似たような題名の『かけがえのない人へ』も収められている。なお著者の白石一文は、『ほかならぬ人へ』で、2009年第142回直木賞を受賞し、史上初の親子二代受賞でも話題となった。因みに父の白石一郎氏は1987年『海狼伝』で第97回直木賞を受賞している。
 それにしても、これほどストレートに愛を語った作品は珍しい。『ほかならぬ人へ』は「俺」という一人称視点であり、『かけがえのない人へ』のほうは、「みはる」という三人称視点なのだが、実際は一人称とほぼ変わらない三人称一元視点という手法を用いている。

 また前者は男性、後者は女性が主人公であり、どちらも不倫で恋人はエネルギッシュで仕事のできる人物という設定なのだ。したがってこの二作は別物と言うより、姉妹作と呼んだほうがよいだろう。ただ後者のほうは、ヒロインの心情について行けない部分があり、かつドロドロとしたセックス描写も練り込まれているため、かなり好き嫌いが分かれるかもしれない。私的にもやはり直木賞を受賞したタイトル作のほうに軍配を上げたい気分である。

 ひとは容貌・学歴・家柄などを重視して結婚するものの、それは本当の愛なのだろうか。それよりも、なにか別の観点から「この人に間違いない!」とい感じるような明らかな証拠が見つかったときこそ真の愛が芽生えるのだ。それが「ほかならぬ人」であり、「かけがえのない人」なのだが、現実はなかなか上手くゆかないものである。

評:蔵研人

 

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2024年4月13日 (土)

人狼ゲーム デスゲームの運営人

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★★★☆
製作:2020年 日本 上映時間:103分 監督:川上亮

 本作は人狼ゲームシリーズの9作目にあたり、なんと原作者の川上亮氏がはじめて監督・脚本を手掛けた作品である。さらには人狼ゲームの運営側が初めて登場するという画期的な構成になっている。

 ただ運営側と言っても、裏側でゲーム進行などの操作をしている作業スタッフであり、もっと上層部やオーナーではない。従ってまだ本作では、このゲームの真の運営者が、何のために大金を使って犯罪がらみのゲームを続けているのかの回答のかけらも見えてこなかった。つまりまだまだ続編を予定していると言うことなのだろうか。

 今回の特徴は、最新作と言うことで女性キャストが良かったし、撮影場所も小奇麗だったね。それと運営側と参加者との相関図が描けるほど複雑な人間関係が設定されていたことも斬新であった。
 ただ運営側の作業スタッフたちが、想像していたほどの極悪人ではなかったのが意外であった。また前述した相関関係もなにか無理矢理創ったようで余り説得力はなかった。さらにラストもスッキリせず記憶に残らなかったのも残念であった。

評:蔵研人

 

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2024年4月10日 (水)

人狼ゲーム マッドランド

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★★★

製作:2017年 日本 上映時間:98分 監督:綾部真弥

 川上亮原作の心理ホラー作品「人狼ゲーム」シリーズ第6弾である。ではそもそも「人狼ゲーム」とはどのようなゲームなのかを簡単に説明しておこう。

 さてその「人狼ゲーム」とは、味方になりすましたウソつきを会話で見つけ出す10名前後で楽しむパーティーゲームである。プレイヤーたちは、全員がある村の住人として振る舞うのだが、その中の何名かは人狼役で、村人に化けて村を滅ぼそうとする。
 そこで村人たちは毎日、発言や仕草などを頼りに見分けのつかない人狼を探し、多数決でもっとも疑わしい 1名を人狼とみなして処刑する。一方、人狼たちは人知れず毎晩誰か1名を選び餌食にしてゆく。そして人狼をすべて処刑できたら人間の勝利。それよりも早く人間を減らし、生存者の半数を人狼で占めたら人狼の勝利となる。

 ただし人狼や村人以外にも、夜に人狼を見つけることができる予言者や、昼間に処刑した相手が人狼だったか分かる霊媒師など数多くの役割があり、これらはプレイ開始前に配られたカードによって決まっている。人狼は巧みなウソで、村人は的確な推理で、会話を通じて仲間を説得し相手を追い詰めていくのが「人狼ゲーム」の醍醐味ということになる。

 とまあ大雑把なルールは前述した通りなのだが、シリーズごとに少しずつルールに変更が施されているようだ。だが本作ではルールや役割が大きく変更されたと言われている。
 参加者は男女高校生5名ずつ計10名で、役割は村人が狂人で7名、人狼1名、予言者1名、用心棒1名と言う構成であった。そして狂人は1名しか生き残れないし、人狼が死ぬと狂人が全滅するという厳しいルールなのだ。マッドランドつまり狂人村なんだね。また用心棒は誰か一人を守ることができるという設定になっていたが、予言者の能力はよく分からないままだった……。
 さらに建物の外へ逃げて入れない、建物の備品を壊してはいけない、他人に危害を加えてはいけない、そしてこれらに違反する首輪が閉まって処刑される。また自分の役割カードを見せたり、他人のカードをみてはいけない。ただカードさえ見せなければ、自分の正体をバラしても違反にはならないようだ。
 
 こうして毎晩高校生同士の殺し合いがはじまるという訳だが、よく考えるとあの深作欣二監督の『バトルロワイヤル』と似ているよね。それにしても同じパターンでそれほど面白くないのに、よくもまあ9作もシリーズが続いているものである。そしてこのような作品が支持され続けていると言う現実にも恐怖を感じてしまったね。

評:蔵研人

 

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2024年4月 6日 (土)

水上のフライト

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★★★☆
製作:2020年 日本 上映時間:106分 監督:兼重淳

 走高跳びのオリンピック出場を目指して頑張ってきた藤堂遥だったが、不慮の事故に遭遇して半身不随になってしまう。だが希望の灯を消さないために、今度はパラリンピックのカヌー競技に挑戦する。というド根性実話ドラマであり、始めから終わりまでのストーリー展開はほぼ丸見え状態であった。

 結果的にピッタシ予測通りの展開と結末だったが、それなりに感動しそれなりに楽しめたのが不思議である。それにカヌーについての基礎的な知識が得られたのも嬉しい。また主演の中条あやみのストイックさ、小澤征悦のムードメーカーさ、杉野遥亮の寡黙さ、さらに生き生きとした子役たちが、本作にピッタリとはまっていたのが良かったね。

「ひとは誰でも一人ではない。そして誰でも誰かに助けられて生きている。それは健常者も障害者も同じだ」実に含蓄のある言葉ではないか!


評:蔵研人

 

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2024年4月 1日 (月)

四畳半タイムマシンブルース

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著者:森見登美彦

 本書は森見登美彦『四畳半神話体系』と上田誠『サマータイムマシン・ブルース』のコラボレーション作品である。また2022年にはアニメ版も公開されている。
 まあコラボと言っても、ほとんど話の展開は『サマータイムマシン・ブルース』と変わらない。違うのは舞台が大学のSF研の部室だったものが、主人公が住んでいるアパートの四畳半ということ。あとは登場人物の名前が違うとか、主人公が隠れた場所や田村くんのキーアイテムが異なるといった、話の流れとは直接関係ない部分だけである。

 従ってここでくだくだ本作の感想を書き連ねても繰り返しになるばかりである。従って映画版ではあるが、興味のある方は下記URLをクリックして『サマータイムマシン・ブルース』評を読んでいただきたい。


http://ryuugorinji.livedoor.blog/archives/16905854.html

 

評:蔵研人

 

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2024年3月28日 (木)

武蔵 むさし

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★★★☆
製作:2019年 日本 上映時間:120分 監督:三上康雄

 監督の三上康雄氏は、学生時代に自主製作映画を数多く手がけていたが、1980年に家業のミカミ工業を引き継ぎ家業に専念する。ところが映画製作への未練を断ち切れなかったのか、突然ミカミ工業の全株式を売却し、2013年に「蠢動 しゅんどう」で映画製作に復帰した。本作はその三上康雄監督の復帰後第2作である。

 過去に宮本武蔵映画は数多くあるが、本作はよくある吉川英治版ではなく史実に基づくオリジナル版として描かれている。従ってその戦い方なども現実に近い手法で繰り広げられ、鋭さと渋さが漂う好感の持てる展開であった。
 また時代劇はロケ地が限られ製作費が多くかかるため、最近は敬遠されがちである。だが本作はその難問をクリアすべく、なるべく金をかけず、慎重に撮影場所を選び、かつ陳腐にならぬように、映像美や音楽などを巧みに駆使して一応の面目は保っていた。
 さらにキャスト陣も、武蔵役を細田善彦、小次郎役を松平健が演じるほか、目黒祐樹、水野真紀、若林豪らを配して万全を期しているところは流石である。ことに細田善彦の入魂の演技と充実した殺陣には驚かされた。また松平健、目黒祐樹、若林豪の存在感も伊達ではなかったな……。

 本作では吉岡一門との闘いに始まり、鎖鎌の宍戸梅軒、宝蔵院流槍の道栄、そして巌流島での佐々木小次郎との決闘までをテンポよく描き続けている。さらに小次郎を剣術指南役にしてしまった細川家の後悔と苦悶、その裏で暗躍する徳川幕府の陰謀など、その現実的な歴史解釈にはなんとなく納得できるものがあった。ただ時間配分の関連だと思うが、吉岡一門との闘い以降の展開が、かなり駆け足だったのが気になったかもしれない。

 
評:蔵研人

 

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2024年3月25日 (月)

片腕マシンガンガール

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★★★
製作:2007年 日本・米国 上映時間:96分 監督:井口昇

 いじめっ子に殺された弟の復讐のため、ヤクザ忍者集団と残虐な殺し合いを繰り広げるアクション映画である。指が切られる、腕が飛ぶ、足が切られる、首が飛ぶ、体中がみじん切り、そしてシャワーのように真っ赤な血が噴き出すのだ。
 普通なら気分が悪くなるスーパースプレッターなのだが、C級低予算映画なのですぐ造り物と分かるしかけ。だからそんな残酷シーンもチンケなので、「気持ちが悪い」程度でなんとか目を開けていられた。どちらかと言うと笑ってしまうかもしれないね。

 主人公は女子高生だが、両親は自死し弟と二人暮らし、弱い弟に比べてめっぽう気も強いし喧嘩も強い。しかし超無謀さが祟って、ヤクザたちに片腕を切り落とされてしまう。だが瀕死のところを弟の親友の両親に助けられ、亡くした腕にマシンガンを装着してもらい復活する、とそれだけでも荒唐無稽なマンガのようなストーリーではないか。
 いずれにせよ、死ぬほどバカバカしいのだが、主人公の女優が可愛いのと、おバカ映画と割り切ればそこそこ面白いので、とうとう最後まで観続けてしまった。ただこれって、海外ではそこそこ受けそうな気がするよね。と……よく調べたら、俳優は日本人でもスタッフはほとんど米国人らしいね。

評:蔵研人

 

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2024年3月21日 (木)

ジャンプ

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★★★☆
著者:佐藤正午

 著者の佐藤正午は、1983年に『永遠の1/2』で「すばる文学賞」を受賞し作家デビューした。ただ当初は好き嫌いの分かれる地味な作家であったのだが、本作でベストセラーを記録してから『Y』、『身の上話』、『鳩の撃退法』、『月の満ち欠け』などのヒット作を生み出している。

 本作では鈍感で融通の利かない下戸の主人公・三谷純之輔が、アブジンスキーという強烈なカクテルを飲んだために、彼女が失踪する事件を招いてしまうという話である。またそのカクテルだけではなく、もしあのとき出張を遅らせたら、もしあのとき電話に出ていれば、もしあのとき女と会っていなかったら、などなど「もしあのときこうしていれば」というテーマとしては『Y』と双璧をなしているようだ。

 それにしても、延々と失踪した彼女捜しが続くのだが、実姉・友人・20年以上逢っていなかった父親やバーのマダムにまで連絡があったのに、なぜか恋人である三谷だけには何の連絡もない、と言う摩訶不思議さに読者はイライラしストレスが溜まってしまうかもしれない。ただし彼女の失踪理由は、最終章で50頁に亘って延々と説明される、という構成になっている。
 ミステリーかと思ってずっと読み進めていたのだが、とどのつまりは恋愛小説だった。そしてもしかすると、この最終章のために創られた小説ではないかと感じたのは私だけであろうか。

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2024年3月17日 (日)

予告犯

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★★★☆
製作:2015年 日本 上映時間:119分 監督:中村義洋

 ある日突然、ネットに新聞紙製の頭巾を被った謎の男が出現し、明日の犯罪予告をする。そしてその予告通り集団食中毒を起こしながらも、法律上の不備を指摘して開き直った食品加工会社の工場が放火される事件が勃発するのだった。
 その後も幾つかの事件を予告しては実行し、ネットで注目され賛否両論が飛び交うのだが、どうやら犯人は複数のグループのようである。だが愉快犯にしては義賊のようでもあり、その目的がよく分からないのだ。果たして彼等の究極の目的は一体何なのか、そして社会を震撼させた衝撃のテロリズムの結末はいかに……。

 犯人グループを構成するのは、恵まれない男たち4人で、生田斗真をはじめとして、鈴木亮平、濱田岳、荒川良々が好演している。ただ彼等を追うキャリア捜査官に、戸田恵梨香が扮しているのはなんとなくスッキリしないと感じたのは私だけであろうか。まあ原作がマンガだからしょうがないか……。
 いずれにせよラストは良かったね。ついホロリとさせられたもの。さてこの映画の続編がオリジナルTVドラマとして放映されたようだが、まだ観ていないので機会があったら是非観てみたいものである。

評:蔵研人

 

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2024年3月15日 (金)

隊務スリップ 全6巻

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★★★☆
著者:新田たつお

 あの108巻に亘る大長編マンガ『静かなるドン』の新田たつおが、2014年から2016年にビックコミック誌に連載した作品である。
 舞台は日本国憲法第9条が撤廃された近未来の日本が舞台なのだが、自衛隊は軍隊に昇格しあたかも昔の軍国主義が復活したように描かれているではないか。これは当時、安倍晋三が「憲法を改正して自衛隊を国防軍に」という発言をしたためだと言われている。

 それにしても新田たつおの作品は、シリアスなストーリーにギャグを織り交ぜ、主人公は一見弱々しく見えるが実はかなり強いというお決まりパターンなのだろうか。だがその奇妙な味わいが堪らないという読者も多いようだ。
 本書の主人公・青乃盾も、熱海の饅頭屋に勤務し、「人類最弱」とあだ名される虚弱体質の持ち主なのだが、何かの拍子に目覚めると神的な超能力を発動するのである。

 近未来、東京は核テロに見舞われてしまう。そしてそれをきっかけに、日本では再び軍が台頭する。日本国軍はアフリカに派兵したが、現地でテロ国家相手に苦戦を強いられていた。そんな中、精鋭の職業軍人の犠牲を避けたい軍の意向と、余剰人員を軍に押し付けたい財界の意向とが一致し、政府は密かに徴兵制の復活を企んでいた。

 主人公以外の主な登場人物は、悪知恵の塊のような饅頭屋の主人・五代目饅頭屋宗兵衛、頭脳明晰で切れ味抜群の龍騎玄一郎大佐、謎のテロリスト九条直道などだが、そのほか首相や米国大統領、政財界の黒幕たちなどが続々登場する。
 そしてだんだんスケールが大きくなるのだが、序盤の戦闘訓練所での話が一番面白かった。そしてあれよあれよという間に終盤に突入し、無理やり終わってしまうのだ。著者が息切れしたのか、あるいは不評で打ち切られたのかどちらかであろう。それほど余りにも端折り過ぎで、あっけない結末だったのである。
 それにして何が隊務(タイム)スリップなのだろうか、と思っていたのだがオーラスになってやっとその意味が分かった。

評:蔵研人

 

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2024年3月12日 (火)

老後の資金がありません

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★★★☆
製作:2021年 日本 上映時間:115分 監督:前田哲

 本作は第45回日本アカデミー賞で、天海祐希が主演女優賞、草笛光子が助演女優賞を受賞している。また三谷幸喜が監督でも脚本でもなく、おとぼけ役人として俳優として出演していた。なお原作は垣谷美雨の同名ベストセラー小説である。

 老後資金が4千万円必要と言う時代に、後藤家には700万円の預金しかない。夫の後藤章は優柔不断で頼りなく、年頃の娘は我儘で奇妙な男とできちゃった結婚、食べ盛りの息子は大学生と言う状況だ。だから妻の篤子は壊れたバッグで我慢して、パートで家計の穴埋めをしていたのだが、次から次へと難問が降りかかるのだった。

 まずは義父の葬式で約400万円の無駄遣いをしてしまう。さらに娘が豪華な結婚式をしたいと言い出す。ところが章の会社が倒産、篤子もパートをクビになる。そのうえ義母を引き取るはめになるのだが……。その義母は贅沢三昧で挙句の果てはオレオレ詐欺に引っ掛かり、結納で貰った100万円を失ってしまうのだ。さらに篤子が最後に頼った実家では、両親がサーフショップ開店のため借金漬けになっていたのである。

 こう次から次へと不運と問題ばかり続くのだが、篤子はボーリングで憂さを晴らし、なんとか我慢し続けるのだった。だが離職中の章が子連れの若い女と楽しそうに歩いているのを目にして、とうとう切れてしまうのである。
 それにしても悪いことの連鎖が続き過ぎて、観ているほうもストレスが溜まってくる。だがご心配なく。終盤になってやっと不幸から解放されて、誰もがほっこりと涙を流してしまうだろう。まあ終わり良ければ全て良しかな。なんともはや、赤いブランドバッグにはじまり、赤いブランドバッグで終わるという女性視点の作品だったね。
 
 
評:蔵研人

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2024年3月 8日 (金)

ぼくは明日、昨日のきみとデートする

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著者:七月隆文

 この小説を読む7年前に、すでに映画のほうを先に観ている。配役は福士蒼汰と小松菜奈でピッタリと息の合った演技をしていたと思う。その後この原作本を購入したのだが、どうした訳かタイミングが合わず、7年間も書棚に置き去りしたままだった。

映画の記事はこちら↓

ぼくは明日、昨日のきみとデートする: ケントのたそがれ劇場 (cocolog-nifty.com)

 映画を観たときはかなり感動して涙が止まらなかったのだが、なぜか原作のほうは全く涙腺を刺激されなかったのだ。文章がやさしく読み易いのだが、「時間が逆行している」というイメージがどうしても浮かばないからかもしれない。
 逆に映画のほうはその難問を巧みに映像でカバーしていたのである。つまり小説は心理的な部分の描写に長けているが、説明的な部分の描写は映像のほうが長けていると言うことなのだろうか……。
 そうしたことからも、まさにこの小説こそ映画向きだったのかもしれない。いずれにせよ、だいぶ前に観た映画なので、もう一度観て確認したくなってしまった。

評:蔵研人

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2024年3月 4日 (月)

凛 りん

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★★★
製作:2019年 日本 上映時間:83分 監督:池田克彦

 原作は、お笑い芸人で芥川賞作家の又吉直樹が舞台用に書き下ろした長編サスペンスだという。主な登場人物たちは田舎の高校生5人組であり、序盤はなんとなくあの名作映画『スタンド・バイ・ミー』を思わせる雰囲気が心地よかった。また田舎によくある「怖い伝説」をモチーフにした事件展開にも興味をそそられた。

 ところが山の中で、5人の一人が消えたところ辺りから、急につまらない三文芝居に成り下がってしまった気がする。せっかく個性的で難しい家庭事情を抱えた青年たちを配したのだから、もっと彼らの生活や行動の中に入り込んだ人間ドラマを描いて欲しかった。ことにDV親父や継母たちの存在や始末の付け方が尻切れトンボになっていたのは非常に残念だった。

 そしてラストの犯人解明とその動機も、なにか取って付けたような強引な筋書きで陳腐さを禁じえなかった。結局は欲張っていろいろな味付けをしたものの、それらを巧く絡みつけられなかったのであろう。そもそも又吉直樹の名前に頼り過ぎて、舞台用に書かれたものを無理矢理映画化したところから間違っていたのかもしれないね。

評:蔵研人

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2024年3月 1日 (金)

竜の柩

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著者:高橋克彦

 竜とは何か?西洋ではドラゴンと呼ばれ羽を有し火を吐く怪獣だが、東洋では龍とか辰と呼ばれ聖なる存在とされている。もちろんどちらも空想上の生物なのだが、本書では竜を一族に例えたり、ロケットに例えたりしながらその真相に迫ってゆく。
 まず古代文明が栄えたと言われる日本の津軽地方に始まり、信濃、出雲を転々と訪れ、ついにインド、パキスタン、トルコへの壮大な旅が始まるのである。とにかくスケールの大きな物語で、550頁を超す分厚い新書版の二段書き、という大長編に収まっているのだ。しかも本作は前編であり、ストーリーはさらに後編である『新・竜の柩』へと繋がって行くのである。

 本書はストーリーよりも、『古事記』『日本書紀』や風土記に残る寓話や、『ノアの箱舟』などの神話が、ぐるぐると絡みついてくる。とにかく竜の伝説にまつわる蘊蓄の数々が、「もうたくさんだ」と疲れるほど網羅されるのだ。荒唐無稽なのだが、無理やりこじつけてまるで真実のように創りあげているところが凄い!凄すぎるとしか言いようがない。著者の驚くべきパワーには頭が下がる思いだ。
 ただ本書を読破するのに、私自身もかなりのパワーと時間を消費してしまった感がある。従って続編『新・竜の柩』も所持しているのだが、当分は休息時間が必要かもしれないな……。

評:蔵研人

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2024年2月26日 (月)

ベル・エポックでもう一度

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★★★
製作:2019年 フランス・ベルギー 上映時間:115分 監督:ニコラ・ブドス

 自分が望む過去を映画撮影セットで再現する、と言う『体験型サービス』に、はまった老人の人生模様を描いたロマンティック・コメディーである。と言っても、タイムトラベル作品ではなく、あくまでも映画セットと俳優たちで過去を再現するサービスである。発想的にはなかなかユニークなのだが、ジャック・フィニイの『ふりだしに戻る』という小説の過去に戻る手法を参考にしたのかもしれない。

 進歩した現在を否定し、あくまでも過去に固執する元・売れっ子イラストレーターのヴィクトルは、今は職を失い妻にも見放されてしまう。そんな彼に孝行息子が、莫大な金がかかる『体験型エンターテイメントサービス』の招待券をプレゼントしてくれる。そしてヴィクトルが選んだ過去とは、愛する妻と巡り合った1974年のカフェであった……。

 序盤はなかなか興味深かい展開だったのだが、中盤以降は急にテンポが悪くなり、やや中だるみ感が漂い始めたのが残念であった。たぶん息子の友人でこの体験サービス会社を立ち上げたアントニーと、彼の恋人である女優の絡みが平行描写されたため、ストーリーの目的が分かり難くなってしまったからかもしれない。あくまでも本作では、ヴィクトルとその妻にだけに焦点を絞ったほうが、もっと感動を呼び込めたような気がするのだが……。


評:蔵研人

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2024年2月23日 (金)

あなたの涙は蜜の味

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   本書は2019年に出版され好評を得た『あなたの不幸は蜜の味』の第二弾で、女性作家7人によるイヤミス傑作選となっている。さてそれにしても「イヤミス」とは一体どういう意味なのだろうか。
 簡単に言えば「後味の悪いミステリー」ということらしい。だからといってマイナス評価という訳ではなく、ある意味ホラー的な魅力があるとも言えるだろう。

 それでは、その全七作の短編を簡単に紹介してみようか。
「パッとしない子」 辻村深月
 小学校の教師・松尾美穂は、かつて国民的アイドルグループのメンバー高輪佑の弟の担任であり、彼等の少年時代の様子を良く知っていることが自慢の種であった。ところがある日テレビ番組収録のため高輪佑が学校にやってきて、久し振りに話を交わすことになるのだが……。松尾美穂と高輪佑の二人にしか知りえないそれぞれの思い出に、大きな格差が残されていたというある種の恐怖感を見事に描いている。

「福の神」 宇佐美まこと
 余りうまくいっていない三世帯家族だったが、ある日祖母が歯科で知り合った初老の女性を家に連れてくると、家族それぞれが抱えていた悩みが急に解消されゆく。……といったファンタジックホラーという趣の作品である。

「コミュニティ」 篠田節子
 遠藤家は不況の煽りを受け、ローンを残したままマンションを売却し、僻地にある狭くて古い団地に引っ越してくる。そこでは住民たちが異常なまでに団結し、度を超えた深い人間関係が定着していた。はじめは全く馴染めなかった妻が、いつの間にかそのコミュニティにどっぷりつかってしまう様子を見た夫は、そこに何ともいえない不快感と奇妙さを感じるのだが……。
 
「北口の女」 王谷 晶
 大物演歌歌手とその付き人の話で、七作中一番の短編である。本書の解説者は本作をベタ褒めしているのだが、残念ながら私にはその絶賛する感覚が全く湧かなかった。

「ひとりでいいのに」 降田 天
 双子の女性がそれぞれ抱く感情を実に巧みに描いている傑作。さすが書下ろし作品で、まさに本書にピッタリの内容であった。ただ過去に江戸川乱歩が『双生児』という似たような作品を上梓しているのが気になったかな。

「口封じ」 乃南アサ
 本書の中で一番不愉快な話かもしれない。それは病院で付添婦をしている主人公の余りにも酷い態度の連続が延々と続くからであろうか。そしてラストでの残酷な復讐劇にも身の毛がよだつ。

裏切らないで」 宮部みゆき
 イヤミスというよりは、オーソドックスな刑事・探偵ものという感がある。本書の中では一番の大御所作家なので期待していたのだが、どうも長編的な丁寧な序盤が災いして短編としての味を楽しめなかったのが残念であった。

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2024年2月20日 (火)

君のためのタイムリープ

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★★★
製作:2017年 台湾 上映時間:104分 監督:シェ・チュンイー

 高校時代に『月球組』というバンドを結成していた5人組のボーカル・恩佩(エンペイ)は、その才能を認められて日本で活躍するのだが、落ちぶれてしまった挙句に若くして自殺してしまう。彼女の葬儀の後、5人組の一人だったジョンシャンは、路上で不思議な老婆から「一輪一晩」と言われて、三輪の玉蘭をもらう。そしてジョンシャンがその玉蘭の匂いをかぐと、なんと彼は高校時代にタイムリープしていたのである。
 高校時代なので当然だが、エンペイはまだ生きていて、必死でオーディションの練習をしていた。ジョンシャンはエンペイに死んで欲しくなくて、必死に彼女がデビューしない方法を考え邪魔をするのだが……。

 1997年の台湾が舞台なのだが、日本の風景も織り込まれており、安室奈美恵や小室哲哉や飯島愛に憧れている台湾の青年たちを観て、「そんな時代もあったなあ」と懐かしさがこみあげてきた。さらには『たまごっち』、『プリクラ』、『将太の寿司』などの日本カルチャーが満載なのだ。当時の台湾では、まだ日本が憧れの国だったのだろうか。
 決してつまらない映画ではないのだが、脚本が単純すぎるし、主人公とヒロインが余り魅力的ではなかったためか、中だるみ感を禁じえなかった。ただラスト前の15分間は、スクリーン全体に優しさが漂っていたよね。それにしてもその15分間のために、約100分間も我慢しなければならないのは辛過ぎるじゃないの……。

 
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2024年2月17日 (土)

傲慢と善良

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著者:辻村深月

 なんとなく学術書的なタイトルだが、実はミステリアスな恋愛小説なのだ。もしかするとジェイン・オースティンの長編小説『高慢と偏見』のコンセプトが下敷きになっているのかもしれない。また何の連絡もなく恋人が姿を消してしまい、警察に届けても相手にしてもらえず、仕方なく自分が探偵になって彼女の過去を探っゆくと言う展開は佐藤正午の『ジャンプ』から学んだのかもしれない。

 本作の前半では、ストーカーに怯える坂庭真実の突然の失踪と、彼女を探し回る婚約者・西澤架の探偵ゴッコを緻密に描いている。警察に捜査依頼するところからはじまり、真実の実家や姉、昔真実がお世話になっていた結婚相談所、そこで紹介された男たち、真実の友人、などなどとの、のめり込んだ会話の数々、そこにはまさにミステリー風味が延々と漂う。一体彼女はなぜ失踪してしまったのか、まだ生きているのだろうか、だったらどこにいるのか……。

 さらにその探偵ゴッコの中で繰り広げられる会話には、現代婚活の詳しいしくみや、若者たちの恋愛観などが解りやすくかつ興味深く綴られてゆくのである。もうそれだけでも、我々年配者には勉強になってしまうのだ。

 さて本書のテーマである傲慢とは「プライド」とも相通ずるのだが、「狭い経験と認識」と置き換えることもできるだろう。従って他人のことは欠点ばかりを誇張して厳しく評価するのだが、自分自身に対しては自己愛が強く良い面だけしか認めない、ということになるのかもしれない。一方の善良とは、単に良い子と言う意味ではなく、鈍感とか無知とか世間知らずという毒も含んでいるのであろうか。

 後半はどんでん返しのあとに復活・修正的なボランティア話に終始し、知識的には得るものがあったものの、前半の粘っこさに比べるとかなりトーンダウンした感があった。そこにやや物足りなさを感じたのは私だけであろうか。
 それにしても『冷たい校舎の時は止まる』など著者の若かりし頃の作品しか読んでいなかった自分にとっては、これホントに辻村深月の作品なの?と疑問を感じるほど「大人の作品」であった。そりゃあ彼女も母になり40代だものね……かく言う私も「善良」なヒトなのかもしれないな、ははは。

評:蔵研人

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2024年2月14日 (水)

ハーメルン

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★★★☆
製作:2013年 日本 上映時間:138分 監督:坪川拓史

 福島県のある村にある廃校に、元校長が一人で暮らしている。彼はこの古びた校舎をコツコツと修理しながら、まるで愛おしむような日々を送っているのである。なぜそんなことをしていて、なぜそんなことが許可されているのかなどの野暮な説明は一切ない。
 ただ翌春には解体することが決定されており、イチョウの葉が全て落ちるまでには退去しなくてはならない。そんな折、校舎に保管されている遺跡品の整理をするために、博物館の職員である野田がやってくる。
 彼は本校の卒業生で、恩師だった綾子先生の娘・リツコが営む居酒屋を訪れ、綾子が認知症で老人施設に入所していることを知る。子供のころから暗いイメージがつきまとう野田であるが、今も何かを隠しているような、後ろめたい雰囲気が漂っている。

 超美麗な風景を映し出す映像と、懐かしい歌の数々。その歌を綺麗な声で唄う初老のリツコを、70代の倍賞千恵子が淡々と演じている。まさに彼女にピッタリの配役である。寡黙な博物館職員・野田は西島秀俊、元校長に坂本長利といずれも役柄にはまりきっていた。
 ただ格調高いと言うのか、説明がなさすぎるというのか、ストーリーが掴みにくいし、何をテーマにしたいのかも見えてこないのが残念である。それはそれとしても、季節の移り変わりを美麗な映像と自然音で、巧みに絡めた抒情的で味わい深い名品であることは否めないだろう。

 タイトルの「ハーメルン」とは、「ハーメルンの笛吹き」をモチーフにしたからくり時計が本作のキーポイントになっているからである。なお本作のロケ地で取り壊される予定だった築80年の旧喰丸小学校は、本作上映以降に昭和原風景を懐かしむファンが足繁く訪れ、観光用の建物として再生されているらしい。
 
評:蔵研人

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2024年2月 8日 (木)

ループ・ループ・ループ

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著者:桐山徹也

 桐山徹也のことは本作を読むまで全く知らなかったのだが、それもそのはず本作以外には『愚者のスプーンは曲がる』という作品しか発表していないようだ。
 本作はタイムループもので、毎日が何度も繰り返されるという学園小説である。最近似たような小説を時々読むのだが、事故に遭いそうな人がその事故を回避した場合には、その人も時間が繰り返していることに気づくという設定が斬新であった。

 ただストーリー自体には深みもなければ捻りも見つけられなかった。ただ最後まで興味を惹かれたのは、なぜこのようなループ現象が生じてしまったのかという一念のお陰であろう。ただしその結末も余り説得力がなかったが、平易な文体で読み易かったことも間違いない。まさにジュニア向けの作品なのであろうか。

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2024年2月 4日 (日)

ウィンズ・オブ・ゴッド

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★★★☆
製作:1995年 日本 上映時間:97分 監督:奈良橋陽子

 売れない漫才師コンビ田代と金太は、交通事故のショックで、太平洋戦争中にタイムスリップし、なんとあの「神風特攻隊員」になっていたのである。ただしタイムスリップというよりは、魂が過去の人物と入れ替わったのだから、映画の中でも語られているように、「輪廻転生」の変形と考えたほうがよいのかもしれない。
 この過去の世界で、田代は戦争批判を繰り返し、独房に叩き込まれるのだが、純な金太のほうはだんだん過去の世界に馴染んでゆく。仲間の特攻隊員たちは、田代の説得にも応じず、家族や国を守るため次々に敵艦めがけて自爆してゆくのだった。そしてしまいには金太までが……。

 そもそも本作は1988年に今井雅之が舞台用に書き上げた戯曲なのだが、これが大好評を得て1995年に小説化・映画化されたものである。映画ではその今井雅之が田代役で主役を演じているのだが、残念ながら2015年に大腸がんのため54歳の若さで死亡している。
 
評:蔵研人

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