人狼ゲーム デスゲームの運営人

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★★★☆
製作:2020年 日本 上映時間:103分 監督:川上亮

 本作は人狼ゲームシリーズの9作目にあたり、なんと原作者の川上亮氏がはじめて監督・脚本を手掛けた作品である。さらには人狼ゲームの運営側が初めて登場するという画期的な構成になっている。

 ただ運営側と言っても、裏側でゲーム進行などの操作をしている作業スタッフであり、もっと上層部やオーナーではない。従ってまだ本作では、このゲームの真の運営者が、何のために大金を使って犯罪がらみのゲームを続けているのかの回答のかけらも見えてこなかった。つまりまだまだ続編を予定していると言うことなのだろうか。

 今回の特徴は、最新作と言うことで女性キャストが良かったし、撮影場所も小奇麗だったね。それと運営側と参加者との相関図が描けるほど複雑な人間関係が設定されていたことも斬新であった。
 ただ運営側の作業スタッフたちが、想像していたほどの極悪人ではなかったのが意外であった。また前述した相関関係もなにか無理矢理創ったようで余り説得力はなかった。さらにラストもスッキリせず記憶に残らなかったのも残念であった。

評:蔵研人

 

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2024年4月10日 (水)

人狼ゲーム マッドランド

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★★★

製作:2017年 日本 上映時間:98分 監督:綾部真弥

 川上亮原作の心理ホラー作品「人狼ゲーム」シリーズ第6弾である。ではそもそも「人狼ゲーム」とはどのようなゲームなのかを簡単に説明しておこう。

 さてその「人狼ゲーム」とは、味方になりすましたウソつきを会話で見つけ出す10名前後で楽しむパーティーゲームである。プレイヤーたちは、全員がある村の住人として振る舞うのだが、その中の何名かは人狼役で、村人に化けて村を滅ぼそうとする。
 そこで村人たちは毎日、発言や仕草などを頼りに見分けのつかない人狼を探し、多数決でもっとも疑わしい 1名を人狼とみなして処刑する。一方、人狼たちは人知れず毎晩誰か1名を選び餌食にしてゆく。そして人狼をすべて処刑できたら人間の勝利。それよりも早く人間を減らし、生存者の半数を人狼で占めたら人狼の勝利となる。

 ただし人狼や村人以外にも、夜に人狼を見つけることができる予言者や、昼間に処刑した相手が人狼だったか分かる霊媒師など数多くの役割があり、これらはプレイ開始前に配られたカードによって決まっている。人狼は巧みなウソで、村人は的確な推理で、会話を通じて仲間を説得し相手を追い詰めていくのが「人狼ゲーム」の醍醐味ということになる。

 とまあ大雑把なルールは前述した通りなのだが、シリーズごとに少しずつルールに変更が施されているようだ。だが本作ではルールや役割が大きく変更されたと言われている。
 参加者は男女高校生5名ずつ計10名で、役割は村人が狂人で7名、人狼1名、予言者1名、用心棒1名と言う構成であった。そして狂人は1名しか生き残れないし、人狼が死ぬと狂人が全滅するという厳しいルールなのだ。マッドランドつまり狂人村なんだね。また用心棒は誰か一人を守ることができるという設定になっていたが、予言者の能力はよく分からないままだった……。
 さらに建物の外へ逃げて入れない、建物の備品を壊してはいけない、他人に危害を加えてはいけない、そしてこれらに違反する首輪が閉まって処刑される。また自分の役割カードを見せたり、他人のカードをみてはいけない。ただカードさえ見せなければ、自分の正体をバラしても違反にはならないようだ。
 
 こうして毎晩高校生同士の殺し合いがはじまるという訳だが、よく考えるとあの深作欣二監督の『バトルロワイヤル』と似ているよね。それにしても同じパターンでそれほど面白くないのに、よくもまあ9作もシリーズが続いているものである。そしてこのような作品が支持され続けていると言う現実にも恐怖を感じてしまったね。

評:蔵研人

 

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2024年4月 6日 (土)

水上のフライト

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★★★☆
製作:2020年 日本 上映時間:106分 監督:兼重淳

 走高跳びのオリンピック出場を目指して頑張ってきた藤堂遥だったが、不慮の事故に遭遇して半身不随になってしまう。だが希望の灯を消さないために、今度はパラリンピックのカヌー競技に挑戦する。というド根性実話ドラマであり、始めから終わりまでのストーリー展開はほぼ丸見え状態であった。

 結果的にピッタシ予測通りの展開と結末だったが、それなりに感動しそれなりに楽しめたのが不思議である。それにカヌーについての基礎的な知識が得られたのも嬉しい。また主演の中条あやみのストイックさ、小澤征悦のムードメーカーさ、杉野遥亮の寡黙さ、さらに生き生きとした子役たちが、本作にピッタリとはまっていたのが良かったね。

「ひとは誰でも一人ではない。そして誰でも誰かに助けられて生きている。それは健常者も障害者も同じだ」実に含蓄のある言葉ではないか!


評:蔵研人

 

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2024年4月 1日 (月)

四畳半タイムマシンブルース

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著者:森見登美彦

 本書は森見登美彦『四畳半神話体系』と上田誠『サマータイムマシン・ブルース』のコラボレーション作品である。また2022年にはアニメ版も公開されている。
 まあコラボと言っても、ほとんど話の展開は『サマータイムマシン・ブルース』と変わらない。違うのは舞台が大学のSF研の部室だったものが、主人公が住んでいるアパートの四畳半ということ。あとは登場人物の名前が違うとか、主人公が隠れた場所や田村くんのキーアイテムが異なるといった、話の流れとは直接関係ない部分だけである。

 従ってここでくだくだ本作の感想を書き連ねても繰り返しになるばかりである。従って映画版ではあるが、興味のある方は下記URLをクリックして『サマータイムマシン・ブルース』評を読んでいただきたい。


http://ryuugorinji.livedoor.blog/archives/16905854.html

 

評:蔵研人

 

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2024年3月28日 (木)

武蔵 むさし

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★★★☆
製作:2019年 日本 上映時間:120分 監督:三上康雄

 監督の三上康雄氏は、学生時代に自主製作映画を数多く手がけていたが、1980年に家業のミカミ工業を引き継ぎ家業に専念する。ところが映画製作への未練を断ち切れなかったのか、突然ミカミ工業の全株式を売却し、2013年に「蠢動 しゅんどう」で映画製作に復帰した。本作はその三上康雄監督の復帰後第2作である。

 過去に宮本武蔵映画は数多くあるが、本作はよくある吉川英治版ではなく史実に基づくオリジナル版として描かれている。従ってその戦い方なども現実に近い手法で繰り広げられ、鋭さと渋さが漂う好感の持てる展開であった。
 また時代劇はロケ地が限られ製作費が多くかかるため、最近は敬遠されがちである。だが本作はその難問をクリアすべく、なるべく金をかけず、慎重に撮影場所を選び、かつ陳腐にならぬように、映像美や音楽などを巧みに駆使して一応の面目は保っていた。
 さらにキャスト陣も、武蔵役を細田善彦、小次郎役を松平健が演じるほか、目黒祐樹、水野真紀、若林豪らを配して万全を期しているところは流石である。ことに細田善彦の入魂の演技と充実した殺陣には驚かされた。また松平健、目黒祐樹、若林豪の存在感も伊達ではなかったな……。

 本作では吉岡一門との闘いに始まり、鎖鎌の宍戸梅軒、宝蔵院流槍の道栄、そして巌流島での佐々木小次郎との決闘までをテンポよく描き続けている。さらに小次郎を剣術指南役にしてしまった細川家の後悔と苦悶、その裏で暗躍する徳川幕府の陰謀など、その現実的な歴史解釈にはなんとなく納得できるものがあった。ただ時間配分の関連だと思うが、吉岡一門との闘い以降の展開が、かなり駆け足だったのが気になったかもしれない。

 
評:蔵研人

 

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2024年3月25日 (月)

片腕マシンガンガール

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★★★
製作:2007年 日本・米国 上映時間:96分 監督:井口昇

 いじめっ子に殺された弟の復讐のため、ヤクザ忍者集団と残虐な殺し合いを繰り広げるアクション映画である。指が切られる、腕が飛ぶ、足が切られる、首が飛ぶ、体中がみじん切り、そしてシャワーのように真っ赤な血が噴き出すのだ。
 普通なら気分が悪くなるスーパースプレッターなのだが、C級低予算映画なのですぐ造り物と分かるしかけ。だからそんな残酷シーンもチンケなので、「気持ちが悪い」程度でなんとか目を開けていられた。どちらかと言うと笑ってしまうかもしれないね。

 主人公は女子高生だが、両親は自死し弟と二人暮らし、弱い弟に比べてめっぽう気も強いし喧嘩も強い。しかし超無謀さが祟って、ヤクザたちに片腕を切り落とされてしまう。だが瀕死のところを弟の親友の両親に助けられ、亡くした腕にマシンガンを装着してもらい復活する、とそれだけでも荒唐無稽なマンガのようなストーリーではないか。
 いずれにせよ、死ぬほどバカバカしいのだが、主人公の女優が可愛いのと、おバカ映画と割り切ればそこそこ面白いので、とうとう最後まで観続けてしまった。ただこれって、海外ではそこそこ受けそうな気がするよね。と……よく調べたら、俳優は日本人でもスタッフはほとんど米国人らしいね。

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2024年3月21日 (木)

ジャンプ

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★★★☆
著者:佐藤正午

 著者の佐藤正午は、1983年に『永遠の1/2』で「すばる文学賞」を受賞し作家デビューした。ただ当初は好き嫌いの分かれる地味な作家であったのだが、本作でベストセラーを記録してから『Y』、『身の上話』、『鳩の撃退法』、『月の満ち欠け』などのヒット作を生み出している。

 本作では鈍感で融通の利かない下戸の主人公・三谷純之輔が、アブジンスキーという強烈なカクテルを飲んだために、彼女が失踪する事件を招いてしまうという話である。またそのカクテルだけではなく、もしあのとき出張を遅らせたら、もしあのとき電話に出ていれば、もしあのとき女と会っていなかったら、などなど「もしあのときこうしていれば」というテーマとしては『Y』と双璧をなしているようだ。

 それにしても、延々と失踪した彼女捜しが続くのだが、実姉・友人・20年以上逢っていなかった父親やバーのマダムにまで連絡があったのに、なぜか恋人である三谷だけには何の連絡もない、と言う摩訶不思議さに読者はイライラしストレスが溜まってしまうかもしれない。ただし彼女の失踪理由は、最終章で50頁に亘って延々と説明される、という構成になっている。
 ミステリーかと思ってずっと読み進めていたのだが、とどのつまりは恋愛小説だった。そしてもしかすると、この最終章のために創られた小説ではないかと感じたのは私だけであろうか。

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2024年3月17日 (日)

予告犯

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★★★☆
製作:2015年 日本 上映時間:119分 監督:中村義洋

 ある日突然、ネットに新聞紙製の頭巾を被った謎の男が出現し、明日の犯罪予告をする。そしてその予告通り集団食中毒を起こしながらも、法律上の不備を指摘して開き直った食品加工会社の工場が放火される事件が勃発するのだった。
 その後も幾つかの事件を予告しては実行し、ネットで注目され賛否両論が飛び交うのだが、どうやら犯人は複数のグループのようである。だが愉快犯にしては義賊のようでもあり、その目的がよく分からないのだ。果たして彼等の究極の目的は一体何なのか、そして社会を震撼させた衝撃のテロリズムの結末はいかに……。

 犯人グループを構成するのは、恵まれない男たち4人で、生田斗真をはじめとして、鈴木亮平、濱田岳、荒川良々が好演している。ただ彼等を追うキャリア捜査官に、戸田恵梨香が扮しているのはなんとなくスッキリしないと感じたのは私だけであろうか。まあ原作がマンガだからしょうがないか……。
 いずれにせよラストは良かったね。ついホロリとさせられたもの。さてこの映画の続編がオリジナルTVドラマとして放映されたようだが、まだ観ていないので機会があったら是非観てみたいものである。

評:蔵研人

 

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2024年3月15日 (金)

隊務スリップ 全6巻

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★★★☆
著者:新田たつお

 あの108巻に亘る大長編マンガ『静かなるドン』の新田たつおが、2014年から2016年にビックコミック誌に連載した作品である。
 舞台は日本国憲法第9条が撤廃された近未来の日本が舞台なのだが、自衛隊は軍隊に昇格しあたかも昔の軍国主義が復活したように描かれているではないか。これは当時、安倍晋三が「憲法を改正して自衛隊を国防軍に」という発言をしたためだと言われている。

 それにしても新田たつおの作品は、シリアスなストーリーにギャグを織り交ぜ、主人公は一見弱々しく見えるが実はかなり強いというお決まりパターンなのだろうか。だがその奇妙な味わいが堪らないという読者も多いようだ。
 本書の主人公・青乃盾も、熱海の饅頭屋に勤務し、「人類最弱」とあだ名される虚弱体質の持ち主なのだが、何かの拍子に目覚めると神的な超能力を発動するのである。

 近未来、東京は核テロに見舞われてしまう。そしてそれをきっかけに、日本では再び軍が台頭する。日本国軍はアフリカに派兵したが、現地でテロ国家相手に苦戦を強いられていた。そんな中、精鋭の職業軍人の犠牲を避けたい軍の意向と、余剰人員を軍に押し付けたい財界の意向とが一致し、政府は密かに徴兵制の復活を企んでいた。

 主人公以外の主な登場人物は、悪知恵の塊のような饅頭屋の主人・五代目饅頭屋宗兵衛、頭脳明晰で切れ味抜群の龍騎玄一郎大佐、謎のテロリスト九条直道などだが、そのほか首相や米国大統領、政財界の黒幕たちなどが続々登場する。
 そしてだんだんスケールが大きくなるのだが、序盤の戦闘訓練所での話が一番面白かった。そしてあれよあれよという間に終盤に突入し、無理やり終わってしまうのだ。著者が息切れしたのか、あるいは不評で打ち切られたのかどちらかであろう。それほど余りにも端折り過ぎで、あっけない結末だったのである。
 それにして何が隊務(タイム)スリップなのだろうか、と思っていたのだがオーラスになってやっとその意味が分かった。

評:蔵研人

 

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2024年3月12日 (火)

老後の資金がありません

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★★★☆
製作:2021年 日本 上映時間:115分 監督:前田哲

 本作は第45回日本アカデミー賞で、天海祐希が主演女優賞、草笛光子が助演女優賞を受賞している。また三谷幸喜が監督でも脚本でもなく、おとぼけ役人として俳優として出演していた。なお原作は垣谷美雨の同名ベストセラー小説である。

 老後資金が4千万円必要と言う時代に、後藤家には700万円の預金しかない。夫の後藤章は優柔不断で頼りなく、年頃の娘は我儘で奇妙な男とできちゃった結婚、食べ盛りの息子は大学生と言う状況だ。だから妻の篤子は壊れたバッグで我慢して、パートで家計の穴埋めをしていたのだが、次から次へと難問が降りかかるのだった。

 まずは義父の葬式で約400万円の無駄遣いをしてしまう。さらに娘が豪華な結婚式をしたいと言い出す。ところが章の会社が倒産、篤子もパートをクビになる。そのうえ義母を引き取るはめになるのだが……。その義母は贅沢三昧で挙句の果てはオレオレ詐欺に引っ掛かり、結納で貰った100万円を失ってしまうのだ。さらに篤子が最後に頼った実家では、両親がサーフショップ開店のため借金漬けになっていたのである。

 こう次から次へと不運と問題ばかり続くのだが、篤子はボーリングで憂さを晴らし、なんとか我慢し続けるのだった。だが離職中の章が子連れの若い女と楽しそうに歩いているのを目にして、とうとう切れてしまうのである。
 それにしても悪いことの連鎖が続き過ぎて、観ているほうもストレスが溜まってくる。だがご心配なく。終盤になってやっと不幸から解放されて、誰もがほっこりと涙を流してしまうだろう。まあ終わり良ければ全て良しかな。なんともはや、赤いブランドバッグにはじまり、赤いブランドバッグで終わるという女性視点の作品だったね。
 
 
評:蔵研人

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2024年3月 8日 (金)

ぼくは明日、昨日のきみとデートする

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著者:七月隆文

 この小説を読む7年前に、すでに映画のほうを先に観ている。配役は福士蒼汰と小松菜奈でピッタリと息の合った演技をしていたと思う。その後この原作本を購入したのだが、どうした訳かタイミングが合わず、7年間も書棚に置き去りしたままだった。

映画の記事はこちら↓

ぼくは明日、昨日のきみとデートする: ケントのたそがれ劇場 (cocolog-nifty.com)

 映画を観たときはかなり感動して涙が止まらなかったのだが、なぜか原作のほうは全く涙腺を刺激されなかったのだ。文章がやさしく読み易いのだが、「時間が逆行している」というイメージがどうしても浮かばないからかもしれない。
 逆に映画のほうはその難問を巧みに映像でカバーしていたのである。つまり小説は心理的な部分の描写に長けているが、説明的な部分の描写は映像のほうが長けていると言うことなのだろうか……。
 そうしたことからも、まさにこの小説こそ映画向きだったのかもしれない。いずれにせよ、だいぶ前に観た映画なので、もう一度観て確認したくなってしまった。

評:蔵研人

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2024年3月 4日 (月)

凛 りん

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★★★
製作:2019年 日本 上映時間:83分 監督:池田克彦

 原作は、お笑い芸人で芥川賞作家の又吉直樹が舞台用に書き下ろした長編サスペンスだという。主な登場人物たちは田舎の高校生5人組であり、序盤はなんとなくあの名作映画『スタンド・バイ・ミー』を思わせる雰囲気が心地よかった。また田舎によくある「怖い伝説」をモチーフにした事件展開にも興味をそそられた。

 ところが山の中で、5人の一人が消えたところ辺りから、急につまらない三文芝居に成り下がってしまった気がする。せっかく個性的で難しい家庭事情を抱えた青年たちを配したのだから、もっと彼らの生活や行動の中に入り込んだ人間ドラマを描いて欲しかった。ことにDV親父や継母たちの存在や始末の付け方が尻切れトンボになっていたのは非常に残念だった。

 そしてラストの犯人解明とその動機も、なにか取って付けたような強引な筋書きで陳腐さを禁じえなかった。結局は欲張っていろいろな味付けをしたものの、それらを巧く絡みつけられなかったのであろう。そもそも又吉直樹の名前に頼り過ぎて、舞台用に書かれたものを無理矢理映画化したところから間違っていたのかもしれないね。

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2024年3月 1日 (金)

竜の柩

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著者:高橋克彦

 竜とは何か?西洋ではドラゴンと呼ばれ羽を有し火を吐く怪獣だが、東洋では龍とか辰と呼ばれ聖なる存在とされている。もちろんどちらも空想上の生物なのだが、本書では竜を一族に例えたり、ロケットに例えたりしながらその真相に迫ってゆく。
 まず古代文明が栄えたと言われる日本の津軽地方に始まり、信濃、出雲を転々と訪れ、ついにインド、パキスタン、トルコへの壮大な旅が始まるのである。とにかくスケールの大きな物語で、550頁を超す分厚い新書版の二段書き、という大長編に収まっているのだ。しかも本作は前編であり、ストーリーはさらに後編である『新・竜の柩』へと繋がって行くのである。

 本書はストーリーよりも、『古事記』『日本書紀』や風土記に残る寓話や、『ノアの箱舟』などの神話が、ぐるぐると絡みついてくる。とにかく竜の伝説にまつわる蘊蓄の数々が、「もうたくさんだ」と疲れるほど網羅されるのだ。荒唐無稽なのだが、無理やりこじつけてまるで真実のように創りあげているところが凄い!凄すぎるとしか言いようがない。著者の驚くべきパワーには頭が下がる思いだ。
 ただ本書を読破するのに、私自身もかなりのパワーと時間を消費してしまった感がある。従って続編『新・竜の柩』も所持しているのだが、当分は休息時間が必要かもしれないな……。

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2024年2月26日 (月)

ベル・エポックでもう一度

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★★★
製作:2019年 フランス・ベルギー 上映時間:115分 監督:ニコラ・ブドス

 自分が望む過去を映画撮影セットで再現する、と言う『体験型サービス』に、はまった老人の人生模様を描いたロマンティック・コメディーである。と言っても、タイムトラベル作品ではなく、あくまでも映画セットと俳優たちで過去を再現するサービスである。発想的にはなかなかユニークなのだが、ジャック・フィニイの『ふりだしに戻る』という小説の過去に戻る手法を参考にしたのかもしれない。

 進歩した現在を否定し、あくまでも過去に固執する元・売れっ子イラストレーターのヴィクトルは、今は職を失い妻にも見放されてしまう。そんな彼に孝行息子が、莫大な金がかかる『体験型エンターテイメントサービス』の招待券をプレゼントしてくれる。そしてヴィクトルが選んだ過去とは、愛する妻と巡り合った1974年のカフェであった……。

 序盤はなかなか興味深かい展開だったのだが、中盤以降は急にテンポが悪くなり、やや中だるみ感が漂い始めたのが残念であった。たぶん息子の友人でこの体験サービス会社を立ち上げたアントニーと、彼の恋人である女優の絡みが平行描写されたため、ストーリーの目的が分かり難くなってしまったからかもしれない。あくまでも本作では、ヴィクトルとその妻にだけに焦点を絞ったほうが、もっと感動を呼び込めたような気がするのだが……。


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2024年2月23日 (金)

あなたの涙は蜜の味

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   本書は2019年に出版され好評を得た『あなたの不幸は蜜の味』の第二弾で、女性作家7人によるイヤミス傑作選となっている。さてそれにしても「イヤミス」とは一体どういう意味なのだろうか。
 簡単に言えば「後味の悪いミステリー」ということらしい。だからといってマイナス評価という訳ではなく、ある意味ホラー的な魅力があるとも言えるだろう。

 それでは、その全七作の短編を簡単に紹介してみようか。
「パッとしない子」 辻村深月
 小学校の教師・松尾美穂は、かつて国民的アイドルグループのメンバー高輪佑の弟の担任であり、彼等の少年時代の様子を良く知っていることが自慢の種であった。ところがある日テレビ番組収録のため高輪佑が学校にやってきて、久し振りに話を交わすことになるのだが……。松尾美穂と高輪佑の二人にしか知りえないそれぞれの思い出に、大きな格差が残されていたというある種の恐怖感を見事に描いている。

「福の神」 宇佐美まこと
 余りうまくいっていない三世帯家族だったが、ある日祖母が歯科で知り合った初老の女性を家に連れてくると、家族それぞれが抱えていた悩みが急に解消されゆく。……といったファンタジックホラーという趣の作品である。

「コミュニティ」 篠田節子
 遠藤家は不況の煽りを受け、ローンを残したままマンションを売却し、僻地にある狭くて古い団地に引っ越してくる。そこでは住民たちが異常なまでに団結し、度を超えた深い人間関係が定着していた。はじめは全く馴染めなかった妻が、いつの間にかそのコミュニティにどっぷりつかってしまう様子を見た夫は、そこに何ともいえない不快感と奇妙さを感じるのだが……。
 
「北口の女」 王谷 晶
 大物演歌歌手とその付き人の話で、七作中一番の短編である。本書の解説者は本作をベタ褒めしているのだが、残念ながら私にはその絶賛する感覚が全く湧かなかった。

「ひとりでいいのに」 降田 天
 双子の女性がそれぞれ抱く感情を実に巧みに描いている傑作。さすが書下ろし作品で、まさに本書にピッタリの内容であった。ただ過去に江戸川乱歩が『双生児』という似たような作品を上梓しているのが気になったかな。

「口封じ」 乃南アサ
 本書の中で一番不愉快な話かもしれない。それは病院で付添婦をしている主人公の余りにも酷い態度の連続が延々と続くからであろうか。そしてラストでの残酷な復讐劇にも身の毛がよだつ。

裏切らないで」 宮部みゆき
 イヤミスというよりは、オーソドックスな刑事・探偵ものという感がある。本書の中では一番の大御所作家なので期待していたのだが、どうも長編的な丁寧な序盤が災いして短編としての味を楽しめなかったのが残念であった。

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2024年2月20日 (火)

君のためのタイムリープ

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★★★
製作:2017年 台湾 上映時間:104分 監督:シェ・チュンイー

 高校時代に『月球組』というバンドを結成していた5人組のボーカル・恩佩(エンペイ)は、その才能を認められて日本で活躍するのだが、落ちぶれてしまった挙句に若くして自殺してしまう。彼女の葬儀の後、5人組の一人だったジョンシャンは、路上で不思議な老婆から「一輪一晩」と言われて、三輪の玉蘭をもらう。そしてジョンシャンがその玉蘭の匂いをかぐと、なんと彼は高校時代にタイムリープしていたのである。
 高校時代なので当然だが、エンペイはまだ生きていて、必死でオーディションの練習をしていた。ジョンシャンはエンペイに死んで欲しくなくて、必死に彼女がデビューしない方法を考え邪魔をするのだが……。

 1997年の台湾が舞台なのだが、日本の風景も織り込まれており、安室奈美恵や小室哲哉や飯島愛に憧れている台湾の青年たちを観て、「そんな時代もあったなあ」と懐かしさがこみあげてきた。さらには『たまごっち』、『プリクラ』、『将太の寿司』などの日本カルチャーが満載なのだ。当時の台湾では、まだ日本が憧れの国だったのだろうか。
 決してつまらない映画ではないのだが、脚本が単純すぎるし、主人公とヒロインが余り魅力的ではなかったためか、中だるみ感を禁じえなかった。ただラスト前の15分間は、スクリーン全体に優しさが漂っていたよね。それにしてもその15分間のために、約100分間も我慢しなければならないのは辛過ぎるじゃないの……。

 
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2024年2月17日 (土)

傲慢と善良

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著者:辻村深月

 なんとなく学術書的なタイトルだが、実はミステリアスな恋愛小説なのだ。もしかするとジェイン・オースティンの長編小説『高慢と偏見』のコンセプトが下敷きになっているのかもしれない。また何の連絡もなく恋人が姿を消してしまい、警察に届けても相手にしてもらえず、仕方なく自分が探偵になって彼女の過去を探っゆくと言う展開は佐藤正午の『ジャンプ』から学んだのかもしれない。

 本作の前半では、ストーカーに怯える坂庭真実の突然の失踪と、彼女を探し回る婚約者・西澤架の探偵ゴッコを緻密に描いている。警察に捜査依頼するところからはじまり、真実の実家や姉、昔真実がお世話になっていた結婚相談所、そこで紹介された男たち、真実の友人、などなどとの、のめり込んだ会話の数々、そこにはまさにミステリー風味が延々と漂う。一体彼女はなぜ失踪してしまったのか、まだ生きているのだろうか、だったらどこにいるのか……。

 さらにその探偵ゴッコの中で繰り広げられる会話には、現代婚活の詳しいしくみや、若者たちの恋愛観などが解りやすくかつ興味深く綴られてゆくのである。もうそれだけでも、我々年配者には勉強になってしまうのだ。

 さて本書のテーマである傲慢とは「プライド」とも相通ずるのだが、「狭い経験と認識」と置き換えることもできるだろう。従って他人のことは欠点ばかりを誇張して厳しく評価するのだが、自分自身に対しては自己愛が強く良い面だけしか認めない、ということになるのかもしれない。一方の善良とは、単に良い子と言う意味ではなく、鈍感とか無知とか世間知らずという毒も含んでいるのであろうか。

 後半はどんでん返しのあとに復活・修正的なボランティア話に終始し、知識的には得るものがあったものの、前半の粘っこさに比べるとかなりトーンダウンした感があった。そこにやや物足りなさを感じたのは私だけであろうか。
 それにしても『冷たい校舎の時は止まる』など著者の若かりし頃の作品しか読んでいなかった自分にとっては、これホントに辻村深月の作品なの?と疑問を感じるほど「大人の作品」であった。そりゃあ彼女も母になり40代だものね……かく言う私も「善良」なヒトなのかもしれないな、ははは。

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2024年2月14日 (水)

ハーメルン

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★★★☆
製作:2013年 日本 上映時間:138分 監督:坪川拓史

 福島県のある村にある廃校に、元校長が一人で暮らしている。彼はこの古びた校舎をコツコツと修理しながら、まるで愛おしむような日々を送っているのである。なぜそんなことをしていて、なぜそんなことが許可されているのかなどの野暮な説明は一切ない。
 ただ翌春には解体することが決定されており、イチョウの葉が全て落ちるまでには退去しなくてはならない。そんな折、校舎に保管されている遺跡品の整理をするために、博物館の職員である野田がやってくる。
 彼は本校の卒業生で、恩師だった綾子先生の娘・リツコが営む居酒屋を訪れ、綾子が認知症で老人施設に入所していることを知る。子供のころから暗いイメージがつきまとう野田であるが、今も何かを隠しているような、後ろめたい雰囲気が漂っている。

 超美麗な風景を映し出す映像と、懐かしい歌の数々。その歌を綺麗な声で唄う初老のリツコを、70代の倍賞千恵子が淡々と演じている。まさに彼女にピッタリの配役である。寡黙な博物館職員・野田は西島秀俊、元校長に坂本長利といずれも役柄にはまりきっていた。
 ただ格調高いと言うのか、説明がなさすぎるというのか、ストーリーが掴みにくいし、何をテーマにしたいのかも見えてこないのが残念である。それはそれとしても、季節の移り変わりを美麗な映像と自然音で、巧みに絡めた抒情的で味わい深い名品であることは否めないだろう。

 タイトルの「ハーメルン」とは、「ハーメルンの笛吹き」をモチーフにしたからくり時計が本作のキーポイントになっているからである。なお本作のロケ地で取り壊される予定だった築80年の旧喰丸小学校は、本作上映以降に昭和原風景を懐かしむファンが足繁く訪れ、観光用の建物として再生されているらしい。
 
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2024年2月 8日 (木)

ループ・ループ・ループ

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著者:桐山徹也

 桐山徹也のことは本作を読むまで全く知らなかったのだが、それもそのはず本作以外には『愚者のスプーンは曲がる』という作品しか発表していないようだ。
 本作はタイムループもので、毎日が何度も繰り返されるという学園小説である。最近似たような小説を時々読むのだが、事故に遭いそうな人がその事故を回避した場合には、その人も時間が繰り返していることに気づくという設定が斬新であった。

 ただストーリー自体には深みもなければ捻りも見つけられなかった。ただ最後まで興味を惹かれたのは、なぜこのようなループ現象が生じてしまったのかという一念のお陰であろう。ただしその結末も余り説得力がなかったが、平易な文体で読み易かったことも間違いない。まさにジュニア向けの作品なのであろうか。

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2024年2月 4日 (日)

ウィンズ・オブ・ゴッド

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★★★☆
製作:1995年 日本 上映時間:97分 監督:奈良橋陽子

 売れない漫才師コンビ田代と金太は、交通事故のショックで、太平洋戦争中にタイムスリップし、なんとあの「神風特攻隊員」になっていたのである。ただしタイムスリップというよりは、魂が過去の人物と入れ替わったのだから、映画の中でも語られているように、「輪廻転生」の変形と考えたほうがよいのかもしれない。
 この過去の世界で、田代は戦争批判を繰り返し、独房に叩き込まれるのだが、純な金太のほうはだんだん過去の世界に馴染んでゆく。仲間の特攻隊員たちは、田代の説得にも応じず、家族や国を守るため次々に敵艦めがけて自爆してゆくのだった。そしてしまいには金太までが……。

 そもそも本作は1988年に今井雅之が舞台用に書き上げた戯曲なのだが、これが大好評を得て1995年に小説化・映画化されたものである。映画ではその今井雅之が田代役で主役を演じているのだが、残念ながら2015年に大腸がんのため54歳の若さで死亡している。
 
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2024年1月28日 (日)

通りゃんせ

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著者:宇江佐真理

 25歳の若手サラリーマンである大森連は、失恋の傷を癒すために休日になるとマウンテン・バイクで走りまくっていた。ところが小仏峠周辺で道に迷い、滝の裏に墜落してしまう。目が覚めると、なんとそこは天明6年の武蔵国中郡青畑村であった。
 連は時次郎とさな兄妹に助けてもらいながら、連吉と名を変えて時次郎の百姓仕事を手伝うことになる。さらに忙しい時次郎に変わって、領主である江戸の松平伝八郎のもとを訪れるのだった。

 宇江佐真理と言えば、吉川英治文学新人賞を受賞したり、何度ともなく直木賞候補に挙がっている時代小説の旗手である。ところがなんと本書は、現代っ子の若者が江戸時代にタイムスリップして、川の氾濫や天明の大飢饉で苦しむ村人たちを助けるというSF絡みの時代小説だったのだ。
 ただしSF時代劇と言っても『戦国自衛隊』や『戦国スナイパー』などのように未来人が未来の知識や武器を使ってヒーローになるような大それた話ではない。せいぜい汚れた井戸水の簡易ろ過装置を創ったり、整体やストレッチの知識を生かして感謝される程度の活躍をするだけである。それより何と言っても、主人公・連の優しさと誠実さが脈々と流れてくるような清々しく凛としたストーリーに心を奪われるだろう。

 またさすが本格時代小説家だと感じさせる的確な時代考証を土台にした、現代と江戸時代の風俗や社会構成の比較描写は実に見事であった。それに加えてワームホールなどのタイムスリップ理論や、過去の改変によって引き起こされるタイムパラドックスについても言及しているところに著者の真摯な勉強熱心さを感じた。
 ただ高校時代の友人坂本賢介の存在や行動が、説明不足かつ中途半端だったところだけが唯一気に入らない部分だったような気がする。またラストでの早苗との遭遇はよくある映画のパターンで、ほぼ私の予想通りであったのだが、ずっと暗く苦しかった連にそのくらいのご褒美はあげてもいいかな……。


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2024年1月25日 (木)

ぼくが処刑される未来

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★★☆
製作:2012年 日本 上映時間:87分 監督:小中和哉

 自分の意見をはっきり言えず、ただ漠然と毎日を過ごしていた大学生の浅尾幸雄は、橋の上で酔っ払いが寝転んでいるのを見ていた時、突然まばゆい光に包まれてしまう。気が付くとそこは25年後の未来で、なんと警察の取調室で身柄を拘束されているではないか。
 彼は未来に罪を犯したという理由で未来にタイムワープさせられたのだが、未来の罪を償うため過去の彼が処刑されると言う奇妙な理屈なのだった。それを決めたのは、未来に開発された量子コンピューターで、その計算能力は神がかりで絶対に間違いがないと言うのである。

 テーマ的には興味深いし、福士蒼汰と吉沢亮が主演だと言うことで、本作を観る気になったのだが、余りにもチープ過ぎてがっかりしてしまった。低予算と言うこともあるが、脚本も悪いしタイムトラベルものの設定や展開などのルールも全く無視状態なのだ。そもそもドラマとしても失格なのに、これではタイムトラベルファンの心さえも掴めないよな。
 
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2024年1月21日 (日)

すばらしきかな人生

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★★★★
原作:北原雅紀 作画:若狭星

 『素晴らしき哉、人生!』は1946年に製作された米国の名作映画であるが、本作はその名作映画のオマージュ版コミックといったところだろうか。
 もしもあの時に戻ることができたら、今の自分はこんな不幸にはならないはずだ……。と誰もが一度は考えたことがあるだろう。それを実現してくれるのが、バ-『ボレロ』のマスター・坂巻友郎である。
 ただしその代償は10年の寿命と引き換えだというのだ。仏のような顔付をしているマスターだが、果たして彼は天使か悪魔か死神なのだろうか……。

 本作はこのマスター・坂巻友郎が、藤子不二雄Aの『笑ゥせぇるすまん』のような狂言回しを務めるオムニバス方式を採用している。第一巻には『あの日に帰りたい』ほか9作が収められており全3巻の構成になっているのだ。全ての話がなかなか良くできているのだが、どうしても似たような話になり、オチが読めてしまうところが弱点かもしれないが、読み応え十分なことは間違いないので安心して欲しい。

 いずれにせよ、絵は綺麗だし、原作ものなので一つ一つの話は分かり易くしっかりしているし、全三巻という手ごろな構成なので誰にでも楽しめるだろう。ましてやタイムトラベルファンは必読かもしれないね。

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2024年1月16日 (火)

リピート TVドラマ

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★★★

 乾くるみの長編小説をドラマ化したものだが、原作とはかなり異なっているので、原作既読者にも楽しめるはずだと思う。かくいう私も原作を読んでから本作を観たクチなのだ。さて原作と異なっていた部分とは次の通りである。

 最大の相違点は、原作の主人公が毛利圭介だったのに、ドラマでは篠崎鮎美に変わっていることだ。もしかすると大物俳優が少ない中で、貫地谷しほりが篠崎鮎美を演じたからかもしれないし、TVドラマということで女性受けを狙ったからかもしれない。いずれにせよそれによって、ストーリー展開自体にも大幅な修正が必要になってしまったのだろう。

 また原作では、リピートした10人のうち女性は篠崎鮎美だけなのに、ドラマでは9人のリピート中3人の女性が含まれているのだ。さらに鮎美は圭介と同年代だったのに、ドラマではかなり年上になってしまった。これらも全て貫地谷しほりが篠崎鮎美を演じた副作用に違いない。
 次にリピート場所がかなり異なっていた。原作では上空で、ヘリコプターを使って移動するのだが、撮影費用の増加やヘリの運転にかかわる諸事情から、徒歩で行ける洞窟に鞍替えされてしまったのだろう。

 それからリピート仲間が次々に死亡するのだが、その順番も異なっている。これは前述した主人公の変更に伴うドラマの構成上、やむを得なかったのかもしれないね。このほかにも細かい変更はいろいろあるのだが、何と言ってもエンディングが全く違っていた。これについてはネタバレになるので、ここに記すことは出来ないが、原作よりは多少救われるかもしれない。やはりTVドラマだね。

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2024年1月13日 (土)

終わりに見た街

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著者:山田太一

 多摩川を見下ろす東京近郊の住宅地に住む家族が、ある朝目覚めたら突然、家ごと太平洋戦争末期の昭和19年にタイムスリップしてしまうというお話である。家ごとタイムスリップするという展開は珍しい。だが戦時下で家族全員が生きていくためには、未来の珍しい品物を売って食をつなぐしか方法がないため、こうした設定を考えたのであろう。従って家自体は目立つため無用の長物に過ぎず、すぐに炎上してしまい、家財道具だけを持って各地を転々と移動することになる。
 また物語に変化をつけるために、旧友の敏夫さんも息子と一緒にタイムスリップしてくるのだった。この敏夫さんがなかなか逞しい人で、頼りない主人公に変わって、戦時下という苦境の中でも生き抜く術を教えてくれるのだ。

 戦時下へタイムスリップする話は幾つか知っているが、本作のように恐ろしい話は初めてである。何が恐ろしいのか、敵の米軍よりもっと怖いのが、なんと味方であるはずの隣人たちや日本兵たちなのだ。隣人たちは自分の保全のため、変わった風体や言動のある者を見つけると、直ちにお上にタレコミするからである。
 また憲兵や軍人たちは、有無を言わさず「お国のために働け!」と威張り腐って跋扈するばかり。ああーこんな時代に生まれなかっただけでも幸せなのだなと、つくづく現在を生きていることに感謝してしまうのだ。いずれにせよ戦前生まれの著者だからこそ、救いようのない戦争の恐ろしさを表現できたのであろう。

 さてタイムトラベルものの楽しみの一つは、ラストはどのような形で締めくくるのか、またどんなどんでん返しが待っているのだろうかということである。果たして驚くべきどんでん返しが用意されていたのだが、いまひとつ状況が把握できないまま終わってしまった。まさしくタイトル通り『終わりに見た街』なのだが、パラレルワールドなのか、夢落ちなのか、もしかすると辻褄が合わない部分もあるが、実は『猿の惑星』だったのだろうか。

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2024年1月10日 (水)

ナイト&デイ

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★★★☆
製作:2010年 米国 上映時間:109分 監督:ジェームズ・マンゴールド

 平凡な女性ジューンは、ある日空港でイケメンだがミステリアスな男と運命的な出会いをする。だが男の正体は、重要な任務を帯びたスパイであり、彼女は大騒動に巻き込まれて何度も危険な目なあってしまうのだった。

 ミステリアスな男・ロイにトム・クルーズ、ジューンにキャメロン・ディアスと、人気2大スターが共演するアクションコメディーである。とにかくドンパチ・ドタバタの連続で休む暇がない。そしてピンチが訪れても、いつの間にか場面が変わって脱出しているといったテキトーで雑な展開が続く。だがなんとなくお洒落で爽快な気分にさせてくれるのだ。これもトムとキャメロンのオーラのお陰なのだろうか。

 旅客機の中の死闘から不時着に始まり、絶対に不可能なカーチェイス、敵の弾は全く当たらない不死身男が、走る走る走る、とまるでミッションインポッシブルのコメディ版だ。いずれにせよ、ストーリーはハチャメチャでないに等しいのだが、結局ラストは急にラブラブコメディーに収まってしまった。ははは、ただ面白いだけだったね。それにしても、一体この映画は何だったのだろうか。

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2024年1月 7日 (日)

ハウンター

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★★★
製作:2013年 カナダ 上映時間:97分 監督:ヴィンチェンゾ・ナタリ

 主人公はリサという高校生の少女なのだが、この話は彼女の誕生日前日がずっとループしているところから始まる。だからタイムループ作品なのかと勘違いしてしまったのだが、実は彼女は既に少女殺人鬼エドガーによって殺されていたというホラー作品なのであった。
 ただ余りにも同じことの繰り返しが多く、外には出られず家の中のシーンばかりなので中だるみしてしまうのだ。それに両親や兄弟が入れ替わったりと、なんだか異次元を彷徨うような展開にも、正直言って戸惑いうんざりしてしまった。

 ヴィンチェンゾ・ナタリ監督と言えば、「CUBE」が有名だが、本作もその流れを汲んで、なかなか家の外に出られないというシチュエーションなのであろうか。ただ同じ日が何度も繰り返したり、父親の性格が変貌したり、家族が入れ替わったり、といった謎についての丁寧な解説がなかっため、観賞後もなんとなくすっきりしなかった。私の読みが浅かったのかもしれないが、万人向けではなく不親切な作品であったような気がしたのは私だけであろうか……。
 
 
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2024年1月 4日 (木)

時間島

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原作:椙元孝思 作画:松枝尚嗣

 本作の舞台になっている『時間島』と呼ばれる『矢郷島』は、三重県の無人島という設定になっている。なんだか本当に存在するのかとグーグルマップで調べたら、似たような形をしている『大築海島』が見つかった。
 ただしその大築海島は、昔からずっと無人島であり、かつての鉱山や廃墟などは全く存在しない。むしろ鉱山や集団ビルの廃墟なら、先ごろ世界遺産に登録された長崎県の『軍艦島』そのものであろう。まあ実在の島を舞台にはし難いので、島の形は『大築海島』で廃墟は『軍艦島』をモデルにしたのであろう。

 本作のオープニングは、この時間島にある地底湖に落ちると、一瞬にして5年間が跳び去り、戻ったときはまるで「浦島太郎現象」を引き起こすという話から始まる。それで断然ボルテージがアップするのだが、残念ながらこの地底湖に絡むのは、主人公の佐倉準がそこに公用のケータイを落としてしまうという絡みだけなのだ。
 その後落としたケータイから佐倉が持っている私用のケータイにメールが着信し、そのメールには謎のミイラ男からの動画が添付されていた。そして彼は5年後の未来からメールを発信しているのだと言い、まもなく大地震が起こり、全員が殺されてしまうと警告するのだった。

 タイムトラベル絡みと言えばこのあたりの展開だけで、あとは殺しの犯人探しとミイラ男の正体に興味が集中するのだが、いまひとつ殺人の理由が納得できない。さらにミイラ男の正体と最後のどんでん返しにも、それほど説得力がなかったのが残念である。決して駄作ではないのだが、ストーリー展開にもう少し味付けが欲しかったね。まあ一巻完結なのでやむを得ないのかもしれない。

 
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2023年12月31日 (日)

ゴジラvsコング

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★★★
製作:2021年 米国 上映時間:114分 監督:アダム・ウィンガード

 前作の『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』で宇宙怪獣・キングギドラを撃退し、地球の救世主になったはずのゴジラが突然目覚め、怒りを露わにしてしながら破壊活動をはじめるのだった。ゴジラが怒り狂った原因を掴めぬまま、人間たちはゴジラに対抗すべくコングを連れ出すのだが……。
 いつもながらハリウッドのVFX技術は凄まじいのだが、本作においても前作同様ストーリーは取って付けただけで、破壊と怪獣同士のプロレスごっこだけを売りにしている感がある。前作では、キングギドラ・モスラ・ラドンなど怪獣総進撃を描いてみせたが、今度は『キングコング対ゴジラ』の焼き直しかいな。さらに「メカゴジラ」のおまけまでついてきた。

 これらゴジラ対怪獣のプロレス映画は、日本ではもう完全に終わっている。ましてや2016年の『シン・ゴジラ』では政治とゴジラを描き、2023年の『ゴジラ-1.0』では、終戦直後の人間模様とゴジラ出現を重ね合わせて描いている。さらにゴジラ自体もパワーアップし、より凶悪な人類の敵として設定されているのである。もうハリウッド製のゴジラは時代遅れで、なんとなく今更観と虚しさが漂っている感があった。
 
 2024年には本作の続編として『ゴジラxコング 新たなる帝国』が上映される予定であるが、正直言って余り興味は惹かれない。それよりも日本製の『ゴジラ-1.0』の続編のほうを是非観てみたいね。
 

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2023年12月27日 (水)

月の満ち欠け

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著者:佐藤正午

 佐藤正午の作品を読むのは今回で二回目である。初めて読んだのは『Y』という小説なのだが、その妙な『Y』というタイトルの意味は、人生の分岐点と考えるらしい。あの日あのとき、もし別の選択をしていたら、現状とは全く異なる人生を歩んだかもしれない……。つまり「あの時に戻ってやり直しをしたい」という、人間の永遠のテーマを描いたファンタジックなストーリーであった。

 一方本作のほうは、輪廻転生のスピリチュアル・ラブ・ストーリーで、三人の男性と月の満ち欠けのように何度も生まれ変わるヒロイン瑠璃が紡ぐ30余年におよぶ時の流れと、さまよい続ける魂の物語といえるだろう。なお本作は第157回直木賞受賞作品であり、2022年に大泉洋、有村架純などのキャススィンクで映画化されている。映画のほうは本作を読んでから気付いたため、残念ながら今のところは未鑑賞であるが、できればすぐにでもDVDで観賞したいものである。

 とにかく本作はパズルのような時間の繋ぎ方をしながら進行してゆくため、じっくり読んでゆかないと登場人物たちの関連性を把握できない。できれば登場人物の相関図を創って欲しかったよね。ただ結末が気になって気になって、終盤は猛スピードで読み切ってしまった。その割りにはややあっけない結末だと感じたのは、私の読解力が不足しているためであろうか。もしかすると、二度読みする必要があるのかもしれない……。


評:蔵研人

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